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第396話 練習場探しは一時延期

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 宇和島さん達を見送った後、俺達は桐谷さんに調査終了の電話連絡を入れ事務所まで戻る事になった。因みに詳しい話は事務所で、との事だ。

 まぁ、こんな事態である。桐谷さんも電話越しで話すより、直接顔を合わせて話し合いたいよな。

 

「それじゃぁ皆、事務所に戻ろうか?」

「「「はい」」」


 俺達が車に乗り込むと、事務所目指し車が走り出す。

 走り出して暫くの間は誰も口を開かず車内に沈黙が広がっていたが、雰囲気に耐えきれなかったのか意を決したように湯田さんが遠慮気味に口を開く。


「いやホント、今日は大変な目に遭ったね。まさかダンジョンが見付かるだなんて……」

「そうですね。確かに日本全国津々浦々にダンジョンは出現しましたけど、まさか自分達が発見者になるとは思っても見ませんでしたよ」

「ホントだね。確かに可能性としてはアリなんだろうけど、まさか当事者になるなんて……どうせ当たるのなら、宝くじでも当たってくれれば良かったよ」

「ははっ、ホントそうですよね。ダンジョン発見なんて、後始末を考えると面倒事しかないですから」


 裕二と湯田さんはお互いに、お疲れ様でしたとでも言う様な表情を浮かべながら苦笑を浮かべ合う。ダンジョン発見という意味で言えば、俺は2度目の発見になる。ホント、1度目にしても2度目にしても、恩恵も得られてはいるが後始末を考えると面倒事でしかない。

 家の引き出しダンジョン……そろそろ本格的にどうするか考えないといけないよな。今回の件は良い機会だし、今後の参考にさせて貰おう。 


「そうだね。とは言え、見付けてしまった以上はちゃんと対処しておかないと、後々別の面倒がでてくるかもしれないし、引き渡し手続きが全部終わるまでは頑張らないと……はぁ、暫く休日返上かな?」

「ははっ、頑張って下さい。もし俺達の証言?が必要になったら、何時でも声を掛けて下さい、出来るだけ協力はしますので」

「ははっ、そう言って貰えると助かるよ」


 練習場の土地探しではお世話になっているし、コレから桐谷不動産が立ち向かう大変さを思えば聞き取り調査の協力ぐらい何て事無い。

 それに滅多に生で知ることが出来ないダンジョン譲渡手続きだ、関係する情報は是非とも聞かせて欲しいからな。共同発見者として協力しつつ、どういった手順でおこなわれるのか調査したい。


「さて、それじゃあ社長もやきもきしながら首を長くして俺達が帰ってくるのを待ってるだろうし、急いで帰るとしよう」

「はい、あまり待たせるのも可哀想ですしね」


 と言うわけで、俺達は事務所への帰り道を急いだ。






 事務所に戻ってきた俺達を、桐谷さんは疲労感一杯と言った表情を浮かべながら出迎えてくれた。まぁ無理もない、のかな? そんな俺達の反応に桐谷さんは疲れた表情で苦笑を浮かべながら、俺達を事務所の応接セットの方に誘導する。

 因みに湯田さんは桐谷さんに一言断りを入れた後、お茶をとりに給湯室の方に向かっていった。


「先ずはお疲れ様です、かな?」

「ははっ、そうですね。予想外の物を見付けてしまいましたから。すみません、お手数をお掛けしちゃって……」

「いやいや、君達が何かしたって訳じゃ無いんだから謝らないで欲しい。それにウチの管理物件内から見付かったって事は、何れいつかは見付けたって事だ。寧ろ君達が現地に居てくれたお陰で、比較的安全にダンジョンであると言うことに確証が持てたんだしね。もし君達が現地にいなかったら、予備知識無しにウチの社員や別の内見客が中に入り込んで、大事になっていたかもしれない。それを思うと、君達には悪いが、今回ダンジョンが見付かって良かったと思う」

「確かに探索者で無い人がそうと知らずに未発見ダンジョンに入り込んで、事故(・・)を起こしたって話はダンジョン出現初期の頃はよくニュースになっていましたからね」


 本当に知らないで中に入ってと言う事もあれば、高価なドロップアイテムの話を聞き欲に駆られた結果……と色々な形ではあったが、共通して一般人が無防備かつ無警戒に入り込んだ結果起きた事故(・・)という事実がある。つまりダンジョンの中に入る場合、情報を持ち余程準備を整えた一般人か探索者で無いと最低限の安全も確保出来ないという事だ。

 それを思えば、今回の内見に俺達のような探索者が同行していたのは、桐谷不動産としては事故(・・)を起こさず発見報告が出来て幸運だったと言える。


「ああ。それでなんだが今回の件、私達が君達のダンジョン内部調査を依頼したという形にしたいのだが……どうかな?」

「えっ、依頼ですか?」

「ああ。湯田君から発見時の状況報告は聞いているが、君達の提案で内部調査をする事になったという形なのは少し拙いと思ってね」

「ああ、確かにそうかもしれませんね……状況が状況だったとは言え短慮でした」


 俺達は桐谷さんが言いたいことを理解し、バツの悪い表情を浮かべながら軽く頭を下げる。桐谷さん達視点からすると、今回の件は未成年の好意?に甘えたとは言え危険な調査を押しつけた形になってしまうし、探索者視点からすると、俺達の行動は探索者ならこう言った場合は無償で未発見ダンジョンの調査に取りかかるべきと言う前例を作ってしまいかねない。

 考えすぎかもしれないが、こう言った重箱の隅を突くようなことをする輩はどこからともなく湧いて出てくるからな。そう言った事を防ぐ為にも今回の件は、桐谷不動産が探索者(俺達)に金銭等を対価に内部調査を依頼した、と言う形にしておくのが無難だろう。


「分かって貰えて助かるよ。報酬の方は、土地購入額の割引という形で良いかな? 湯田君に話を聞いたけど、その方が君達に紹介出来る土地の選択肢が増えるからね」

「はい、その形でお願いします。お心遣い助かります」

「いや何、今回はウチの事前調査不足で起きた面倒事に巻き込んでしまったお詫びだよ。気にしないでくれ」


 ココで変に意地を張って、探索者全体に対する不利益な前例の切っ掛けを作ってしまった場合、後々俺達に対し嫌がらせをしてくる輩が出てくるかもしれない。その為に桐谷さんは、俺達が不動産会社からの依頼を受けてダンジョン内部の調査を行った、という体裁を整えようとしてくれているのだ。無論、俺達が例え民間トップクラスの高レベル探索者だったとしても、未成年探索者に危険な依頼を……等という批判が来るかもしれない事を承知の上でだ。

 本当にお心遣い感謝しますとしか言えないなと考えつつ、俺達は桐谷さんに頭を下げ感謝の気持ちを示した。


「さて、じゃぁこの話はこの辺にして、ダンジョンに関する話を進めようか?」

「はい。じゃぁ改めて、ダンジョン発見時の状況から説明しますね」


 そう言って裕二は、桐谷さんにダンジョン発見時の状況を説明した。

 まぁ湯田さんから粗方話は聞いているだろうから、大雑把に掻い摘まんでの説明だけどな。


「……なるほど、ある意味人里離れていて誰も立ち入らない場所だったのがかえって良かった。もし誰かがダンジョンに勝手に入り込んでいて、事故(・・)が起きていたらコチラの管理責任になっていたかもしれない」

「ああ確かに、そういった事を言い出す輩は出てくるかもしれませんね。私有地に無断侵入した上での事故(・・)、だったとしても」

「出てくるだろうね。そういった事態を事前に回避出来ただけでも、今回の件はウチとしては良かったと思うよ。少々後始末が面倒かもしれないけどね」

「ダンジョンは国家の所有物と言う決まりがある以上、有償とは言えダンジョンとその周辺は譲渡しないといけませんからね。もう地主さんの方には連絡を?」


 ダンジョンの扱いが法律で決まっている以上、譲渡しないという選択肢は桐谷不動産としては無い。変に抗議し行政指導が入ってきたり、営業許可を取り消されたら事だからな。

 ただ、問題はダンジョンが見付かった土地を所有する地主さんの反応だ。


「ああ。湯田君から仮承認の話を受けて直ぐ、地主さんの方には重要な話があるので来店して欲しいと連絡を入れているよ。流石にこの手の話を電話口で伝えるのもどうかと思うし、機密保持という意味合いでもね」

「ああ確かに、変な所にこの話が漏れると大騒ぎになりますからね」

「幸い周辺は全て人が住んでいない山林地帯だから直ぐに避難云々の話は出ないが、今までのダンジョン周辺地の発展状況の傾向を考えるとバブル騒動になりかねない。今まで二束三文の価値しかなかったんだ、ダンジョン発見の話が漏れれば確実に儲かると思って値上がり前に買い漁ろうとするだろう。良い輩も悪い輩も、ね」

「……俺達も今日の事は黙っておきます」


 先程のダンジョンの内部調査を依頼にするという話は、俺達に対するダンジョンに関する情報の機密保持を約束させる意味も含まれていたのだろう。仕事として話を受けた以上、守らなければならない義務が生じるからな。抜け目が無いというか、俺達が浅慮だったと言うべきか……。

 桐谷さんは俺達を守ると同時に、依頼者である地主さんも守ろうとしていたのだろう。 


「ありがとう。それで地主さんは明日来店してくれる約束になっているので、ウチとしても本格的にダンジョン譲渡の話を進めるのは明日からになるよ」

「分かりました。もしその地主さんが、発見者である俺達の話を聞きたいと言われたら連絡下さい。調査依頼を受けた探索者として、時間を作ってお会いします。ただ、出来れば学校の授業がある時間帯は避けて貰うと助かります」

「無論、その辺は考慮させて貰うよ。まぁ出来るだけコチラだけで話を纏めるから、君達に迷惑が掛からないようにはするつもりだ」

「ありがとうございます」


 俺達は桐谷さんに頭を下げ、面倒事は全部引き受けて貰える事にお礼を言う。とりあえず、協会や地主さん達への対応は桐谷さん達に任せて大丈夫そうだな。

 第1発見者という関係者でもあるし直接関係ない立場で、時々ダンジョン譲渡の進捗状況は確認させて貰うだけにしておくか。






 とりあえず今日の出来事に関する一通りの説明と、現時点で出来る対応についての話を終え、俺達は湯田さんが入れてくれたお茶を飲み一息入れていた。基本的に手続きに関しては協会から担当者の派遣や連絡待ちという状況なので、現時点で俺達が出来る事はそれほど無いからな。

 そして一息入れた後、桐谷さんは俺達に関する今後の動きについて話し始めた。


「とりあえずダンジョンの件は置いておくとして、今後の君達の土地探しでの動きなんだが……」

「ああ、その事なんですが桐谷さん」


 裕二は桐谷さんに向かって軽く頭を下げながら、すまなさそうな表情を浮かべつつ口を開く。


「今回の件もあるんですが、次の内見を行うのは10月に入ってからって事に出来ませんか?」

「? それは別に構わないが、それはまたどうして?」

「実はでも無いんですが、9月末にウチの学校で文化祭があるんですよ。そろそろ、その準備に取りかからないといけないので、時間的な余裕が……」

「ああ、なるほど。確かに文化祭と言えば、高校生活における花形イベントだからね」


 桐谷さんは内見延期をお願いする理由に納得の表情を浮かべ、微笑ましそうな笑みを浮かべつつ裕二からの要請を快く了承してくれた。

 ああ、もしかして俺達が高校生だっていうの忘れられてたのかな? ありそうで困る……。


「ええ、まぁそういう訳なんでよろしくお願いします」

「分かりました。では、新たな物件の内見は10月に入ってからと言う事で。新しい条件でピックアップした物件に関する資料は、広瀬さんのお宅の方に送らさせて頂きます」

「お願いします」

「いえ、お気になさらず。それに丁度良いと言えば丁度良いです。湯田君には発見者として、今回の件を担当して貰おうと思っていましたから。10月まで時間があれば、そこそこ譲渡の話も纏まるでしょう」


 そう言いつつ、桐谷さんは和やかな笑みを浮かべつつ真剣な眼差し……鋭い眼光を湯田さんに向けていた。そんな桐谷さんの眼差しを受けた湯田さんは、一瞬頬が引き攣りそうな表情を浮かべたが、直ぐに自信ありげな表情を浮かべつつ、軽く頭を下げながら一言返事を返す。


「頑張ります」

「仕事の割り振りは考えるから、よろしく頼むよ」


 二人のやり取りに一瞬、面倒事を持ち帰ってきたのはお前なんだから、最後まで責任持てよという副音声が聞こえたような気がしたが……気のせいだな、うん。

 俺達は湯田さんにこれから降りかかる仕事量を予想し、一瞬気の毒そうな眼差しを向けたが直ぐさま頭を小さく振って話の流れを変えようと口を開く。


「ああ、えっと、その……暫く内見には行けませんが、これからもよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ面倒事に巻き込んでしまいすみませんでした。今後も、よろしくお願いします」


 俺達と桐谷さん達は互いに軽く頭を下げ合う。

 そして予想外の大事に巻き込まれつつ、俺達の練習場探しは一旦終わり……延期となった。
















色々あった上予定が詰まっているので練習場探しは一先ずお休み、次話から幕間を数話挟みます。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 企業系の冒険者が主流になるとホワイト企業とブラック企業で格差が如実現われる展開は必須なりますね。 探究者の労働組合も出来る展開は必須ですね。
[気になる点] なんというか、スラダンや上級生冒険者、今回の練習場探し結局解決せずに次に進むって事が多くてモヤっとします。 このまま未解決のまま忘れ去られるってないですよね?
[気になる点] 不動産関連の知識としてひとつ 基本的に不動産屋が行うのは媒介、ようは仲介業です あくまで契約は売主さんと買主さんの間で行われて手続きも全てこのお二方で行い、不動産屋はその手伝いしかでき…
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