第395話 同行調査終了
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宇和島さんのダンジョン認定宣言を聞き、湯田さんは1度大きな溜息を吐き出した後、姿勢を正し顔を上げ真っ直ぐ宇和島さんの目を見ながら返事を返す。
その姿は公の立場で有る事を弁えた、ダンジョン発見という責任を認識している大人の対応だった。
「ありがとうございます。仮とは言え、ダンジョン認定を頂いたのでうちの方でも手続きの方を進めさせて頂きたいと思います。つきましては、これからのダンジョン協会及び国に対する手続きの流れを教えて頂けると幸いです」
「分かりました。ダンジョンの引き渡し手続き開始は正式認定後となりますが、事前交渉の方は直ぐにでも開始されると思います。また、今回の調査結果を協会の方に提出し正式認定を待つ事となりますが、その間に一般人が立ち入らないようにこの周辺は閉鎖されます。正式認定までの警備の方は警察が請け負ってくれますので、地権者さんに費用面での負担は発生しません」
「良かった、コチラで侵入者に対する警備をしなくて良いというのは助かります。地主さんと費用負担の話で揉めたくは有りませんから。警察の方はいつ頃来られる予定ですか?」
「私達が協会に調査結果を報告すると、警察の方に連絡が行く手筈になっています。ただ、場所が場所ですので即日は難しく、2,3日……1週間以内には警備開始となると思います」
宇和島さんと湯田さんは、淡々とこの後の流れについて確認をとっていく。最初にある程度の共通認識を作っておいた方が、2度手間3度手間を減らせるからな。相互の理解不足で仕事を始めた結果……ってのは良く聞く話だ。
スムーズに仕事をする為には、報連相が大事って事だな。
「なるほど、大体の譲渡までの流れは把握出来ました。コチラも、出来るだけ素早く手続きの方を進めさせて頂きます」
「それは良かった。詳しくは協会と国の両方から担当官が派遣されると思いますので、ソチラと相談しつつ手続きの方を進めて下さい。私はあくまでも調査官なので、どのような手続きがあるのかまでは把握仕切れていませんので」
「了解しました。お話し下さって、ありがとうございます」
宇和島さんと湯田さんの話し合いは一段落したようで、お互いに軽く溜息を漏らし緊張を抜いていた。何時までも張り詰めた空気を出してたら、肩が凝るからな。
そして宇和島さんは湯田さんや俺達に軽く一礼した後、小川さんと菅原さんに向かって指示を出す。
「小川君、菅原君。出て来て直ぐで悪いが、早速確認作業を始めるよ。ココがダンジョンであると分かった以上、出来るだけ早く報告に戻りたいしね」
「「はい」」
「じゃぁ小川君は、この近くでヘリが降りれそうな場所の確認を頼む。菅原君は報告に必要な各種写真の撮影を。私は先程確認したダンジョン内部の情報と合わせて、広瀬君達から少し話を聞いておく」
「「了解しました」」
小川さんと菅原さんは宇和島さんの指示に従い、早速任された仕事を始める。小川さんはダンジョンがある小島を見回した後、外周の湿地帯の方に走り出し、菅原さんはデジタルカメラを取り出しダンジョンや周辺の風景を撮影し始めた。
そして指示を出し終えた宇和島さんが、ユックリとした足取りで俺達の方に近づいてくる。
「広瀬君に九重君、柊さんだったね? 聞こえていたと思うけど、ダンジョンについて少し話を聞かせて貰えるかな?」
「はい、大丈夫ですよ。何が聞きたいんでしょうか?」
「そう難しい事じゃないよ。君達がダンジョン内でモンスターと遭遇し、戦闘した時の様子を教えて欲しい。君達がダンジョン内部を調査した時、碌な装備を持っていなかったと聞いたけど……どうやってモンスターを倒したのかな? 先程の調査で私達もモンスターと戦闘を行ったが、出て来たモンスターの強さは既存のダンジョンで出てくるモノと同等だった」
「どうやって倒したか、ですか……」
どうやら、俺達が本当に碌な装備無くモンスターを倒せたのかと疑われ……不思議に思われているらしい。まぁ当然と言えば当然浮かんでくる疑問だよな。
でも、高レベル探索者なら話は別だ。
「どうやって倒したかと聞かれたら、普通に足で蹴り飛ばして倒したって感じですね。こう、ボールを蹴る感じで」
「蹴り倒したのか、モンスターを……」
「ええ。出て来たのがホーンラビットでしたので、突撃してきたのを躱しつつ顔面を蹴り抜いて一発でしたよ。先程ここに来るまでの動きを見せて貰いましたけど、宇和島さんなら同じ様な事が出来るんじゃ無いですか?」
「……まぁ、出来なくは無いと答えておこうか」
宇和島さんは裕二の話を聞き、困ったような表情を浮かべながらに頭の後ろを掻き始めた。まぁ宇和島さんも報告書に、第1発見者はダンジョン内でモンスターを蹴り倒したそうです、とは書きづらいだろうからな。高レベル探索者のことを知っている人なら、まぁそんなモノかと納得してくれるかもしれないが、理解していない人が報告書を受ける担当についたら、モンスターを蹴り倒したなどと馬鹿な報告書を上げるなと再提出を求められるかもしれないだろうからな。
出来ればそんなリスクある報告書は作りたくないってのが、宇和島さんの正直な心境だろうな。
「……まぁ、倒した方法は良いか。ではドロップアイテムが出現したのは、そのホーンラビットを倒した時で間違いないかな?」
「ええ、間違いありません。ホーンラビットを倒した時に、お渡ししたマジックアイテムらしきバッグがドロップしました」
「なるほど、マジックアイテムらしきバッグがドロップしたんだね?」
「ええ、はい。どんな効果が付いているのかは鑑定して貰わないと分かりませんけど、まぁバッグですしね……」
惜しいモノでは無いと言った表情を浮かべつつ裕二が含みを持たせた言い回しをしているが、宇和島さん達が先程鑑定していたので、バッグがどういった効果付きかは分かっている筈だ。宇和島さんは一瞬、何か物言いたげな表情を浮かべていたが、1度軽く目を閉じてから神妙な顔付きで口を開く。
ただし湯田さんには聞こえないように、俺達だけに聞こえるように顔を近づけつつ小声でな。
「コレまでの君達の言動を思えば大丈夫だと思うが、一言助言を言っておくよ。もしかしたら今回のドロップアイテムは、返却されず金銭交換を推奨される可能性が高い。だからその時は、素直に金銭交換に同意して置いた方が良い。いい気はしないと思うが、その方が穏便に事が済む」
「……やっぱり、厄介物ですか。分かりました、金銭交換して貰えるだけで良かったと思っておきます」
「すまないな。流石にコレが世に出るのは、今は時期が悪い。上でもそう判断するはずだ」
マジックバッグであると言う鑑定内容は教えてくれなかったが、宇和島さんは申し訳ない表情を浮かべながらも真摯な眼差しを俺達に向けながら謝罪の言葉を口にする。ココで気に入らないと反発することは簡単だが、俺達は宇和島さんが何を伝えたいか分かるので何も言わずに頷く。
組織人としての立場がある以上、宇和島さんに言えないことは幾らでもある。その上で、宇和島さんは俺達がドロップアイテムの正体を察していることを承知で、後々困った事にならない様にと助言をくれている事が分かるからだ。
「では、君達に対する聞き取り調査の方はコレで終了させて貰うとするよ。もしかしたら、また話を聞かせてくれと言われるかもしれないが、その時は面倒だろうが話を聞かせてくれると助かる。ウチのような役所になると、担当が異なるたびにもう一度聞き取りを……と言った事が偶にあるのでね」
「ははっ、そうなんですか」
「すまないね。出来るだけ君達に2度手間を掛ける事が無いように心掛けるつもりだが、ダンジョン発見ともなると幾つもの組織が関わってきて、上手く報告が行き渡らないって事があるものでね」
「なるほど、分かりました。暫くの間は、協会等から連絡が来てないか注意しておきます」
正直そう何度も聞き取り要請を寄越されても困るのだが、連絡を無視するのは更に別の厄介事を引き込みそうなので無視は出来ないかな。
そして宇和島さんの聞き取り調査も終わり、俺達は撤収準備を進めながら小川さんと菅原さんの作業が終わるのを待つ事にした。
宇和島さんの聞き取り調査が終わって20分後には、小川さんと菅原さんも作業を終え戻ってきた。菅原さんの方の作業は調査資料に添付する写真なので然程時間は掛からず終了したが、小川さんが担当したヘリの着陸地点探しは少々難航したようだった。何せ周辺の土地は基本的に湿地、ヘリの様な重量物が着陸出来るような土地では無い。変に妥協して、下手な所に着陸したら大事故だからな。
お陰で小川さんが調査から戻ってくるのに時間が掛かった。まぁお陰で、程良い場所が見付かったらしい。
「この小島の北側に、着陸出来そうな場所を見付けました。1kmほど離れていますが、ヘリを降ろした上で荷下ろし場を確保出来るくらいの広さはあります」
「そうか、良く見付けてくれた。ではそこを確認した後、大丈夫そうなら離着陸マークと吹き流しを設置するとしよう」
「はい。では案内します、コチラへ」
小川さんの先導に従い、俺達はヘリの離着陸候補地へと移動した。
「ココです。湿地帯からは外れていますので、多少柔らかいですがヘリの着陸は可能かと」
「ああ、確かに多少柔らかいが小島周辺のように着陸出来ない訳でもなさそうだな。本格的に資材運搬等で使用するのなら、地盤改良が必要だろう」
「ええ。ですが、小型機による物資や人員の輸送などならば可能かと」
「そうだね。これは早めにヘリの離着陸地点建設を進言した方が良さそうかな。流石に毎日人が通うには、ココは山奥過ぎる」
宇和島さんが言う様に、ココは何も無い場所だからな。初期のダンジョン警備には警察が当たるって言っていたが、車が通れるような道も無いから基本的な移動手段は徒歩か空しか無い。警備に当たる警察官が探索者ならば話は別だが、非探索者の警察官なら片道数時間掛けて山道を移動するハメになる。
国が周辺の土地をまだ接収していない状況では、地権者の了承無くダンジョンがある周辺以外の場所を車が通れるようにと勝手にいじくる訳には行かないだろうからな。
「湯田さん、すみませんがこの辺りの土地を持っている地権者の方と交渉出来ませんか? 物資運搬ルートだけでも確保しておかないと、警備さえかなり厳しい状況になりかねませんので」
「分かりました。社の方に連絡を入れて、地主さんの方にダンジョン発見の報告をする時に、この辺にヘリポートを建設する許可が貰えるように頼んでみます」
「お願いします」
宇和島さんは湯田さんに軽く頭を下げながら地権者との仲介をお願いし、湯田さんも軽く頷きつつ宇和島さんの要請を受諾していた。まぁ、特に拒否するような要請でも無いだろうしな。
それに地権者さんもダンジョンが見付かった以上、最終的にダンジョン周辺の土地は譲渡しないといけなくなるのだから強固に反対するという事は無いだろう。元々売りに出しているような土地だしな。
「では、離着陸マークのマーキングと吹き流しを設置するとしよう」
「「了解」」
「ああ、宇和島さん。俺達も設置手伝いますよ、その方が早く終わりますからね」
「助かるよ。では、作業を始めるとしよう」
俺達は宇和島さんに設置協力を申し出、宇和島さんもそれを受け入れる。設置が早く終われば、その分早く帰れるからな。湯田さんだって会社とかに色々連絡する必要があるから、早く帰りたいだろうしココは協力して一気に終わらせてしまうべきだろう。
そして俺達は宇和島さん達の指示に従いながら、ヘリの離発着場作りに取りかかった。
皆で協力したのでヘリの離発着場作りも早々に終わった後、俺達は車とヘリが止まっている広場まで下山した。アソコでやる事が終わった以上、何時までも留まっている必要は無いからな。
あっ、そうそう。ダンジョンの入り口と周辺の木々には一応、立ち入り禁止の黄色いテープと警告文を貼り付けておいた。警告を無視するような輩には効果が薄いかもしれないが、良識ある一般人なら無理に入り込みはしないはずだ。
「それでは宇和島さん、コレから色々とよろしくお願いします。ダンジョンの譲渡手続きの方は、社に戻り次第早速始めさせて頂きたいと思います」
「いえ、コチラこそよろしくお願いします。今回はダンジョン発見の連絡をして頂き、ありがとうございました。犠牲者が出る前にダンジョンを確保出来たのは、皆さんの素早い対応のお陰です。もしも再びダンジョンを見付けた際も、よろしくお願いします」
「はい。そう何度もあって貰いたくはない出来事ではありますが、こう言う仕事ですのでその際はよろしくお願いします」
宇和島さんと湯田さんは握手を交わしながら、別れの挨拶を行っていた。
そして挨拶が終わると宇和島さん達を乗せたヘリは、来た時と同じように轟音と暴風を立てながら浮き上がり空へと飛び去っていった。




