第36話 学校にて、二人と方針相談
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教室に辿り着くと、室内が何時も以上に賑わっていた。耳を澄ましてみると、彼等の話題の多くはダンジョンの入場制限に関する話だ。
「何で入場制限なんてするんだよ。週末午前中の予約申込み数が、ヤバイ事になってるじゃないか!」
「そうだな、アイドルコンサートのチケット予約並みの倍率だよな、これ。グループで複数申し込みしたとしても、十数倍は無いわ」
「だよな。俺達学生だから週末ぐらいしか行く時間がないのに、この倍率じゃ、入場券が手に入らないぞ」
「時間が余ってる奴は平日に行くんだろうけど、それでも数倍は確実だからな。暫くの期間ってどれ位だよ」
いつの間にか、十数倍まで倍率が跳ね上がっているらしい。確かに定数が決まっている以上、探索者グループのメンバーが個人個人でグループ人数分の入場希望を申し込めば、指数関数的に申し込み総数が増加するわな。つまり、自分達で当選確率を低くしていっていると言う事か。
「おはよう、裕二」
「ああ、おはよう」
既に着席し文庫本を読んでいた裕二に、俺は荷物を机に置きながら声をかける。
「何か凄い事になってるな」
「ああ。今朝のニュースのおかげで、ずっとこんな調子だ」
裕二は文庫本に栞を挟み、俺と今朝のニュースについて話し始める。
「でもまぁ、ようやく入場制限がかけられたな。これで少しは表層階層の混雑は解消されると良いけど」
「そこそこは解消されるんじゃないか? 少なくとも、今までの様に何十分もダンジョン内を探索して1匹のモンスターとも出会わないと言う状態は解消されると思うぞ?」
「だと良いんだけど。最近狩場を独占するって言う、傍迷惑な連中が増えてきているって聞いていたからな……」
例のギルドモドキの連中の事だ。各ダンジョンに一定数居る様で、表層階を中心に狩場の独占を行っているらしい。複数のリポップポイントを割り出し陣取り、リポップしたモンスターを次々狩るので階層内を回遊するモンスターが枯渇する原因の一つになっている。
御陰で、実力がともわない新人探索者達が無理に下の階層に移動し、怪我人を増加させる原因になっていた。
「ああ、あの連中な。確かに今の状況だと、リポップ待ちした方が確実にモンスターを狩れるんだろうけど……」
「他の探索者からしたら目の上のたん瘤だな。説得に応じない上、力技で独占を止めさせようとしても、相手の方が人数が多い集団で狩場を独占しているから、抗議する新人探索者達とは数とレベルが違うしな」
「力技でどうにか出来そうな高レベル探索者は、狩場にする階層が違うから敢えて首を突っ込まない問題だからな。それも連中を調子に乗らせる一因だろな」
「ダンジョン協会もダンジョン内での出来事には、基本的には不干渉だからな」
狩場を独占する連中は、敢えて表層階のリポップポイントを独占している。
それは、高レベル探索者達と諍いを起こさない為だ。高レベル探索者達と揉めれば、自分達が押し負ける可能性がある事を熟知しているからだろう。
表層階のリポップポイントを独占し狩場にしている連中の大半は、ゴブリンやオーク等の人型モンスターと戦って実力不足を実感した者や、トラウマを抱え挫折した者達だ。下層へのダンジョン探索を諦めてはいるが、ダンジョンでの小遣い稼ぎは諦めていないと言う、そんな考えの者達の集まり。表層階に出てくる様なモンスターのドロップアイテムでも、ダンジョン産のアイテムが希少で高額取引されている今、数をこなせばそこそこは稼げるからな。マジックアイテム系は特に、高額で取引されているし。
それに、高レベルの探索者達にとって表層階は、単なる通過経路であって狩場ではない。下層階に潜る高レベル探索者からしたら、通過経路の安全を確保している、ある意味有益な集団だ。余程の不利益を出さない限り、積極的に敵対はしないだろうしな。
つまり、子供の遊び場を占領している質の悪い大人の集団だ。
「そうね。でも、今の私の関心事項は入場券を手に入れられるか入れられないかよ」
「あっ、柊さん」
「おはよう。九重君、広瀬君」
通学カバンを肩にかけた柊さんが、深刻な顔で話し合う俺達に声をかけてきた。どうやら、俺達の話を聞いていたようだ。
「九重君に預けてある備蓄を切り崩せば暫くは大丈夫でしょうけど、何時までもダンジョンに潜れないとなると困るのよ」
「まぁ、そうなるよね。でも柊さん、入れる人数が減るから探索者の質自体は向上する筈だよ。深く潜れる探索者が増えれば、オーク素材の市場流通量も増えて価格も低下するんじゃない?」
「そうね。確かに流通量が増えれば仕入れ価格も安くなるでしょうけど、それでもやっぱりダンジョン産の食材は高価な高級食材よ。自己調達が出来るのならそれに越した事はないわ」
なる程。確かに今以上に流通量が増えても、落ちる価格は高が知れている。畜産食肉の様に何十万トンも流通する訳じゃないんだ、行き成り価格が何十分の一にもなる様な事はないからな。
「そう言えば、二人は入場希望の予約手続きはしたの?」
「まだやっていないよ。裕二は?」
「俺も」
柊さんの問いに、俺と裕二は首を横に振る。
何時も週末にダンジョンに行ってはいるが、打ち合わせをしないで予約を申し込むのはどうかと思いやっていない。首を横に振った裕二も、俺と同じ考えだったらしい。
「そう」
「それで、どうする? 何時もと同じ様に、週末に入場希望の予約を入れておく? 倍率がエゲツ無い事になってるらしいけど……」
「申込みしておくしかないでしょね。まぁ、当選確率は相当低いでしょうけど」
ダンジョン協会が定めた、ダンジョン1つ当たりの1日の定員数は2400人。1時間当たり100人の計算だろう。週末午前中の予約申し込み倍率が十数倍とすると、当選確率は10%~5%と言う事になる。週末午前中だけに限れば、ダンジョンに行けるのは2ヵ月に1回から5ヶ月に1回となる。
「5時前か21時以降なら、比較的予約状況も空いてるみたいだけど……」
「公共交通機関をダンジョンまでの足にしている私達には、その時間帯の入場はきついわ」
「そうだな。俺達に移動の足があれば、また話が変わるんだろうけど……」
俺達が1回のダンジョン探索に掛ける時間は、凡そ6時間。
今までは9時頃からダンジョンに入って、15時頃にはダンジョンから出ると言うサイクルで探索をしていた。5時前にダンジョンに入ろうにも公共交通機関は動いていないし、21時以降では出る頃には深夜の真っ只中で帰る足がない。
一応、公共交通機関に頼らない移動手段はあるのだが……。
「自転車や、自分の足で走って移動する、って言う手段もあるにはあるけど……」
「幾らレベルアップして持久力が向上しているからって、ダンジョン探索を前に無駄な体力は消耗したくないわ」
「俺もダンジョン攻略した後に、それは嫌だな」
「だよね」
二人の意見に、俺は特に反論もなく同意する。
柊さんの言う通り、確かに俺達の持久力はレベルアップのおかげで常人以上に強化されているが、疲れるものは疲れる。マラソンしてからのダンジョン攻略……トライアスロンか!
「原チャリ移動って言う手もあるけど、うちの学校は在学中の運転免許取得を禁止しているのよね」
「見付かったら停学だな。実際、ダンジョンへ行く足に免許を取って原チャリで移動していた所を見付かった奴が、何人か停学食らったって噂を聞いたぞ」
「その話、私も聞いたわ。確か上級生の人よ」
「じゃぁ、止めておいた方が良いね」
態々、そんな危ないリスクを背負う必要はないな。
しっかし、こうなると本当に移動の足がない。公共交通機関はダメ、自力移動はリスクが高い。大人しく高倍率の時間帯に、予約を申し込むしかないか?
俺達が今後の方針に頭を悩ませていると、教室のドアが開き担任が入ってきた。どうやらHRが始まるようだ。
昼休み、スマホでダンジョン協会の入場予約ページを確認してみると、週末午前中の倍率が二十数倍に跳ね上がっていた。
俺はスマホの画面を半眼で見ながら、俺と同じ様にスマホを見ている裕二と柊さんに声をかける。
「……取り敢えず申し込んでおこうか」
「……そうだな」
「……うん」
俺達は探索者カードの登録認証番号を入力し、それぞれ9時10時11時で予約を入れた。
取説を読むと、予約申込終了期限は、入場希望日時の48時間前。その時間になると、申込者の中からランダムで当選者を選出し、当選者の予約画面に当選通知が表示される仕組みのようだ。そして、通知に書かれている通り、予約を確定させる操作をすれば、事前手続きは終了。後はダンジョンの開閉ゲートを潜る前に、探索者カードを専用の読み取り機に翳せば良いとの事。
つまり、空港の手荷物検査場を通る時にチケットを翳すアレと同じだ。
「さて、これで後は当選発表を待つだけか。当たるかな?」
「まぁ、可能性はゼロではないだろうさ」
「ゼロではない、って言う程度でしょうけどね」
「競争倍率が二十数倍だからね」
宝くじの様に、変に高望みせず気長に待った方が良いな。変に期待していると、外れた時の気落ち感が凄いからな。
放課後、俺達は裕二の家に行く途中、とある事について話し合っていた。
「そう言えば、俺達のランクってどうなってるんだ?」
「ん? ランク? ……ああ、冒険者のランクの事か」
「特にこれと言う事はないんだけど、少し気になってな。何だかんだで、俺達も結構稼いでいる方だからな」
「最近は、オーク肉の備蓄を増やすのに掛かりっきりだったからな。換金額と言う意味じゃ、そんなに稼いではいないんじゃないか? 確かに軍資金確保の為に、最初の方はスキルスクロールなんかのマジックアイテムを幾つかは売ってはいるけど……」
裕二は余り稼いではいないと控えめに言っているが……
「謙遜のし過ぎよ、広瀬君。3人で稼いだとは言っても、探索者を始めて2ヶ月程度で300万円を超えれば十分高給取りよ」
「俺もそう思うぞ」
2ヶ月……実働10日前後で300万。3で割っても、一人頭100万円程稼いだ事になる。これを年間通しで同じ様に稼いだ事にすると、年収は600万円だ。立派な高給取りと言える。
裕二に数字を交えて説明すると、ハッとした様な顔をして驚いていた。
「……言われてみれば」
「まぁ、そう言う事だから、俺達のランクがどうなっているのかな?って、気になったんだ」
「確か探索者のランクを決める基準は、ダンジョンへの入場回数記録と潜行階層数、換金総額で決まるんだったわよね?」
「協会のHPには、そう書いてあったね」
「計算式は公開されていないの? 計算式が分かれば、自分達である程度予想が立つんだけど……」
計算式か……協会のHPには載っていなかったな。
うーん。さしずめ、換金総額/入場回数*(潜行階数/100)って所かな?解の数字が大きければ大きい程、ランクが高い優秀な探索者って事で。この計算式なら、換金総額が同じでも入場回数が多ければ解の数値は下がるし、潜行階層数が浅い場合でも数値が低くなるし。
「一応、HPには支部でも出張所でも良いから、ダンジョン協会の受付で探索者カードを出してくれれば、現在のランクを教えてくれるらしいよ」
「そう。じゃぁ、次にダンジョンに行った機会に聞いてみましょう」
「そうだね。特に急いで知らないといけない類の事柄じゃないから、それで良いと思うよ」
ランクに何か特典でも付属していれば、ランク上げに意欲も出るんだけどな。買取額に色を付けるとか、ダンジョン協会の訓練設備を自由に使えるとかさ。単に名誉があるだけじゃぁね。裕二と柊さんも、俺と同じ様でランク上げ自体には特に興味はないようだ。
そして、話をしながら歩いていると何時の間にか、俺達は裕二の家に到着した。
探索者収入を纏めて見ると主人公達は、結構な高給取り候補でした。




