第393話 同行調査のおとも
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暫く雲一つ無い澄み切った青空を見上げ待っていると、何処か遠くの方から激しく空気を打ち鳴らすヘリコプターのローター音が響き始める。微妙に音が山に反響して位置が特定しにくかったモノの、大体の位置さえ分かれば探索者の強化された視力なら空を飛んでくるヘリコプターの姿を捉えることが出来た。
約束の時間的に考えて、ダンジョン協会から派遣されたってヘリは多分アレだろう。
「湯田さん、ヘリが来ましたよ。多分、アレだと思います」
「えっ? もうヘリが来たの、ドコ?」
「アソコですよ。丁度アソコの山と山の頂上を結んだ線の中間ぐらいの場所です」
「んんっ、ドコ?」
裕二がヘリの位置を指さしながら教えているが、どうやら湯田さんにはヘリの姿は見えていないらしい。探索者では無い一般人では、まだ肉眼で捉えられる距離では無かったようだ。全く、高レベル探索者になると望遠鏡いらずだな。
そして1分ほど裕二が教えた場所を凝視していると、突然湯田さんが嬉しそうに声を上げる。
「ああ、見えた見えた! アレの事か……良く皆、あんな米粒みたいな大きさのヘリを見付けられたね」
「コレもレベルアップの恩恵の一つですね、意識すれば遠くのモノも無駄に良く見えるんですよ」
「へー、探索者ってレベルが上がると、只単純に身体能力が上がるだけじゃ無いんだ」
「ええ、他にも色々な恩恵にあずかってます。まぁその対価が、モンスターとの戦闘なんですけどね」
コレは微妙な感じの恩恵だけどな。単に遠くのモノを見たいと言うのなら、モンスターと戦うより望遠鏡を買った方が安上がりで良いと思う。命がけで手に入れた望遠鏡並の視力が、そこいらのお店で数千円で買える望遠鏡と同じとか結構くるだろうしさ。
あくまでも、オマケで手に入った能力だと思っておくのが吉だろう。
「それよりも湯田さん、あの位置だと大体数分でココまで来れると思うんですけど、何か連絡来てます? どこら辺に俺達がいるのか、着陸地点を確認する為の連絡が来そうだと思うんですけど……」
「うーん、まだ来てないね。一応待機場所は事前に連絡してるから、もう向こうで把握してるのかもしれないよ」
「そうですか。じゃぁ、向こうから何か言ってくるまではココで待ってれば大丈夫そうですね」
「そうだね、それで大丈夫だと思うよ」
まぁ実際、降りてくるヘリコプターを前に俺達がどう動けば良いのかなんて知らないので、向こうから指示が無い限り車の陰に隠れて待ってれば良いよな。テレビとかで見るヘリの着地って、人や物が猛烈な下降気流で煽られてるから着陸予定地点の余り近くに居ない方が良いだろう。……のんびり眺めて待ってよう。
そしてヘリの姿を確認してから数分後、ヘリが俺達の居る駐車場の広場?の真上でホバリングし盛大に風と粉塵を撒き散らし始める。
「うわっ、これまた凄い風だな……」
「良かった、車の陰に隠れてて」
「ぺっぺっ、口に砂が入っちゃった」
「ああ何か、車に小石が当たってカンカンいってるのが聞こえる。大きな傷が付いてないと良いんだけど……」
猛烈な風と粉塵に辟易しつつ、俺達は駐車場の広場?に足を着け着陸したヘリコプターを車の窓越しに観察する。降り立ったヘリコプターは後ろに4、5人が乗れる位の大きさで、消防や報道などで使われている一般的に認知されているサイズだ。自衛隊が使うような、車両や何十人もの人員を輸送したりする大型ヘリコプターでは無く、いわゆる中型ヘリコプターと言われるヤツだろうか?
そして降り立ったヘリコプターの側面扉には、デカデカと扉一杯にダンジョン協会のロゴが描かれていた。どうやら間違いなく、協会所属のヘリコプターのようだ。
「急いでいるとはいえ、ド派手な登場ですね」
「全くだよ。お陰で車が埃まみれ……帰ったら洗車しないといけないよな」
着陸したヘリコプターはエンジン出力を絞ったのか、段々とローターの回転が遅くなっていき土埃も収まっていった。俺達は周囲の様子を見ながら車の陰から出て、調査員さんを出迎える為にヘリコプターの方に歩いて行く。
その途中、土埃塗れになった車を湯田さんは少し残念気な眼差しで見ていたけど。まぁ営業車が埃まみれでは、店としての外聞が悪いだろうからな。汚い車より綺麗な車で案内される方が、お客さんに与える印象が良いに決まっている。
「あっ、出て来ましたね」
「2人、いや3人かな?」
ヘリコプターのローターが停止して直ぐ、協会ロゴが描かれた側面扉が開き、中から協会推奨ダンジョン装備を身に着けた30代後半の男性と20代後半の男女が下りてきた。
そしてヘリのパイロットと2、3言話した後、30代の男性が俺達に向かって軽く頭を下げながら挨拶をしてくる。
「お待たせしてすみません。連絡ありがとうございます、ダンジョン協会新規ダンジョン管理課調査員の宇和島と申します。コッチは部下の小川と菅原です」
「小川です、よろしくお願いします」
「菅原です、よろしくお願いします」
今回の調査の責任者の30代男性が宇和島さんで、その部下の20代男性の方が小川さん、女性が菅原さんと言うらしい。コレから未知ダンジョンに行くというのに、3人とも特に緊張した様子が見受けられない。どうやら3人とも高レベル探索者らしく、かなりダンジョン慣れしている雰囲気を身に纏っている。
コレは……上手く誤魔化さないと色々突っ込まれるかもしれないな。
宇和島さん達3人の自己紹介が終わったあと、俺達も簡単に自己紹介をしてから早速未発見ダンジョンの調査について話し合う。事前にある程度の情報は受け取っているらしく、俺達から内部に入った時の様子を軽く聞き取ると言った感じだった。
「なるほど。では、普段通うダンジョンとそれほど差異は無いと言う事で良いかね?」
「はい。と言っても、俺達が見て回ったのは入り口を入って少しの所までなので、確実なことは言えません。ただ、モンスターと遭遇した時の相手は単体でしたし、トラップらしきモノも見受けられなかったので、基本的な構造は他のダンジョンと同じモノだと思います」
聞き取りは順調に進み、宇和島さんは嫌な顔一つせずに俺達の話に頷いていた。
そして嫌に簡単に俺達の話に納得してくれるなと思っていると、宇和島さんの口から感嘆の含まれた言葉が漏れでてきた。
「そうか。あのような実績を誇る君達がそう言うのであれば、そうなのだろう」
「実績……ですか?」
「ああ。未発見ダンジョンの発見報告者である君達の素性は、軽くだが調べさせて貰っている。コレまでには、イタズラ目的でダンジョン発見と騙る者が多かったからね。無駄な空振りを避ける為の確認という意味でさ。その過程で、君達のコレまでの実績にも目を通させて貰っているよ。一言で言うと、凄い探索者からの連絡だ、と言った感想だね」
「はぁ、ありがとうございます。でも、俺達の実績なんて……」
宇和島さんから視線を逸らしつつ、裕二は微妙な表情を浮かべながら同意を求めるように俺と柊さんに視線を向けてくる。そして視線を向けられた俺と柊さんも、裕二がそんな表情を浮かべる理由は理解出来た。
俺達がダンジョン協会に知らせているモノなんて、実際のモノとかなり差異があるからだ。色々と偽装に偽装を重ねている俺達なので、宇和島さん達が感嘆し褒めるような表情を浮かべている事に心苦しさを感じてしまう。
「いやいや、謙遜することは無い。君達が上げている実績の数々は、学生探索者と言う枠組みで見れば並ぶ者はまず居ないと言っても良いモノだ。その上、道を踏み外した危険な探索者の捕縛と言う、勇気と善良な倫理観の持ち主でもある。なので、君達のような探索者は協会からすると大変評価が高くなる。是非とも、ウチの専属になって欲しいものだが……」
「はぁ、ありがとうございます。でも、俺達まだ学生なのでその手の話は……」
「ああ、すまない。すこし気が逸ってしまってたね。だがまぁ、協会としては君達のような有望な若者が門を叩いてくれる事を何時でも待っている」
褒めてくれるのは嬉しいのですが、勧誘は勘弁して下さい。ほら、宇和島さんが語る、俺達の協会の評価の話を聞いて湯田さんが一瞬、俺達の勧誘に走ろうとする気配を出してましたからね。
まだ暫くは学生生活を満喫したいので、その手の話は余り話題に出して欲しくないですって。
「はぁ、それで調査の方はどうするんですか? 俺達も内部まで同行した方が良いんでしょうか?」
「いや、流石に内部の調査までは同行させられない。特に今の君達は、ダンジョンに挑む為の装備を一切持っていないからな。仮に私達が装備を貸したとしても、使い慣れない得物を使って怪我をしたら意味が無いからね。今回の調査では、私達がダンジョン内部でモンスターと遭遇し戦闘すれば、新設ダンジョンとして公認出来る。なので君達は、ダンジョンの入り口まで案内してくれるだけで良い」
「そうですか、分かりました。案内の方は任せて下さい」
「よろしく頼むよ。それと話は変わるんだが……」
調査で同行するのは入り口までで良いそうで安心したのだが、宇和島さんが若干顔を裕二に近づけながら若干言いづらそうに話題を変え話し掛けてきた。
「ダンジョンで入手したというドロップアイテムは? 今、手元にあるかね?」
「えっ? ああ、それなら車の中に放り込んであります。持ってきましょうか?」
「ああ、頼むよ。それの回収も、私達の仕事の内でね」
「はぁ、じゃぁ少し待って下さい」
裕二は宇和島さんに一言断りを入れ、自動車の中に放り込んでおいたマジックバッグを取りに行った。その間に宇和島さんは菅原さんに指示を出し、菅原さんも手に持っていた頑丈そうなアタッシュケースの中から何かを取り出し宇和島さんに手渡していた。
アレは……眼鏡か?
「持ってきました、コレです」
「ああ、ありがとう。ちょっと確認させて貰うよ」
そう言うと宇和島さんは菅原さんから渡された眼鏡を掛け、裕二から受け取ったマジックバッグを暫く凝視し始める。あの様子からするに、恐らくアレは鑑定眼鏡と呼ばれる鑑定スキルが付与されたマジックアイテムだろう。稀少アイテムで協会支部にも少数が配備されていると聞いたことがあるが、そんな物をココまで持ってきてたのか。
そして1分ほど経ち、宇和島さんの表情が驚きの色に変わった。
「ほー、コレはコレは。確かにコレは、未確認ダンジョンから産出されたドロップアイテムのようだね」
「ええ、ついさっき手に入れましたから。その眼鏡って、鑑定眼鏡ですか? ドロップアイテムの正体を鑑定出来るって噂の……」
「ん? ああ、今回の調査で使う事になるだろうから、仕事道具の一つとして持ってきたんだよ。それとこのドロップアイテムだが、ダンジョン公認判定の材料にしたいから予定通り協会で預かっても良いかな?」
「あっ、はい。その予定でしたし、大丈夫ですよ」
裕二が頷くのを確認し、宇和島さんは菅原さんから元々用意していたであろうアイテムの預かり証を受け取り裕二に差し出す。鑑定したアイテムの正体について何も言わない宇和島さんの態度に一瞬、裕二は不満げな表情を浮かべたが直ぐに何食わぬ表情を浮かべ預かり証を受け取った。
そしてドロップアイテムの受け渡しが完了し暫く沈黙が流れたが、ドコか感心したような表情を浮かべた宇和島さんが口を開く。
「……君達はドロップアイテムの正体が気にならないのかい?」
「……ええ、ドロップアイテムの鑑定依頼は手順通りに終わりました。変に欲を掻いて火傷する人なら探索者になってから沢山見てきました、俺達としては藪蛇は突きたくないです。それに言わないと言う事は、聞かない方が良いと言うことですよね?」
「そうか……納得してくれるのなら、コチラとしてはありがたい」
「いえ」
裕二と宇和島さんの話が穏便に終わり俺と柊さん、小川さんと菅原さんから小さく安堵の溜息が漏れる音が聞こえた。やっぱり初回ドロップ品は希少性の高い物の様で、協会としても是非確保して置きたい品だったようだ。まぁ初回ドロップ品の性能だと、下手に世間に出回ればいらぬ混乱が生じるだろうからな。回収出来るのなら回収し、世間がもう少し受け入れる体制が整ってから出回らせたいだろう。
今回渡したマジックバッグだって、世間に今バレれば流通関係が大いに混乱する要素だ。見た目の容量を無視した大容量の収納力など、探索者流通関係者でなくとも誰でも欲しがる。だが、全く需要を満たせない品など騒動の種でしか無いからな。
「えっ、ええと、良いのかいアレで?」
「問題ありません。あの対応で大丈夫ですよ、虎の尾を踏みたくは無いですから」
「広瀬君の言うように、私達は未鑑定のドロップアイテムを協会に預けただけです」
「そ、そうか……じゃぁ俺からは何も言うことは無いよ」
目の前のやり取りについて行けなかったらしい湯田さんが小声で俺達に話し掛けてきたので、俺と柊さんは何食わぬ顔で何の問題も無いと返事を返す。すると湯田さんは納得はいかないが理解はしたという表情を浮かべた後、右手で目元を押さえながら天を仰いでいた。うん、まぁアレだ。深く考え込まず、気にしないで流しておいた方が良いですよ。
そして面倒な話題が含まれた話し合いが終わった俺達は、先導しながら宇和島さん達を今回見付けたダンジョンへと案内する。




