第392話 同行調査へ向け
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鳴り続いていた保留音が止まり、電話口に課長を名乗る人物が出たのには少々驚いたが、決定権を持つ人物と直接話が出来るのなら話は早い。時間を掛けて説明をしても、上の了承を待って……となったら、結果は同じでも時間を無駄に食うからな。
そして俺と同じ結論を出したのか、裕二は軽く深呼吸をし心を落ち着かせてから口を開く。
「えっと、宮下さんでよろしいですか? 俺……いえ私、広瀬と申します。よろしくお願いします」
「いえ、コチラこそ素早いダンジョン発見の報を入れて頂き、ありがとうございます。それと広瀬さん、畏まった口調にならなくて大丈夫ですよ」
「は、はぁ、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて貰いますが、俺達は今後どの様に動けば良いんですか?」
宮下課長さんは、畏まった口調で話そうとしていた裕二に普段通りで良いと言い、裕二も断るのも失礼だと思ったのか言葉に甘えていた。
まぁコレから小難しい話しが始まるのだろうし、普段通り話せる方が多少なりとも気が楽になるだろうと言う配慮かな?
「そうですね。流れとしては、まずウチの職員と共に現地に赴いて頂きダンジョンの確認からです。既に内部を探索しモンスターの有無を確認しているとのことですが、公的な認定手続きの為にも専門の調査員による確認が必要となりますので」
「なるほど、了解しました。それじゃぁ、その調査は後日日を改めてと言う形になるんですか?」
「いえ、モノがモノですので本日中に調査員を派遣したいと思っています。今回の場合は既に、内部にモンスターの存在が確認されているので、安全確保の為にも公的認定を急ぎたいと思っています。ですので、申し訳ありませんが調査員と共にもう一度ダンジョンに赴いて頂きたいのですが……」
つまり俺達はこの場で待機し、派遣されてくる調査員と共にダンジョンへ行って欲しいという要請か。まぁ要請とは言うが、この場合実質上の同行命令かな? 確かに町中に出現したダンジョンとかなら目撃者も多く探し出すのにさほど手間も掛からなそうだけど、コレまで発見されなかった人里離れた山中にひっそりと出現したダンジョンなんて発見者の案内が無ければ到達するだけでも苦労するだろうからな。
宮下さんが言うように、安全確保を急ぐ為にもダンジョンまで同行要請が出されるのも仕方ない事だろう。
「そうですか……分かりました。見付けた以上、確かにあのまま放置しておくってのも考え物ですしね。それで、その調査員の方はいつ頃コチラに来れそうなんですか? 流石に夜中まで待って欲しいとか言われると、学生の身としては辛いものがあるんですが……」
「ははっ、流石にそんなに時間は掛からないと思います。調査準備を整え現地に移動する事を考えると……2時間以内にはソチラへ向かえると思います。既に調査員へは出動要請を出していますので」
調査員の到着予定時間を聞く裕二は暗に、長時間の拘束は嫌だから考慮して欲しいと要望を出す。
それに対し宮下課長も分かっているとばかりに、長くも短くも無い調査員の現地到着予想時間を告げる。
「2時間以内……お昼少し過ぎぐらいの合流ですかね?」
「ええ、大体そのくらいになると思います。それと調査員には到着前にソチラへ一報を入れるように伝えておきますので、この電話の番号を伝えても良いですか?」
「ええ、大大丈夫ですよ。ですけど……」
宮下課長の要請を裕二は了承しつつ、この遣り取りを見守っていた湯田さんに視線を送る。
そして裕二の視線の意味を理解した湯田さんは、軽く咳払いをしてからスマホに向かって口を開く。
「お話中の横から失礼します。私、桐谷不動産の湯田と申します。この度は、ウチの管理する物件から未発見のダンジョンが見付かったので、コチラの広瀬君に協会への代理報告をお願いした次第です」
「は、はぁ、ダンジョン協会の宮下です。えっと、湯田さんですか? 代理報告とは……?」
「はい。ダンジョンが見付かったのはウチが管理する物件内で、広瀬君達が当店の御客様として物件の内見に来られ発見したという流れになります。本来はウチから連絡を入れるのが筋だとは思いますが、モノがモノですので早急な安全確保の為にもイタズラ報告と思われないようにと、ダンジョン協会に属する探索者である広瀬君に代理報告をお願いした限りです」
「ああ、なるほど。それで代理報告ですか……」
湯田さんが宮下さんに軽く現状を説明しつつ、同行調査や今後の手続きの連絡先について話を進める。
「はい。そう言う訳ですので、ダンジョンに関する手続き等はウチが行いますので、協会からの連絡はウチに来るようお願いします」
「分かりました。では基本的な連絡は桐谷不動産の方にさせて頂くという形とさせて頂きます」
「はい。それでお願いします」
今回発見の連絡をした俺達は桐谷さんを協会に紹介する役に徹し、実際の手続きは桐谷不動産が負うという形で話が付いた。まぁ実際にダンジョンがある土地を管理しているのは桐谷不動産だし、俺達はまだ購入してないから地権者では無いからな。
仮に俺達に手続きに関する連絡が来ても、当事者とは言えない立場だから手の出しようが無い。
「それと広瀬さん達には第1発見者としてお話を聞く機会があると思いますので、その際の連絡はコチラの番号でよろしいでしょうか?」
「ええ、コチラの番号でお願いします。それともう一つ、相談したい件があるのですが良いですか?」
「はい、構いませんよ。何ですか?」
「実はダンジョン内部を調査した時、モンスターと遭遇し戦闘を行いました。その際、倒したモンスターからドロップアイテムを得たんですが……公認される前のダンジョンでドロップアイテムを取得した場合、ドロップアイテムの扱いはどうなりますか? 普段だと協会の鑑定後、引き取りか売却を選べることになってますけど……」
裕二は申し訳なさと期待感が入り混じった様な声を装いつつ、少々緊張している風にドロップアイテムの扱いについて話を聞く。今回俺達が面倒な報告者役に名乗りを上げたのは、この質問を違和感なく行う為だ。何せ今の状況なら、こんな質問をしても違和感は無い。実際にダンジョンを発見し、内部でモンスターを討伐しドロップアイテムを得ているのだから。
公認される前のダンジョンで得たアイテムの扱いについて聞くのは、今なら他人には発見報告者がする普通の質問に聞こえる。
「ええっ、モンスターと戦われたんですか!? ああ、でも、そう言えばモンスターを確認したって言ってましたし、その可能性はありましたね」
「すみません。調査なので戦闘は避けるつもりではいたんですが、どうしても避けきれず……」
「ああ、いえ。お怪我がなければ良いのですが……お怪我、なされてないですよね?」
「はい。幸い傷1つ負うこと無く倒すことが出来ました。それで、ドロップアイテムの方は……どうしましょう?」
「ううん……」
裕二の相談に、宮下課長は悩むように電話口で唸りだした。
そして暫く悩んだ後、宮下課長は申し訳なさそうに口を開く。
「一応規定としては、ダンジョンから産出される物は国のモノで有り、探索者が回収した際は金銭か物品で報酬を支払うと有ります。ですが未公認ダンジョンの場合は……すみません。この場で直ぐに回答は出来ませんので後日、法務担当者と相談の上で回答をさせて頂きたいと思います」
「そうですか……分かりました。では、回収したドロップアイテムの方はどうしましょう?」
「そちらの方は一旦協会の方で回収鑑定させて頂き、ドロップアイテムの取り扱いの結論が出次第とさせて頂きたいのですが……どうでしょう? ああ、回収の方はソチラに伺う調査員にお預け下されば大丈夫です」
「分かりました。ではドロップアイテムの扱いはそんな感じでお願いします」
答えは先延びとなってしまったが、無理に結論を聞き出すと不信感をもたれかねないので深くは追求しないでおく。ドロップアイテムの扱いも、まぁ予想の範囲内なので素直に預けることにする。手元に帰ってくるか回収されるか分からないが、まぁ帰ってこなくてもそこまで惜しくは無い物なので、帰ってこなかったら多少は報酬を貰えるよう交渉した方が良いだろうから、無理に値上げを粘らない程度に頑張って見るか。
余りアッサリ諦めると、違和感があるだろうしな。
「よろしくお願いします。では調査員の方は直ぐに派遣しますので、連絡をお待ち下さい」
「分かりました。……ああ、そう言えば昼食がまだなので買い出しにココを少し離れたいんですが、大丈夫ですかね?」
「ええ、構いませんよ。調査員の方に、それも一緒に伝えておきます。でも、連絡があったら直ぐ戻れるようにはしておいて下さい。では、御手数ですがよろしくお願いします」
「はい、コチラこそよろしくお願いします。では、失礼します」
一応の話が付いたので、裕二は一言断りを入れて電話を切った。
そして電話が切れると同時に、スマホを囲って聞いていた俺達は一斉に溜息を漏らす。
「どうにか無事、協会とのファーストコンタクトは穏便に済みましたね」
「そうだね。ありがとう、広瀬君達が間に入ってくれたお陰で、話がスムーズに進んだよ。とりあえず後は、その調査員?さんが来てからかな?」
「ええ。ダンジョンの公式認定自体は直ぐにされるでしょうから、後は引き渡しするのにどんな手続きがあるのかって話ですけど……」
裕二は若干言いづらそうに、遠慮がちな視線を湯田さんに送る。
湯田さんは分かっているとばかりの笑みを浮かべ頷きながら、もう一台のスマホに視線を向け話し掛けた。
「その辺の話はウチで請け負うから、基本的に広瀬君達が関わる事は無いと思うよ……で、良いですよね社長?」
「ああ。広瀬君達が協会への報告を仲介してくれたおかげで、ダンジョンの事を直ぐに信じて貰えて助かったよ。私達だけで報告していたら、遅々として話が進まなかった可能性が高かったからね」
「ええ、ホントにそうですよ。まさか最初から課長さんが対応してくれるとは思っても見ませんでした。お陰で話が数段飛ばして進みましたよ」
「ああ、そうだね。では湯田君、現地での対応は君に任せるよ。何か困ったことがあったら、連絡をくれ。私は今から地主さんに連絡を入れ、今回の件の事情を話しておくから」
「了解しました」
湯田さんの返事をきき、桐谷さんは電話を切った。良し、コレで一通りダンジョン発見の報告と初期対応は一段落付いたかな?
後は協会の調査員さんが到着するのを待つだけだけど……まずは腹拵えからだな。腹が減ってはなんとやらって言うしさ。
昼食のお弁当を買いに近くのコンビニまで車で行き、購入して直ぐに元の車を止めていた広場まで戻るだけで40分近くもかかった。やっぱりココ、そうとう利便性が悪いな。最寄りの駅からココまで徒歩で来るのなら一般人で2時間以上、俺達なら走れば15分位って感じか? 更に奥の湿地帯まで行くとなると……うん、一般人には売れない物件だよな。俺達的には人目が無い良い所だとは思うけど……。
だけどまぁ、今後はダンジョンの城下町として発展するかもしれないけどな。
「うん? もう連絡来たのかな?」
シートを広げ弁当を食べていた湯田さんは、予想より早く電話が鳴ったので慌てて電話口に出る。
「あっはい、そうです。桐谷不動産の湯田です。あっ、はい、お世話になります。えっ、あと15分以内に合流する!? 予定では2時間とお聞きしていたんですが……えっ、ああ、はい。そのくらいのスペースでしたら空いてはいますが」
電話に出た湯田さんは、少々困惑しつつ焦った表情を浮かべながら何か雲行きの怪しげな話を続けている。漏れ聞こえる話を聞くに、予定より大幅に早く協会が派遣すると言っていたダンジョンの調査員が到着するようだ。到着予定時刻が半分にって、その調査員さんってこの近くに居たのか?
そんな風に不思議に思いつつ湯田さんの電話が終わるのを待っていると、暫くして電話を終えた湯田さんが天を仰ぎ見ながら大きく溜息を漏らしつつ、俺達に向かって衝撃的な一言を口にした。
「皆、悪いけど急いで弁当を食べてくれ。アチラさん、今回の件をかなり重視してるらしくってヘリコプターでココまで来るそうだ」
「「「ヘリコプター!?」」」
「ココなら着陸出来る広さがあるから、風で物が飛ばないように準備をしてくれってさ」
まさかのヘリ登場である。確かに協会的にはモンスターの存在が確認されたダンジョンの通報を受けたのなら、急いで確認したいのだろうけど……まさかヘリまで使うなんて。
それから俺達は急いで弁当の残りを食べた後、車を広場の端に寄せ出来るだけヘリが着陸出来るスペースを確保して、ヘリの到着を待つ事にした。




