第391話 発見報告
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車を止めた位置まで湯田さんを背負い戻った俺達は、ひと休み挟んでから嫌々ながら動き出す。まずは湯田さんが気が重たそうな表情を浮かべつつ、電波が通るようになったスマホを操作し会社に電話をかけ始める。
そして湯田さんは素早くスピーカーモードに切り替え、俺達にも聞こえるようにスマホを見せる。どうやら俺達にも話を聞かせてくれる様だ。まぁどう報告して良いか迷った時、俺達が代わりに報告する為の予防措置みたいな物だな。
「……もしもし、湯田です。少々内見先で問題が起きたので、社長に報告をしたいので代わって貰えますか? ああはい、お願いします」
まず最初に電話口に出たのは事務員さんの様で、湯田さんが問題報告をしたいと口にした事で少々戸惑っている様子だったが直ぐに対応してくれた。
そして湯田さんが内線を回して貰うようにお願いして数秒後、電話口に桐谷さんが出る。
「もしもし、湯田君? どうしたんだい?」
「お疲れ様です社長。すみません、少々問題が発生しました。コチラでは手に負えない事態ですので、ご報告とご相談をと……」
「広瀬君達との内見中にか……随分と穏やかじゃ無さそうだね。それで、問題とは?」
「はい。それと社長、この電話には広瀬君達にも同席して貰っています。この問題には、専門家である彼等の知識と意見が必要と判断しましたので」
湯田さんはそう言うとスマホに向けていた顔を上げ、俺達を一瞥し視線で行動を促す。
俺達は湯田さんに軽く頷き返事を返した後、スマホに顔を向け話し掛ける。
「お疲れ様です桐谷社長、広瀬です」
「お疲れ様です、九重です」
「お疲れ様です、柊です」
「少々厄介な問題が発生したので、今回お話に同席させて貰います。よろしくお願いします」
「あっ、ああ、よろしく?」
俺達が同席するという事態に、桐谷さんは困惑したような声を出す。まぁ普通、社員からの問題報告にお客が同席するようなことは無いだろうな。桐谷さんが困惑するのも納得である。
しかし、そこは伊達に人生経験を積み重ねておらず、桐谷さんは直ぐに調子を戻し湯田さんに報告を始めるように促す。
「オッホン! では湯田君、その問題についての報告をお願いするよ」
「はい、では簡単に時系列順に報告します。まず始めに、私は広瀬君達を今日の内見場所である湿地帯まで案内しました。そこまでの道程では特に問題も発生しません。ですが内見場所に到着すると、広瀬君達から違和感が有ると報告を受けました」
「違和感? それは誰かが不法侵入している痕跡を見付けてとか、そう言った類いの話かね?」
「いえ、その時点では不明でしたが。彼等曰く、馴染み知った空気を感じると。そして彼等が厳戒態勢を敷く中、私達は湿地帯中央の島に上陸しました」
「……空気、ね?」
まぁ、いきなり感覚の話をされても戸惑うよな。
しかし桐谷さんは話の中に出て来た、俺達が厳戒態勢を敷くという行動の意味を捉えきれなかったようだ。普通に考えれば、高校生が厳戒態勢を敷いたから何?って感じだろうけどさ。俺達が警戒態勢を敷く事態が起きた、この意味を理解出来る人が現地にいたら即逃げ出す事態である。
「そして島に上陸した私達は直ぐに、彼等の言う空気を醸し出す原因を見付けました」
「原因……不法投棄物の山でもあったのかい?」
「……それの方が、万倍マシだったかもしれませんね」
「ん?」
困惑の声を上げる桐谷さんを流しつつ湯田さんは1拍間を開けた後、決定的な一言を口にした。
「ダンジョンを……私達は島の中央部で未発見のダンジョンを見付けました」
「? ダンジョン……? っ、はぁ!? ダンジョンを見付けた!?」
「はい。昨年世界中に出現した、あのダンジョンです。ここは僻地でしたので、今まで発見されなかった様です」
「……」
桐谷さんの絶叫が電話口から響いた後、暫くの間辺りに痛いほどの沈黙が広がった。電話口の後ろの方からは、他の社員さん達が何事かと桐谷さんに心配の声を掛けたり、桐谷さんが叫んだダンジョンという単語に困惑する声が聞こえてくる。突然社員から所持物件からダンジョンを発見したなんて報告をされたら、桐谷さんがこう言った反応になるのも当然か。
そして苦笑の表情を浮かべながら顔を見合わせる俺達は、桐谷さんが復帰するまで暫く待つ事になった。
「ああすまない、動揺を抑えきれなかった。湯田君、その報告に誤りは無いかい? 見付けた物がダンジョンであるという、何か確固たる証拠はあるんだね?」
「はい。既に内部の方を広瀬君達が探索してくれまして、内部にモンスターの存在を確認しました。相談も無く勝手に行動してしまい、すみません」
湯田さんが内部確認済みであると言う報告をした時、俺達は電話口の向こうに居る桐谷さんが一瞬息を飲んだ気配をみせ、数瞬後に怒声を上げる気配を感じとった。
なので、機先を制するように俺達は素早く口を開く。
「桐谷さん。ダンジョン内の探索は俺達が提案し、湯田さんに見逃して貰い勝手に行った事です。湯田さんに無理矢理ヤラされたとかという事はないので、湯田さんを責めないで下さい」
「未発見ダンジョンの探索は探索者として、協会や政府に素早く報告を上げる為に必要だから行った事です。ダンジョンで有るか無いかの確認は必要な行為でしたので、湯田さんに非はありません」
「今回の内部探索で私達に怪我はありませんし、コレまでの探索者としての実績を考慮した上で安全と思える範囲でしか活動していません。ダンジョン探索における専門家として判断し、今回の探索における危険性は限りなくゼロでしたので、湯田さんを責めないで下さい」
「……」
俺達が口々に湯田さんを擁護した為、湯田さんを叱責しようとしていた桐谷さんは口を開く事が出来無くなる。桐谷さんは電話口の向こうで何か言いたげな雰囲気を出しつつ、俺達の言葉を何とか飲み込もうとしている気配を漏らしていた。
そして少し間を置き、桐谷さんは胸に溜まった物を吐き出すように大きく溜息を吐いた後、湯田さんに向かって声を掛ける。
「……湯田君。今回の件は初めて遭遇する非常事態につき、君に非は無いと判断し不問とするが、今後は同じ事が無いように控えてくれ。内部確認が必要な行為だったとは理解するが、最低限コチラに1度話を通してからにしてくれると助かる」
「はい。すみません、以降気を付けます」
「ああ、よろしく頼むよ。 はぁ……こりゃ今後の為にも、ダンジョン発見時のマニュアルを作っておいた方が良さそうだな」
桐谷さんの判断を受け、湯田さんは申し訳なさげな表情を浮かべつつスマホに向かって軽く頭を下げていた。
一通りダンジョンに関する報告が終わり、俺達は今後の動きについて話し合いを始めた。
今度はダンジョン協会や国に対し、どうやってダンジョン発見の報告をするかだ。
「はぁ……しかし、それよりもだ。ダンジョン発見ともなると、どうすれば良いんだ? 一応業界的には以前、所有不動産で発見した場合はダンジョン協会の方に一報をと回ってきていたが、具体的な手続きに関しては詳細不明だからな。……広瀬君」
「はい、何ですか?」
「こう言う時の対応方法なんかを、君達の方では何か聞いてないかい?」
「探索者的な対応の話ですと、未発見ダンジョンを発見した際はダンジョン協会に連絡を、っと言った程度の事しか知りませんね。桐谷さん達と同じように、具体的な手続きの話は知りません」
「そうか……」
「「「「「はぁ……」」」」」
全員揃って、一斉に溜息を漏らす。桐谷さんや俺達にとっても初めて遭遇する事態なので、誰も具体的な動きについての知識がないからな。
しかし、知らないからと言って動かないわけにもいかないわけで……。
「仕方ない。いきなり言って信じて貰えるか分からないが、ダンジョン協会の方に連絡を入れてみるとしよう。何もしなければ、事態は動き出さないからね」
「そうですね。じゃぁ桐谷さん、俺達の方から連絡を入れてみましょうか? コレでも俺達、正規登録したそこそこの探索者ですので、話も聞いて貰えず門前払いになると言うことは無いと思います」
「そうして貰えるとコチラも助かるが……良いのかい?」
桐谷さんは心配げな声色で、俺達が面倒事に巻き込まれるのではと気に掛けてくる。
「乗りかかった船ですからね。それにどちらにしろ未発見ダンジョンの発見者として、聞き取りぐらいはされると思いますので、俺達も無関係ではいられませんよ」
「そうか……ではよろしく頼むよ」
「はい」
本当なら余りやりたくない役割ではあるが、未発見ダンジョンを発見した探索者として何もしないってのも不自然だからな。色々な手続き自体は桐谷さん達に任せる事にはなるだろうが、協会との仲介程度はやっておかないと……。
はぁ、本当に話を聞くだけで済めば良いんだけど……。
「では、とりあえずダンジョン協会の方に連絡を入れますね。政府関係の方は協会から話が行くと思いますので、協会の反応を見ておいおいって感じで……」
そう言うと裕二は自分のスマートフォンを取り出し、事前に調べておいたダンジョン協会の番号に電話をかけ始める。湯田さんと同じくスピーカーモードに設定しているらしく、コール音が鳴り響くのが聞こえる。
そして数度の呼び出し音が響いた後、ダンジョン協会に電話が繋がった。
「はい、こちらダンジョン協会総合相談窓口になります。本日は、どう言ったご用件でしょうか?」
「あっ、すみません。ダンジョンに関する相談があるのですが……」
「ダンジョン……ダンジョンのどう言ったお話でしょうか?」
裕二は一瞬言葉を出す事を躊躇した後、小さく息を吐きつつ相談を持ちかける。
「あの、落ち着いて聞いて下さいね? 実はですね、所用で友人数名と山に来ているんですが……山中でダンジョンを発見しました」
「……はっ?」
「発見したダンジョンは誰にも管理されておらず、周囲を踏み荒らされた痕跡も無いので、まず間違いなく未発見ダンジョンだと思います」
「……しょ、少々お待ち下さい。た、担当の部署にお繋ぎします」
思っても見なかった相談案件に電話口の先に居る協会職員さんは動揺しつつ、関連部署に電話をつなぎ替えてくれる。動揺具合からするに、ダンジョン発見報告は中々無いのかもしれないな……。
そして保留音を聞きながら30秒程待って居ると、職員さんが言っていた担当部署と電話が繋がった。
「大変お待たせしました。お電話代わります、ダンジョン協会新規ダンジョン管理課の丸井です」
「あっ、よろしくお願いします。」
「では早速ですが、山中でダンジョンを発見との事ですが?」
「あっ、はい。今日……と言うか1時間ほど前の事なんですが、友人達と所用で山を散策中に発見しました。内部を軽く調査して見たところ、モンスターの姿も確認しましたので、ダンジョンで間違いないです」
「!? 確認って、内部に入ったんですか!?」
ダンジョン発見時の状況を簡単に説明していると、内部は確認済みだと言った所で丸井さんは驚きの声を上げた。ああ、そうだ忘れていた。先にコレを言っておくべきだったな。
俺と柊さんは裕二に少々非難の混じった視線を向け、自分達が探索者をやっていると自己紹介をしろよと促す。裕二もそんな視線を受け、忘れてたとばかりに頭を掻きながら口を開く。
「ああすみません、先に言っておくべきでしたね。自分達探索者をやっています。協会のデータベースの方で照会して貰えれば、探索者である事は分かると思います」
「えっ、ああ、そうなんですか? そう言えば、まだお名前を伺っていませんでしたね。お名前を伺っても?」
「大丈夫ですよ、自分は広瀬裕二と言います。チームNESって3人組でダンジョンの方には潜っています」
「ありがとうございます。では照会させて頂きますので、少々お待ちになって下さい」
そして再び保留音が鳴り出したので、裕二はスマホから顔を上げる。
「ひとまず穏便に話は進めそうですね。考えてみれば、今は未発見ダンジョンの存在が珍しくとも、1年程前までは頻繁に通報されることも有ったでしょうし、その辺の対応マニュアルは整備されてるみたいですよ」
「そのようだね。こうなってくると、慣れた向こうの指示に従って粛々と手続きを進めた方が良さそうだ」
「そうですね。変な事はせず指示に従って国にダンジョンの所有権を引き渡した方が、後々の面倒事は少ないと思いますよ」
ダンジョンが現れた最初の頃、ダンジョンが現れた土地の地権者が変に欲を掻いて保証金の値上げ交渉なりをしていたら、国の強制収用で取り上げられたって言う噂話を聞いた事がある。真偽は分からないがダンジョン特例法で、ダンジョン収用に関する何かしらかの手をうっていた可能性はあるからな。ならば、国に睨まれる前に素直に引き渡した方が幾分マシだろう。
そして雑談をしながら照会が終わるのを待っていると、唐突に保留音が切れ電話口から丸井さんとは違う人の声が響いてきた。
「お待たせしてしまい大変申し訳ありません。コレからのお話は私、ダンジョン協会新規ダンジョン管理課課長の宮下がお伺いします」
「はっ、はぁ……よろしくお願いします」
おいおい、何でいきなり課のトップが出張ってくるんだ? こう言うのって下が話を纏めた後、上が承認に出てくるもんじゃ無いのか?




