第390話 交換しとこう
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ドロップアイテムのスキルスクロールを手に持ったまま固まる俺に、裕二と柊さんは不審げな眼差しを向けてくる。まぁ当然だな、俺が“鑑定解析”を使ったと思ったら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら驚愕しつつ目を見開いていたら。
だけど、コレは仕方が無い反応だと思うぞ?
「……どうした大樹? 鑑定結果が、何か拙いモノだったのか? 例えば……毒系統のスキルスクロールだったとか?」
裕二は心配げな表情を浮かべつつ、俺の手元にあるスキルスクロールに視線を向けながら鑑定結果を尋ねてくる。
俺の反応から、ヤバい系の品であると察したらしい。
「いや、そう言うモノじゃ無いんだけど……ある意味、毒スキルか?」
俺は難しい表情を浮かべつつ頭を横に振り、スキルスクロールがそう言った直接危険がある品では無いと伝えた。
ただ、社会的な毒って意味合いでは毒系スキルを上回るかもだけど。
「じゃぁどう言ったモノなの、九重君? 危ないスキルスクロールって言う訳じゃ無いのに、毒になるかもしれないだなんて……」
「……鑑定結果だけ言うと、このスキルスクロールは“錬金術”って言うスキルが封入されてるんだ」
「「“錬金術”?」」
俺の口にした錬金術という単語に、裕二と柊さんは口を揃えつつ不思議そうな表情を浮かべながら少し首を傾げていた。
錬金術、いわゆる卑金属から金を作り出すというモノだ。最近ではゲームや漫画等で良く出るので、素材を捏ねくり回して製品を作る職業やスキルと言った認知のされ方をしていると思う。
「うん、錬金術」
「錬金術ってアレだろ? ゲームとかで出てくる、生産系のスキルや職業の」
「うん、スキルのイメージとしてはそれで良いよ。詳しくは少し違うけどね」
「そのスキルが、どうして毒になるって言うの?」
どうやら、錬金術と言われるモノの概要は、裕二も柊さんも把握しているようだ。
お陰で話が早く進みそうだ。
「知ってると思うけど今の所、生産スキル系は希少性や需要的にあまり表だって取り扱いされてないよね?」
「ああ。でも需要が無い多くの理由は、ロクに使えないってものだがな。何でもスキルが無くても、普通に手作業で出来る事ばかりだとか」
「そうね。私が知っている生産系スキルは“採掘”や“採取”、“解体”あたりね」
「うん。いわゆる採取系ばかりで、加工系スキルは出まわって無いかな」
どういう訳なのか今の所、ダンジョンでドロップするスキルスクロールに封入されている生産系スキルは、手作業で代用出来る採取系ばかりだ。加工系スキルが封入されているスキルスクロールが、協会から売りに出されたという話は聞かない。まぁ国や協会が秘匿し抱え込んでいるって可能性はあるが今の所、加工系スキルはドロップしていないという事になっている。
まぁ単純に、加工系生産スキルが封入されたスキルスクロールの出現階層が、もっと深い位置にあると言うだけの話かもしれないけどな。
「と言う事は、その“錬金術”ってのは加工系スキルで良いんだよな?」
「うん。この“錬金術”って言うのは間違いなく加工系スキルだよ。ソレも、コアクリスタルを加工する事が出来る、ね」
「「……」」
俺の言った言葉の意味を察した裕二と柊さんは、一気に頬が引き攣っていた。
コアクリスタルを加工出来るスキル、その意味が理解できればこの反応も当然だろう。
「おいおい大樹、聞き間違えか? コアクリスタルの加工? ソレって……」
「うん。スキルの熟練度とEP次第だろうけど、色々と作ることが出来る事になるよ」
「……色々?」
「うん、色々」
「「「……」」」
俺達は頬を引き攣らせたまま、大きな溜息を漏らした。
コアクリスタルを色々加工出来る……ソレはつまり、現在再現が難航しているとされる各種マジックアイテム素材をスキル保有者は自由に作ることが出来るようになると言うことだ。そして、これらの技術開発が難航しているとされる原因というのが、コアクリスタル加工技術開発の遅れとされている。その為コアクリスタルの加工技術はマジックアイテム開発における根幹技術とされており、この技術課題をクリア出来れば、マジックアイテム再現は一気に進むと言われていた。
「……それ、ヤバくないか?」
「うん、ヤバいかも」
「かもじゃなく、ヤバいわよ……」
物件の内見に来たのにダンジョン出現でご破算になり、確認調査でダンジョンに潜ってみれば爆弾を手に入れてしまった。安請け合いした結果がコレとは……。
只でさえ未発見ダンジョンを見付けて頭が痛いのに、さらに悩みの種が増えちゃったよ。
「このスキルスクロール、素直に協会に提出して終わりになるか?」
「どうだろ? この“錬金術”スキル、いわゆる高位スキルに分類されるスキルみたいで、効果が強い分かなりEP消費が高いっぽい。少なくとも上位層の高レベル探索者クラスじゃないと、まともにスキルを使えないんじゃないかな?」
「そうなると、スクロールを渡して終わりにならないかもしれないわね……」
協会や国としては“錬金術”スキルの有用性を考えると、出来るだけ存在を知る人間は増やしたくないと考える可能性が高い。何せ“錬金術”スキルを上手く使えば、マジックアイテム生産技術で世界をリード出来る可能性があるのだ。ダンジョンからの産出頼りになっている各種マジックアイテムを世界に先んじて工業的に量産出来るようになれば、莫大な利益が転がり込んでくるようになる。
そうなると高レベル探索者であり、このスキルスクロール発見者である俺達の存在がどのように見られるか……。高レベル探索者でありながら未だドコの企業や組織の紐付きでも無い学生で有り、重蔵さんや幻夜さんという有名人?が後ろ盾になり身元や素性の保証人になる人間……うん、色々な意味で詰むな。日の丸親方を背にした白衣を着た研究者達が、雇用契約書兼機密保持契約書を片手に手招きしている光景が目に浮かぶ。
「……囲い込まれる可能性が高そうな未来予想図だな」
「せめて、高校卒業位までは待ってくれるかな……」
「中途退学は嫌よ、私……」
俺達はスキルスクロールを渡した後に来るかもしれない余り芳しくない未来を想像し、重い溜息を漏らした。いや、普通の就職先として考えれば公務員も悪くは無いと思うけど、半強制的に高校を中途退学させられて……と言うのでは少々反発心が芽生えてくる。
多分、それなりに配慮はしてくれるだろうが、“錬金術”スキルの有用性を考えれば最終的には囲い込まれるだろうな。何せ今なら世界に先んじて、技術的にスタートダッシュを決められるのだから。
「隠すか……」
なので、こういう提案も出てくる。
しかし……。
「おいおい大樹、隠すとしてもどうすんだよ。ここ未発見ダンジョンだから協会なり国が再調査の時、最初のドロップアイテムでそれなりの物が出なかったら、発見者である俺達がお宝ドロップアイテムを隠したって疑われるぞ? 仮にスキルスクロールが出たから自分達で使ったと言っても、そう言って別の何かを隠し持ってるかもって、痛くもない腹を探られることになる」
「そうよ。それに痛くない腹と言っても私達の場合、別の痛い腹があるんだから、無用に疑われるような事はしない方が良いわ」
だが当然、そんな提案が素直に同意される訳も無い。裕二と柊さんは渋い表情を浮かべつつ、俺の提案に反対する。スキルスクロールを隠した場合のデメリットが、更なるリスクを生む可能性があるからな。
提出するかしないか、どっちがマシかな……。
「そうだね、隠してもしょうが無いか。湯田さんも、今回の件は報告しない訳にもいかないだろうしね」
「ああ、ダンジョンが本物でも偽物でも、湯田さんに報告しないって選択肢は無いだろうからな。そうなったら、協会も判別の為にお抱えの探索者を送り込んでくるだろう。疑われるくらいなら、初発見者として対応する方がまだマシだろうさ」
「素直に提出するのが一番か……まぁ悪い方悪い方に考えてもしかたないか」
隠した場合のデメリットを思えば、アルバイト先か卒業後の進路が決まるだけの方がリスクは少ないかもしれないかな……。
と、半分諦めつつ考えていた時、何か考えていたらしい柊さんがポツリと漏らした。
「ねぇ? ちょっと思いついたんだけど、隠すのは不味いかもしれないけど交換するのは良いんじゃないかしら?」
「「交換?」」
「ええ。“錬金術”のスキルスクロールを渡すのが拙いのであって、別の同等品……初回特典だから貰えた物と思わせる品と交換すれば良いんじゃないのかしら? 私、最近丁度良さげな物を手に入れた覚えがあるわよ?」
「「!? それだ!」」
柊さんの提案に、俺と裕二は飛びついた。そうだよ! 提出する物が拙いのなら、交換すれば良いんだよ! 向こうさんからすれば、初回特典に値するアイテムが提出されれば納得するんだしさ!
コチラにとって都合が悪くない物と交換して、それを提出すれば良いんだ。そして、柊さんが言う丁度良い品に、俺と裕二も心当たりがあった。
「大樹、持って来てるか!?」
「勿論、おいそれと放り出せる物じゃ無いから仕舞い込んで持ってるよ!」
俺は急いで“空間収納”の中を漁り、革製のショルダーバッグを取り出した。最近手に入れた、初回特典のドロップアイテムとして提出しても違和感が無い品だ。
コレなら提出しても、俺達には特に問題無い。業界的には大騒ぎするかもしれないけどな。
「コレを提出すれば、とりあえず誤魔化せるよな!」
「入手難度的には民間探索者じゃ手に入らない物だろうから、初回特典として言い張れるはずだよ、多分!」
「そうだと願いたいわ。正規のダンジョンじゃ無いから、所有権がどうこう言われるかもしれないけど、コレなら万一没収になってもコチラとしては表に出せない品の処分って事になって大損にならないし、所有権を譲られたら公認でマジックバッグを所有出来るようになるだけだわ」
どちらに転んでも、俺達的には損にはならない品だ。マジックバッグの所有するに当たっての問題点は、入手場所が公に出来ないと言う事だったからな。まぁ所有する事になった時は、大々的に知られると嫉妬や羨望が向けられる目に遭うかもしれないけど、秘密にしている限りは公的にマジックバッグを使用出来るようになると言うのは大きなメリットだ。
もし所有を知られて余りに外野が五月蠅く騒いだら、そこそこの値段で売りに出しても良い。売れ売れと、執着される方が面倒だしな。
「良し、じゃぁコレを証拠品として協会には提出しよう。モノがモノだから没収されたら諦めるとして、所有が認められたら密かに使うという方針で」
「了解。でも、没収された方が後々の面倒が無さそうだよね……いっそ協会か国が買い取ってくれないかな? 研究用ってかたちでさ」
「そうね。向こうが強気で買い取り交渉してくれた方が、恩を売るという意味では有りと思うわ」
ドロップアイテム問題に一応の解決を見たので、俺達は撤収準備を進める。頭を抱えつつ相談していたので、そろそろ湯田さんとの約束時間になりそうだ。
時間に遅れると湯田さんが何かあったのかと心配するだろうから、急いで帰るとしよう。
俺達がダンジョンから出ると、湯田さんが心底安心したと言いたげな表情を浮かべながら出迎えてくれた。そして暫く俺達の全身をなめ回すかのような眼差しを向けて見ていたが、ドコにも怪我をしていないか確認していたようだ。いやはやご心配お掛けしました。
「ただ今戻りました湯田さん。やっぱりコレ、ダンジョンでしたよ」
「そっか……やっぱりダンジョンなんだね。はぁ、どう報告しよう?」
「見たままを報告するしか無いんじゃ無いんですか? とりあえず外観の写真と映像、それとコレを提出しましょう。証拠があれば、信じて貰えますよ」
「コレって……」
裕二が湯田さんにマジックバッグを手渡すと、怪訝気な眼差しを向けてきた。
「ダンジョンに居たモンスターのドロップアイテムです、回避しきれなくて倒したんですよ」
「戦った、のかい?」
「はい。でもまぁ、3人で囲って倒したので楽勝でしたよ」
「そうか……」
裕二の話を聞き、湯田さんは無念気な表情を浮かべつつ肩を落とした。慰め?つつ話を聞いてみると、覚悟を決めては居たが実際に戦闘行為があったというのが堪えたとのことだ。やっぱり俺達が大丈夫だと言っていたとは言え、中に入るのは止めるべきだったと。
そして危ない真似をさせてしまい申し訳ないと、俺達に向かって頭を下げつつ湯田さんは謝った。
「頭を上げて下さい湯田さん、ダンジョン内部の調査は俺達が選んだ事です。湯田さんが謝るようなことじゃないですよ」
「だけど……」
「いやホント、蹴り一発でケリが付くような相手だったんですから。湯田さんに謝られる方が、俺達的にはキツいですよ。だから謝らないで下さい」
「……分かった」
少々ゴタついたものの、とりあえず調査報告も一通り終わったので、俺達は携帯電波が通じる所まで撤収し桐谷さんにダンジョンの事を報告する事にした。山奥だからある程度戻らないと携帯電波が届かないんだよ、ココ。
はぁ、それにしても安請け合いが面倒な事に発展したな。




