第389話 小島のダンジョン
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俺達は唖然とした眼差しで、悠然と聳え立つダンジョンの入り口を眺めていた。場所が場所という事もあり、ラストダンジョン感たっぷりである。
うん、なんでこんな所にあるんだよ。
「……どうする、これ?」
「どうするって……どうしよう?」
「見なかった事に……って事にするのは無理よね」
「「「……はぁ」」」
遠い目をしながら、俺達は揃って溜息をつく。いやホント、なんでこんな厄介事が湧いて出てくるんだよ。俺達はただ、練習場が欲しくて物件巡りをしていただけなんだぞ?
はぁ……お願いされたとは言え、安請け合いなんかするんじゃ無かった。
「えっ、ああ、その、皆。コレって、本当にダンジョンなの?」
「ええ、十中八九間違いないかと。あの入り口周りに描かれてる文様、俺達が良く行くダンジョンにも似た様なのが書かれてました」
「感覚の話で悪いんですけど、間違いなくアレから発せられている気配はダンジョンのソレですね」
「私も体が自然と警戒態勢になりましたし、間違いないと思います」
俺達の発する不穏な空気に若干怯みつつ、湯田さんが眼前の建造物の真偽について尋ねてくる。もしコレが本物のダンジョンならば、湯田さんにとっても他人事じゃ無いからな。事の真偽は気になる所だろう。
そんな怯みつつ不安気な表情を浮かべる湯田さんに向かって、俺達は残念気な表情を浮かべつつ眼前の建造物がダンジョンの入り口であると肯定する。無論、内部を確認して見るまでは只似ているだけの建造物の可能性もあるが、そんなモノをこんな辺鄙な場所に作る理由はまぁ無いので、現時点でも結論は見えている。
「そ、そっか、ダンジョンか……ダンジョンなんだ」
「ええ」
「……はぁ」
眼前の現実を受け入れたのは、はたまた更なる現実逃避をしたのか、湯田さんは溜息を漏らしつつ虚ろな眼差しをダンジョンの入り口に向けていた。恐らくダンジョンを発見した業者として、コレからのゴタゴタへ対応する姿が一瞬で脳裏を巡ったのだろう。
俺達にとっても厄ネタではあるが湯田さん……いや、桐谷不動産にとっても厄ネタだろうからな、ダンジョン発見は。
「どうしよ? 今日はここの内見って予定だったけど、こうなってくると……ねぇ?」
「そう、ですね。とてもじゃないですが、内見をって感じじゃありませんし……」
「そうだよね。ウチとしてもココが本当にダンジョンであるって事になったら、色々な所に連絡を回さないといけなくなだろうから……」
「そうなると、俺達も第1発見者として協会から聞き取り調査ぐらいはあるでしょうね」
見付けてしまった以上、それなりの対応をしなくてはいけないわけであり、俺達はこの後のゴタゴタを想像しやるせなさを感じつつ肩を落とした。
心底、面倒である。
暫く休憩を挟み心を落ち着かせた俺達は、残念な現実を受け止めつつこの後の対応について話し合う。
「さてと、まず対応の第1としては、コレが本当にダンジョンであるのかの実証からですね」
「実証というと、もしかして……」
「はい。俺達だけでココの内部に入り、本当にココがダンジョンである事を実証します。具体的に言うと、ダンジョン内でモンスター探しですね」
ダンジョンが有った!と騒ぐだけ騒いで、調べて見たら違ったのでは結構アレだからな。最低限、コレがダンジョンであるという確認だけはしておきたい。後になって、ダンジョンあるある詐欺をやったとか言われたくないからな。
だが、裕二が言い放ったその言葉は湯田さんには些か衝撃的だったらしい。
「ええっ!? それ、大丈夫なの!? 君達、今日は内見に来ただけで、ダンジョン探索の準備なんて何もしてないじゃないか! 探索者が使うような、武器らしい武器も持っていないし……」
「確かにダンジョン探索の準備はしてきていませんので、ダンジョンの奥深くまで探索とかは出来ませんが、入り口付近を少し覗くぐらいならどうにかなりますよ。ソレに武器を持っていなくとも、モンスターと戦う手段は持っています」
「でも、モンスターを探し回るんだよね? もし相手が先に君達を見付けて襲い掛かってきたら……」
「確かにその可能性はありますね。ですが多くのダンジョンの場合、チュートリアルなのか1階層で遭遇するモンスターは単体で行動しています。モンスター単体との戦闘であるのならば、今の装備でも問題無く勝てます」
何の準備も出来ていない俺達がダンジョンに入る事を、湯田さんは心配げな表情を浮かべながら強く引き留めようとしてくる。まぁ探索者でも無い一般人視点から見ると、無鉄砲な若者の無謀な挑戦にしか見えないよな。引率?する立場の大人からすれば、俺達の無謀な行動を止めようとするのは当たり前だろう。
しかし正直一階層で遭遇するようなモンスターが相手なら、普通に殴る蹴るで対応可能だ。まぁ加減をミスると、相手は爆散するけど。
「湯田さん、心配して頂けるのはありがたい事なんですが大丈夫です。俺達こう見えても、探索者の中では上位層に位置する、それなりの腕前を誇る探索者なんですよ? 例え普段使っている装備が無かったとしても、一階層に出るようなモンスターには後れはとりません」
「そうですよ。不安に思われるのは当然だと思いますが、裕二が言ってるのは過信でも油断でも有りません。コレまでの実績を考慮した上での、事実です」
「コレまでの内見に同行して下さった湯田さんなら、私達の言っている事が丸っきりの嘘や虚勢では無いと理解して貰えると思います」
「……」
俺達の説得に湯田さんは目を瞑り、コレまで内見同行で見知った事を思い出すように考え込み始め、暫くすると目を開き俺達に顔を真っ直ぐ向け口を開く。
その顔には、覚悟を決めた表情が浮かんでいた。
「分かった。確かに危険ではあるけど、確認しないといけない事であるのは間違いないからね。でも、絶対に無理はしないで欲しい。少しでも危険だと感じたら、即座に引いてくれ。君達が危険な目にあってまで、今絶対に確認しないといけない事では無いんだから」
「了解しました。もし少しでも危ないと感じたら、その時点で引き返します」
「ああ、それで頼むよ。……そしてもし万が一、君達が調査中に怪我を負うような事が有った場合は会社として、そして僕個人としても全力で対応させて貰う事を約束する」
「えっ? でも湯田さん、ソレは……」
裕二は湯田さんの発言に驚きつつ、ちょっと中に入って様子を見るだけだから必要ないと言おうとしていたが、右手の平を顔の前に出した湯田さんに止められた。
そして湯田さんは覚悟を決めた表情を浮かべたまま、ハッキリとした口調で話し出す。
「確かにコレまでの事を考えれば、上位層の探索者という君達が怪我を負うような事は無いと思う。でも、コレはあくまでも覚悟の問題だ。コチラの都合が多分に含まれる状況で、正式な依頼が出されている訳でも無いのに君達に危険な目に合うかもしれない場所に行って貰う。万一の事が起きた場合、責任の所在はハッキリさせておかないといけないだろ?」
「湯田さん……」
「何度も言うが、危険だと思ったら直ぐに引いて欲しい」
「……はい、必ず」
不安が入り混じる真摯な眼差しを向けてくる湯田さんを真っ直ぐ見返しながら、裕二は姿勢を正しハッキリとした口調で返事を返した。そして同時に俺と柊さんも、裕二の返事に合わせるように力強く頷き返事を返す。
最近慣れすぎていたからかもしれないけど、ダンジョンに入るという事を俺達も少し簡単に考えすぎてたかもしれないな……。
「良し、じゃぁ内部確認が終わってからの予定も決めようか?」
「……はい」
この話は終わりだと言う様に湯田さんは雰囲気を緩め、内部確認後の予定について話し合いを再開する。
ダンジョン発見報告手順の確認が終わった俺達は、ダンジョン内部に突入する前に3方に別れ素早く小島内部の確認作業を行っていた。ダンジョン内部に湯田さんを連れて行けない以上、湯田さんには小島に残って貰う必要があるからな。勿論、一人護衛に残っていれば必要ないのかもしれないが、湯田さんの希望……要請かな? 要請で、ダンジョン内部の確認には俺達3人で向かう事になったからだ。湯田さん曰く、俺よりも君達の探索における安全確保を優先して欲しいと。
そう言う訳で、俺達がいない間の湯田さんの安全確保を行う為、小島内部の確認を行っていた。大型の野生動物とかが潜んでいたら危ないからな。
「とりあえず一通り見て回ったけど、大丈夫そうだ」
「うん、まぁ大丈夫じゃないかな。危険そうな野生動物は居ないしさ」
「短時間で私達が戻れば問題無い範囲だと思うわ」
一通り見て回った感想としては、特に問題なしだ。勿論、毒虫や毒蛇と言った危険は残るが、山の中なのでその辺は何処に居てもリスクは同じだろう。周りが湿地帯というのを、大型野生動物達が縄張りとするのを嫌がったとかなのだろうか?
もしくは……ダンジョンの出現の影響で、縄張りが変わったのかもしれないな。
「とりあえず湯田さんの安全は確保出来た、って事で良いかな?」
「うん」
「ええ」
万全とは言えないものの、ダンジョン(仮)の内部調査に赴く準備は出来たって事だな。後は湯田さんと最終打ち合わせを行ってから、ダンジョン突入である。
そして見回りをすませた俺達は、ダンジョン前で待機している湯田さんと合流した。
「湯田さん、一通り見て回りましたけど大丈夫そうですよ」
「ありがとう。じゃぁ予定通り僕はココで待機してるから皆、気を付けて」
「ええ。直ぐに戻ってくる予定ですが、湯田さんも気を付けていて下さいね」
「ああ。俺も前回の内見で経験してるからね、色々撃退グッズは用意してるよ」
そう言って湯田さんは、バックパックから熊のイラストが描かれたボンベとベルを取り出し俺達に見せる。どうやら前回の件を教訓に、確り用意してきたようだ。
「山では野生動物と遭遇しないというのが一番らしいけど、遭遇してしまった場合の自衛手段として買って置いたんだ。何でもこのスプレーは、唐辛子とかを原料にした刺激物を発射するんだって」
「えっ? ああ、ソレは……効きそうですね」
唐辛子スプレーって……それ、俺達がモンスター相手に使ったのと同じモノ、だよな?
「まぁ、使わなくて済む事が一番なんだけどね。とりあえず俺にも自衛手段はあるんだから、君達も無理をして急いで戻ってこないで良いから。十分に気を付けてくれ」
「あっ、はい。じゃぁ予定通り、とりあえず10分ほど内部を探索したら1度戻ってきます。ココがダンジョンなら、そう時間を掛けずにモンスターと遭遇出来ると思いますので」
「分かった」
湯田さんとの打ち合わせをすませた後、俺達は余分な荷物を湯田さんに預けダンジョンの入り口の前に立った。
「じゃぁ湯田さん、行って来ます」
「直ぐ戻りますので」
「周りの様子には気を付けて下さいね」
「ああ、君達も気を付けて」
こうして準備を済ませた俺達は、小島に聳え立つダンジョンの中へと突入した。
まさか物件の内見に来たのに、ダンジョン探索をすることになるとは思っても見なかったよ。
小島ダンジョン内部は、何時も通っているダンジョンと特に代わり映えしなかった。今回はライトなどの装備を持ってきていなかったので、“ライト”魔法とダンジョンの薄暗い明りを頼りに先へと進んでいく。勿論俺の“空間収納”には幾つも予備のライトが仕舞ってあるが、万一の際の湯田さんへの説明が面倒なので出番無しだ。まぁ“ライト”だけで十分な光量は確保出来ているので、魔法禁止エリア等のトラップの心配はあるが今回はコレで我慢することにした。1階層なら大丈夫だろう、多分。
そしてダンジョンに踏み込み、5分ほど内部を探索した結果……。
「ホーンラビットが出たって事は、間違いなくココはダンジョンだな」
「そうだね。まぁ念の為の確認て意味合いが強かったけど、元々十中八九間違いなかったから」
「そうね。でも、コレで確定よ。外で待たせている湯田さんのことも心配だし、戻りましょう」
襲い掛かってくるも裕二の蹴り一発で倒され動かなくなり粒子化を始めたホーンラビットを前にし、俺達はコレからの繁雑な作業の数々を思い軽く溜息を吐いた。分かってたけど、ダンジョン見付けちゃったの確定か……協会や行政関係だけで話が終わると良いな。
そんな事を思いつつ粒子化を終えた場所を見ると、1つのスキルスクロールが残されていた。
「スクロールか……大樹、何のスクロールだ?」
「ほいほい、“鑑定解析”っと……げっ!?」
俺はスキルスクロールの“鑑定解析”結果に、思わず驚愕し絶句した。
うわぁぁ、このスキルスクロール。ああ、そうか。そう言えばココって未発見ダンジョン……つまり、このホーンラビットって初討伐モンスターって事だよ。




