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第386話 内見してみて分かる事

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 小屋が作られていたという広場は、結構広めに整地してあった。大体、テニスコート1面分と言った所だろうか? 下草は伸び放題になっているものの、大きな岩や切り株等は無い。

 これだけ整地されているのなら、直ぐに基礎工事に入ってそこそこの広さの建物が建てられそうだ。


「結構広いですね」

「昔ココには、作業員の宿泊小屋や器具庫と言った小屋が幾つか建っていたらしい。その為に、少し広めに整地していたと聞いてるよ」

「なるほど」


 湯田さんに言われてよく見てみると、確かにソレっぽい痕跡が見受けられる。

 そして湯田さんは正面右を指差しながら、説明を続けた。


「そして向こうの方に古井戸があるので、復活させれば水源として使えると思うよ」

「井戸ですか……山のドコかに湧き水とかはないんですか?」

「うーん、残念ながら水源として使えそうな湧き水は無いかな? 地質の問題なのか、近くに川が流れている影響なのか、そっちの方に流れているのかも……」

「ああ、なるほど……じゃぁココの水源としては古井戸がメインと考えていた方が良さそうですね」


 この広場が山の反対側にあれば、川からホースを伸ばして水を汲み上げるといった事をしても良かったかもしれない。まぁ増水時に水害に遭う危険性か、水源の確保の容易さかの選択で、危険性の排除を取ったって事だな。水の確保を井戸で賄えるのなら、態々危険性を増やす事も無いだろう。

 その結果が、山の反対側に小屋を建て井戸で水を確保するという選択だったのだろうな。


「他には何か注意点というか、気にしておくべき物は有りませんか?」

「ココはなだらかな山だからね、特に危険な崖とか言った物は無いかな。まぁ後は、普通なら野生動物が沢山生息しているから気を付けて下さいって言う所なんだけど……」

「ははっ、俺達にその心配はいりませんね……」


 湯田さんが微妙な表情を浮かべながら口にした注意点に、裕二は苦笑いと若干申し訳なさげな表情を浮かべつつ流していた。

 まぁ遭遇するボス格の動物が悉く、腹見せ降伏していたら注意点にならないよな。


「まぁそんな感じで、この山に関しては注意点というものはそう多くないかな? ココに来る事自体が困難な事と、野生動物が沢山居る事以外は特に特徴が無い普通の山だからね。そう言った意味では、君達には使い勝手の良い山かもしれない」

「そうですね。この山は俺達が要望した条件にかなり適合しています……まぁ一部予想外(野生動物逃亡)の事がありましたけど」

「そこは……ね? コチラとしてもどうしようも無い部分かな?」


 まぁ動物達が逃げずに立ち向かってくるようにしろ!何て言われても、只の不動産屋さんにはどうしようも無い問題だよな。特に生存本能にしたがって俺達から逃げようとしているのに、無理に押しとどめることなんて……まぁ無理だろう。飢餓状態の大型肉食動物ならワンチャン襲ってくる可能性はあるかもしれないが、恒常的にそんな状態の動物を山に集めるなんて事は不可能だ。 

 うん、野生動物が沢山居るっていうこの条件は消した方が良さそうだな。俺達が運用想定していた状況は、実現不可能である。俺達が山の中に居るだけで、動物たちが逃げるなんてさ……。


「そうですよね。事務所に帰ったら桐谷社長に伝えて、正式にその点は修正したいと思います」

「そうしてくれると助かるよ。その分、コチラとしても紹介出来る候補地が増やせると思う」

「そうですか。でも野生動物が余り居ない山となると……」


 イメージとしては、荒山か岩山が思い浮かんでしまう。もしくは何らかの土壌汚染や山火事があった様な、事故物件?である。流石に前者は兎も角、その手の物件は……。

 そんな想像が俺達の表情に出ていたのか、湯田さんは不安を解消させ安心させるように紹介出来そうな物件について説明してくれた。


「ああ、安心してくれ。そんなに変な物件は紹介しないよ。岩石地帯がメインの岩山や、湿地帯が広がっているとか言った感じの物件が増えるだけだね」

「岩山は兎も角、湿地帯ですか……」

「湿地帯と言っても、底なし沼と言った感じの場所じゃ無いよ? 地質的に近くの川から水が流入して、地面が常時湿気ているってだけだから。まぁ建物を建てる時には地盤改良から入るか、杭を深く打ち込む必要があるから人気が無いんだけどさ」


 それは……大丈夫なのだろうか? 確かに多少面倒ではあるものの建物を建てる事は可能なのだろう、だが訓練場としては使い勝手が悪そうだ。……うん、そこは遠慮しておこう。

 そして広場関連の説明を一通り聞いた後、俺と裕二はゴムボートの回収へと向かう事にした。因みに柊さんには湯田さんの護衛としてこの場に残って貰う。今は野生動物たちが居なくなったとは言え、湯田さんを残し俺達が全員離れると戻ってきた野生動物が湯田さんを襲うかもしれないからな。縄張りを荒らした圧倒的強者が置いていったモノ……意趣返しの誘惑に駆られて襲い掛かる、何て事があるかもしれない。そんな危険性を排除しておく為にも、柊さんには湯田さんの護衛に付いて貰う事にしたのだ。まぁ15分もかからず戻ってくる予定なので、雑談でもして時間を潰していて貰いたい。 

 





 日干しにしていたボートは予想通り、水気も殆ど飛び程良く乾燥していた。俺と裕二は手早くボートから空気を抜き、折りたたんで付属の収納バッグへと仕舞う。専用の収納バッグという事もあり、オール代わりに使ったスコップ以外は綺麗に仕舞えた。

 スコップは……湯田さんと別れた後に空間収納に仕舞っておこう。今仕舞ったら、捨ててきたのかと言われるだろうからな。


「よし、回収完了っと。大樹、急いで戻るとしよう。二人を待たせてる事だしな」

「了解。それにしても裕二、移動こそ面倒だけど、意外と使い勝手良さそうだよなココ」

「ああ。前の山も一般的には険しいと言える山だとは思うけど、俺達にとっては険しいって感じじゃ無かったしな。野生動物も俺達に寄ってこようともしなさそうだし、こうなってくると人里離れた使い勝手の良い山、って感じの条件で物件を探した方が良いかもしれないな……」

「そうだね。人里離れて到達が困難ってだけで面倒な事情が無い、そんな所無いかな……」


 これまで見て回った感じだと、一般的に険しいと呼ばれる山程度では、俺達にとっては険しいとは認識出来そうに無い。まぁいわゆる名峰だ断崖絶壁だとか言われる山なら話は変わってくるのだろうが、そんな物に俺達が手が出せるはずも無いので考慮外で良いだろう。

 となると、険しい山という条件は紹介して貰う条件として意味を成さない。


「そうだな。行くだけで歩きでは数時間掛かる、とか言う秘境にある物件を紹介して貰う方が良いかもしれないな。そっちの方が、今だと利用価値が低く安価で購入出来そうだしさ」

「うん。場合によっては、一山丸ごと購入出来る価格になるかもしれないしね」

「おう、どうせ買うのなら使いやすいように、区画分けされたのを分譲で買うより一山丸ごとの方が良いしな」

「そうだね」


 練習場を購入出来たら色々やる予定なので、やっぱり人里離れた一山を丸々所有とかの方が都合が良い。ソレこそ使い方的には、自衛隊の演習場か!?と言われるような使い方になるだろうからな。機密保持の面や近隣住民への影響とかを考えると、人里離れた秘境の方が都合が良い。

 そう考えるとココは結構な有力候補である。後は、帰り道で通る陸路がどうなっているかだな。


「じゃぁ雑談もこの辺りにして戻ろう」

「おう」


 俺と裕二は回収した荷物を持って、山の裾野沿いを湯田さん達との待ち合わせ場所である広場目指して走り出した。植林された山なので、下草こそ伸び放題になっているが、木々は整然と植えられているので走りやすい。

 そう、走りやすいのだ。


「うーん。移動の利便性の点では利点ではあるけど、訓練所として考えるとちょっとなぁ」

「そうだね。折角の山道なのに、走り易いってのは考え物かな?」

「ああ。もっとこう、複雑かつ乱雑に生えてた方が訓練場としては良いよな」

「植林山だからね……」


 木々は作業性や日当たりを考慮して植えられているので、俺達からすると走り易すぎる。少々下草が絡んで面倒だが、手に持つスコップで打ち払えば良いので問題ない。

 うん。訓練所目的なら、植林山は辞めた方が良いかもな。


「条件変更を伝える時に、植林山も外して貰うか……」

「その方が良さそうだね……」


 うーん。実際に内見をしてみると、色々見えてくるモノがあるな。と言うか、当初の条件ってかなり無理があったようだ。主に俺達に原因があるんだけどさ。

 そして裕二と雑談を交わしつつ木々を避けながら走り続けていると数分で元いた場所、湯田さんと柊さんが待つ元小屋跡の広場に到着した。


「お待たせ、二人とも」

「おお、もう帰ってきたんだ。ありがとう広瀬君、九重君。わざわざ川まで取りに行って貰って……」

「いいえ、俺達の方から提案していた事ですからね。そんなに手間も掛かってませんし、問題ありませんよ」

「そう言って貰えると助かるよ。それで、ボートの方はちゃんと乾いてたかな?」

「ええ、ちゃんと乾いてましたよ」


 手間を掛けさせたと思っている湯田さんは、若干申し訳なさげな表情を浮かべつつ俺と裕二に労いの言葉を掛けてくれた。この程度の移動、大した負担にならないのでそう申し訳なさげな表情を浮かべられると、俺達の方が困ってしまう。

 とは言え、コレで帰る準備は完了だ。後は陸路で帰るだけなんだが……どこをどう進むんだ? 川も結構蛇行していたので、車を停めた方向ぐらいはハッキリ認識しておきたい。最悪道を辿らずとも、一直線に車の元まで進めば帰れるからな。


「それじゃぁ帰りましょう。湯田さん、どうやって帰れば良いか指示をお願いします」

「ああ、案内の方は任せてくれ」

「お願いします。じゃぁ移動の準備をしましょう」

「ああ、うん。よろしく頼むね……」


 湯田さんは微妙な表情、何かを諦め悟った様な表情を浮かべていた。まぁ、また裕二に背負われてオンブ移動するってのは、中々アレな経験だろうからな。大の大人としては、色々とすり減るのだろう。

 そして既に慣れたモノと、俺達は湯田さんに手早く補助ハーネスを取り付け裕二の背中に乗せた。


「湯田さん、準備は良いですか?」

「ああ、問題ないよ」

「じゃぁ移動し始めますね、案内の方お願いします」

「任せてくれ」


 湯田さんはGPSを確認し、山の裾野の一角を指差す。


「まずは向こうに見える、山がある方向に向かってくれ。岩場……木々が生えてない開けた岩が転がる場所があるから。まずはそこに向かってくれ」

「了解です、確り掴まっていて下さいね。大樹、柊さん準備は良い?」

「大丈夫」

「良いわよ」

「じゃぁ、出発!」


 こうして、俺達は湯田さんの示した方向に向かって走り出した。






 2件目の物件を出発して30分後、俺達は車を停めていた場所に到着した。川上りやトレッキング?を含めて、正味2時間ほどの内見だったかな?

 どうにか予定通り、日の高い内に事務所まで帰れそうだ。


「到着~!」

「う、うん。やっと到着出来たみたいだね……」

「ああ、大丈夫ですか湯田さん? 大分顔色が悪そうですけど……」

「う、うん。ちょっと休憩時間を貰えるかな? GPSの地図を見ながらだったから、ちょっと……」


 気持ち悪げに真っ青な顔をした湯田さんを裕二の背中から下ろし、俺達は少し休憩を取る事にした。どうやら道案内の為にGPSをずっと見続けていた為、かなり酔ってしまったらしい。裕二も出来るだけ揺れないように気を使っていたとは言え、車とは比較にならないぐらい揺れてただろうからな。今回の帰り道の陸路は1件目の物件の時より細かく方向転換して進む道だったので、俺達の移動速度が速度なので細かく指示を出す必要があった。その為、湯田さんの酔いも酷い事になったらしい。 

 まぁギリギリ我慢出来ているようなので、時間が経てば回復は出来ると思う。


「湯田さん、飲み物です」

「あ、ありがとう。迷惑掛けるね」

「いえいえ、気にしないで下さい。ゆっくりで良いので、調子を戻して下さい」

「ああ」


 車に乗せてあったお茶のペットボトルを湯田さんに手渡した後、俺達は荷物を車に載せていく。この様子だと、湯田さんが復帰するのには少し時間が掛りそうだ。

 そして俺達は湯田さんが復帰するのを待つ間、今回の回った2件の内見に付いて話し合う。と言ってもゴムボートを回収する際に裕二と話し合っていた内容を、柊さんに伝えるだけなんだけどな。


「なるほど……二人はそう考えたのね?」

「ああ、実際に内見してみたから気付いたんだけどね」

「まぁ確かに、そうよね……」


 柊さんは俺達の説明を聞き、納得したというように何度か頭を縦に振った。

 そして……。


「そうね、私も二人の考えに賛成するわ。確かに条件を変更した方が良さそうね」


 こうして柊さんも、条件変更に同意してくれた。

 後は桐谷社長を交えて条件変更を相談するだけなんだけど……木に寄り掛かり青い顔のまま空を見ている湯田さんの様子を見る限り、まだまだ帰るのには時間が掛かりそうだ。
















内見の結果、一部条件変更を決意しました。


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挿絵(By みてみん)

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[気になる点] > 一部予想外の事 今回は見送りでしたが、拠点を入手した場合、そこを縄張りにしていた野生動物が逃げ出す→周りの縄張りが一段階ずつ外へ押し出される→周りの地域の獣害が増える、ということも…
[一言] 名峰や断崖絶壁は大体が国立公園・国定公園だったり山岳信仰の神社だったりするので購入はまず無理でしょうね。 しかしこれ、後から映像チェックする桐谷社長が酔わないか心配になります…w(一緒にチ…
[良い点] 言われるがままにおすすめ山を買わず、実際に見て考えれる不動産屋さんで良かったです 高い買い物だと、自分が何を買いたいのか把握するのも大変で難しく楽しそうです [気になる点] 湿地帯 定住は…
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