第35話 入場者数制限とランク制度
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何時もの様に朝食をとりつつ朝のニュースを見ていると、ダンジョン関連のニュースが報道されていた。現在のダンジョン入場者数は適正数を大幅に超えており、現在の過密状態では何時事故が発生するか分からず危険な為、暫くの間は1日当たりの入場者数を一定数に制限すると。
やっとか。それがニュースを見た俺の感想だ。毎回ダンジョンで見る表層階での過密状態を思えば、遅い位だと思った。色々と手続きの多い役所仕事なのだろうが、もう少し早く動いて欲しいものだ。
「入場制限だってよ、お兄ちゃん」
「まぁ、良い事だとは思うぞ。実際、過密気味だった事は事実だしな。後は、入場者を選考する方法に不備がなければ、概ね大丈夫だと思うぞ?」
「ふーん」
箸を持ったまま、美佳が俺に聞いてくる。まぁ、申込者から抽選って言うのが妥当な所だろうな。TVで詳しい事は言っていないから、後でダンジョン協会のHPでも覗いてみるか。味噌汁を啜りながら、俺はそう思った。
更にダンジョン関連のニュースは続き、探索者資格にランク制度を導入する事も報道された。ダンジョン探索をする探索者の負傷者数が毎月増加傾向にあるのでランク制度を導入し、探索者達に自身の適切な探索階数を推奨し負傷者数を減らすのが目的との事。
確かに、目に見えるランクと言う指標があれば無茶をする探索者も減るだろうな。まぁ、根拠のない自信で無視する連中も一定数はいるだろうけど。
「にしても、ランク制度か……どうやって決めるんだ?」
「? モンスターを倒した数とか種類で決めるんじゃないの?」
「どうやって、それを確認するんだ? ゲームみたいに、自動で倒した数が記録されるような事はないんだぞ?」
「えっと……あっ、そうだ。討伐部位を持ち帰ってくるとか」
俺の質問に、美佳は首をひねりながら答えを絞り出す。
にしても、討伐部位、ね。まぁ、ゲームとかならそう言う方法もあるんだろうけど……。
「それは無理だな。討伐部位を持ってくるといっても、モンスターの死体は少し間を置いて消えるから、切り取ったとしてもその時一緒に消える。仮にドロップアイテムを討伐部位がわりにしようとしても、出たり出なかったりするし種類もマチマチだからな。特定のモンスターを倒した証明にするのは難しいだろ」
「うっ。じゃ、じゃぁ自己申告なら……」
「虚偽報告する輩が出るだろうしダンジョン内の事だから、それを協会職員が確認する手段が乏しいから無理だな。まさか、ダンジョンに潜る探索者一人一人に職員を付ける訳にもいかないしな」
「か、カメラを持たせれば……」
「協会が用意して、探索者全員に貸し出すって事か? 予算が幾ら掛かるか分かった物じゃないぞ」
苦し紛れにアレな提案をだした美佳に、俺は呆れ気味の眼差しを向ける。
仮に探索者の総数が10万人としたら、常時稼動数が3割だとしても3万人。最低3万台のカメラが必要になる。予備を含めれば5万台位か?1台1万円としても、5億円もの予算が必要になる。
探索者達に用意させようにも、不正防止の観点で考えればソレは出来無い。協会が検品し、不正改造や不正なソフトが入っていないカメラであると確認した物でなければ、公正な討伐記録としては採用出来無いからな。でないと、確認の為に一々2度手間3度手間を掛ける必要が出てくる。
「じゃぁ、どうすれば良いの?」
「どうすればって……そうだな。ドロップアイテムは一度ダンジョン協会が全て買い取る決まりになっているから、買取金額の合計でランクを決めるんじゃないか?」
「えっと、それって……」
「高ランクの探索者は自分が高額所得者ですよ、って言っている様な物だな」
つまりアレだ、高額納税者のランキング表みたいな物だな。……公示の義務がない事を祈ろう。
「何かやだね、それ」
「でもまぁ、他にランク作成に使えそうな物が無いからな」
不満そうな表情を浮かべる美佳に、俺は肩を窄めながら諦め顔を浮かべる。
ダンジョンへの入退場記録や使用頻度記録では、実際にその探索者が優秀か普通か無能かは分からないからな。単純に、多く稼いだ探索者が優秀と考えるしかない。まぁ、中にはスキルスクロールやマジックアイテムを多くゲットして買取金額を稼いだって言うような探索者も居るだろうけど、運も実力の内と思うしか無いだろうな。
俺は出汁巻き卵を口に入れながら、話題を変えようと話しかける。
「まぁ、俺の事はこれ位にして……。美佳、お前そろそろ私立の入学試験だろ? 勉強は大丈夫なのか?」
「えっ? あぁ、うん、大丈夫だよ。これでも、この間受けた模試での志望校合格判定はAだからね。本番で失敗しなかったら、普通に合格出来るライン上に居るよ」
「えっ、そうなの?」
「うん……と言うか、お兄ちゃん? 私の事どう言う目で見てたの?」
俺は美佳の問いに、答えを窮する。
どう言う目でって……結構問題集の問題を間違えてるなって思っていた、とでも言えば良いのか?……って、言えるか!
結局、俺は美佳の問いに答えず顔を背けた。
「はぁ……。あのね、お兄ちゃん? 私これでも、この間の定期テストの学年順位は10番以内だったんだからね?」
「……えっ、そうなの?」
「そうなの! はぁ……何で私に勉強を教えてくれていた人が知らないのよ」
「いや……その、ごめん」
驚いた俺が顔を美佳に向けると、美佳は疲れた様な表情を浮かべていた。
美佳が部活を辞めた夏以降、ちょくちょく家庭教師モドキをやっていたのに気付かなかったとは。俺は素直に美佳に頭を下げ、不明を謝罪した。
「……それにしても、美佳がそんなに頭が良かったなんてな」
「……何を言ってるの? お兄ちゃんが勉強を教えてくれる様になったから、ここまで成績が良くなったんだよ?」
「そうなのか?」
「そうなの! 去年までは、中の上って位だったんだからね? お兄ちゃんが勉強を教えてくれる様になってから、成績も上がったの」
ああ、そう言えば、美佳が部活を引退した後に受けたって言う模試では志望校の合格判定はギリギリだって言っていたな。あれから2,3ヶ月で、随分成績を伸ばしたらしい。合格ギリギリラインから確実のラインに上がるなんて、頑張ったんだな。
「全く、お兄ちゃんの事を名教師だって思っていたんだよ、私? たった3ヶ月で、ここまで成績を伸ばせるなんてって。それなのに、本人は自分のやっていた事を分かっていなかったなんて……」
「いや……何か、ゴメン」
何か知らない間に、俺は美佳に変な偶像を植え付けていた様だ。
名教師?誰の事だよ?俺がやっていたのは、勉強法を分かっていなかった美佳に、勉強法を教えただけだぞ?解法とか暗記法とか。特にあれこれ指示を出した覚えはないんだけどな……。
「まぁ、そう言う事だから私の入試は大丈夫だよ」
「そうか」
「うん」
どうやら俺の心配は、要らぬお世話だった様だ。
そう言えば美佳の奴、特に試験のプレッシャーに追い詰められている様な雰囲気もなかったな。
朝食を終えた俺は、部屋に戻りPCで日本ダンジョン協会のHPを開く。HPのトップページには大きくダンジョンへの入場制限やランク制度の告知ポップがあり、如何にも直ぐに見てくれと言いたげに主張していた。告知をクリックすると、詳細が表示される。
「何々?」
説明文を斜め読みしていくと、入場制限に関する大まかな内容はこうだ。
・ダンジョン1つ当たりの入場人数が過剰気味で、探索者の行う探索活動に支障が出ている。
・支障を解消する為に一定期間、1日当たりの入場者人数を制限する。
・ダンジョン入場者は入場希望申込者の中から決定し、同日に複数の申し込みが集中する場合は抽選をし決定する。
・希望申し込み予約は、HPの専用ページから探索者カード記載の登録認証番号を使い行うか、ダンジョン協会の窓口で行う事とする。
・同一登録認証番号による、同日の複数申し込みは不可。
つまり、飛行機のチケット予約に似たシステムの様だ。
試しに予約ページを開いてみると、先ずは登録認証番号を求められた。番号を入力しログインすると、入場を希望するダンジョンの場所、入場を希望する日時、入場希望者数の入力を求められる。場所や日時、人数がリスト化されており、リストから希望する場所や日時、人数を選択し入力する仕組みの様だ。
「へー。同じ日でも入場時間を細かく振り分けるんだ。確かに、同じ時間に一斉に入場させたら、混雑を解消させるって言う目的とは掛け離れた結果になるか。纏めて人数を入力するのは、パーティで一緒に潜れる様にする配慮かな?」
試しに、何時も行くダンジョンの今の予約情報を確認すると、俺は思わず声を漏らした。
「うげっ! 何、この週末の申込者人数!? 午前中の時間帯は定員数の2倍近くあるじゃないか!?」
週末午前中の申込者数の合計を示すカウンターの数値が、凄い事になっていた。
恐らく、学生やサラリーマン系の申し込みが週末に集中しているせいだろう。TVニュースで発表されてからの時間を考えると、この数はまだまだ増える事になるだろうな。俺はPC画面を見ながら、思わず溜息を吐く。早朝や深夜の時間帯の倍率は低いけど、前途多難だ。
予約画面を閉じ、俺は告知画面のランクに関する項目を再び斜め読みし始める。
「えっと。これは……予想通りって事か?」
ランクに関する告知はこうだ。
・実力に不釣合いな探索を無理に行い負傷するものが増加しているので、負傷する探索者の数を減らす為にランク制度を導入する。
・ランクに見合った階層で、怪我を負わない様に探索を行いましょう。
・ランク階級はS(最上級者)、A(上級者)、B(中上級者)、C(中級者)、D(中下級者)、E(初級者)、F(初心者)の7段階に分ける。
・ランクの認定基準は、月当たりのダンジョン入場記録と到達潜行階層数、ドロップアイテムの換金総額を元に評価する。
・ランク更新は月に一回、本人の申請があった場合にランクアップ審議にかけ協会が認定を行う。
「入場記録とドロップアイテムの換金総額を元にするって言う事は、平均額で評価するって事か?」
仮に月100万円稼ぐ探索者が居たとして、10回ダンジョンに潜って稼いだ探索者と1回潜って稼いだ探索者では、1回潜って稼いだ探索者の方が優秀って評価するって事か。まぁ、運にもよるところも大きいだろうけどね。
基本的にダンジョンは深く潜れば潜るだけ、ドロップアイテムのレアリティーが上がって換金額も上がるから、そこまで間違った評価基準ではないかな?
「でもまぁ、ランク制に関しては、特にこれと言う事はないな」
高ランクだからと言って、何か特典が付くと言う訳ではないしな。
もしかしたら企業や協会が高ランク探索者に対し、指名依頼するかもしれないけど現状では関係ないか。高ランクと言う事はそれだけでダンジョンの深くに潜れると言う証明であり、目的のアイテムを確保できる可能性が高いと言う事だからな。
「しっかし、本格的にゲームっぽい設定ができたな」
その内、協会専任探索者とか企業所属探索者とかできるかな?
某巨大掲示板ではギルドを作ろうと人員募集のスレが幾つも立っているし、実際にサークルに近い団体が幾つも出来ており最大規模の物になると100人近い人間が集まったらしい。
しかし、寄り合い所帯で統制があまり取れておらず、狩場の占領などの迷惑な行為をする団体もあり、かなり不評がつのっている。
「さてと、そろそろ学校に行く時間だな」
PCを終了させ、俺は学校に行く準備をする。部屋着から制服に着替え、必要な教材を鞄に詰め込み部屋を出た。
学校に着いたら、裕二と柊さんに今後どうするか相談しないといけないと。さっき見た予約状況だと、週末にダンジョンに潜るってのは難しそうだしな。何時もと違うダンジョンに行くかどうかとか、相談しないと。
はぁ、色々面倒だな。