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第382話 内見って前途多難だな

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 駐車場に着いた俺達は、貸して貰っていた撮影機材等を湯田さんに返却する。途中でバッテリーを交換した時に映像チェックした時は、録画ボタンを押し忘れたなどの撮影ミスは無かった。

 まぁ撮影ミスは無くても、撮影された映像は若干バグってる見た目になってたけどな。高速で迫り来る木々の映像、崖からのショートカット映像……うん、コレが人力のみでのノーCG映像とかバグってるよな。


「とりあえず、撮れてるね。信じがたい映像ですけど……」

「ははっ、出来れば一般流出とかは止めて下さいね」

「ああ、もちろん。ウチの店で物件紹介する時や、物件分析の資料映像としてだけ使わせて貰うよ。想定外の事態でも起きなければ、故意に映像が流出することは無いと思う」


 高レベル探索者なら再現出来ない映像では無いと思うが、流石にアレな映像だからな。ネット動画サイトとかに流れて、話題のネタ映像とかの一般流布は勘弁して貰いたい。

 それと……想定外の事態って何?


「湯田さん、想定外の事態ってのは?」

「映像を保存しているパソコンがウイルス感染して、情報が外部流出したとかって場合の事だよ。ウチもそれなりにはネットセキュリティは整えてるけど、この手の技術は日進月歩だから想定外ってのはあるから。ああ勿論、今まで一度もウチではそんな事は無かったからね? あくまでも今のは、万が一の場合の事だから」

「了解しました。でもまぁ、管理は確りお願いしますね」

「勿論、確り他の人にも伝えておくよ」


 パソコン上で情報管理している以上、湯田さんが言っている万が一の事態はあり得ない事では無い。独自のセキュリティー技術を持っているだろうどこぞの大手企業でも、ハッカーに狙われ社内情報が流出したってニュースは偶に耳にするからな。市販セキュリティーソフトの導入位しか対策出来ない会社だと、本格的に狙われたら防ぎきる事は困難だろう。 

 だがまぁ顧客情報の流出とか、普通に会社としての信用問題に直結するからな。例え口が軽い社員だとしても、会社が傾くかもしれない危険を冒してまで故意に社内情報を漏らす事は無い……と思っておこう。


「良し、っと。片付けはこれくらいで良いかな? じゃぁ皆、車に乗ってくれ。とりあえず、最初に来た時に見た駅まで移動するからさ」

「「「はい」」」


 湯田さんに促され、俺達は車に乗り込む。コレからまた未整備の林道を通るのかと思うと若干気が重いが、アソコを通らないと外の道に出れないからな。激しい揺れに襲われる事を覚悟し、シートベルトを締め天井付近の取っ手と壁に手を掛け体を固定する。

 さぁ、いざ掛かってこい!





 何とか林道を無事に抜け、俺達は駅前まで戻ってきた。2度目という事もあり、行き道ほど苦労はしなかったが、好き好んで通りたい道では無かったな。もしココの物件を買うとしたら、まずは駐車場までの通り道をそれなりに整備し始める事から始めたいモノだ。湯田さんに聞いてみたら手前の山も同じ地主さんの持ち物らしいが、今回紹介して貰った山より交通の便が良い……マシなので、値段が高く俺達が提示している金額での購入は無理だそうだ。

 ……紹介された山を購入するのなら、その地主さんと交渉して手前の立ち入り許可と駐車場の利用許可、手出しでやるので道を整備させてくれとお願いした方が良いかもな。まぁ俺達だけで利用するのなら、立ち入り許可だけでも良いとは思うけど。


「うーん皆、お昼どうする? 13時少し前だけどランチタイ……って、うん。何で13時に戻って来れたんだ、可笑しいよな? 何であそこまで行って帰ってきたのに、まだ日が暮れてないんだ……?」 


 腕時計を確認した湯田さんが、若干頭を抱えながら現実逃避し始めてしまった。可笑しいと言われてもね……まぁ確かに山1つ越えて行き帰りしたら一般的には可笑しいか。特に乗り物を使わず、人力でだと。

 とは言え、これから探索者相手に商売をしていく事になるのならそんな物だと思って納得して貰うしか無いよな。まぁ、こんなペースで移動出来るのは高レベル探索者位だろうけどさ。後で一言忠告しておかないと、コレが一般的探索者のペースだと誤解しそうだな。


「落ち着いて下さい湯田さん。早い分は良いじゃないですか、ランチタイムに間に合いそうなんですから。ほら、何処かのファミレスにでも入ってお昼食べましょうよ」

「そうですよ湯田さん、そこは気にしても仕方ないですって。それより早く行きましょうよ、ココにいても何のお店もありませんし……」

「行きましょ湯田さん」

「あっ、ああ、そうだね……」


 俺達の説得?が効いたのか、湯田さんは軽く頭を左右に振って正気を取り戻した。まぁ現実を受け入れた、諦めが付いただけなのかもしれないけどな。

 そして正気を取り戻した湯田さんの背中を押し車に乗せ、俺達も乗り込む。この後も予定があるので、時間は無駄に出来ないからな。


「じゃぁ出発するよ。お昼はファミレスで良いかな?」

「はい、お願いします」


 と言う訳で、湯田さんは車を走らせ始めた。

 






 ファミレスで昼食を済ませた後、俺達は再び湯田さんの運転で次の内見先を目指し移動していた。以前の内見でも2件回れてたので、今回の内見も2件ハシゴだ。一旦事務所に戻るより、ココから直接移動した方が近いからな。

 とは言え、既に14時が近いので駆け足になりそうだ。


「皆、もうすぐ着くよ。目的地は窓の外に見える、その川を遡上した先の上流だ」

「ああ、この川を遡上するんですね。自分の目で見てみると、説明で聞いていた感じより広く感じます」

「ああ、今日は少し水量が多い感じかな? 何日か前に雨が降ってたしね。まぁ増水していない時でも、川の中央部付近はそこそこ水深も深いから、エンジン付きボートは使えるよ」

「なるほど、じゃぁ今回は……」


 エンジン付きボートが使えると聞き、今回の内見は用意してあるボートが使えるのかな?と期待の眼差しを湯田さんに向けてみる。

 だが、その希望は湯田さんの言葉で直ぐに砕かれた。


「ああ、ゴメン。残念ながら、今回はそれは用意していないんだ。何より俺、船舶免許は持ってないしね」

「ええ? じゃぁどうやって内見をしに行くんですか? さっきと同じように、手前にある山を乗り越えて行くってことですか?」

「ああ、うん。そのルート検証も兼ねて行って貰いたいんだけど、片道は川を遡上していくルートを通りたいんだ。勿論、その為の足は用意してるよ」

「足、ですか……」


 足か……そう言えばトランクの中に、大箱が転がってたな。アレの事かな、足って? 

 湯田さんの言葉で、俺はトランクの中に置きっぱなしになっていた、収納バッグらしき黒い大荷物を思いだした。まぁ何となく、中身は予想が付くけどさ。


「君達なら問題なく使いこなせるよ」

「はぁ……」


 使いこなす、ね。まぁ良いんだけどさ。

 そして車を走らせる事、更に5分。窓外に見えていた川から離れ山の中に向かおうとした手前、多少切り開かれ車が1、2台止められそうなスペースに湯田さんは車を停めた。


「到着っと。とりあえず、車はココに停めて下に降りるよ」

「下って事は、河原に降りるんですか?」

「そう、ココが車で来れる一番川上だからね。ここから先は、川を遡上するか山道を歩くしか無いんだよ」


 なるほど、そう言う事なら素直に降りるしかないな。俺達は車から降り、先程の山と同じように撮影機材を身に付けていく。そして今回は、更に追加装備が渡されてくる。


「はい皆、コレ着けてね」

「コレは……ヘルメットと救命胴衣、後オーバーオールですか?」

「うん、コレから水上活動をするからね。安全面を考え、全員に着けて貰うよ。本当はライフジャケットとかも着て貰った方が良いんだろうけど……まぁビショ濡れにならないように気を付けよう」


 確かに移動だけとは言え、水上で活動するのには違いないか。俺達は湯田さんに説明を聞きながら、多少手こずりつつ救命胴衣とオーバーオール形防水ズボンを身に着けていく。ほら、アレだ。バラエティー番組なんかで芸人さんがボートに乗る時の格好。

 そして安全装備を身に着けた事を確認した後、湯田さんはトランクから例の大箱を取り出した。


「ヨイショッと、皆コレが今回の足だよ」

「コレって、ボートですよね?」

「正解、6人乗りのゴムボートだよ。後は空気を入れれば完成だ」

「空気入れ……まさか人力じゃ無いですよね?」

「安心してくれ、ちゃんと電動空気入れも用意してあるからさ。ただ、電源をシガーソケットからとるタイプだから、ボートはココで膨らませてから持って行くよ」


 湯田さんはトランクの中を漁り、空気入れを俺達に見せてきた。電動と手動を……えっ?


「湯田さん……もしかして?」

「うん。流石に空気入れ1つだと膨らませるのに時間が掛かるからね、悪いけど膨らませるのは手伝って貰うよ」

「ああ、はい」


 と言う訳で、俺達は手動の空気入れを受け取りゴムボートを膨らませ始める。当然と言えば当然なのだが、湯田さんが電動ポンプを使って俺達が手動ポンプという割り振りだ。

 何で全員分の電動ポンプが無いのかと文句を言いたい所だが、時間も惜しいのでまずは箱からゴムボートを取り出し広げる。


「結構大きいですね、このボート」

「6人から8人乗れるってヤツだからね、それなりの大きさになるよ。それはさておき、説明書によるとまずは分割された周りから膨らませて、最後に床を膨らませるらしい。万が一破れた時に、一気に全部が萎まない様にする為の分割構造らしいよ」

「へー、こう言うボートって分割されてるんですね。一発で膨らませられるモノだと思ってましたよ」

「この手のボートは安全性重視の作りらしいからね、多分君が思ってるボートはレジャー向けの簡易ボートだよ」


 なるほど、釣りなんかで海や川に出る本格的なボートってのは構造から違うんだな。良かったよ、先に知っておいて。知らなかったら値段優先でレジャー用のボートを買って大変な事になってたかもしれない。

 

「それじゃぁ、手分けして膨らませていくよ。俺はココを膨らませるから広瀬君は反対側を、九重君と柊さんは床を手分けして膨らませてくれ」

「「「了解です」」」

「じゃぁ皆、よろしく頼むよ」


 こうして、俺達は作業を始めた。






 ゴムボートの準備作業を始めて5分後、俺達の目の前には大きく膨らんだゴムボートが姿を見せる。

 因みに作業が終了した途端、再び湯田さんは頭痛を堪えるように頭を抱えていた。


「何でこんなに早く出来るのかな? 前に試しに膨らませた時は、電動使っても15分近く掛かったのに……」

「まぁまぁ湯田さん、手分けしたから早く出来たんですよ。前に試しに膨らませたって言うのも、ポンプ1つで膨らませた結果じゃ無いですか? 全員で分担すれば、こんなモノですよ」

「……そうか、そうだよね。例え全員が電動ポンプと同等の早さで空気を入れていたとしても、可笑しな事は無いんだ。うん、そうだそうだよ、そうに違いない」


 湯田さんは若干顔を俯かせ小声で何か呟いていたが、1度大きく息を吐き顔を上げると、その顔には爽やかな笑みが浮かんでいた。まるで何かを悟り、振り切ったような笑みを。

 そしてボートの準備を終えた俺達は、湯田さんの後を付いて踏み固められた脇道を通って河原へと向かった。因みにゴムボートは、俺と裕二が担いで運んでいる。コレ、軽いんだけど図体が大きくて持ち運びづらいんだよ。今回の事で俺達なら手動の空気入れだけで何とかなるというのが分かったので、次にやる時があったら絶対に現場近くに運んでから膨らませようと心に決めた。 


「皆、もうすぐ河原に出るよ。 って、アレ?」


 先導をしてくれていた湯田さんがもうすぐ到着すると声を掛けてきたのだが、何か想定外の自体があったらしく若干の驚愕の声が響く。

 何か嫌な予感がするな。


「どうしたんです、湯田さん? 何かありました?」

「あ、いや、何かあったと言うか……うん。予想以上に水嵩が増えてるみたいだ」

「水嵩? そう言えば雨で増水しているって言ってまし……げっ!?」


 湯田さんに続き、裕二も驚愕の声を上げた。何があったのかと裕二の肩越しに川の様子を窺ってみると、そこには裕二の言う様に増水……勢いよく水が流れる川の姿が見えた。


「湯田さん、この川って増水すると何時もこんな感じになるんですか?」

「ああ、いや、増水すると川幅が広がって河原の大部分が水没するとは聞いてたけど……」


 ココまで水流が早くなるとは思っていなかった、って感じかな? 湯田さんもコレは想定外って顔してるしな。

 それにしても俺達ってコレから、この川を手漕ぎボートで遡上するのか……マジで?
















増水した川は危険、激流下りならぬ激流上り?ですね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] ボートで行けそうなのが怖いですね 普通は流されるし、下手したら突起物で破れて怖いことになりそうだけど。
[良い点] 管理が杜撰な会社だと適当なウイルス対策設定で満足するのに、究極の守りはないと自覚する不動産屋さん流石です [気になる点] 安全性重視なゴムボート 普通のと全然違うんですね ゴムボートも奥…
[一言] あーこれは初めの1漕ぎでオール真っ二つデスネ 連結タイプのオールはアルミパイプで強度は一般人でも成人男性なら速攻折れるレベル、ステンレス製あるのか知らんけどこの現場ならそれくらいの強度必要、…
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