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第378話 クマと出会ったけど……

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 まずは現場状況確認という事で、俺達はゆっくり歩きながら周囲の状況を確認していく。現場の様子も分からないのに、いきなり全力疾走ってのもアレだしな。

 湯田さんに事前に説明されていた通り、殆ど人の手は入ってないと説明されていた山の中は、背の高い下草や手入れされておらず乱雑に生える木々で見通しが利きづらい状況だった。道らしき道は無く、獣道のようなモノが幾つか見受けられる程度だ。……何本も獣道があるって事は、それなりに野生動物がいるって事だよな?


「本当に余り人の手が入ってないんですね、思ってた以上に山全体が鬱蒼としているって感じです」

「ええ。この山も元々は林業の山として利用されていたそうですけど、やはりココも明治初めの頃に廃業され、それ以降は荒山として手付かずの状態になったらしいよ」

「そうなんですね。でも確か、国内林業が衰退し始めたのって戦後に安い外国木材が大量に入ってきたからだって習った気がするんですけど、明治初めの頃なら十分に需要があって廃業する必要は無かったんじゃ無いんですか?」

「うん、当時の住宅事情は殆どが木造家屋ばかりで、外国木材なんかも余り入ってきていなかったと思うよ。だから国産木材の需要が無くなるって事は無かったんだろうけど……時代が時代だったからね」

「時代が時代?」


 裕二と湯田さんの話に耳を傾けつつ、GPSで方角を確認しながら俺は先頭を切って下草を払いながら山道を進んでいく。あっ因みに今、山を進んでいる隊列は俺・裕二・湯田さん・柊さんという順番だ。

 もう少し現場の状況確認をしたら、裕二に湯田さんを背負って貰って目的地まで走って行く予定である。だから今は湯田さんにも、話す余裕があるって事なんだけどな。

 

「江戸から明治への転換期という事もあり、色々と混乱があったそうだよ。元々この山で林業をなさっていた方も藩の方に木材を納入されていたそうだけど、廃藩置県の煽りで色々あり取引停止、商売が成り立たなくなって廃業されたと聞いてる」

「取引停止って……それは穏やかじゃ無いですね」

「何でもココで林業をやっていた人ってのは、藩と独自の強い繋がりもあって結構強引な独占的取引(裏取引?)をやってたらしくってね? 他の同業者からは結構恨まれてたらしく、廃藩置県の折にその仕返しを受けて……って流れらしい」

「……なるほど、どんな時代でも阿漕な商売をやっていたら何れ身を滅ぼすって事ですね」


 なるほど、良く聞く話だ。会社なんかでも新体制に変わった折に、それまで傲慢あるいは強権的に力を振るっていた人物が周囲に煙たがられ追い落とされるって感じの話だな。会社員なら閑職落ちか退職、その林業をやってたって人は業績悪化で廃業したって事か。はぁ、何時の時代も人のやってる事は余り変わり映えしないな。

 軽く溜息を漏らしつつ俺は裕二と湯田さんの話を聞きながら、下草払いを続けつつ山を進む。そして……。

 

「良し、とりあえず現状確認はコレくらいで大丈夫だろう。だいたいの山の整備具合は分かったからな」

「ロクに整備されてないって事がね。まぁ下草は鬱陶しいけど、進む分には問題ない程度だな」

「それなら問題なく進めるな。そう言う事ですから、湯田さん」

「……ああ、よろしく頼む」


 軽い感じの口調で裕二が湯田さんに声を掛けると、湯田さんは軽く深呼吸をし気持ちを整えてから覚悟の決まった表情を浮かべつつ裕二に軽く頭を下げる。うん、コレから起きることを思えばそう言う表情になるよな。

 そして前回の反省を活かし介護や救助でも使うハーネス型のオンブ用補助具を使い、裕二は背中に覚悟の決まった湯田さんを乗せ立ち上がる。湯田さんも補助具の助けを借りながら体を固定し、裕二に出来るだけ負担が行かないようにとしがみついた。


「大丈夫ですか湯田さん? ベルトが食い込んで、ドコか痛い所とか無いですか?」

「ああ、大丈夫だよ。裕二君こそ、大丈夫かい?」

「ええ、問題ないです。普段ダンジョンに行く時は、場合によっては湯田さんより重い物を運ぶ事もあるので心配いりませんよ」

「そう言って貰えると助かるよ。……良し、カメラの方も問題なしっと。じゃぁ皆、任せっぱなしになっちゃうけどよろしく頼むよ」


 裕二と湯田さんの移動準備が整ったようなので、これからが移動の本番だ。背の長い下草は依然として沢山生えているが、まぁ打ち払いながら進めるので問題はないだろう。

 GPSで改めて目的地の方向を確認し……さぁて行くか!






 湯田さんを背に乗せ走り始め10分後、始めは下草への対処に手間取りペースが上がらなかったが、徐々に慣れて来ると一気に山の山頂付近へと到達した。余り標高の高い山では無かったが、それでも500m~600mはあるからな。少々木々が邪魔ではあるが、開けた場所なので結構見晴らしは良い。 

 とは言え、それよりも気になる事と言えば……。


「大丈夫ですか?」

「ああ、何とか。でも、事前に薬を飲んできていて良かったと思ってるよ」


 少々青い顔をしながら、気持ち悪げな表情を浮かべている湯田さんの事だ。

 酔い止め薬を服用していたとは言え、高速山登りという激しい上下運動の連続は厳しかったらしい。流石にこのまま強行軍を続けるのは厳しそうなので、裕二はハーネスを外し湯田さんを地面に下ろした。前回よりはマシな顔色なので、休憩時間は短くて済みそうだ。


「少し休みましょう。この先の道程は、今通ってきた所よりも更に過酷になりそうですしね。ほら……」


 そう言いつつ、俺は手元のGPSのモニターに映し出される地図を皆に見せる。モニターに映し出された近辺の地図上には幾本もの線が走っており、目的地に向かう進路上を横切るように走る密集した線が描かれていた。地図上に走る線とは、すなわち等高線。その等高線が密集しているという事は……。


「これは……かなりの急勾配の場所みたいだな」

「そうね。コレだけ等高線が集まっているって事は、ほぼ崖じゃないかしら?」


 モニターの地図を覗き込んでいた裕二と柊さんは、それぞれ半目になりながら感想を口にする。何せ目的地までの最短ルートを通ろうと思えば、極端に等高線が密集した地帯を通らなければならないからだ。無論、回り道をすれば密集地帯を通らなくても済むのだが、山を真っ二つにしたのか?と言いたくなる程に幅広く等高線が密集している地帯が広がっているので、回り道は相当な時間ロスになる。

 そして俺達が地図とにらめっこしていると、少し調子が戻った湯田さんが追加情報を話し始める。


「その地図に載っているように、この先の頂上を少し過ぎた辺りから急勾配……ほぼ崖になってるよ。普通は稜線沿いに山を下って越えるルートをとるんだけど……」

「探索者なら行けるかも……ですか?」

「出来る、とは言えないけど、ココまでの道程で見せて貰った君達の能力ならひょっとしたら……って気持ちはあるかな?」


 湯田さんは多分無理だろうなと言った諦めの眼差しと、若干の期待が混じった眼差しを俺達に向けてくる。いやいや、流石に崖下りなんてしたこと無いので期待の眼差し向けられても、ね? 

 俺達は湯田さんにどう返事をしたモノかと悩み、困惑した表情を浮かべつつ顔を見合わせた。


「ははっ、流石にまだ見てない所を出来るなんて言えませんよ。少々の急勾配なら行けるかもしれませんけど、崖って言われている所だと……難しいんじゃ無いんですかね?」

「そっか、そうだよね……」

「まぁ一応見てから考えてみますけど、無理と思ったら遠回りだとしても稜線沿いに山を下りましょう」


 湯田さんは裕二の返事に若干残念そうな雰囲気を出しているが、流石に見たことも無い崖下りをやるなんて言えないって。

 などと雑談をしつつ湯田さんの回復を待っていると、俺達から少し離れた所にある茂みが揺れ葉が擦れる音を立てた。しかも、その揺れる茂みの位置は移動しており、だんだんと俺達に近付いてくる。


「な、何だ?」

「「「……」」」


 湯田さんは揺れる茂みに気付き驚きの表情を浮かべつつ声を上げ、俺達3人は面倒事が来ちゃったよと言った表情を浮かべながら、揺れ動く茂みに可哀想なモノを見る視線を向けた。

 そして揺れ動く茂みの向こうから、そいつは姿を見せる。


「ク、クマ!?」

「「「……はぁ」」」


 茂みから姿を見せたのは、真っ黒な体毛のツキノワグマだった。事前に見せて貰った資料にあったように、やはり居たらしい。と言うより出て来ちゃったよ。

 湯田さんは突然のクマの出現に驚きの声を上げ、怯えの表情を浮かべ後ずさった。因みに俺達3人は溜息を吐きつつ、出てくるなよと言った哀れみの眼差しをクマに向ける。


「グアァァ」


 クマは俺達を威嚇するように、低く響く唸るような鳴き声を浴びせてくる。いきなり襲い掛かってくるような感じでは無く、追い出そうとしているような感じの鳴き声だ。恐らく俺達は、このクマの縄張りに入り込んでしまったのだろう。

 まぁ確かに滅多に人が立ち寄らない人里離れた山奥まで来たら、基本的にそこは獣達の領域だろうからな。目的地に向かう為の通り道とは言え、勝手に見知らぬ輩が己の縄張りに入り込んできたら警戒の一つもする。この場合、悪いのは入り込んだ俺達だろうな。


「ど、ど、ど、どうしよう皆!? クマ、クマ、クマと遭っちゃったよ! 襲われるよね、コレ襲われるよね!?」

「落ち着いて下さい湯田さん、大丈夫です。幸い向こうも直ぐに襲い掛かってくるような感じでも無いですし、刺激しないようにしてこの場を立ち去りましょう」

「でもでも、目の前に居るんだよ!? しかも、あんなに唸り声上げて威嚇してきてるしさ!? これでも、襲われずに離れられるの!?」

「落ち着いて下さい。余り騒いでるとクマを刺激しちゃって、本当に襲われちゃいますよ?」

「!?」


 裕二の忠告を聞き、湯田さんは怯えた眼差しをクマに向けつつ両手で自分の口を押さえ黙り込む。いやまぁ、クマと遭遇した一般人としては正しい反応なんだろうけど、本当に静かにして刺激を与えないようにしていて欲しい。

 何せ万が一、このクマが襲い掛かってきたらそれなりの対処(・・)をしないといけなくなるからな。向こうは縄張りに勝手に入り込んだ相手を追い出そうとしているだけなのに、煽られた(騒いで刺激)上で対処(・・)されるってのは申し訳なさ過ぎる。


「と言うわけで、俺達は直ぐにこの場を立ち去るから。悪いね、勝手に入り込んじゃってさ」

「グアァァ」


 裕二が視線を向け話し掛けるとクマは一瞬怯えたような表情を浮かべたが、勇気を振り絞るように震える足を一歩前に出し裕二と視線を合わせながら返事をするように鳴き声を上げる。

 どうやらこのクマ、彼我の戦力差は理解できているようだ。流石、野生動物だな。


「ただ、帰り道でももう一度通ると思うからその時は見逃してくれると嬉しいかな?」

「グアァ」


 通じているか分からないが、裕二はクマに敵意は無いよと目元を緩め優しく話し掛けた結果、クマは俺達に敵意が無いと言う事を察したらしく、心底安心したと言うような雰囲気を出しながら返事をするように鳴き声を上げた。このクマも縄張りを守る為とは言え、俺達の前に出た事を後悔していただろうからな。

 そしてクマとの話が纏まった?ので、裕二はクマから視線を外し驚愕の表情を浮かべ凝視する湯田さんに声を掛ける。因みにだがこの時、俺と柊さんは念の為にクマが変な動きをしないか監視していた。その為、クマは怯えた眼差しで話付いたよね?と言いたげにしているけど……うん、気のせいだ気のせい。


「行きますよ、湯田さん」

「……」

「ああ、小声でなら話しても大丈夫ですよ。彼とは、一応話?もつきましたし」

「ほ、本当に大丈夫?」


 まだ今一状況が飲み込めていない湯田さんは、目の前に居るクマから視線を外さないようにしつつ小声で裕二に安全なのかと確認をとる。まぁ、まだ目の前にクマが居るのに安全だと言われても簡単には信じられないよな。

 その上、クマと話が付いたとか言われても訳が分からないだろう。

 

「大丈夫ですって……じゃぁ乗ってください」

「あっ、ああ」


 湯田さんは心ココにあらずと言った感じで裕二の背中に乗り、されるがままに体を固定していく。

 そして1分と経たず、出発の準備が整った。


「良し、じゃぁ行きますよ」

「あ、ああ」


 裕二は背中に背負った湯田さんに一声掛けた後、未だその場に佇むクマにも声を掛ける。


「悪いねクマ君、お騒がせしちゃって。俺達もう行くから」

「グアァ」


 そんな裕二の姿にクマはクマで、さっさと行ってくれと言いたげな涙声にも感じる鳴き声を返してくる。この時俺は、実際に泣いてるんじゃ無いかなと思った。

 そして俺達がクマを刺激しないようにユックリ歩いてその場を離れた後、少しして大きくて重い何か(・・)が地面に倒れたような音が聞こえた気がしたが……うん、気のせいだ気のせい。
















避けられる戦いは避けるが吉、ですね。


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■■■ コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしくお願いします! ■■■


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] クマ クマ クマ グアー ってセリフ?並べて邪推してしまった(笑) そのクマさんだったら3人が恐怖に震えることに……はなら無いかwww
[良い点] 圧倒的レベル差の相手に対し、対話を頑張り 相手から見えなくなってから気を抜く熊さん 誠にお疲れ様でした 自分家に不審者が来て見にきただけの罪無き熊さんのため、対話が成立してよかったです
[一言] 最後の音… 緊張の解けたクマが座り込んだ音だとか?(笑)
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