第377話 現地調査開始
お気に入り32270超、PV72750000超、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に掲載中です。よろしくお願いします。
コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしければお手に取ってみてください。
桐谷さんが挨拶をしてから部屋を出た後、俺達は色々荷物を持った湯田さんに連れられ営業車が止めてある駐車場へと向かった。道中、湯田さんから話を聞くと一件目の物件の最寄り駅がある所までは車で1時間ほどの場所らしい。車で1時間か……そこそこ遠いな。
そして俺達は前回も内見時の移動の足にした営業車、白いワンボックスカーの前に到着した。
「では皆さん、コレから現場の方に向かいますので乗り込んで下さい」
「分かりました、よろしくお願いします」
そう言う訳で、俺達は素早く車に乗り込む。湯田さんも俺達が乗り込んだことを確認し、運転手席に座り車を動かす。
そして車が走り出し事務所から離れたことを確認し、湯田さんは崩した口調で俺達に話し掛けてきた。
「いやぁ皆、久しぶりだね。今日はよろしく頼むよ」
「はい。コチラこそ、道案内よろしくお願いします」
「うん。任せてよ、それが俺の仕事だからね。とは言え、現地に着くまでの道中は前回と同じように運んで貰わないといけないってのが情けない話なんだけどさ……」
「いえいえ、気にしないで下さい。寧ろ、背負われて移動しないと行けない湯田さんの方が負担大きいですから。今日行く所は、かなり起伏が激しい道程だって聞いてますし……」
この間の内見で行った山も道程自体は山道だったとは言え、そこそこ整備されていた山道だったので比較的スムーズに移動出来た。しかし今日行く所は、ほぼ未整備の獣道の様な山道を通っていく所だと聞いている。背負われて移動するとなれば、激しい上下運動が続くことになるだろう。
前回の内見でも、オンブダッシュ終了後は気持ち悪そうにしていたからな……。
「ははっ、頑張るよ……っとしか言えないね。まぁ念の為に、出かける前に酔い止めを飲んできたから、前回よりはマシだと思うよ、多分」
「酔い止めですか……効いてくれると良いんですけどね」
「ああ。まぁ最悪の事態は根性出して回避するつもりでいるけど、どうしてもって時は申し訳ないけど……」
「はい、その場合は遠慮無く早めに言って下さい」
遠慮された結果、最悪の事態が発生するのは嫌すぎるからな。気分が悪くなって耐え切れなさそうなら、早めに言って欲しい。
そして俺達と湯田さんは軽くコレから行く内見先の話をした後、一息入れた湯田さんが少し遠慮気味というか気遣い気味な感じで話し掛けてきた。
「ああ、そうそう。もしかしたら俺の勘違いなのかもしれないんだけど、一つ聞いても良いかな?」
「? 何です?」
「あの、その、さ? もしかしてなんだけど君達って、今回の件について何の話も聞いていなかったりってする? ああ、いやホント、俺の勘違いなのかも知れないんだけどさ、話が出た時かなり驚いている様な感じがしてね……」
「「「……」」」
気拙ず気な表情を浮かべつつ、探る様な目付きを浮かべる湯田さん。そんな湯田さんの姿に、俺達は軽く溜息を漏らしつつ互いに目線を交わした後、軽く頷きながら湯田さんに返事を返す。
「ええ。正直に言うと、今回の件は初耳でした。軽く物件の説明を聞いた後、前回の様に内見をしに行くものとばかり思っていましたから」
「……ああ、やっぱりそうか」
申し訳ないと言った口調で裕二が事情を話すと、湯田さんは一瞬目を見開いた後に納得がいったという表情を浮かべていた。
どうやら上手く誤魔化せたと思っていたが、隠し切れていなかったらしい。こうなってくると、桐谷さんにも当然バレてるよな……。
「前回来店した時、君達は素人さんらしく右往左往していたからね」
「ははっ、その節は色々と生意気言ってご迷惑をお掛けしました……」
「いやいや、それ自体は別に悪いことじゃないよ? 大抵のお客さんは、不動産屋でのやり取り方法なんてロクに知らないからね。知らない事を的確に対応するなんて事、出来る人の方が少ないよ。って、そうじゃ無い。そんな素人だった君達が、いきなりどちらにとってもWin-Winな関係になる的確な値引き交渉が出来るのかな?って思ったんだよ。で、そんな交渉を君達がしてないとなると、代わりに交渉をした人物がいるんだろうけど……話が出た時の君達の驚いた雰囲気を感じてね?」
言われてみれば、当然の疑問である。素人にこんな値段交渉出来るわけ無いよな。そうなると湯田さん達も自然に別の人物が話に介入してきたのを思い出すし、説明を聞いている間の俺達の不審な態度を考えれば、仲介相手から上手く話が伝わっていない可能性が思いつく。
今回は俺達がまた重蔵さんのイタズラかと思い話の流れに乗って内見に同意したから良いモノの、値引き話が破談になっていても可笑しくない所だった。そうなっていた場合、桐谷さん達が想定していた儲けも全て飛んでいた事に……うん、些細なことでも報連相しっかりしないといけないな。
「……家のジジイの茶目っ気のせいで、ご迷惑をお掛けします」
「ああいや、別に、ね? ウチに実害は出てなかったから良いんだけど、お爺さんとは話し合って置いた方が良いと思うよ?」
「ええ、そうします……帰ったら直ぐに」
「ははっ、お、穏便にね?」
座った目付きで覚悟は決まってますと言いたげな雰囲気を醸し出す裕二に気圧された湯田さんは、コメカミに汗を浮かべつつ平和的解決をと促す。今にも腕尽くで話を付けてきますって言い出しそうな雰囲気だからな。裕二と重蔵さんの穏やかじゃ無い話し合いか……後始末が面倒そうだな。
何せそうなった場合、当然俺と柊さんが止めるしか無いからさ。ヤダよ、裕二と重蔵さんがやり合ってる所に割って入るのなんて。
愉快な会話をしつつ車に揺られる事1時間、湯田さんが運転する車に乗った俺達は目的地近くの駅に車を止めた。そこは当然の様に山中に佇む無人駅で周囲に民家は無く、駅に電車が来る気配も駅を利用しようとする利用者の人影も無い。
そして車を降りた俺達は、湯田さんの案内で駅を見学する。
「ココが目的地最寄りの駅になります」
「ココが最寄り駅、ですか。じゃぁ目的地の山は……」
「残念ながら、ココからじゃ見えませんね。ココからだと……あそこに見える山の更に奥まった所になります」
そう言って湯田さんは、山々が連なる山脈?連山?の方を指差す。そこには結構、標高高めの山が多く聳え立っていた。
あの山々を越えて10kmか……真面な道も無いって言うし、一般人が日帰りで行き来するってのは難しそうだな。
「まだまだ目的地までは遠いですね」
「はい。あの見えている山の途中までは林道を通って車で進めますので、そこまでは移動しましょう。林道の先には作業用に切り開かれた広場があるので、そこからは徒歩での移動になります」
「了解です。ああ、でもその前に……」
裕二は湯田さんに一言断りを入れてから、無人駅の中に入っていった。恐らく、アレを見に行ったのだろう。
そして三十秒ほど経った後、少し渋い表情を浮かべながら出て来る。何となく答えは分かるが、俺は裕二に結果を尋ねた。
「どうだった?」
「電車は1日に7本ほどしか、この駅には止まらないみたいだ。1本乗り遅れたら次の電車が来るまで、1時間以上待つ事になりそうだ」
「7本か……少ないな」
「ああ。だがまぁ、電車の時間に合わせて動けば特に問題は無いんじゃ無いか?」
確かに、理由が無ければ慌てて動く必要は無い。電車に合わせて山を下りる時間を決めれば、よっぽどの事が無ければ乗り遅れることも無いか。そもそも、電車とは別の足を持っていれば関係無い。
となると、電車の本数の少なさは、大した問題にはならないな。
「お待たせしました湯田さん、確認出来たので行きましょう」
「はい。では皆さん、乗り込んで下さい。ああそれと、この先林道を通りますので、気分が悪くなったりしたら直ぐに言って下さいね」
こうして俺達は車に乗り込み、最寄り駅を後にした。駅を出た車は暫く舗装道路を走っていたが、山の峰が近づいてくると舗装が無くなり砂利道に変わる。林道に入った車は上下左右にに激しく揺れ、余り整備がされていないらしくチラホラ大きめの落石の姿が目に付く。
車高の低い車だったら底を擦って、最悪いつかは故障するだろうな。もし購入するなら、何時落ちてくるか分からない落石は兎も角、タイヤを取られるサイズの窪みは埋めないと。
「中々刺激的な林道ですね! ジェットコースターに乗ってるみたいですよ!」
「ははっ、舌噛まないで下さいね! 普段誰も通らない道なので、ロクな整備がされてないんですよ! ここら辺に空いている窪みは、大雨が降れば流れ出した水で林道の土が削られていった結果ですね! 落石も同じ理由です!」
裕二も湯田さんも叫ぶ様に声を掛けあい、激しく上下左右に揺られている事を紛らわせている。出発前に湯田さんが、気持ちが悪くなったらって言って下さいと言っていたのはコレの事を知っていたからか!
と言うか、気を紛らわしていないとマジで酔いそうな道だな! いっそ、林道の先にあると言う広場まで走って行きたいよ!
「柊さん大丈夫!?」
「ええ、何とか! ……湯田さん、後どれくらいでその広場に到着しますか!?」
「このペースなら、後10分ほどで到着します!」
後10分も掛かるのかよ! クソ、こんな事なら、下の駅の方から走って移動した方が良かったよ!
そしてジェットコースター化した車の揺れに耐え切った俺達は、林道の先にあった切り開かれた広場に到着した。因みに到着し車が止まった瞬間、湯田さんに促される前に外に跳び出た俺達は悪くないはずだ。
ああ、何かまだ地面が揺れてる気がする……。
「皆さん、お疲れ様です」
「「「お疲れ様です」」」
「とりあえずココが、車で来れる最終地点です。ここから先は、徒歩になります」
車から降りてきた湯田さんも、若干気分悪げな表情を浮かべながら俺達に声を掛けてくる。
「少し休憩してから出発しますか?」
「ええ、出来れば少し休憩時間が欲しいですね」
「では休憩時間を兼ねて、持って行く装備品に付いて説明しますね」
そう言うと湯田さんは車の後部トランクを開き、道具箱らしき箱の中から俺達に説明する機材を探し始めた。
そして見付け出した機材の内の一つを手に取り、俺達に向けて見せる。
「コチラ、登山用GPSです。ご存じの通り、衛星電波を使い現在地を知ることが出来る機材ですね」
「GPS……スマホなら持ってますけど、それじゃ駄目なんですか?」
「ダメ……と言うわけではありませんが、スマホだと常時使用する場合は電池の持ちが少々不安なので、出来ればコチラを使用した方が良いですね。コチラの機材ですと、丸一日以上使用出来ますし」
「へー」
そんなに違いが出るのか……確かにコレから山に入るのに、途中でスマホの電池が切れて現在地が分からなくなった、とかって事は避けたいよな。
俺達はそう思いつつ、湯田さんからGPSを受け取り使い方を聞きながら操作練習をする。基本的に、そう難しい操作は必要ないらしい。
「ではGPSの扱いの方は大丈夫そうなので、次の機材の説明を行いますね」
そう言って、湯田さんは次の機材を手に取る。
「コチラがアクションカム……小型のビデオカメラですね。皆さんが目的地まで道中どのようにして踏破していくのか、その様子を記録させて頂きます。良いですよね?」
「ええ、それは良いんですが……そんな小さなカメラで大丈夫ですか? 結構激しく動くと思うんで、画面がブレブレになってまともに映らないかもしれませんよ?」
「ナリは小さいですけど、それなりに高性能なカメラですので大丈夫ですよ。ほら、バラエティー番組なんかで、バンジージャンプを跳ぶ芸人さん何かが良く付けてるじゃ無いですか。アレと同じメーカーのカメラです」
ああ、良く芸人さんがヘルメットとかに付けてるアレか。最近見たバラエティー番組を思い出しながらそんなことを思っていると、湯田さんは更に追加で小さな機材を取り出す。
「それと、コレも一緒に使うので揺れはかなり軽減されると思います」
「何です、それ?」
「コレはスタビライザーと呼ばれる、カメラの手振れ揺れを抑える機材です。先端にカメラを固定し設定すれば、常に正面や水平を維持してくれます」
そう言いつつ湯田さんはカメラを設置し、スタビライザーを起動させる。スタビライザーは忙しなく数度動いた後、カメラのレンズを俺達の方に向けた。
そして湯田さんが軽く左右前後に動かしてみせるが、カメラのレンズは俺達の方を向いたまま……凄いな。
「コレとカメラ内蔵の手振れ補正機能を使えば、まぁ見れる範囲の映像になると思います。ああでも、出来ればカメラを撮っている事を意識した動きをして貰えると助かります。無論、安全第一ですけど」
「了解しました、出来るだけ気に掛けておきますね」
「よろしくお願いします」
確かに後で検証に使おうと思っている映像なのに、見ているだけで酔いそうになる映像はダメだよな。ある程度は紹介された機材で軽減出来るだろうけど、俺達も気を付けておかないとな。
そして他にも何個か湯田さんによる機材説明を終え、俺達は目的地の山へ向かって出発した。さぁて、厳しいとは聞いてるけど目的の山までの道程は実際どんな感じかな?




