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第376話 今回は内見じゃ無く勉強だな、うん

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 俺達は引き攣りそうになる頬を必死に表に出ないように抑えながら、桐谷さんに話は聞いてますよと言った笑みを浮かべながら訳知り顔で相槌を打つ。

 嘘です。本当は一切聞いてません、初耳ですよそれ。


「いやぁ、ホントに助かるよ。コレまでにも、幾つか相談という形でダンジョン系企業さんから話を聞いていたんだが、中々良い物件を提案できなかったんだ。だが前回の内見後に湯田君の話を聞いて、私達の探索者の能力に対する見積もりが甘かった事に原因があったと気付いたんだ。コチラの想定ではテレビなんかで見る、ダンジョン探索を囓ってるって言う探索者系芸人さん達の能力を基準にしていたからね……本格的にダンジョンに携わっている探索者の能力はあんなモノでは無かったんだなと」

「ああ、なるほど。確かにダンジョンに関わらない一般の人が知る探索者って言うと、身近に居る人か雑誌やテレビに出る有名人とかになりますもんね」

「ええ。ですので、その人達の能力を参考に選んだ物件などを紹介したのですが……」


 余り上手くいかなかったと、桐谷さんは苦々し気な表情を浮かべていた。まぁ事前の想定が間違っていたらそうなるよな。例えるなら、トップを目指すプロが求める訓練環境と嗜む程度のアマチュアが求める訓練環境並みに大違いだ。

 そりゃぁ、紹介も上手くいかないよな。


「ですので、今回の話は先程も申した通り私達にも多大な利があるんです。大変でしょうが、お付き合いの程よろしくお願いします」

「あっ、はい。コチラこそ良いデータが提供できるよう、頑張らせて頂きます」


 俺達に向かって頭を下げる桐谷さんと湯田さんの姿に、今更嫌ですと言っても後には引けないと感じ俺達は軽く目を瞑りながら返事をしつつ諦めた。

 いや、ココは考え方を変えよう。桐谷さん達は俺達に、探索者による所有物件の実地調査を依頼しているのだと。俺達はその依頼の報酬(値引き額)で、桐谷さん達から練習場予定地の土地を購入するだけなのだと。……拒否権が無い依頼だけどな。






 精神的に疲れた休憩とは言えない休憩も終わり、湯田さんによる3件目の物件の説明が始まった。3件目の物件は、何と言うか……池があった。ソレもかなり大きく湖と言っても良い大きさで。

 まぁ物件調査という意味もあるんだろうけど、中々変わり種ばかり紹介されるな……。 


「こちらの物件は、売りに出されている土地の中に1ha程の面積に湖が広がっています。水深は平均で15mほど有り、湖の中程には小さいですが島も有ります」

「えっと……湖があるんですか?」

「はい。地下水が噴き出しているようで、結構綺麗な湖です。水質の方も検査していますが、特に有害な物質は検出されておらず問題ありません」

「は、はぁ……」


 湖付きとは、また予想外の物件だ。善く善く資料を見てみると、この3件目の物件は1件目2件目とは違い、そこまで起伏の激しくない盆地? 平地? と言って良い場所になり、コレまでの物件と同様に山地の奥深い山々の谷間に位置している。


「ただ……湖がある関係上、周囲の土地の大部分が沼地というか湿地? になっています。大規模な建物を建築するのに適した土地とは言いづらいですね」

「大規模……ホテルの様な建物のことですか?」

「はい。小さな山小屋……標準的な一軒家程度の大きさであれば問題ないと思うのですが、数十人数百人が宿泊し生活するような建物を建築しようと思えば、まずは地盤改良から行わないといけないと思います。そうすると場所が場所ですので、建築費が普通の何倍にも高騰します」

「山奥ですからね……」


 只でさえ山深く人里離れた未開の土地なのに、地盤改良の為に重機や材料の運び込みなど行っていたら予算は青天井も良い所だろう。山奥の風光明媚な湖、ある意味観光地としてやっていけるかもしれないポテンシャルはあるが、観光地化するまでの初期投資が重すぎる気がするな。

 コレはアレか? 探索者を用いた未開地開発の可能性の検証って感じの案件? 確かに探索者なら常人の何倍も力があるから、レベルによっては数百キロの荷物を険しい山道だとしても人力で運搬できる。法改正され公的使用許可が下りるようになれば、持っているスキルによっては重機要らずで整地や地盤改良なんかも出来るようになるかもしれない。そうなれば、これまで様々な理由で有効利用できなかった土地を活用できるようになる。何せ日本の国土は半分以上が山林地帯なのだから、潜在的な需要は莫大だ。


「はい。ですが、探索者の方ならこれらの土地でも有効利用できるとなれば話は変わります。コレまで利便性の点から何ら価値がないとして見放されていた土地に、利用需要が発生し価値が出てきますからね」

「その為にも俺達が内見……現地調査をと言う事ですね?」

「ええ。通常より多くの荷物を持って、短時間で移動できる。それが分かるだけでも、これらの土地が持つ価値は大きく変わってきますので」


 資料を読む限り、幾つもの山を越えた先に3件目の物件は存在する。だが、それなりのレベルを持つ探索者なら、道中の状況次第ではあるものの麓から短時間……1時間もあれば到達できる距離だ。荷物にしても高レベルであれば素で数百キロ単位を、俺の持つ空間収納スキルや、この間ダンジョンで手に入れたマジックバッグの類いを所持していれば、トン単位での運搬もできるようになってくる。

 確かに探索者による未開地への物資運搬が可能になれば、未開地開拓にも弾みが付くようになるだろうな。そうなった場合、事前にそれらの今は(・・)利用価値の低い未開地の土地を多数所持していれば、莫大な利益を上げることが出来る。まだ探索者の開拓利用という情報が広がっていない今なら、二束三文の底値で手に入るだろうからな……目聡い所はもう動いてそうだけど。


「確かに、今は利用価値無しとして判断されていても、開拓しても採算が合うと分かれば価値が出ますからね。そう言う物件を見分ける為にも、俺達のような探索者が実際に現地調査を行ってデータを集める事に価値はありますね」

「ええ。それこそ山一つ無償譲渡を行っても一切痛みを感じないほどに、です」

「……なるほど」

 

 どうやら湯田さん達は俺達の内見、現地調査にそれほどの価値を見いだしてくれているらしい。評価してくれる事はありがたい事なのだが、プレッシャーが……。

 そしてその後、俺は湯田さんから3件目の物件に関する一通りの説明を聞き終えた。


「以上が、今回紹介する3件の物件に関する説明になります。何か気になった点はありますか?」

「そうですね……物件の説明に関しては特にコレと言ったモノは無いですね。大樹と柊さんは何かある?」

「俺? そうだな……あっ、2件目の物件についての質問なんですけど良いですか?」

「ええ、構いませんよ。何ですか?」


 湯田さんは2件目の物件資料を手元に取り出しながら、俺に質問は何かとを問い掛けてくる。

 俺は2件目の資料に添付されている簡易地図を指差しながら、湯田さんに疑問点を問い掛けた。


「ええっと、この現地までに移動する経路なんですけど、基本的に船などを使用し川を遡上するとなっていますよね?」

「はい。川以外でも山道を移動する経路もありますが、川を遡上するのが一番楽になります。無論、探索者では無い一般人にとってはですが」

「はい。ですけど俺達のような探索者の場合だと、やっぱり川を遡上するより多少険しくとも山道を通った方が早く現地に到着できると思うんですが……」

「その点は私達の方でも検討しました。確かに探索者の方ですと、山道を行く方が早く移動できると思います。途中に崖や谷などがあり困難な道程ではありますが、一般人でも準備さえ整えておけば乗り越えられない事はありませんからね。ですが……」

「川を遡上するデータも欲しい、そう言う事ですか?」

「はい。コレからのことを考えますと、出来るだけ様々なデータを集めておきたいんです。山道移動の方は、1件目の方でも得られると思うので」


 真っすぐ俺の方を見ながら断言する湯田さんの表情を見て、2件目の移動法に変更が無いという事は理解出来た。


「分かりました。では川を船を使い遡上すると言う点についての提案があります。俺達探索者の場合、少し練習して慣れれば跳躍を繰り返し水に濡れずに川を進む事が出来るかと。いわゆる、八艘跳びってヤツですね。ですので、川中に一定間隔で単管パイプなどを突き立て簡単な足場を用意すれば、水かさが減っていない時期でも船を使わず川を移動できるようになると思うんですが……」

「ええっ、本当ですか? それは……」

 

 俺の提案に湯田さんは驚いた表情を浮かべた後、裕二と柊さんに俺の提案は本当に実行可能な方法なのかと視線で問い掛ける。だが、そんな湯田さんの疑念に満ちた視線を受けても、裕二と柊さんは少し考える素振りをした後、出来るだろうと言った表情を浮かべながら力強く頷いた。

 その無言の返答に湯田さんは信じられないと言った表情を浮かべつつ、目を泳がせながら助けを求める様に桐谷さんに縋るような視線を向ける。


「九重君、だったね。残念だけど、君のその提案は採用できないよ」

「えっ、何故ですか? 実現できれば、確実に船移動するより短時間で現地に到着できると思うんですが……」


 湯田さんに助けを求められた桐谷さんは、湯田さんの視線に軽く目を閉じる事で返事をした後、俺の方に視線を向けながら提案を却下する。

 そして若干困ったような表情を浮かべつつ、俺の提案を却下した理由を説明してくれた。


「河川法というモノがあってね。洪水や氾濫を防ぐ為に川等には、勝手に工作物を設置する事は出来ない事になっているんだよ。無論許可を取れば設置できないことも無いんだが、その場合は当然だが設置物の保守管理をしなければならないんだ。数キロの川に設置された複数の足場の管理……難しいと思わないかい? その上、万一設置物が原因で洪水などが起きた場合、その責任も被ることになるからね……」

「それは……」

「念の為に言っておくけど、勝手に設置して後は知らぬ存ぜぬってのは無しだよ? 立派な違法行為だからね?」

「……はい」


 法律か……確かにテレビやニュースなんかでも、河川敷に勝手に畑や小屋などが建てられているって問題になってるもんな。それらが何時か、洪水被害の原因になるかもしれないって言ってたっけ……。

 うん、確かにそれらを考えると俺の提案は無いな。万一俺達が設置した足場に川が増水し流れてきた流木等が引っ掛かり、偶然ダムを造って決壊と同時に鉄砲水や土石流を発生させ下流部に被害を出した……何て事になったら責任なんて取れやしない。


「と言うわけで、大変魅力的ではあるが九重君の提案は無しだね。……他に何か質問はあるかな?」


 俺の質問に答え終えた桐谷さんは、最後の一人である柊さんに問い掛ける。


「そうですね……物件に関する事ではありませんが一つ」

「何かな?」

「この後は内見に行く予定でしたが、どのような所に注目し内見すれば良いですか? 素人である私達だと、桐谷さん達が求めるデータは収集できないと思うのですが……」

「ああ、それなら安心して下さい。現地の内見には前回と同様、湯田君に同行して貰う予定です。道中彼が色々と質問すると思うので、それに対し皆さんがその時に感じた事を答えて貰えれば」

「湯田さんが?」


 俺達は今回の内見にも同行してくれるんですか? と言った眼差しを湯田さんに向けてみると、湯田さんは覚悟が決まったような眼差しと表情を浮かべながら、俺達に向かって力強く頷いた。

 あ、あれ? 何か……覚悟決まってますって感じなんですけど? 俺達の内見に同行するって、そんなに覚悟がいる物だったのか?


「今回も皆さんの内見に同行させて頂きます、よろしくお願いします」

「あっ、いえ。コチラこそよろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」


 湯田さんが頭を下げ挨拶するのに合わせ、俺達も頭を下げ返事を返す。

 そして俺達のやり取りを見守った後、桐谷さんは最終確認を行う。


「では、他に質問は無いかな?」

「「「……」」」

「無さそうだね。では、早速内見の方に行って貰いたいのだが良いかな?」

「はい、大丈夫です。それで、まずはどの物件から内見に向かうんですか?」


 裕二が向かう内見先を尋ねると、桐谷さんは一枚の物件情報紙を手に取った。

 そこに書かれていた物件は、一件目に紹介された山奥の物件だ。  


「まずは、コッチの物件から内見に行って貰えるかな?」

「分かりました。よろしくお願いしますね、湯田さん」

「ええ、案内は任せて下さい」


 まぁ最初に見に行く物件としては、妥当な判断だろう。2件目は川で3件目は湖だったし、内見に向かうにしてもそれなりの準備が要る場所だしな。

 さぁて、いよいよ内見だ。当初の目的とは多少違ってしまったが、ココは気持ちを切り替えて今後の為の勉強をさせて貰うとしよう。 
















次回は内見?登山に行きます。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 山中だと未発見ダンジョンあってもおかしくないかな。 モンスターが外部に出てこないなら変な電波でも出して無い限り見つけるの大変そう。
[一言] 探索者ともに生きていく世界。 やっぱり体鍛えないとなぁ(ダンジョンに通うという意味で) きっと、1層〜20層?くらいの層で体力作り?が流行りそうだなぁ。いや、外国で犯罪に巻き込まれたら多分…
[良い点] 川をジャンプで走るの、忍者みたいでかっこいいですね 魚への影響もあるので難しいのは納得です 人間離れして能力、でも何でもできるわけじゃないの素敵です 移動輸送能力アップによる未開拓地の地…
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