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第375話 そんな話は聞いてない

お気に入り32240超、PV72260000超、ジャンル別日刊78位、応援ありがとうございます。


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 湯田さんに促され、俺達は物件情報紙の2枚目に目を通す。2件目の物件はどうやら、山の周りをそこそこの幅がある川が流れている物件らしい。

 川が側にある物件か……夏とかに皆で川遊びやバーベキューが出来そうだな。


「2件目の物件になりますが、コチラも元林業をなさっていたオーナーが所有していた山になります」


 湯田さんの説明によると、この2件目の物件も1件目と同様に、林業が営まれていた山らしい。

 その為、元作業小屋が建っていたある程度切り開かれた広場や、狭いが木々の無い未舗装の作業道等もあるそうだ。尤も、長年放置されているので使用するには整備しないといけないそうだが。

 

「そしてもう1つ、1件目と大きく違う設備があります。それは川に突き出す桟橋です」

「桟橋、ですか?」

「はい。どうも林業を営んでらした時代は、この桟橋を利用し船で川を下り木材を搬出していたそうです」

「ああ、なるほど。偶にテレビの歴史資料なんかで見ますよ、川に木を浮かべて川下の町まで運んでいるってヤツですよね?」


 ここら辺は元々林業が盛んで……とかって流れで昔撮られた白黒写真が映されてるよな。人が丸太の上に乗って、丸太船よろしく川下りをしているヤツだ。

 なるほど、確かに山の近くに川が流れていたら、そう言う使われ方もするよな。だから桟橋があるのか……。


「はい、その認識であってます。ただ、コチラも長年放置されている影響で老朽化し、再使用するには補修が必要ですね。あと支柱はまだ朽ちていないので使えますので、ロープをつなぎ船を係留するのには使えると思います」

「支柱は使えるんですね……」

「はい。産地直送という訳ではありませんが、かなり極太の丸太が支柱として使われていましたので芯は無事みたいです」


 長年水中に放置されていても朽ちない丸太って……かなり良い丸太を使ったらしい。 

 その後も細々と物件の現状を確認した後、本題?を湯田さんに聞くことにした。


「それで湯田さん、ココまで聞く限りではかなり良い物件なんですが、今回の物件はどの辺に問題があるんですか? やっぱり交通の便が?」

「……はい。今回の物件も予想されているように、現地までの交通の便がかなり悪いです」

「なるほど、やっぱりそうですよね。それで、今回の物件はどんな所にあるんですか?」


 予想通りというか、そうじゃ無ければこれだけ良い条件の物件は紹介して貰えないよなと納得する。交通の便が良かったら、とてもじゃないが俺達が掲示する金額で買えるような物件じゃ無いだろうからな。

 湯田さんは裕二の質問に一息間を入れた後、少々言いづらそうに口を開く。


「えっと、その……今回の物件、実は現地に行くまでの道と呼べる道がありません」

「……はい? 道が無い? えっと、それはどう言う事ですか?」


 流石に予想外の答えに、俺達は軽く目を見開き唖然とした表情を浮かべつつ湯田さんを凝視する。すると俺達に見詰められた湯田さんは、乾いた笑みを浮かべつつ交通事情を語り出す。


「えっと、実はですね。先程も申した通り、元オーナーはこの山で林業をなさっていました。その際、切り出された木材は全て、川を利用(・・・・)し下流の町に送られていたんですよ」

「……あっ!」


 湯田さんの含みを持たせた言い方に、俺達はとある事実に気が付く。

 そして、その予想が正解だというように湯田さんは大きく頷きながら、正解を語り始める。


「はい。お気づきの通り、この山に行く為には川を船やボートを使い遡上する必要があります。今回ご紹介させて頂くこの物件は山々に囲まれた奥深い位置に有り、山を越えていくことも可能ではありますが、道は無く方向を見失い遭難の危険も有り、川を遡上するのが尤も安全なルートになります」

「川を遡上……ですか」

「はい。川下の方には電車駅やバス停がありますので、そこから船やボートを使用し遡上する感じになります。車などを利用される場合は、もう少し上流の方から遡上することも可能ですが……」


 湯田さんはチラリと俺達の方に、確認するような視線を向けてくる。

 その意味する所は、自動車免許は持ってないですしね……と言った所だろう。もちろん俺達は自動車免許なんて持てる年齢では無いので、車は運転できませんよ。


「えっと、湯田さん。川を遡上するって言うのは、どの程度の距離を遡上しないといけないんですか?」

「距離ですか? ええっと……開始場所にもよりますが、川が蛇行しているので十数km近くは遡上する事になりますかね」

「十数kmですか……」


 ボートでどの程度速度を出せるのかは分からないが、川の流れに逆らって遡上する事になるのなら1時間以上は掛かるだろうな……うん、間違いなく秘境物件だ。

 

「えっと参考になのですが、元オーナーさんが林業をなさっていた頃に船が遡上していた時には、2時間近くは掛かったそうです。……下りは1時間ほどらしかったですけど」

「流れに逆らって川を遡上するんですから、そうなりますよね。それにしても2時間か……」


 恐らく時代背景を考えれば、手漕ぎボートでの所要時間なのだろう。エンジン付きのボートを使えばもう少し短縮は出来るだろうが……高校生が船舶免許って取れたっけ? 資格試験と船については、後で少し調べて見るか。

 まぁ、それにしても……。


「中々辺鄙な所にありますね、行くだけでも一苦労な物件ですよ」

「ははっ、以前交通の便は兎も角、環境の良い所をと言う要望をお聞きしましたので。探してみたらコレがヒットしまして……申し訳ありません」

「ああ、いえ。物件自体は俺達の出した要望に添った、本当に良いモノだと思います。ただ、現地に向かう道は山道を越えて行くモノだと思っていたので、まさか川を遡上する必要があるとは思っても見ず驚いているだけです」


 いやホント、裕二が言うように川を遡上するというのは想定外だった。船で移動するなんて考えてもみなかったよ……と言うか、探索者(俺達)が手漕ぎボートを漕いだらどうなるんだ? モーターボートみたいなスピードで移動出来るようになるのか? 

 俺の脳裏に、盛大な水飛沫を上げながら猛烈な速度で川を遡上していく、手漕ぎボートに乗る俺達の姿が浮かんだ。うん、無いな……出来ないとは言わないけど。


「そうですよね。ですが良いか悪いかは別にしてこの川、数日雨が降らず増水していない時でしたら、起伏は激しいですが物件の山がある現場まで露出した河原が続いています。一般の人では中々走破が難しい道程ですが、探索者である皆様なら行けない事も無いと思います」

「えっ、歩いても行けるんですか?」

「ええ、ですが普段は川底に沈んでいる様な場所ですので、苔などが生え足下はかなり悪くなっています。その上、暫く降雨が無いという条件がありますので、季節によっては歩行可能な河原が露出するのは月に1日あるかどうか、と言った事になるかもしれません。ですので、基本は川を遡上するモノと思って頂いた方が良いですね」


 湯田さんの話を聞き一瞬、河原があるなら走って行けるな!と思ったが、どうやらそう都合良く行くわけでは無さそうだ。数日雨が降らなかったら、つまりお天気任せの運次第の道という事だ。仮に俺達がこの物件を購入した場合、在学中は土日か長期休み期間中にしか利用出来ないので長期休み中は兎も角、土日で河原を移動に利用出来る日が年に何回あるか……うん、基本的に利用出来ないな。

 なので河原の事は、運が良ければ移動に利用する、ボートが壊れた場合に使う帰り道の一つ、そんな感じで憶えておくのが良いだろう。


「なるほど、了解です。でもそうなると、仮にココを購入したら現地に行く為の足もどうにかしないといけませんね」

「そうですね。探索者の方ならホームセンター等で市販されている手漕ぎゴムボートでも行けそうですが、動力付きボートの利用を検討されるのでしたら船舶免許を取得して置いた方が良いと思います。一応2馬力以下のミニボートでしたら無免許でも利用出来ますが、川を遡上するのでそれなりに馬力のある船が良いでしょう。詳細は曖昧ですが確か、2級や限定免許の方でしたら試験を受ければ16才から取得出来たと思います」

「船舶免許……ですか」

「お調べしておきましょうか?」


 後で調べて見ようと思っていた事を湯田さんに進められ、俺は少し驚く。もしこの物件を買うのなら、やっぱり船舶免許はあった方が良いかもしれない。

 高校生で山持ちに続いて、船持ちか……普通、車かバイクから始めるもんじゃ?


「あっ、いえ。まだ必要になる(ココを買う)か分からないので、後で自分達で調べて見ます」

「そうですか、では何かお手伝い出来ることがあったら遠慮無くご相談下さい」

「ありがとうございます」


 と言う訳で、2件目の説明も一通り終わった。まさか、川を遡上しないと辿り着けない物件とは思っても見なかったな。山道を進むというのなら探索者能力である程度移動時間も短縮出来るのだろうが、船移動となると流石に未知すぎて大体の移動時間の目測すら立てられない。何せ、探索者になってから船を漕いだ事なんて一度も無いからな。今度、何処かの貸しボートで漕いでみるか?

 ……予想外にスピードが出て、事故りそうだな。もしくは、力に耐えきれずオールが一発でへし折れるとかさ。


「では次に3件目の説明を……と思ったのですが、少し休憩を挟みますか?」

「ああ、そうですね。何時の間にか、1時間近く話し込んでますからね。少し休憩を挟みましょう」


 湯田さんに言われて気付いたが、何時の間にか時計の針が来店した時から一周しそうになっていた。集中して説明を聞いていたので、予想以上に時間が進んでいたらしい。 

 と言うわけで、少し休憩を挟んで3件目の説明を聞くことになった。






 時間が経って若干温くなった飲み物を口にしながら、先日俺達が来店した後の話を湯田さんと桐谷さんから聞いていた。何でも俺達、探索者の身体能力に注目し調べて見たら、驚きの結果が出たらしい。

 まぁ、そうなるよなと内心で首を縦に大きく振りつつ、表面上は軽く感心する振りをしながら素知らぬ顔で、その調査結果というモノに耳を傾ける。


「いやぁ前回君達が帰った後、湯田君から内見見学に行った際のことを聞いてね。まさか探索者になるとココまでずば抜けた身体能力を持てるとは思っても見なかったよ。まさか一日がかりの内見が、数時間で終わるとはね……」

「はは、そうですね。自分達としても探索者になる前までは、まさか自分達が漫画の登場人物の様な動きが出来るようになるとは思っても見ませんでしたよ」

「ははっ、そうだろうね。私も湯田君から話を聞いた後、色々探索者の事について調べて見た。凄い凄いとは聞いていたが、具体的に調べて見ると想像以上に凄かったね。陸上の世界記録など非公式ながら、探索者登場以前と今では圧倒的差がある。その上、記録は時間が経つごとにドンドン伸びているじゃないか!」

「探索者はレベルアップすると、身体能力に強化補正が効きますからね。記録が純粋に技量で伸びたのか、レベルアップの恩恵によるモノかは分かりません。無論、強化された身体能力を使いこなすにはそれ相応の技量が求められますので、レベルアップ頼りという事は無いのでしょうけど」


 桐谷さんは凄い凄いと言っているが、正直スポーツ系の世界記録なんかは探索者と一般人の記録は別枠にしないといけないと思う。探索者の場合、やっぱりレベルアップ時の強化補正が凄いからな。一生懸命……まぁ探索者も命がけだが……鍛え練習して出した記録なのだ、それを混同するのは止めた方が良いと俺は思う。

 だって探索者と一般人では、明らかに倍では効かないくらい身体能力に差があるからな。


「そうだとしても、コレは凄いことだよ、無論、私達の業界にとってもね。先程君達に紹介した2つの物件も正直に言うと、コレまで訳あり物件として塩漬けになっていた物件だ。理由は……分かるよね?」

「はい。物件自体はとても良いモノですが、そこに至るまでの道程が過酷すぎます。一般人の方がこれらの物件を買ったとしても、自給自足生活の場にするなどの利用法でも無いと、活用するのはかなり困難でしょうね」

「その通り、本当に物件としては良い物件なんだ。只1点、そこに至るまでの道程がネックでね。その為、コレまで塩漬けになっていたのだが……」

「俺達のような探索者が相手なら、そのネックになっていた部分が無視、もしくは緩和出来る、ですね?」


 裕二がそう答えると、桐谷さんは大きく頷きながら笑みを浮かべつつ口を開く。


「ああ、重蔵さんから話を聞いてるだろ? 今回君達に紹介させて貰う3つの物件は、うちが扱う物件の中でも特に道程が困難な部類の物件なんだ。前回の来店時の報告を兼ね重蔵さんに相談した所、君達に物件までの道程の検証を手伝って貰う代わりに大幅値引きという事で話が出てきたんだよ。うちとしてもコレからの探索者相手に商売の手を広げて行こうと思っているのだが、探索者とは言えどの程度まで困難な道程の物件なら紹介しても大丈夫かというデータが無くてね。それが手に入るのなら大幅値引きをして……少額で物件を君達に引き渡してもうちに損はないと考えてる」

「……はい?」

「うん、どうしたんだい?」

「あっ、いえ……何でも」


 裕二は桐谷さんの話に動揺しつつ、俺と柊さんに鋭い眼差しで視線を送ってくる。曰く、そんな話聞いていたか!?と。いや、聞いていない聞いていない。寧ろ祐二こそ、出かける前に重蔵さんから何か聞いてないのか? 

 と言った感じで、初耳の事態に動揺する俺達を尻目に桐谷さんは嬉しそうに話を続けていた。
















不動産屋さんとのやり取りをお願いしていたら、(手際よく)事前に値引き交渉もされてました。


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしくお願いします。


■■■ コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしくお願いします! ■■■


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] これは重蔵さんの始末の後始末な場所を都合したりしてるな きっと日本全国にそういう場所を確保して近い所で処分してるに違いないw 幻夜さんと色々共有してれば色々スムーズなんで実用的 ……ならこ…
[一言] 船舶免許は16歳になる前に取れますよ(はず) 遙か昔に四級船舶を取って数ヶ月後に自動二輪車免許を取った事を思い出しました。 昔は漁師の息子とかが中学を卒業して稼業を継げるように15歳と6…
[気になる点] 本人たちがうっかりしてる設定なのかな? 探索者の能力があれば、空気入れとゴムボートとオールさえあれば上流から下るとか桟橋の近くまで川沿いに山道を登るとかいくらでも方法があると思うんだけ…
感想一覧
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