第369話 援護の報酬は……うん
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部屋の中から聞こえてくる叫び声?に耳を傾けながら、俺達は顔を見合わせこの後如何するか簡単に相談をする。チームで動いている以上、流石に相談も無しに動くのはアレだしな。
まぁ個人的には、助けに入っても良いとは思ってるけどさ。
「と言った感じらしいが如何する、助けに入るか? 話を聞く限り、参戦を申し出れば受け入れてもらえそうだけど……」
「助けに入る事自体は問題ないと思うぞ、ただ……」
「助けに入った際に連携が取れるのか? 最低でも邪魔をされないか、って事よね?」
「ああ。中の声を聞く限り、多数の敵に囲まれた乱戦ぽいからな……幸い混乱はしてないみたいだけど」
裕二の懸念はもっともだろう。助けに入る事自体は問題ないのだが、助けに入る相手とは初対面の上、能力が未知数なので密な連携はまず不可能。戦闘を全て俺達に任せて退避してくれるのなら、すぐにでも部屋の中に居るモンスターの掃討は出来るのだが、数に押され苦戦しているだけなので素直には退避はしてくれないだろうな。コレで怪我人でもでていたりしたら、俺達に戦闘を任せ素直に引いてくれるんだろうけど……怪我人がいないにこした事ない。
混乱はしていないみたいなので、せめて素直に役割分担に同意してくれれば良いけど……どうなることやら。
「そうだな。とは言っても、ココで声を掛けずに見捨てるってのは流石に、ね?」
「まぁ、な」
裕二は苦笑を浮かべながら俺の言葉に同意する。流石に目の前で助けを求めている?のに、見捨てたら後味が悪いからな。
と言う訳で話し合った結果、援護に同意されたら助けに入る事になった。
「援護の声を掛けて同意を得られたら俺と裕二が突っ込むから、柊さんは美佳達の護衛を頼むよ。無いとは思うけど、討ち漏らしや新規出現する敵が皆の方に行くかもしれないからね」
「了解」
「それと美佳に沙織ちゃん、コレから俺と裕二が突っ込むから良く見ておくようにね。出来るだけ2人の参考になる様に立ち回ってみるからさ」
「うん」
「分かりました」
折角なので援護のついでに、美佳と沙織ちゃんには集団戦における立ち振る舞い方を見せておく事にした。その際、自衛は出来るだろうが見学に集中しすぎて危なく無いように、柊さんに護衛をお願いしておく。
折角戦うのだ、何かしらか自分達にメリットがある様にしておきたい。
「じゃぁ向こうに声を掛けるぞ、良いな?」
「おう、良いぞ」
「ええ」
「うん!」
「はい!」
皆の同意が得られたので、俺は息を吸い込みながら入り口の前に進み姿を晒す。
そして……。
「おい、無事か!? 援護がいるのなら、手を貸すぞ!?」
戦闘音に声がかき消されないようにと、両手を口に添えながら大きな声をあげた。
部屋の中で戦っていたパーティーは俺の掛けた声で、入り口に立つ俺の存在に気付き一瞬驚きの表情を浮かべつつ視線を俺に向けてきた。
って、おいおい。出来るだけ危なく無いタイミングで声は掛けたけどさ、敵から視線は切らない方が良いぞ? 敵によってはその一瞬の隙で攻撃を仕掛けてくるヤツとかいるんだしさ。
「誰だ!? ってそんな事はどうでも良い。手を貸してくれるのなら、ぜひ手を貸してくれ!」
「おお、援軍か!?」
「助かったわ! お願い手を貸して、コイツら数がっ!」
「早急に頼む! そろそろキツい!」
彼等は喜びの表情を浮かべつつ、口々に俺達が参戦する事を歓迎するように同意の返事を返してきた。どうやら揉める事無く参戦出来そうだ。こう言った場合、偶にパーティー内の意見が纏まらず意見が割れ参戦出来ない事があるからな。
援護要請をした場合、ドロップ品の一部を援護報酬として渡す事が暗黙の了解だ。その為、報酬を惜しみパーティーメンバーが苦戦していたとしても、一部のメンバーは自分が苦戦していないからと援護の参戦を拒否する場合がある。大抵はパーティーのリーダーの決定が優先されるが企業系は兎も角、学生系はまぁ色々あるからな。
「了解、コレから援護に入る! 周りから削るように動くから、同士討ちしないように攻撃の際は注意してくれ!」
「ああ、よろしく頼む!」
どうにか最低限の意思疎通は出来たので、俺と裕二は早速動く事にする。
まぁ美佳達の参考にする為に、かなり抑え気味でだけどな。
「裕二、時計回りに動いて削っていくぞ!」
「おう!」
本当なら両サイドに分かれ掃討していくのが一番手早く終わらせられるのだろうが、あくまでも美佳達に見せる為の戦闘だ。集団戦における立ち振る舞いを教える為にも、単独行動では無く裕二と連携しつつ掃討していくとしよう。
まずは裕二が前衛として5体ほどのゴブリンが固まる群れに突入し、俺が後衛として後に続く。
「右側の3体は俺が受け持つ」
「了解、じゃぁおれは左側2体だな」
後詰めの為か、少し離れた位置に固まって待機していたゴブリン達をまずは叩く事にした。5体のゴブリンは駆け寄る俺達に標的にされている事に気付き、少し慌てた様子で迎撃準備を始めたが……遅いな。ゴブリン達は、自分達が優勢な状態で囲っていた事で油断したのだろう。
武器の間合いに入った俺と裕二は素早く左右に分かれ、ゴブリン達が反撃してくる前にまず一体ずつ頭を刎ね跳ばした。
「「ギギッ!?」」
大した抵抗も出来ずにアッサリと仲間の首が刎ねられた事に動揺したのか、残る3体のゴブリン達は連携のレの字も無く手に持った武器を滅茶苦茶に振り回し牽制をし始めた。迎撃よりもまずは、俺達を近寄らせたくないと言った所なのだろう。
だが、そんな時にとる対処法は心得ている。
「「セイッ!」」
「「ギッ!?」」
俺と裕二は粒子化を始める前の首を刎ねたゴブリンの死体を、武器を振りまくり牽制するゴブリンに目掛けて勢いよく蹴り飛ばしぶつける。死体をぶつけられたゴブリンは受けとめ切れず押し倒される様に転倒、死体に覆い被さる形でゴブリンの動きを封じられた。
コレで残りは武器を振り回す1体と、動きを封じられた2体。動きを封じられたゴブリンが復帰する前に、武器を振り回してるヤツを倒してしまおう。
「エイッと」
「ギッ!?」
「後は倒れてるコイツらを始末すれば、っと」
「「ギギッ!?」」
裕二は武器を振り回すゴブリンの首を刎ね跳ばし、俺は倒れているゴブリンの喉を踏み潰し首の骨を折っていく。うん、首の骨を踏み潰す感触は気持ち悪いな。とは言え、地面に倒れるゴブリンの首を刀で刎ねるのは中々に難易度が高いからな。下手に距離感を見誤ると、刃先が地面にぶつかってしまう。
とまぁそんな感じで、会敵してから5秒程で最初のゴブリン集団は全滅した。
「良し、この調子で次の敵を倒しに行こう」
「ああ」
今回の戦闘では敵の数が多いので、粒子化が開始する前に俺と裕二は次の敵目掛けて動き出す。本来なら粒子化、確実に倒した事を確認してから動くべきなのだろうが、多数の敵を相手にした場合にはそんな事をしている時間は無い。攻撃が出来るタイミングで確実に粒子化する致命傷を与え、1対1の状況を作る事を意識し常に動き続け多数の敵に囲まれないようにする。これが、対集団戦闘における基本的な立ち振るまい方だ。一体の敵を倒す事に意識を集中しすぎれば数に押され、中途半端な攻撃をし続ければ消耗戦に引きずり込まれるからな。
そんな事を考えながら俺と裕二は次の標的、7体ほどのゴブリン集団に躍りかかった。
援護に入って5分ほど経ち、部屋の中に溢れていたゴブリン達の掃討がほぼ終了した。幸い助けを求めてきたパーティーに大きな怪我も無く、無事に乗り切れたようだ。まぁ元々この部屋のトラップを利用し稼ごうとしている様なパーティーだ、それ相応の実力は持っていたと言う事だな。まぁ想定外に多くのゴブリンが出たせいで、ジリ貧になっていたけどさ。
そして最後のゴブリンの死体が粒子化を終えたのを確認し、向こうのパーティーメンバーは大きな息を吐き出しながら床に座り込んだ。どうやら危機的状況を乗り越え、気が抜けたらしい。
「おい、大丈夫か?」
「えっ? ああ、大丈夫だ。 ……ふぅ、遅くなったがありがとう。君達が援護に入ってくれたお陰で助かったよ」
「ああ、いえ。流石にあの状況を無視して、見ない振りして見捨てるのは後味が悪すぎますからね」
「ははっ、そうだね」
頬を指先で掻きながら返事を返す俺の反応に、助けを求めてきたパーティーの男性は苦笑を浮かべながら同意をする。
「ともかく助かったよ。何時もなら、あんな数のゴブリンは出てこないんだけどね。お陰で対応し切れなかったよ」
「? 普段はもっと少ないんですか?」
「ああ。何時も通りなら十数体、いっても二十体位かな? それが今日は何でか、倍近く出て来てしまってね……」
「それは……何とも災難ですね」
男性は苦虫を噛んだような表情を浮かべながら、先程行われたゴブリン戦を回想していた。まぁ想定の倍近い敵がいきなり現れたら、対処しきれないのは当然だよな。寧ろ、俺達の援護が入るまでパーティーメンバーが誰一人大きな怪我を負う事無く持ち堪えられたことの方が凄い。あの状況なら、大きな怪我の一つくらい負っていても不思議はないからな。
とまぁそんな事を考えている内に、床に座り込んでいた男性がユックリと立ち上がる。
「まぁそんな状況だったから、君達が駆けつけてくれたのには感謝しているよ。お陰で、誰一人欠ける事無く乗り越えられた。それから……」
男性は俺から視線を逸らし、今だ床に座り込んでいる仲間を一瞥した後、床に散らばるドロップアイテムを見渡す。
「援護してくれた報酬は、今回の戦闘で出たドロップアイテムの譲渡で良いかな?」
「ええ、それで構いませんよ」
「そうか。じゃぁすぐに集めるから、少し待っていてくれ。おーい皆、何時までも座り込んでないでドロップアイテムの回収をするぞ! 助けてくれた彼等への報酬になるんだ、キビキビ回収するぞ!」
「「「お、おー」」」
男性に促され、床に座り込んでいた彼のパーティーメンバー達は緩慢な動きで立ち上がりドロップアイテムの回収を始めた。倒したゴブリンの数が数なので、それなりのドロップアイテムが部屋のアチラコチラに転がっている。
そして5分ほど経って、俺と裕二の前に回収されたドロップアイテムが並べられた。
「さぁ、好きなのを選んで持って行ってくれ……と言っても、余り良さそうなのは無いんだけどな」
「ははっ……そう、ですね」
「ホント、なんでかな……今日は運が無いよ」
落ち込み気味の男性の姿に、俺と裕二は苦笑を浮かべつつ目の前に並べられたドロップアイテムに目を通していく。並べられているドロップアイテムはコアクリスタルばかりで、2つの回復薬と思われる瓶が慰め程度に置かれていた。アレだけの数のゴブリンと戦ったのに、その報酬がコレとは……本人が言うように今日は運が無かったようだ。
そんなラインナップを見ながら、俺は裕二と小声で相談する
「おい、どうする裕二? 回復薬を貰うか?」
「このラインナップで、それを貰うってのはな……」
「そう、だよな……どうしよう?」
正直このラインナップで回復薬?を貰ってしまったら、彼等の報酬が更に悲惨になってしまう。だが、援護に入った報酬として受け取るならば、この回復薬しか選択肢は無い。ココで仏心を出してコアクリスタルをもらい受けるという選択肢もあるにはあるが、余り良い選択とは言えない。ココで俺達がコアクリスタルを貰った場合、変な前例を作ってしまうからだ。
もし彼等が今回と同じような状況で援護を受けた場合、俺達が援護の報酬にコアクリスタルを受け取っていたのだから、援護の報酬はコアクリスタルで良いよな?とかと、報酬を値切る様な事を言い出す可能性があるからな。そうなってしまえば、下手をすれば武力行使を含む探索者同士でのイザコザに発展しかねない。そういった可能性を作らない為にも、心を鬼にして正当な報酬を受け取っておく方が無難な選択だろうな。なので、俺達は少し考えた後……。
「じゃぁ……今回の報酬にはコレを頂きますね?」
「っ……ああ、受け取ってくれ。ココの中から選ぶとなると、報酬に相応しいモノはそれしか無いからな」
男性とそのパーティーメンバーの人達は若干悲しげで名残惜しげな表情を浮かべつつ、俺達が手に取った2つの回復薬?を目で追う。まぁこの反応も仕方ないとは言え、罪悪感を擽られる反応だよな。
そして俺と裕二は早々に、それぞれ貰った回復薬をバッグに仕舞い込む。何時までも出しっぱなしにしていると、何時までも未練がまし気な眼差しで見られ続けられそうだからな。




