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第368話 運が良いというのにも善し悪しがある

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 俺達の前に現れた2体のレッドボアは、鼻息荒く威嚇するように低い唸り声を上げている。眼光鋭く俺達の姿を見定めており、何時でも突撃を開始出来ると言った様相だ。

 何時も思うのだが、この手の突撃攻撃を主とするモンスターの場合、わざわざ足を止め威嚇するより確認と同時に全速力で敵に突っ込んだ方が良くないか? まぁ、もしかしたらリポップ直後なだけかも知れないけどさ。 


「じゃぁ最初の取り決め通り、俺達は手を出さないから美佳と沙織ちゃんの二人で頑張ってくれ」

「うん、任せて!」

「はい。頑張ります」


 そう言うと二人は一歩前に出て、それぞれ武器をレッドボアに向かって構える。その動作は堂に入った物で、二人が新人探索者の域を抜け出し始めていると思わせる立ち振る舞いだった。

 そしてそんな2人の動きを見て、レッドボアは大きな鳴き声を上げながら突撃を開始する。


「沙織ちゃん、私は右のヤツを倒すね!」

「了解、じゃ私は左側のヤツだね!」


 美佳と沙織ちゃんは短い作戦会議を終えると素早く左右に分かれ、突撃してくるレッドボアとの間合いを詰める。レッドボアも一瞬で距離を詰めてきた美佳達に驚いた様に目を見開いていたが、すぐに迎撃に移ろうと顎を引き牙の先を美佳達に向け様としていた。

 だが……。


「やっ!」

「えいっ!」

「「ブモッ!?」」


 驚きで動きが硬直した一瞬の隙は大きく、迎撃態勢が整う前に美佳達が繰り出した槍の矛先がレッドボア達の眉間に突き刺さり貫いた。

 そして美佳達は素早く槍を抜き、バックステップで突撃の惰性の残るレッドボア達から距離を開ける。レッドボア達は惰性で数歩動いた後ユックリと倒れた。 


「ふぅ……上手く一撃で倒せたね」

「うん。やっぱり最初の戦闘って緊張するよ」


 レッドボア達が粒子化を始めたのを確認し、美佳達は息を吐きながら肩から力を抜きつつ初戦の感想を口にする。まぁ探索開始初戦は俺達でも緊張するので、美佳達がいきなり失敗しないかなと心配していた気持ちは理解出来た。初戦ばかりは、その日の調子を確認しながらするからな。

 そしてレッドボアが粒子化を始めて十数秒後、レッドボア達が倒れた場所に本日最初のドロップアイテムが1つ出現していた。


「あっ、コレ……」

「コアクリスタル、だね。私の方は出なかったみたいだし、最初の成果としてはちょっと残念な感じかな?」


 美佳は跡地に落ちてるコアクリスタルを拾い上げながら、若干残念気な表情を浮かべていた。まぁ最近の買取相場だと、コアクリスタルって一つ100円程で買い取られてるからな。最初の頃と比べると、ホント買取額が落ちたよ。

 まぁ沙織ちゃんの方はドロップアイテムは無いみたいだし、コアクリスタルでも出るだけマシなんだろうけどさ。モンスターと必死に戦っても100円か……今から探索者を始める新人さんには辛い話だよな。


「お疲れ様2人とも。大樹から聞いていたけど、見事な手際だったよ」

「そうね。暫く見てなかったけど、2人とも随分成長したみたいね」


 久しぶりに美佳達の戦闘を目にした裕二と柊さんは、小さく拍手をしながら2人の行った戦闘を褒める。俺も出来るだけ詳しく報告はしていたが、やっぱり百聞は一見にしかずって所だな。実際に目にした裕二と柊さんは、軽く驚いた様な表情を浮かべていた。

 仕込んでいた武術の基礎や探索者としての基礎が、探索者として経験を積んだ事で花を咲かせ始めたって感じだからな。表層階の単体モンスター相手の戦闘なら、十分な練度だろう。

 

「ははっ、私達も夏休みで頑張りましたから!」

「ありがとうございます」


 美佳と沙織ちゃんは照れ臭そうな表情を浮かべながら、裕二達の称賛を受け取っていた。いやホント、俺達は色々とアレだから比較対象としては適さないけど、一般的な探索者と比べると飛び抜けた成長率だと思う。今は安全第一の方針でダンジョン探索をさせているけど、他の探索者達のような多少の無茶をする様な探索スタイルなら、今頃14、5階層辺りまで潜れてるんじゃ無いかな?

 まぁ尤も、そんな無茶をしていたら流石に俺達も無理矢理にでも一時停止させるだろうけどさ。

 

「よし、とりあえず初戦も無事終わった事だし、この調子で何度か戦いつつ先に進もう。肩慣らしをしつつじゃないと、いきなり大多数の敵と戦うってのはキツいだろうからな」

「そうだな。徐々に数を増やしつつ、って方が良いだろう」

「と言うわけだから美佳ちゃん沙織ちゃん、この調子でモンスター達と戦いながら先に進みましょう」

「「はい!」」


 無事、肩慣らしの初戦を終えた俺達は、再びモンスターを探し求めダンジョン内を歩き始めた。今日は運が良い?みたいだし、意外と早くモンスター部屋まで行けるかもな。






 ダンジョンに入って凡そ4時間、俺達は8階層の階段前広場に到着した。うん、4時間で8階層まで到達してしまったのだ。適度な纏まった数のモンスターを探しつつ、モンスターと戦闘を行いつつである。

 何でだろ?今日は本当に運が良いようだ。


「凄く順調に進んで来れたな、今日は」

「ああ、怖いぐらい順調だったな」

「夏休みと違って学生探索者が少ないとは言えホント、何でこんなに順調に来れたのかしら?」


 余りの順調さに若干の薄気味悪さを感じつつ、俺達は階段前広場で休憩を取る準備を進めていた。食事休憩を兼ねた、大休止を取るつもりだ。


「普段と比べて、移動の流れから降りる人が少なかった様に感じたから、丁度企業系探索者の活動階層変動のタイミングだったんじゃ無いかな? ソレと学生探索者が減ったタイミングとがかち合って、今みたいな感じになったとか……?」

「ああ、ソレあるかも。そう言えば夏休み辺りから、浅い階層の所で活動していた企業系探索者の人達の姿が段々減ってきてたもんね」


 美佳と沙織ちゃんの話を聞き、一つの推測が俺の頭を過ぎった。もしかして夏休み期間辺りで、ダンジョン系企業の新人育成期間が終了し、活動階層が下の階層に移動したのでは無いかと。4月辺りに探索者経験の無い新人が入社し、新人探索者として浅い階層で教育が行われていたとしても既に半年。混雑のせいで中々モンスターと出会えずレベル上げがし辛いとはいえ、教育期間としては十分すぎる期間だろう。会社員が仕事として潜るのなら、学生とは段違いに時間が取れるだろうからな。

 その分の人員と、夏休み明けで探索に来ていない学生探索者の数を考えれば……確かに今のエンカウント率にも納得出来るかもしれない。一階層内で活動する人が減れば、自然とエンカウント率もあがるだろうからな。


「もしそうだとしたら、ホントに運が良かったんだな」

「ああ」

「そうね」

 

 とは言え、逆に言えば中階層域に探索者が多く存在するようになったと同義だ。表層階での活動はしやすくなるだろうが、今度は中階層域での移動や活動は混雑するだろうな。まぁ自然の流れと言えば自然の流れなんだろうけどさ。

 今回はたまたまタイミング良く隙間に滑り込めた、そう思って置いた方が良いだろうな。次も次も何て期待してると、先ずその期待は裏切られるだろうからな。


「まぁ答えは出ないだろう疑問はこの辺りにして、お昼にしようか?」

「そうだな……」

「そうね……」

「うん!」

「はい!」


 と言うわけで、擬装用のバッグから厚手のレジャーシートを取り出し広場の壁際の隅に敷く。少なくない人通りなので、変な所に敷くと邪魔になるからな。

 敷き終えたシートに俺達は腰を下ろし、各々持ってきた昼食を取り出す。


「大樹はサンドウィッチか、コンビニの」

「うん、嵩張らず手軽に食べられるのが一番だからね。そう言う裕二は、コンビニお握り?」

「ああ、日帰り探索だしな。特に拘った物を持ってこなくても良いだろ?」

「まぁ、数時間の探索だしね」


 と言うわけで、俺と裕二は包装ビニールを剥がし昼食を取る事に。

 一方、女性陣の方はと言うと……。


「あら? 美佳ちゃんのソレは手作り?」

「はい、朝早めに起きて作りました! と言っても、海苔で真っ黒なお握りの詰め合わせなんですけど……」

「自分で作れるだけ凄いわ。それにダンジョンでは戦闘とかするから、色とりどり凝った飾り詰めをしても荷物の中で暴れて崩れるのがオチよ」

「そう、ですよね!」


 海苔巻きお握りで真っ黒な見た目のお弁当に、恥ずかしそうな表情を浮かべる美佳。柊さんは崩れやすい下手な飾り付け弁当よりマシだと、褒めたり慰めたり?していた。今日は珍しく先にリビングに居たと思ったら、そんな事をしていたのか……。

 そう言えば昔、幕の内系のコンビニ弁当を持ってきた探索者達が、グッチャグッチャに掻き混ぜられている弁当を微妙な顔をしながら食べている所を見た事あったな。確かにあんな顔して食べるくらいなら、見た目真っ黒でもちゃんと単体料理として味わって食べられるお握り弁当の方がマシだ。


「沙織ちゃんは、クラブハウスサンドね」

「はい、お母さんが作ってくれました。オマケでフライドポテト付きです」

「あら、良いわね」

「はい。でも、美佳ちゃんみたいに手作りの方が良かったかもしれませんね……」


 沙織ちゃんは少しバツが悪げな表情を浮かべながら、視線を手元のクラブハウスサンドに落とした。

 いや、別に手作りに拘る必要は無いだろうから、悪く思う事は無いと思うよ?


「そう言う雪乃さんはって、凄く品数が多いですね。手作りですか?」

「手作りと言えば手作りなんだけど、ウチのお店の余った物を貰って詰めてきただけよ」

「へー」


 どうやら柊さんも、手作り弁当?を持参してきていたらしい。

 そして女性陣は楽しげに会話をしながら、お弁当を突き始めた。何だろ?急に俺と裕二のお昼が侘しい物のように見えてきたな……。


「……美味いよな?」

「ああ、美味いよ」


 俺と裕二は言葉少なく無心になって、早々にお昼を食べ終える。何か知らないけど、敗北感を感じる昼食だった。今度来る時は、上のダンジョン食材使用の高級レトルト食品を買って持ってこようかな?

 そして1時間ほど昼食休憩を取った後、俺達は再びダンジョン探索を再開する。と言っても、目標はもう目の前、腹ごなしの戦闘を挟んでから本番に臨むとしよう。






 目標のモンスタートラップがある部屋の近くまで、俺達は順調に進んできた。ただし、ウォーミングアップの為にモンスターと戦っておきたかったのだが遭遇はしなかった……まぁ無理に戦う必要も無いだろう。

 

「確かここら辺……いや、もう少し先だったか?」

「いやいや、確かこの辺りの筈だ。だけど大分前の事だからな……少し曖昧だな」

「私も確かこの辺りだったと思うわ……少し自信無いけど」


 何せ何ヶ月も前の出来事だ。それ以降にも色々と色濃い出来事が幾つもあった為、憶えている気ではあるのだが、段々と自信が薄れてくる。多分コッチで良い筈だ、きっと、多分だ、だと良いな……。

 そんな不安に満ちた俺達の道案内の元、美佳達を先頭にしダンジョン内を歩いて行くと、遠くの方から音が聞こえて来た。激しい足音や、何かがぶつかり合う音、そして……断末魔。


「進行方向の先から聞こえてくるな……」

「ああ、結構な数の集団が戦ってる音だな」

「この先には……どうやら進む道は正解だったみたいね」


 若干早歩き気味になりつつ、俺達は音が聞こえる方へと足を向ける。

 次第に聞こえてくる音は大きく成り始め、雑多な音が響き渡る中から人の声を聞き分けられる様になってきた。声が聞こえてくるのは……俺達が目的地にしていたゴブリンが大量に出現するモンスタートラップ部屋だ。


「拙い、何体か後ろに回り込んでくるぞ!」

「俺が後ろに回ってくるヤツを叩く! 少しの間、ココをカバーしてくれ!」

「了解、でも急いで! 余り長く掛かると押し込まれちゃうかもしれないわ!」

「急いでくれよ!」

「分かってる、少しの間頼む!」


 どうやらゴブリン集団との戦闘に、少し苦戦しているようだ。予想外に出現したゴブリンの数が多かったのか、まだ低レベル帯の新人探索者パーティーが無茶をやっているのか……理由は分からないが、このまま一声も掛けないまま見学するのは拙そうだ。

 そう思って俺は手助けの可否を確認する為の声を掛けようと小さく息を吸っていると、部屋の中の探索者から悲鳴というか愚痴?が聞こえてくる。


「クソ! 何時もより出てくる数が多い! 何で今日はこんなに多いんだよ!?」

「さぁな!? 珍しく誰も順番待ちしているパーティーがいなかったからラッキーだと思ったけど、とんだ厄日だぜ!」

「そうね! 何時もみたいに順番待ちしているパーティーが居てくれたら、戦う手助けを求められるのに、もぉ!」

「お前等! 無駄口叩いてないで、手を動かせ手を!」


 どうやら、戦闘の手助けを求める意思はありそうだ。

 しかし……俺達の場合は単純に人が減って、エンカウント率が上がってラッキー程度に思っていたが、人が減るという事はこう言うデメリットもあるんだな。
















誰かにとっての良いは、誰かにとっての悪いですかね?


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしくお願いします。


■■■ コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしくお願いします! ■■■


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 客観性が高くて、この話に限らず楽しく読ませてもらってます。 少し恋愛要素か無双要素を入れ込むともっと盛り上がりそうではありますが。 [気になる点] 余計なお世話ではあるんですけど、「移動し…
[一言] 実力が伴ってれば獲物が多くて成果も出やすいけど 伴わなければ苦戦したり最悪死に直面するのがダンジョンってことですね まさに弱肉強食
[一言] 魔物部屋は、美味しい場所としてずっよ使われてたということか。 主人公たちは魔物部屋を独占してレベル上げしようとしたんだろうけど、そうはいかないっぽいな
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