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第366話 よく新商品が並ぶ売店だ

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 俺の目にとまったソレは、乳白色をしたタバコ箱サイズの長方形の代物だった。ポップに書かれた商品説明文を読んでみると、何でもレッドボアの肉から抽出した脂を使って作った石鹸らしい。手に取ってみると、それなりの重量感がある。

 いわゆる、馬油石鹸とかの獣油系石鹸ってか?


「へー。モンスター食材って肉を食べるだけじゃなくって、こう言った利用法もあるんだな」


 確かに考えてみると、似たような利用法が前例としてある。となると、試してみようって考える人もいるよな。更に商品説明文をよく読んでみると、油脂性の汚れに対して特に強い洗浄力を発揮するらしい。油脂……襟回りの汗染みとか?

 そう言えば母さんが、襟周りの汚れは洗っても落ちづらいて言ってたし、試しにお土産として買って帰ってみるのも良いかもしれないな……。

 

「他にも何種類か置いてあるな、オオカミ石鹸にウサギ石鹸……」


 試せるだけ試して作ってみました、といった感じのラインナップだ。ビニールパッケージの表面には、それぞれ使用したモンスターの姿がデフォルメされたキャラが書かれており、一目で何石鹸か分かる様にされていた。

 どうやらそれぞれ落とす汚れの得意分野が分かれているようで、目的に適した石鹸を使うのが良さそうだな。


「成る程な。とは言え、ミノウシ石鹸の血汚れを良く落としますって特性は、探索者以外にはどんな層に需要があるんだ? しかも、無駄?に高いしさ」 


 一番安いオオカミ石鹸でも一つ千円はするし、ミノウシ石鹸に至っては一万円近い。洗濯用として気軽に使うには、少々高価な品である。日用品と言うより、完全にお土産商品だな。

 まぁ原材料を考えると、一概に高いとは言い切れないんだけどさ。

 

「他には……」


 手に持っていた石鹸を棚に戻し、俺は別の商品を見て回る。次に目に止まったのは、布生地。20センチ四方の大きさの布生地が、1万円を超える値段で売られていたからだ。おいおい、こんな小さな布生地が1万円? どう言う価格設定だ?

 俺は驚きつつ、商品説明の書かれたポップに目を通す。


「えっと……ホーンラビットの毛を使ったハンカチ?」


 布生地、商品的にはハンカチに分類されるようだ。軽く手に持ってみると、肌触りが良いのに薄く軽い。そしてこのハンカチの原料がホーンラビットの毛ならば、防刃繊維並みの強度もある筈だ。……ハンカチか、これ? 

 少々気になり試しに軽く引っ張ってみるが、軽く引っ張る程度の力では伸びる気配も無い。まぁ銃弾を弾くモンスターの毛だからな、軽く引っ張る程度では伸びないよな。


「コレを服の裏地に使ったら、普通に防刃防弾服が作れそうだな」


 モンスター相手だと少々心許ないが、ナイフを持った暴漢相手なら十分な防具になりそうだ。仮にハンカチのまま胸ポケットに入れてたとしても、映画のワンシーンの様に、コレ(ハンカチ)のお陰で銃弾が止まって助かった、とか出来そうだよ。 

 ……と言うよりコレ、お土産コーナに置くよりソレ系の企業に素材として回した方が良い代物なんじゃないか? まぁ、既に回ってるかもしれないけど。


「……流石にクマ布は無いか」


 石鹸同様、色々な種類のモンスター毛の布生地が置かれていたが、流石に20階層を超える高レベル帯に出現するモンスターの品は無かった。まぁ置いてたとしても、何十万円もしそうだし置くだけ無駄だよな。お土産にするにしても、クマ生地のハンカチってのはね?

 とは言えだ、流石にハンカチ1枚に万札を出すのは高いと思う。こんな売店に置いておいて、誰が買う事を想定しているんだろう?


「……探索者らしいお土産と言えばお土産にはなるんだろうけど、気軽に誰かに渡すにしては高価すぎるよな」 


 何かの記念の品といった感じなら有りなのだろうが、気軽に渡すような品にはならないって。

 ……もしかしてホントに映画のワンシーンの様に、探索者が購入して懐に忍ばせておいたらどうですか?って感じの品なのだろうか? でもそうなると、ハンカチじゃなく防具扱いだよな。


「お守りと考えれば……まぁ、それでも高いよな」


 俺はハンカチを元の場所に置き、少々1カ所で時間を使いすぎたと思い顔を上げ周りを見回す。すると、既に裕二も柊さんも美佳達が向かったダンジョン食材コーナーにかなり近づいていた。

 うーん、もう少し他の商品を見ていたいけど、先に皆と合流するか。他の品は、後で皆を誘って観に来れば良いしな。と言うわけで、一旦工芸品コーナー?を離れ美佳達と合流する事にした。






 通路の棚の商品を軽く流し見しながら早歩き気味に移動し合流してみると、美佳と沙織ちゃんはダンジョン食材を使ったレトルト食品を眺めながら盛り上がっていた。

 なお、漏れ聞こえてくる感想の殆どは、予想外に高額な価格設定についての驚愕の声ばかりだ。


「おーい、どうした2人とも? あんまり大きな声で騒いでると、店員さんに怒られるぞ?」

「あっ、お兄ちゃん! ねぇねぇ見てよコレ、レトルトカレーなのに凄い高いよ!」


 声を掛けると美佳は俺の姿に気付き、手に持っていたレトルトカレーを見せつけてくる。カレーのパッケージにはデフォルメされたミノタウロスのキャラが描かれており、ミノ肉を使ったカレーである事を示していた。


「ん? ああ、それか……まぁ食材が食材だからな。まぁ安くは無いけど、妥当な値段じゃ無いか?」

「えっ、コレで妥当なの!?」

「まぁミノ肉の買い取り価格を考えれば、加工費なんかを含めるとそんな物だろな。結構旨かったぞ?」

「えっ、食べた事あるの!?」

「ああ、1回だけな」


 味の感想を伝えると、美佳は買ったの!?と驚いた表情を浮かべる。前回ココを訪れた時に味見がてらに購入した……購入させられたからな。美味いは美味かったのだが、値段に相応しい味かと聞かれると、そこまでグルメに詳しくない俺では判断出来ない。

 まぁ個人的な感想としては、コレを一つ買って食べるより、チェーン店の安い牛丼を腹一杯食べた方が良くないか?である。一応育ち盛りの高校生だからな、俺。


「九重先輩、じゃぁこっちも食べた事あるんですか?」

「こっち?」


 美佳と話していると、別の商品を手に取った沙織ちゃんが話し掛けてきた。沙織ちゃんが見せてきたのは、オークと生姜のデフォルメイラストが描かれた商品。つまり、オーク肉の生姜焼きである。

 こんなのも売られ始めたんだな、前回見た時は並んでなかったぞ。


「ああ、ソレは食べた事無いね。前回来た時は見掛けなかった商品だから、最近発売された新商品かな?」

「前回は並んで無かったんですか?」

「ココ自体が出来たのも、そう昔の事じゃ無いからね。今は色々な商品を色々仕入れて、お客の反応を試してるって所じゃ無いかな?」

「と言う事は、商品棚のラインナップを定期的に変えられる位のペースで新商品が作られているって事ですよね?」

「んー、そうなるのかな?」  


 沙織ちゃんの言う様に、定期的に新商品が仕入れられるという事は、常に様々な企業が新商品開発を続けていると言う事だ。ダンジョン食材を使った食品が、である。これは、それだけダンジョン食材が世間に浸透し始めていると言う事の証拠だ。

 購買需要が無ければ、ドコも新商品なんて作らないからな。 


「ねぇねぇ、お兄ちゃん」

「ん、どうした美佳?」

「私思うんだけどさ、こう言う食品系の資料集めってさ。味の感想も添えた方が、見る人の興味を誘えると思うんだけど……」

「……おい」


 美佳はチラチラと俺の視界の隅でカレーの箱を動かしながら、若干上目遣い気味に意味深な事を口にし始めた。いや、まぁ何が言いたいのかはすぐに察せるけどさ。

 俺はそんな美佳の行動に軽く溜息をつきながら、右手の人差し指でこめかみを掻きながら口を開く。


「別に良いぞ。但し、味の感想を添えたいというのなら、資料調達は自費だぞ?」

「ええー」

「ええー、じゃない。お前いま、俺に買わせる気だったろ?」


 半目で商品は自腹で買えよと伝えると、美佳は不満そうな表情を浮かべ抗議の声を上げる。当たり前だ。別にグルメレポートを作るわけじゃ無いんだ、文化祭の発表に味の感想は載せなくても良いんだからな。大体、幾つ商品の味の感想を載せる気だ? ダンジョン食材を使った商品を資料として集めるのなら、下手をしなくても軽く万札が飛ぶ事になるんだぞ。

 俺は美佳の抗議を黙殺しつつ、視線を沙織ちゃんに戻す。


「さて、話は戻すけど沙織ちゃん、良い所に目を付けたね。新作レトルト商品の販売スケジュール、調べて見ると面白いかもしれない」

「ですよね。私、新商品の販売スケジュールや傾向で、どれくらい世間や業界にダンジョン食材が浸透しているか見えてくると思うんです!」

「ああ。新商品の月別販売数をグラフにするだけでも、面白い発表が出来そうだ」


 多分、今年の4月5月辺りから急激に増えていってるだろう。その辺りから結構、スーパーとかでもダンジョン食材とかが並び始め良く目にするようになったからな。

 そう考えると、ダンジョンが出現して1年、民間向けに解放されて半年……浸透するの早くないか?


「……何か一瞬怖い想像が浮かんだけど、まぁその線で調べて見るのは面白いと思うぞ?」

「ですよね! じゃぁ私、この線で資料集めしてみようと思います!」

「うん、頑張ってね」

「はい!」


 と言うわけで、沙織ちゃんの資料集めの方向性が決まったようだ。となると、問題は……。

 俺は視線をずらし、気拙気な表情を浮かべ手に持つレトルトカレーをどうしようか悩んでいる美佳に声を掛ける。


「そう言うわけだ美佳、沙織ちゃんは資料集めの方向性が決まったみたいだぞ? お前は如何するんだ、頑張ってグルメレポートを載せるか?」

「えっと……」


 俺の問い掛けに美佳は困ったと言った表情を浮かべながら、周りを見回し打開策を探り始めた。

 そして数秒辺りを見回した後、何かを見付けたらしい美佳は輝くような表情を浮かべながら声を掛ける。

 

「雪乃さん、裕二さん! 遅いですよ」

「あら、待たせちゃった?」

「すまない、ちょっと色々見てたら遅れちゃったみたいだな」


 どうやら美佳が見付けたのは、裕二と柊さんだったらしい。まぁ俺が見た時も、2人は側まで来ていたからな。美佳には、どうやら逃げ切られたようだ。

 そして2人は軽い感じで合流が遅れた事を謝罪しながら、ユックリとした足取りで近寄ってきた。


「はぁ……何か面白いものは見付かった?」

「あぁ、そこそこあったぞ。前来た時には無かったから、多分新商品だな」

「コッチも同じよ、新製品が追加されてたわ」


 どうやらこの売店、今は色々と商品ラインナップを模索中らしい。利用する方としては、来店する度に目新しい商品が並んでいるのはありがたいが、定期的に品替えをする店員さんは大変だろうな。

 俺は2人に入れ替わった商品の話を聞き終わった後、自分が見付けた新商品?の話をする。


「へぇー、そう言った利用法もあるんだな。肉は食べる物とばかり思ってたから、固定観念で凝り固まってたな」

「確かに今までに似た利用法があった以上、ダンジョン食材でも同じように応用利用出来る筈よね。思考が硬直していたと言われても、反論出来ないわ」


 モンスター油脂石鹸の話を聞き、裕二と柊さんはそう言った利用法があったのかと、意表を突かれたと言った表情を浮かべていた。

 無理も無い、俺も気付いた時は、こう言う使い方もあるのか!って思ったからな。モンスター肉なんて、換金か食べる事ばかり考えていた。


「でも、モンスター由来の脂でそう言った特性の石鹸が作れるのなら、私も草から取った油で作ってみようかしら? 普通の石鹸でも、獣由来の油は獣臭さが出るって言うし、植物由来の油ならその点は大丈夫だろうから……」

「柊さん、作るのは良いけどまだ表には出さないでね? 現状だと、材料が色々とアレだからさ……」

「分かってるわよ。作ったとしても、自宅用で使う分だけにしておくわ」


 言う必要は無かったのだろうが、俺は小声で念押しをしておく。柊さんが言う植物油とは、30階層にある草が原料だからな。材料がバレたら大騒ぎになるかもしれないしさ。

 でも、あの植物油を使った石鹸か……売るとしたら材料の希少性で1万円を超えるんじゃないか?


「じゃぁ皆、折角だし見付けた物を見て回ろうか?」


 そして30分ほど皆で売店巡りをした後、俺達はダンジョン利用の受付を行う為に売店を後にした。いやぁ売店は色々と面白く参考になった、実に良いネタが転がっていたよ。俺達はダンジョン探索前に成果を上げた事で、ホクホク顔を浮かべていた。

 とは言え、これからが本番だ。気を引き締め直さないとな。
















ブームが起きると、すごい勢いで同ジャンルの新商品が出てきますよね。


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしくお願いします。


■■■ コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしくお願いします! ■■■


挿絵(By みてみん)

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[一言] モンスターの皮製ペナントが無くて良かったと思わなきゃ キーホルダーとかハンコとかも…… 探索者のレベルが全体的に上がれば木刀なんかもラインナップに(笑) でもコアクリスタルの融合加工が出来る…
[一言] 石鹸の感想で、自分達は魔法で済ませているからか、装備の洗浄と言う点に考えがいかないのに笑いました。 植物油なら固形ではなくボディーソープのような液体系の石鹸ができそう。でも、可燃性が高いとい…
[良い点] ダンジョン産新商品とっても楽しかったです 映画みたいに窮地を救うハンカチかっこいいですね [一言] 入朱難易度高いけど自宅にたくさんある草の油 漁師家にたくさん高級海産物があるみたいで、…
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