第364話 チーム分け、かな?
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チャイムが鳴ると同時に、俺はシャーペンを置いた。勉強会の効果もあり、何とか夏休み明けの確認テストは全て乗り切った……多分な。テスト結果は週明けの最初の授業時間に帰ってくるとの事だが、夏休みを遊びほうけていた連中は頭を抱え机に突っ伏しながら戦々恐々としている。
テスト内容自体は面倒な引っかけ問題も無く、軽いおさらいといった感じのモノだった。必死こいて一学期に習った範囲を一夜漬けで思い出していれば、赤点は避けられる程度の難易度だと思う。まぁ、夏休みの宿題を提出し損ねてた連中は、救済措置で定められた提出日と同時進行だったので地獄を見ただろうがな。
「終わった……」
解答用紙が回収され、監督官の先生が教室を出て行ったのを確認してから、俺は背伸びをし小さく呟く。特に難しい内容では無かったが、やっぱりテストという事だけで肩が凝り緊張するな。
とまぁそんな風に解放感を味わっていると、何時の間にか俺の席の隣に誰かが立っていた。
「随分余裕そうだな、九重」
「? ああ、重盛か。どうした、そんな微妙そうな顔して?」
「いやな? 周りが死屍累々って状況の中、一仕事終えたって感じのお前にテストの手応えを聞こうと思ってな?」
「死屍累々……」
改めて自分の周りの席の様子を見渡してみると、皆一様に机に突っ伏し負のオーラを発していた。ああ確かにコレは、死屍累々って状況だな。そら、俺一人が平然としてたら目立つか。
ああそう言えば俺の周りの席の連中って、昨日夏休みの宿題を提出していない組だったっけ?
「で、どうだったんだ? 特に内容自体は難しくは無かったとは思うんだが……」
「そこそこ良い感じには出来たと思うぞ? 昨日、部活のメンバーで勉強会をしてテスト対策もやったからな」
「部活のメンバーって事は、何時もの面子に妹ちゃん達後輩組とか」
「ああ。1人でやるより、互いに習い教えあった方が思い出すからな。良いサビ落としになったよ」
実際勉強会をやってみると、結構忘れている部分が多く見付かったからな。人がした質問を自分に当てはめてみると、俺も忘れたり勘違いしている部分が見えてきたって感じだ。意地を張って1人でやっていたら、今回のテストで取り溢しが多かったかもしれないな。
やってて良かった勉強会、って感じだ。
「そうか……」
「ああ。で、そう言うお前は如何なんだ? 何時もみたいに、ヤマ張りしてたのか?」
「いや、流石に今回のテストは範囲が広いかな。広く浅くって感じで勉強してたよ。まぁ、赤点は回避できるんじゃないかな?」
何だろ……周りの状況を鑑みると、赤点は回避出来るという消極的な筈の言葉が、凄く立派な名台詞のように聞こえてくるな。そんな風に気軽に考えていたのだが、周りからの鋭く恨みがましい視線に気付き俺は考えを変える。やば、ココでする話じゃ無いかも、と。
何故なら、先程まで机に突っ伏していた周囲の席のクラスメート達が、俺と重盛を負のオーラを発しながら無言で睨み付けていたからだ。いやいや怖いって、ちょっとしたホラーシーンだぞ?
「そっか……ああそうだ重盛、ちょっと裕二の様子を見に行かないか? アイツも、どの程度出来たのか気になるしさ」
「そ、そうだな。行ってみるか」
負の視線で居心地が悪くなってきた場から逃げようと俺は移動を提案し、周囲の空気が悪化したのを察したらしく若干焦り気味の表情を浮かべる重盛は素直に頷く。
やばいやばい、逃げるが勝ちだな。暫くしたら皆も落ち着くだろうし、今は逃げるとしよう。
テストも終わり放課後、俺達は部室に集まった。美佳達もホッとしたような表情を浮かべているので、テストはそこそこ手応えはあったらしい。まぁ昨日勉強会もしたので、赤点は取らないだろう。
お陰で部室には、一仕事終えたと言う安堵の雰囲気が広がっている。
「さて、皆の様子を見るにテストの方は大丈夫そうね」
「ええ、まぁ何とか」
「じゃぁ、文化祭に向けて動き出しましょうか」
何とかなったなといった雰囲気を醸し出す俺達の様子を見て、橋本先生は安堵したような表情を浮かべる。まぁ自分が受け持つ部から赤点者を出すのは、顧問教師としては頭を抱えたくなる問題だろうからな。余りに多くの赤点者を出したりしたら、部活指導に問題があるんじゃ無いかと言われかねない。部活がきつくて生徒は学業を疎かにしているのでは?とか言われたりしてさ。
だけど、今回のテストは全員クリア出来そうなので、橋本先生も安心して文化祭に注力できるだろう。
「基本方針は昨日の内に決まったけど、具体的な内容を簡単に決めましょう。アッチコッチに無作為に手を広げていると、折角集めた資料も最終的には纏めきれず……って事になりかねないわ。ある程度方向性だけは決めておきましょう」
「確かにそうですね。一言で影響調査と言っても、身近な所から政治的経済的な話までと範囲が広すぎます。ある程度方向性を絞っておいた方が、後々資料は纏めやすいでしょうね」
まぁ美佳達が進んで政治経済分野に手を出すとは思わないが、一応方向性は定めておいた方が良いだろう。興味が赴くまま方々に手を広げた結果、薄く広く資料を集めてしまい纏めてみると余り面白くない内容にしかならなかった、では折角の文化祭で疲労感しか残らなくなってしまうからな。
それに折角作るのなら、内容の面白いモノに仕上げたい。何せ俺達2年生組が作る方は、ガチガチの税金話を纏めるモノだ。今からドコの税務署の資料だ? って言われるのが目に浮かぶよ。
「ええ。それで皆に聞きたいのは、どう言った方向性で作るのかって事よ。何か意見はあるかしら?」
そう言いながら、橋本先生は俺達の顔を一瞥する。俺達は一瞬顔を見合わせた後、順番に意見を口にする。
先ずは俺達3人からだな。
「展示を観に来る人達に興味を持って貰う為にも、身近なものをテーマにした方が良いじゃないんですか? 例えば……ダンジョン食材を利用した料理とかどうでしょう? 最近は色々なお店でメニューに使われていますし、丁度良いかと思います」
「俺は最近ニュースにもなった、コアクリスタル発電系も良いと思います。発電系という生活にも直結しますし、コアクリスタル発電の普及次第で幾らくらい電気料金が安くなるとか、皆興味が出ると思いますよ」
「私は実家が飲食店をやってますので、ダンジョン食材利用系の話でしたら現場の声という形で協力できると思います」
俺と柊さんは食品系を推し、裕二はコアクリスタル発電系を推す。食品系は身近なモノなので、観覧客の興味を集めるには入りやすいテーマだと思う。コアクリスタル発電系にしても、裕二が言うように最近よくニュースで取り上げられるテーマだ。具体的な利用価格変動の話などは、生活に密接している問題なので十分に観覧客の興味を惹けるテーマだと思う。
そして俺達3人の意見を手元の紙に頷きつつ書き留めた後、橋本先生は美佳達の方に意見を求めるように視線を向ける。
「私は……ダンジョン産の素材を使った小物系の話なんかも良いかなって思います。最近皆、クラスの友達とかダンジョン産素材を使った小物を集めてる話をしてるから、話題性はあると思います」
「モンスターの毛皮や繊維を使った、服飾系の話なんか如何でしょう? 何処かのネットニュースで見たんですけど、毛皮や繊維の強度を活かして防刃防弾服を作ってるって記事を見た事あります」
「私は人の動きを調べてみたいなと思います。ダンジョンが出現したお陰で、新規雇用が創出され失業率が低下したって聞きますけど、本当にどの程度新規雇用が創出されたとか、失業率が改善されたのかとかって事を……」
「私は……世界にどのくらいの数のダンジョンが出現しているのか調べてみたいかな? 世界中に一杯あるってニュースでは良く聞くけど、どの国にどのくらいあるのか詳しくは知らないから」
美佳と沙織ちゃんは身近な利用品の話で、館林さんと日野さんはダンジョンが与えた社会的影響の話か……結構対称的な意見が出たな。美佳達のテーマは俺や柊さんのように身近なモノを題材にしたテーマだ。観覧客の興味を惹きやすいし、資料集めもソコまで時間は掛からなそうだ。逆に館林さん達のテーマは裕二と同じく、社会的影響がテーマだ。調べるには多少時間が掛かる上、もう一つ税金をテーマにした展示もあるので、ウチの部の展示自体が堅苦しいと観覧客に感じられるかもしれない。
そして全員の意見が出たのを確認し、橋本先生は書き込んでいた手元の紙から視線を上げる。
「一通り意見も出たわね。コレを見ると……九重君達が身近なモノへの利用法で、広瀬君達が社会的影響って感じね。どちらのテーマも面白いと思うわ。でも……」
橋本先生は一瞬言い淀んだ後、困ったような表情を浮かべながら裕二達の方に視線を向け口を開く。
「広瀬君達のテーマだと、もう一つの税金関係の話と合わせると展示物全体が少し堅くなりすぎるように思えるわ。観覧客受けを狙うのなら、九重君達のテーマの方が良いんじゃないかと先生は思うわ」
「確かに税金と社会的影響ってテーマの展示物が二つだけだと、少し堅くなると思います。ですが、両方を採用した場合は如何でしょう?」
申し訳なさげな表情を浮かべながら若干否定的な意見を出す橋本先生に、裕二は予想していたと言いたげな平然とした表情を浮かべながら代案を口にした。
「両方……それは3つ展示物を用意するという事かしら?」
「はい。時間も人手もありますし、無理では無いと思います。折角意見が出ていますし、可能ならやってみるのも良いかと」
「……そうね。時間も人手もある事だし、やる気があるのならやってみるのも悪くは無いかもしれないわね」
何が何でも否定したいという訳では無い橋本先生は、裕二の意見を聞き納得した様な表情を浮かべながら顔を俺達の方に向けた。
ああ、俺達で決めろって事か? まぁやるのは俺達なんだから、当然と言えば当然か。俺は問い掛けられた皆の顔を一瞥し、意見を聞くというか端的に答えを尋ねる。
「やるか?」
「まぁ、良いんじゃないかしら?」
「「「「やる!(やります!)」」」」
俺の問い掛けに柊さんは平然と答え、美佳達は生き生きとした表情を浮かべながら返事を返してきた。初めての文化祭という事もあり、美佳達はやる気に満ちているようだ。
気合い十分なのは良いが、あんまり仕事を抱え込むと後で泣きを見るぞ? 文化祭ってのは、部活の出し物だけじゃなく、クラスの出し物もあるんだぞ?
「じゃぁ決定ね。今回の文化祭では、ウチの部は税金がテーマの展示物と2つの方向性の展示物を作りましょう。それぞれの展示物の責任者は、広瀬君と柊さんで良いかしら? 九重君は税金がテーマの展示物の責任者をやって貰いたいんだけど……」
橋本先生が俺達3人の方を見ながらそんな提案をしてきたので、俺達は軽く頷きながら返事を返す。
「ええ、良いですよ」
「俺も構いません」
「私も大丈夫です」
「ありがとう。じゃぁ九重さん達は、広瀬君や柊さんを中心に展示物の製作を頑張ってね」
「「「「はい!」」」」
と言うわけで、当初2つ出品するつもりだった展示物が、方向性の違いにより3つ出品する事になった。まぁまだ時間も人手もあるから大丈夫だけど、一つの部で展示物を3つも用意するのは苦労すると思うんだけどな……まぁ美佳達もやる気に満ちてるし、やるしかないか。
俺はそんな事を思いながら、横目で裕二達のやり取りを眺める。
「まぁそう言う訳だから、文化祭までよろしくね。館林さん、日野さん」
「はい。広瀬先輩、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
絡みが少ない後輩達との作業責任者を任され少し照れ臭そうな表情を浮かべる裕二に、やる気に満ちた和やかな笑みを浮かべている館林さんと日野さん。橋本先生に自分達の意見が却下されそうになったのを裕二が擁護したのがポイントになったのか、裕二が責任者につくのを館林さんと日野さんは好意的に受け止めているようだ。
「美佳ちゃん沙織ちゃん、よろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」
「一緒に頑張りましょう!」
コチラも気合い十分といった様子で、展示物作成に意欲を見せている。
あの、一応俺もソッチ組の筈だけど……忘れられてるのかな?
「うんうん、皆良い感じだね。じゃぁ文化祭で良いモノが出せるように頑張りましょう!」
「「「「「「はい」」」」」」
「……はい」
橋本先生の激励の言葉に、皆で気合いが入った返事を返す。……あれ、何だろ? 部全体で一丸となっている雰囲気なのに、何故か1人だけのけ者にされちゃってるこの感じ……気のせいだよな? うん、きっと俺の気のせいのはずだ。
……うん。明日は日帰りでダンジョンに行く予定だし、少し頑張っても良いよね?




