第362話 次のイベントに向けて
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もしかしたら俺達が集団退学の原因の一端をになったかもしれないと思い至った俺は、少々不安げな表情を浮かべながら裕二と柊さんに視線を向ける。すると俺と同じ事を思ったのか、裕二と柊さんも少々頬を引き攣り気味に不安げな表情を浮かべていた。
まぁアレだけ派手にやったんだし、その可能性はあるよな……。
「驚かないの?」
「何となく、かもしれないなとは思っていたからな」
想定内だと静かに頷いた事に、美佳は少々不満げな表情を浮かべる。
「そっか、私達はその話を聞いた時は目を見開いて驚いたんだけどな……」
「まぁ何だかんだ言って、1年生での出来事だからな。学年が違えば、所詮は遠い他人事だよ。まぁ俺達の場合、美佳達の件もあってそうそう他人事では無いけどさ」
「それにしては反応が薄いよ、もう少し驚いてくれても良いじゃない?」
「ははっ」
俺は不満げな美佳を宥めつつ、集団退学事件?についての詳細を聞く事にした。
「ええと、つまり後藤君を始めとしたお仲間集団の初期メンバーを中心に退学した、って感じで良いのか?」
「うん、大体そんな感じ。所属歴?が浅い子は、学校に残ってる感じかな?」
「なるほどな」
つまり、強引な加入工作をしていた連中が学校を辞めたって感じだな。それで、その勧誘活動に引っ掛かった……断り切れなかった連中は良い機会だと縁切りし学校に残ったって事だろう。
うん、良い具合に分裂したな。多分だけど、初期メンバーの中には引くに引けなくって辞めたってヤツもいるだろうが……まぁ連む連中が悪かったって事だろう。
「なるほど、辞めた子達にはそんな関係があったのね……」
「? あれ先生、学校の方では把握してなかったんですか?」
俺達の話を黙って聞いていた橋本先生が、納得したような感じでポツリと漏らした。
「ええ、辞めた子達が強引な勧誘をしていたグループのメンバーだって事は把握していたわ。でも、2分……と言って良いのかしら? グループのメンバー全員が一斉に辞めた訳じゃ無いから、コレからも何人か断続的に自主退学者が出続けるんじゃないかと学校では考えていたのよ。自主退学するにしても、正式な退学申請書類には保護者のサインが必要だから、その説得に時間が掛かっているだけなんじゃないかってね」
「ああ、なるほど。確かに特定の集団から大量の退学者が出たら、後追いをする者を警戒するのは当然ですね」
「ええ。学校側で把握している彼等のグループ構成人数は、まだ30人近くいるわ。もしこの人数全員が退学する事になれば、学校としてはとてもではないけど許容出来ないもの。10人の集団退学でも大問題なのに、30人近くの生徒が一斉に退学するなんて事になったら……」
橋本先生は頭痛を抑えるように、コメカミを押さえながら重苦しい溜息を漏らした。恐らく、夏休み中に10人分もの退学者を出してしまい、その後始末に奔走した日々を思い出していたのだろう。ホント御苦労様である。
更にこの上、3倍近い30人近くの集団退学者が出てしまったら……うん、修羅場だな。
「でも、今の貴方達の話を聞いていた感じ、その心配も少ないかもしれないと思ったのよ」
「そうですね。さっきの話が本当なら、30人近い集団退学は無いかもしれませんね。でも……」
「ええ、分かってるわ。この話は職員会議にかけて、残ってるメンバーだった子達との面談をすすめてみるわ。袂を分かつって表現が正しいか分からないけど、集団を牽引していたメンバーが離れた今なら、残った子達も何か話してくれると思うしね」
後藤君らの武力?に頭を押さえられ、断り切れず所属していたという生徒相手なら今が説得のチャンスだからな。今まで後藤君らのグループに所属していたせいで、周囲とわだかまりもあるだろうが、今ならまだそのわだかまりも解消出来るはずだ。
わだかまりを解く為の、一番の障害がいないのだから。
「そうですね。そう言えば美佳、残った子達とお前達の間には、何かわだかまりとかはないのか?」
「わだかまり? うーん、特にコレと言ったモノは無いかな? 確かに前は鬱陶しいほど勧誘とかしてきてたけど、それをしてきてたのは今回退学した人達が中心だったからね。確かに勧誘をしてきた時には取り巻きとして一緒に居たけど、何時も申し訳なさそうな顔してたしさ……」
「じゃぁ美佳としては、わざわざ接触を避けるほどわだかまりは無いと?」
「うん、まぁそんな感じかな?」
後藤君らのグループから、かなり面倒なカラミをされ憤怒してたはずの美佳がこの様子なら、後藤君らと枝を分けて学校に残った元グループメンバーの社会復帰?も大丈夫そうだな。
後、念の為に……。
「沙織ちゃんや館林さん、日野さんは? 何かこの事で、引っ掛かる事ってある?」
「うーん、私も今残ってる人達に対しては、ソコまでわだかまりと言える物は有りませんね。鬱陶しく勧誘をかけてきてた人達も、今回の集団退学していった中に入ってましたし」
「私も特にありません。高圧的に勧誘をかけて来ていた人も、やっぱり退学者の中に居ましたから。残った人達も、断り切れずにグループに所属していたって人ばかりですし」
「私も特には……ただ、今までコレと言って話した事も無いので、いきなりは話し掛けづらい感じはします」
と言った感じで3人とも、残っている元グループメンバーには、特に何か思う所は無いようだ。コレなら他のクラスメイト達とも、そう時間を掛けずによりを戻し仲良くなれるかもしれないな。元グループメンバーという肩書きのせいで、クラスメイトとの交流が上手くいかず孤立、結局は退学に至ったとなったら残念すぎる。
こうして俺は現場の生徒の声を確認した後、真剣な表情を浮かべながら遣り取りを聞いていた橋本先生の方に顔を向ける。
「と言うのが、迷惑をかけられていた生徒側の率直な意見のようです」
「ありがとう。つまり、元グループメンバー側の心の持ちようで、関係の修復も出来そうね」
「そうですね。まぁ勧誘で迷惑をかけていた相手には、軽い謝罪ぐらいはしておいたら良いと教えてあげた方が良いとは思いますけど」
「ええ、分かってるわ。彼等も長い高校生活を肩身狭く過ごしたくないでしょうし、クラスメート達との関係修復は早々に行っておきたいでしょうしね」
美佳達に聞き取りを行った感じ、今回退学した連中以外は半被害者としてみられている感があるので、謝りさえすれば関係の修復はそう難しくない感じだからな。
まぁ退学していった連中と同様に、虎の威を借り調子に乗っていた場合は分からないけど。
集団退学者の話が一段落した後、話は今後の部の活動について話題が上がる。元々この創部理由は、今回退学していった後藤君らのグループに対する牽制と美佳達の保護だったからな。今回の件で、部の創部理由が消えてしまった形になる。
……うん、どうしよう?
「それで皆は、どうするの? 一応、廃部って方法もあるけど……」
「流石に、出来て1年にも経たず廃部って言うのはどうかと思いますね。今後の部の活動としては、表向きの理由をそのまま活動方針にしたら良いんじゃないんですか?」
橋本先生の提案に、俺達は微妙な表情を浮かべつつ否定する。流石に創部数ヶ月での廃部は、外聞が悪すぎるって。何をやらかしたんだよ、お前達?って目で見られるよな。
「表向きというと、探索者活動の研究と資格取得ね」
「はい。資格自体は持っていて困る物ではありませんしね。それに探索者をやってる俺達は既に個人事業主ですし、部の活動で得られる知識は今後の活動で役に立ちます」
実際問題、今年分の税金計算は稼ぎが稼ぎなので、税理士さんに頼むにしても最低限の知識は仕入れておかないとな。更に現在、専用練習場を作る為に山を購入しようと計画しているのだ。不動産を所有した場合、どう言う税金手続きが必要なのか調べておきたい。
うん。コレだけでも、ココを廃部にするのは勿体ないな。
「そうね……じゃぁ今後の活動方針はこのまま、研究と資格取得って事にしましょう」
「「「「「「「はい」」」」」」」
と言うわけで、創部理由は実質消滅したモノの、部自体は存続する事になった。まぁ来年はどうか分からないけどな。
そして1度椅子に座り直し襟を正した橋本先生は、ぐるりと俺達の顔を見回した後口を開いた。
「さてと、じゃぁ話は変わるけどもう一つ部として決めなければいけない事があるわ。それは……9月末に開かれる文化祭における活動発表の内容よ」
「「「「「「「おおっ!」」」」」」」
夏休みも終わり、次の大きな学校イベントと言えばコレだろう。文化祭だ!
体育祭では運動部が目立ったが、文化祭と言えば文化部が活躍する場。ウチも文化部の端くれとして、盛り上げないといけない。
「知っての通り、文化祭では普段表に出にくい文化部に活動内容を発表すると言う義務があるわ。特別な理由も無く不参加だったりすると、部費減額何かのペナルティーを科せられる事もあるわね。まぁ最悪は、活動許可の取り消しによる廃部なんだけど」
まぁ名簿には載ってるけど、部員不足で活動休止中の部とかもあるしな。文化祭は、そんな部を見極める一つの機会でもある。何の活動もしていないのに、限りある部費を分配しないといけないとかナイからな。活動停止しているなら部費を削って、ちゃんと活動している部に回す方が堅実だ。
それでも適当にお茶を濁した発表をして、だらだらと延命する部は何処にでもあるけどさ。
「と言う訳で、ウチの部も文化祭では何かしらかの発表をしないといけないんだけど……何かアイディアはあるかしら?」
「アイディアと言うか、この部の活動中に調べた情報を纏めて発表すれば良くありませんか? 正直な話、基本的な内容だけでも新人探索者には垂涎の内容だと思いますし……」
「そうですね。特に収入に対する税金関係の話なんて、今年から探索者活動をしている新人さんには必須の情報だと思いますよ? もしダンジョン関係で稼いだお金を全部、調子に乗って使ってたりしたら……」
「地獄を見る事になるわね。あと、扶養控除関係の話なんかもありだと思いますよ。新人探索者の稼ぎでも、運が良ければ……運が悪ければかしら?簡単に扶養控除額なんて超えますからね。収入額を保護者に知らせておかないと、家庭の税金関係が面倒な事になりますし」
橋本先生の問いかけに、俺達3人は軽く頭を傾げつつ特別な事はしなくても良いのでは?と返す。うん。自分達で言っていて何だが、本当に基礎的な事を発表するだけで十分じゃ無いか?
だが、そんな俺達とは逆に、美佳達後輩組は探索者活動自体の事を発表しないかとアイディアを出してきた。
「私はもうちょっと夢がある事を発表したいかな? 税金関係の話ばかりだと……寂しいかなって」
「私もそう思います。具体的な話は今すぐには思いつきませんけど、探索者が回収したモノが何々に使われてるとかって感じで……」
「ダンジョン産アイテムが生活に及ぼす影響……とか?」
「ああ、それ良いかも。最近だとスーパーなんかでも、ダンジョン産食品を取り扱ってるお店とかもあるもんね!」
俺達のアイディアは探索者活動における探索者が直に受ける影響で、美佳達のアイディアは探索者活動における間接的な影響って言った所だな。どちらのアイディアでも良いのだが、俺達のアイディアは元々調べているのを纏めるだけで良いのに対し、美佳達のアイディアは改めて調べないといけないので少々手間が掛かる。逆に来訪者に受けそうなのは、俺達の堅っ苦しい税制解説より、興味を引かれる実生活に関わる話を纏めた美佳達のアイディアだろうな。
さぁて、アイディアは出たモノの、意見が真っ二つに分かれた形になっちゃったな……。
「色々意見が出たわね。九重君達の案は探索者活動をしている上では避けては通れない話だし、九重さん達の案も自分達の活動がどんな形で社会に関わっているのかを知るには良い話だと思うわ。個人的にはどちらも面白そうだし、両方やっても良いんじゃないかしら?」
「両方、ですか? まぁ俺達の案は今まで調べたモノを纏めるだけで良いので大した時間は掛からないと思うので、両方やって出来ない事ではないとは思いますけど……」
「出来るのならやろうよ! 折角の文化祭なんだし、手元にある資料を纏めただけでお終いだなんて、味気がなさ過ぎるよ!」
意気込みを感じる美佳の言葉に、沙織ちゃん達も同感だと言いたげな表情を浮かべながら力強く頷いていた。どうやら美佳達は、初めての高校文化祭という事もあり気合が入っているようだ。まぁ気持ちは分からないでもない。俺達も去年は気合入ってたからな……。
そんな美佳達の意気込みを感じつつ、俺はどうするといった眼差しを裕二と柊さんに送り小さく息を漏らす。
「分かった。両方ともやろう」
「「「「やった!」」」」
俺達の賛同が得られた事に、美佳達は笑顔を浮かべながら喜びの声を上げた。
はぁ、まぁ頑張るか。




