第361話 退学したのは……
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沢山のクラスメイトが阿鼻叫喚し崩れ落ちる結末で終えたLHR。俺と裕二は意気消沈する彼等彼女等に黙祷を捧げた後、しっかり課題を終え余裕の笑みを浮かべていた重盛に別れを告げ教室を後にする。この後は部室に行くので柊さんも誘おうかと思ったけど、友達と話しているようなので一瞬目を合わせ軽く会釈だけにしておく。
久しぶりの顔合わせみたいだし、アレは長引きそうだからな……。
「うん。やっぱり、ドコもかしこも騒がしいね」
「まっ、そうだろうな。1年生の事とは言え、一気に10人も退学したとなったら、誰でも気になるさ」
部室まで向かう道すがら、アチラコチラから例の1年生達の話題で盛り上がっている。まぁ平坂先生から教えられたアレは、かなり衝撃的だったからな。LHR中だからそんなに騒げなかったが、放課後になってしまえば制限は無い。皆、好き勝手に1年生退学者達をネタに話しあっていた。
そして、そんな聞こえてくる話の中には……。
「良いな。 なぁ、俺達も学校辞めて探索者一本に絞らないか?」
「おいおい馬鹿な事言うな、そんな事が出来るか! どんだけリスク高いと思ってるんだ!?」
「そうだぞ。確かに短期的に見れば収入的には悪くないかもしれないけど、万一大怪我をしたりしたらどうするんだ? 治る怪我なら良いが最悪、手足の一本は無くなるんだぞ?」
「でもさ、ほら? そんな怪我をおったとしても、噂の上級回復薬があれば治せるんじゃ無いか?」
1年生退学者達に感化されているのか、羨ましげな表情を浮かべながら俺達も探索者一本でと主張する生徒。それをパーティーメンバーらしき生徒が、呆れたような表情や苛立ちを覚えている様な表情を浮かべながら、考えを改めろと説得している声が聞こえてくる。
やっぱり、こうやって感化されるヤツも出てくるよな。彼等の説得が上手くいく事を祈っておこう。
「全く、集団退学だなんて何を考えてるのかしら? 家の弟が感化されないと良いんだけど……」
「? ああそう言えば、貴方の弟さんもココの1年だったわね」
「ええ。夏休み前に誕生日を迎えたから、この夏から探索者をやってるんだけど、感化されてないか心配だわ。もしパーティーメンバーに誘われて、ウンと言っちゃってたら……」
「ああ、確かにそれは心配よね……」
どうやらあの女子生徒の弟さん、ココの1年生らしい。身内が1年生に居たとすると、この問題は無視出来ないよな。俺も美佳達が1年生なので心配だが、幸か不幸か登校の時に霧島君の話題でリスクに触れているので多分大丈夫だろう。
あの時、沙織ちゃんが一緒にいなかったのが残念だな。
「なぁ、聞いたか? 集団退学した連中、1年の中でいち早く探索者になったからってイキってた奴らだったらしいぜ」
「ん、そうなのか? ってか、情報早いな。それ、ドコから情報を仕入れたんだ?」
「幼馴染みの後輩が教えてくれたんだよ。こんな連中が辞めましたよ、ってな」
「へぇー。って事は今回の件、その連中のイキリ行動の果ての結果って事か?」
「多分な。噂だと、相当素行に問題があったらしいからな、やり過ぎて学校に居づらくなったんじゃ無いか?」
何か、スッゴく気になる話が聞こえてきた。素行の悪い1年生の探索者集団? いち早く探索者になった? それって……。
その話を聞いた俺は、俺は思わず隣を歩く裕二に顔を向け話し掛ける。
「なぁ、裕二? もしかして辞めたって言う連中ってさ……」
「……かもしれないな。だけど確定情報って訳じゃ無いんだ、美佳ちゃん達に話を聞くまで結論は待った方が良いぞ」
「ああ、うん。そうした方が良いかもね……」
未確定の段階で喜んで、ぬか喜びはしたくないしな。ただ、もし噂が本当なら、新学期始まってから頭を悩ませていた問題が解決するんだけどな……と思いながら。
俺と裕二は様々な噂話を耳にしながら、少し足早に部室に向かって歩いていく。
部室についた俺と裕二は、他のメンバーがまだいないので軽く掃除をする事にした。ウチの部は夏休み中に部室を使った活動はしていないので、一ヶ月以上締め切った上での放置状態。少々ホコリっぽいので、換気と軽い埃下ろしを兼ねた掃除は必要だろう。
と言っても、俺達にはコレがあるんだけどな。
「“洗浄”っと……良し。綺麗になった」
「大樹、コッチも終わったぞ」
「お疲れ、裕二。とりあえず、掃除はこんなモノかな?」
「そうだな。大体の埃は取れたと思うぞ」
やっぱり便利なスキルだな“洗浄”って、まぁ熟練度が上がってないと微妙なんだけどさ。
それは兎も角として、部室の掃除を終えた俺と裕二は換気をしつつ椅子に腰を下ろした。
「そこそこ時間も潰せたし、そろそろ美佳達も来るかな?」
「どうだろう? 俺達は忠告一つでアッサリ終わったけど、1年生から大量に退学者が出たからな。引き締めも兼ねて、特別指導みたいな感じで何かやってるかもしれないぞ?」
「ああ、なるほど。確かに、ソレはあるかもしれないな」
これ以上1年生から、探索者になるという理由で退学者が続出したら大変だからな。引き締めの為にも、1度退学したら再入学するのはこんな風に大変だぞってな感じの話をやってるかもしれない。と言うか、その程度はしておかないと抑止力に成らないだろう。
それに集団退学した連中も、今日手続きをして今日退学したわけでも無いんだ。特別講義に使う資料を作る時間はあっただろうしな。
「じゃぁ、もう少し来ないかもしれないな」
「だな。のんびりと待ってようぜ」
そして暫く裕二とのんびり夏休みの思い出話をしながら待っていると、部室の外に人の気配を感じとる。柊さんかな?と思い、部室の入り口に顔を向けていると、扉を開き入ってきたのはウチの部の顧問を務めてくれている橋本先生だった。
夏休み明けの新学期という事で、顔を見に来てくれたのかな?
「あら? 九重君と広瀬君だけなの?」
「ああ、はい。他の皆は、まだ来てませんね」
「そっか。皆と会って話しておきたかったんだけど……残念ね」
「そこそこ時間も経ってますし、そろそろ来るとは思いますよ」
「部活を休むって連絡もないですしね」
橋本先生は少し困ったような表情を浮かべながら、小さく溜息を漏らしていた。
そして軽く頭を左右に振った後、橋本先生は俺と裕二に顔を向け口を開く。
「じゃぁ先に、君達に話しておこうかしら。少し時間を貰っても良い?」
「ええ、構いませんけど話って……1年生集団退学の件ですか?」
「ええ、その話もあるわ」
も、って事は他にもあるのか。そう思っていると、空いてる席に腰を下ろした橋本先生は脇に抱えていたファイルケースの中から幾つかの用紙を取り出し、俺と裕二に手渡してきた。
何だ? って、ああ……。
「夏休み期間中に、貴方達に関して問い合わせをしてきた企業の一覧よ。要するにスカウトね。事前に断っておいて欲しいと聞いていたから、今は学業に専念したいから光栄ですがお断りしていますって答えておいたわ。幸い向こうも顔つなぎ程度の気持ちでの問い合わせだったみたいで、また機会があればスカウトさせて頂きたいのでよろしくと言っていたわ。最初から、無理強いはする気無かったようよ」
「……コレだけの数の企業が、そんな問い合わせをしてきたんですか?」
「ええ。コッチでも軽くチェックしておいたけど、悪い噂がある所はあまりなかったわよ」
俺と裕二が渡された用紙に目を通していくが、ソコには数十社の社名と電話番号が記載されていた。
こんなに問い合わせが来てたのか……。
「夏休み前のアレが効いているんですかね?」
「アレ? ああ、体育祭の事? 確かに体育祭の後にも、沢山の問い合わせが来てたけどコレは多分別よ。ドコで彼等の事を知ったんですかって問い掛けたら、ダンジョン探索中にウチの社員が凄い学生探索者と出会ったからと言っていたもの」
「ダンジョンの中、ですか……」
「ああ、なるほど。あの人達が報告を上げたのか……まぁ業務日報なんかも作るだろうし当然ですね」
確かに夏休み中の探索では、多少とは言え沢山の企業系探索者のパーティーと関わってたからな。その時遭遇した探索者達……社員さん達が会社に報告を上げたのだろう。シェア拡大の為に有望な探索者を探している企業としては、少人数パーティで30階層近くまで潜れる学生探索者パーティーは喉から手が出るほど欲しいだろうな。
そして名乗っていなかったとは言え、3人組の男女混合高校生探索者パーティーという特徴を持つ俺達の事は、協会に問い合わせればすぐ調べもつくだろう。以前に1度、協会にスカウトの仲介をされた事もあるので難しくは無いだろうしな。
「まぁ多分、そんな感じよ。それで夏休み中に問い合わせてきた企業一覧を渡しておくから、興味がある企業があるなら調べて訪ねてみると良いわ。勿論、私も相談にも乗るから気負いすぎないようにね」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
俺と裕二は橋本先生に軽く会釈をしながら、感謝の言葉を口にする。いやホント、こんな数のスカウト話を一つ一つ対応して貰って御苦労様でした。もし自分達で対応していたらと思うと、頭が下がる気持ちで一杯になる。
そして俺と裕二が企業一覧用紙に目を通していると、部室の扉が開き少し疲れた様な表情を浮かべる柊さんが姿を見せた。
「お疲れ様、柊さん」
「お疲れ」
「お疲れ様って、橋本先生?」
「こんにちは、柊さん」
橋本先生がいるとは思っていなかったらしく、柊さんは若干目を見開き驚きの表情を浮かべていた。まぁ、新学期初日から顔を見せるとは思ってなかったんだろうな。例の集団退学者の件もあるし、特に何か危ない事をやる部活でも無いからなウチは。
「丁度良かったわ、はい柊さんの分」
「……何です、この一覧表?」
「夏休み中に、俺達にスカウトの連絡を入れてきた企業だってさ」
「ダンジョン内で俺達の活躍を見ていた社員さん達の報告を聞いて、青田買いをしたくなったらしい。こんなにスカウトの声が掛かるなんて、驚きだよな」
俺と裕二が一覧表の意味を伝えると、柊さんは眉を顰めて面倒だと言いたげな表情を浮かべた。多分説明している俺と裕二も、柊さんと同じ表情を浮かべてるだろうな。
ダンジョンで活動している以上、他の探索者達に全く姿を見られないというのは不可能だ。俺達も出来る限り他の探索者達が居る所では控え目な動きしかしていないが、それでもこんなに数多くのスカウトの声が掛かるらしい。恐らく、30階層付近まで3人で潜れるって事が目立つんだろう。こうなってくると、直接絡んでこないだけマシと思うしか無いか……はぁ。
「九重君や広瀬君にはもう言ってあるけど、お話の方は全部断っておいたわ。でも、気になったら、何時でも訪ねてくれて良いそうよ」
「はぁ……ありがとうございます」
「……その様子だと、今の所その気は無さそうね。まぁ良いわ、とりあえずそういう問い合わせがあったわと言う話よ」
「えっと、お手数をお掛けします」
柊さんも軽く会釈をしながら、対応してくれた橋本先生に感謝の言葉を口にする。
はぁ、高校2年生の今でコレだ、来年はもっと増えそうだな……。
柊さんが部室に来て15分ほど経ってから、喜びと疲労の感情が入り交じった表情を浮かべた美佳達4人が部室に姿を見せる。
……何があったんだ?
「お疲れ美佳、随分遅かったな?」
「お疲れ、お兄ちゃん。 って、あれ? 先生もいるんですか?」
「ええ。こんにちは、九重さん。随分疲れてるみたいね?」
「こ、こんにちは先生。ははっ、ちょっと色々あって……」
橋本先生が部室にいる事に驚きつつ、4人は空いている席に腰を下ろしていく。やっぱり皆、ドコか疲れた表情を浮かべている。やっぱり1年生集団退学の件で、何かあったのかもしれないな。
そう思っていると4人は顔を見合わせた後、美佳が堰を切らしたようにある報告を口にする。
「ねぇお兄ちゃん、1年生で沢山の退学者が出た件は知ってる?」
「ああ、LHRの時に聞いたぞ。何でも、探索者業に専念したいから辞めたらしいな、10人も」
「そう、それ。その件なんだけど、実はその退学した集団て言うのが……」
美佳は一瞬息を止め間を開けた後、決定的な一言を口にする。
「あの後藤君とお仲間集団なんだ」
「……そうか」
美佳のその言葉を聞き、誰が退学したのかある程度予想が立っていた俺は、軽く目を瞑りながら静かに一言だけ返した。美佳達が迷惑そうだったから創部や体育祭なんかで色々牽制してたけど、まさかこう言う結末になるとはな……。
って、あれ? もしかして後藤君達が退学した原因って、俺達の牽制も関わってるのかも?




