表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
416/637

第360話 夏休み明けのお約束

お気に入り31330超、PV67620000超、ジャンル別日刊80位、応援ありがとうございます。


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。


小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に掲載中です。よろしくお願いします。


コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしければお手に取ってみてください。





 平坂先生からの衝撃的発表があった後、教室内は一時騒然となった。

 まぁ無理も無い。何せ1年生から探索者に専念するからと、10人も一気に辞めたのだからな。


「お前等、静かにしろ」


 無理も無いかと言った表情を浮かべた平坂先生からの制止の言葉に俺達はハッとし、多少バツの悪い表情を浮かべながら口を閉じ平坂先生に続きをと言った視線を送る。

 すると平坂先生は了承するように軽く頷いた後、集団退学事件?の詳細を話してくれた。


「詳細は個人情報も含まれるので省くが、何故10人もの生徒が一斉に退学する事になったか話せる範囲で説明しておく。何でも彼等は一つのチームとして探索者をやっていたそうで、チームの総意として高校を退学し探索者業に専念(就労)する事にしたそうだ」 


 ……なるほど、退学者達はチームを組んでいたのか。だから、一斉退学といった事態に陥ったんだな。まぁそれなら、心配していた霧島君のパーティー再編問題は関係ないか。

 赤信号、皆で渡れば怖くないと言った考え方かな? 


「彼等の退学申請は夏休み中に行われ、少々話し合い(・・・・)がもたれた後に受理された。よって彼等は既に退学し、正式に当校の生徒では無くなっている」


 話し合い(・・・・)、ね……。学校としても前代未聞の珍事だろうから、一応引き留めようと説得はしたんだろな。下手な対処をすると、他の生徒も連鎖的に退学しかねないだろうからな。でも、受理したって事は説得も不発に終わり、全員退学したって事なのだろう。

 それでも最低限、他の生徒達に動揺を与えないように、新学期が始まるまでは退学したって事を口外しないように口止めはしたんじゃないだろうか。そうじゃなければ、もっと噂話が広がっていても可笑しくはない。恐らく友人が深夜か早朝に連絡した所、退学していた事が判明したって所か? 0時を過ぎ日付が変わっていれば、新学期が始まるまでと言う約束を破った事には成らないだろうからな。


「……」


 平坂先生は1年生集団退学事件について一通り説明を行った後、真剣な眼差しで俺達生徒の顔を一瞥してから意を決したように話し始めた。

 

「……高校は義務教育では無い。仮に君達が退学を選択したとしても、私達教員が無理に引き留める事は出来ない。だが決断を下す前に、1度は相談をして欲しい。コレでも私は君達の担任をしている。頼りないと思う者もいるだろう。だが、相談してくれれば私達教員は全力で問題解決のサポートをするつもりでいる」

「「「……」」」

「今回の事案では私達は何の相談もして貰えず、ただ提出される退学届を受理する事だけしか出来なかった。何も相談をされなかった、つまり私達は残念ながら彼等から信頼を得られていなかったという事だ。それは非常に残念な事で有り、私達の指導力不足だったという事なのだろう。もう少し彼等とコミュニケーションを取っておけば、この様な事態は起きなかったのでは無いかと……な」


 平坂先生はそう言って、不甲斐なかったといった表情を浮かべながら目を閉じ俯いた。俺達はそんな平坂先生の姿に、何の相談も無く退学していった1年に少々苛立ちの感情を覚える。確かに高校退学は生徒の持つ権利だ、しかし何の相談も無く行使するようなモノでは無い。せめて1度は話し合いを持った上で、行使すべきだったのでは無かったのだろうか?

 平坂先生達教員からしてみれば、いきなり何の相談も無く多くの生徒が退学を申請したなんて話、寝耳に水だったに違いない。自分達の指導に問題があったのかもしれない、学校そのものに問題があったのでは無いか、人間関係に困っていたのでは……先生達も色々考えたはずだ。だが何の理由も分からず、ただ探索者に専念するとだけ告げられ退学申請を受け取るしかなかった。今回の事案は、学校にとって慚愧に堪えないと言った感情しか湧かないだろうな……。


「……すまない。朝から、それも新学期早々に言うような事では無かったな」


 平坂先生は顔を上げ、申し訳ないと言った表情を浮かべながら謝罪した後、残る連絡事項を伝える為にHRを続ける。教室は気拙い雰囲気に満ち沈黙し、平坂先生の淡々とした声が響くだけだった。正直に言ってHRを続ける雰囲気では無いが、まぁこの後の予定も詰まっているので進めるしか無いんだろうな。俺達は一言も私語をせず、静かに平坂先生の話を聞いていた。

 そして5分ほど経って、HRは終了する。


「以上で連絡事項は終わりだ。HR後、体育館で始業式が行われるので遅刻しないように移動するように」


 こうして色々と気拙いHRは終り、平坂先生は少々重い足取りで教室を後にした。

 はぁ、新学期早々疲れたよ。






 始業式はつつが無く……うん。少々1年生が並んでる辺りがザワついていたモノの、つつが無く終了した。やっぱり朝のHRで集団退学の件は告げられていたようで、2、3年生からも注目が集まっていたな。

 そして始業式終了後、教室に戻ると我慢していたせいか一斉に皆騒ぎだす。


「本当に1年生が減ってたね」

「まだ高校に入ったばかりなのに、辞めちゃったのか……」

「学生辞めて、探索者業に専念か……」

「俺達も……いや、無いな」


 ただ、実際に1年生が減っているのを見たせいか、囃し立て楽しんでいると言った風では無く、身に迫る深刻な出来事として捉え話し合っていた。まぁクラスの大半の生徒が探索者をやっているので、立場や事情が違えば自分達がやっていた、やらかしていたかもしれない事だからな。

 学生探索者をやっている身としては、今回の集団退学はそう簡単に面白おかしい噂話で終わらせられる話ではないと言う事だろう。


「なぁ九重、広瀬。ちょっと聞いても良いか?」

「何だ?」

「?」


 クラスメート達の騒ぎっぷりを眺め俺、裕二、重盛の3人で話していると、重盛が疑問というか興味深げな表情を浮かべながら話題を振ってくる。 


「始めて2、3ヶ月の新人探索者が学校を辞めてまで探索者業に専念する事を決意するほど、探索者って儲かるモノなのか?」

「うーん、難しい質問だな……」

「そうだな。ダンジョン解放初期の頃なら儲かると言えたかもしれないけど、ダンジョン産アイテムの供給が安定してきた今だと……」


 重盛の質問に、俺と裕二は顔を見合わせながら眉を顰めつつ、難しいだろうなと言った表情を浮かべ合う。既に探索者業が広まり始め半年以上が経つ。探索者の数も増え、供給されるダンジョン産アイテムも比例し増加した。無論、マジックアイテムと呼ばれる特別な力が籠もる希少価値の高いアイテムもあるが、供給されるアイテムの大半はモンスター肉やコアクリスタルと言ったモノだ。スキルスクロールやマジックアイテムが多くドロップし、ダンジョン探索時に毎回収集出来ると言うのなら今でも儲かると言えるかもしれない。

 だが、それらアイテムのドロップ率は低く、モンスターとの戦闘を数多く熟す必要がある。高レベル探索者なら無理なく多くの戦闘も熟せるだろうが、低レベルの新人探索者では厳しいだろうな。まぁ10人で1チームを組んでいるのなら、低レベル探索者だとしてもやれない事もないか?


「やっぱりそうか……となると、何がそいつらに退学してまで探索者業に専念する事を決意させたんだ? 今の話を聞いてると、低レベルの内は小遣い稼ぎにはなっても、生活を支える仕事としては厳しいって印象を感じるんだけどさ……」

「さぁ? でも、何かしらの策が無いと、退学して専念なんて手は取らないだろうしね」

「そうだな。少なくとも10人の生活を支えられる収入を得られるだけの目処が立ったからこそ、今回の集団退学騒動だろう」


 仮に1人の報酬が大卒初任給程度とするなら、10人だと毎月200万円以上稼ぐ必要がある。しかも、これに探索者活動に必要な遠征費や装備の整備費などの諸経費を足すとなると、毎月最低でも500万円以上は稼がないと赤字になるだろうな。後、税金の支払いもあるので稼ぎが全て収入には成らないしね。

 しかもコレは、探索者としての報酬が最低限に近い設定で有り、1人当たりの報酬を上げようと思えば更に稼ぐ必要がある……。うん、低階層帯がメインの活動場である始めて2、3ヶ月の新人パーティーには厳しくないか?


「そう、だよな。何の策も無く、こんな事するはず無いよな」

「ああ。もしかしたら、何処かの会社に好条件でヘッドハンティングされたのかもしれないぞ? 小さな会社でも、まだシェアが定まってない今なら実力があれば十分食い込めるからな。有望な新人、将来の主力にって感じでスカウトされたとかさ」

「それもあるな。いや寧ろ、その可能性の方が高いかもしれない。今後の成長次第だけど、10人も居れば2交代で長期探索が出来るしな。元々チームを組んでたというなら相性問題もそうそう無いだろうし、先を見越して考えると、全員の一斉雇用ってのも悪い手じゃ無いかもしれない」


 まぁ確かに裕二の言う様に、先を見越して考えると相性の良い10人を一斉雇用するってのは悪い手では無いのかもしれない。だが、現状ではとても良い手とは言えないな。

 何せ合法だとしても、スカウトした高校生(未成年)を学校を辞めさせた上で雇用しているという(事実)が立てば、会社としての信用は確実に落ちるだろう。

 

「確かに、その可能性もあるな。でも、学校を辞めた未成年者を積極的に雇用する会社か……辞めた連中、騙されてないよな?」

「……ははっ、そ、そんな事無い、と思うぞ? と言うか、思いたい……」

「そ、そうだぞ。もし本当にスカウトされた上で就職するのなら、事前にキチンと調べている筈だって……」


 俺は一瞬、大河兄さんが引っ掛かりかけた悪徳会社の事が浮かんだが、表情を若干引き攣らせつつ頭を振って否定する。隣にいた裕二も、俺と同じように頭を振って否定していた。

 いや、まさか、な? 退学してまでやろうとしてるんだ、もしスカウトされたのなら相手の会社ぐらいチャンと調べてるはずだよ。うん、きっとそうだ。


「……お前等、何そんなに焦ってんだ? もしかして、何か知ってるのか?」

「い、いや……別に、な?」

「ああ」

「「「……」」」


 ジト目で不審げに俺と裕二を見詰めてくる重盛、視線を反らしながら額に冷や汗を流す俺と裕二。数秒間の沈黙が続いた後、重盛の視線に耐えかねた俺は溜息を漏らしつつ、焦っていた心当たりを口にする。

 その結果……。


「……」


 予想より重い話に重盛は頭を抱え、目頭を揉みながら聞き疲れたと言いたげな重苦しい溜息をついた。

 うん、まぁそうなるわな。


「規制が甘い今の内に儲けようと、甘い話を餌に悪辣な手を打ってくる所があるって事だよ」

「甘い話を聞いても、ちゃんと調べないといけないって事だな。俺達も気を付けないと……」

「いやいや、お前等。今の話、そんな反応で終わらせて良いのか?」

「良いのか、って言われてもな……俺達には手の出しようのない話だぞ?」

「ああ。こういうのは、警察や行政が対応するべき問題だからな。俺達としては精々、契約書にサインする前に確り確認するって位だろう」


 以前協会の方で確認してみたが、一応問題視はされているみたいだったから、何れ何らかの動きはあるだろう。それまで俺達が出来るとしたら、こう言う会社もあるので皆さんも気を付けましょう、と啓蒙活動をするくらいかな? もし既に引っ掛かっている場合は……うん、弁護士の無料相談会でも紹介したら良いかも。 


「まぁ確かにそうかもしれないけど……こんな話を聞いてると、退学していった連中が怪しいスカウトに会ってない事を祈りたくなってくるよ」

「大丈夫……俺達は、そう思っておくしかないよ」

「ああ。でも、スカウトされたかもってのはあくまでも俺達の想像でしか無いんだ。もしかしたら起業して活動するのかもしれないんだし、詳しい情報も無い段階であれこれ余り考えすぎるのも良くないかもな。今回の件は、俺達ならどうするか?ってのを考えるぐらいで丁度良い……てな感じでさ」


 確かに碌な情報も無いのに考えても、変な方向に思考が飛ぶだけだな。放課後、美佳達の話を聞いてから改めて考えた方が良いかもしれない。同じ1年生だし、俺達2年生より詳しい情報が出まわってるかもしれないしな。

 そして、3人でそんな話をしている内に時間はたち、平坂先生が教室に入ってきた。


「お前達席に着け、LHR始めるぞ。楽しい楽しい、夏期課題提出の時間だ~」

「「「ウワァァ!?!?」」」

「「「……」」」


 凄く和やかな笑みを浮かべた平坂先生の発した言葉に、騒がしかった教室の所々から絶望に満ちた苦悶の絶叫があがる。しかも、男女合わせて結構な数が。

 うん。この反応だけで、どれだけ課題達成が少ないか察せるな。あ、アイツ等宿題終わらなかったんだ。休み早々に終わらせといて良かった……。
















情に訴える平坂先生の予防工作……かな?


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしくお願いします。


■■■ コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしくお願いします! ■■■


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「探索者活動の自粛を要請」した時点で、学校側は「探索者活動と学校生活の両立」という問題に関わる気がないって宣言しているようなものだから、学生から相談なんてされるわけがない。 それなのに「相談…
[一言] 若気のいたりではなく 悪徳業者に騙されて。。。。か この場合の悪徳業者は国であり行政であり、政治家であり経団連になるのかな? 漬け込む隙をわざと作ってるのでね。 こういう漬け込む隙を…
[気になる点] どう考えたって教師に相談するわけないでしょう。 全員同じ結論になるなら良いですけど、個別に脱落されたら計画が崩れます。 10人で始める計画が半分の5人になったりしたら先行き真っ暗です。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ