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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第15章 夏休みは最後まで大忙し
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幕間 第五拾六話 物件紹介 その2

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 湯田君に裕二君達の内見案内を任せた後、俺は彼等から聞き取った条件に沿う物件を探し始める。因みに聞き取った条件は、俺達プロの目から見ると正気か?と目を疑うようなものだ。

 僻地にある未開の山? 条件を鵜呑みにするのならば、それは金出して買う様なモノではなく、金を払って引き取ってもらう類の代物だ。


「流石にこの条件の物件を、そのまま彼等に紹介するってのはな……」


 俺は少し考えた後、机の上に置かれた電話の受話器を取り、とある人物に電話を掛ける。数回呼び鈴が鳴った後、電話がつながる。


「はい、広瀬です」

「あっ私、桐谷不動産の桐谷と申します。広瀬重蔵さんは御在宅でしょうか?」

「はい、在宅しております。失礼ですが、どう言ったご用件でしょうか?」

「先日広瀬様に依頼された件について、中間報告をと思いまして」

「そうですか、ありがとうございます。少々お待ちください」


 受話器口から保留音が鳴り始め、少し待っていると重蔵さんの声が聞こえてきた。


「待たせてしまってすまないな、桐谷君。例の件についての、中間報告と聞いたんじゃが……」

「お久しぶりです、重蔵さん。はい、予定通りお孫さん達がウチに来店されましたよ。礼儀正しく、受け答えもシッカリされてる子達でしたね」

「ははっ、そう言って貰えると嬉しいものじゃな。じゃが、それだけではないのじゃろ? それだけならば、態々中間報告と言う形でワシに連絡は寄こさんじゃろうからな」


 相変わらず、鋭いな。ちょっと話しただけで、こっちの意図を簡単に読み取ってしまうんだから。話が早いと言えば良いのか、交渉相手にはしづらいと言えば良いのか……。

 まぁこちらの意図が読み取られていると言うのならば、無駄な前置きは不要だな。 


「ははっ、お見通しですね。では、単刀直入に本題の方に移らさせていただきます。今回電話をさせて貰ったのは、お孫さん達から聞き取った条件面についてです」

「ほぅ、大幅な値引きして欲しいとでも無茶を言い出したか?」

「あっ、いえ。金銭面の話ではなく、立地条件についてなんですが……」


 俺は重蔵さんに、裕二君達から聞き取った条件を伝えた。本人達の希望とは言え、流石にこの条件の物件は、重蔵さんに断りの一つも入れておかないと紹介し難い。万一、ウチが裕二君達に不良債権の押し付けとでも思われたら、重蔵さんとの関係性さえ壊れてしまうかもしれないからな。

 すると俺の話を聞いた後、重蔵さんは頭痛に耐えている事を感じ取れる大きな溜息をつく。


「何とも、まぁ……。不動産購入の素人故に知らんとは言え、中々阿呆な条件を示したものじゃな。その条件では、態々金を出してまで買うような価値ある物件では無いぞ」

「ははっ、そうですね。ウチも一応その手の物件も預かっているので、紹介自体は出来なくもないんですが……どうしましょう?」

「……何事も経験じゃな。手間をかけるが、お主の所で扱っている物件の中で条件に合う物を紹介してやってくれんか? それも、質の悪い部類の物件をな。それを見ればあ奴等も、如何に自分達が阿呆な条件を出したか理解するじゃろうて」


 電話口から、重蔵さんが静かに怒っている気配が漏れ伝わってくる。どうやら口で優しく諭すでは無く、実地で体に叩き込ませる事にしたらしい。確かに一度現地を見た方が理解できるとは思うが……湯田君には頑張ってもらうしかないな。

 その後、俺は重蔵さんと二、三言葉を交わしてから電話を切った。


「ふぅ……了承は貰えた事だし、条件に合う物件をピックアップするとしよう」


 俺は軽く眉間を揉み解した後、書類棚から塩漬け物件が纏められたファイルを取り出す。まさかコレの中から、紹介物件をピックアップする事があるなんてな。

 





 呈示された条件に合う、パッと見はまともそうで厄介な事情が付随している物件をピックアップしていると、内見案内に出ていた湯田君が事務所に戻って来た。彼の顔色を見るに、どうやら余り良い手応えは無かったようだ。

 まぁ、あんな条件を提示しているくらいだからな。良い手応えが無いのも、当然と言えば当然の結果かもしれない。


「お疲れ様です。社長、内見から戻りました」

「おう、お疲れ様。どうだった、彼等の様子は?」

「残念ながら、内見した物件はお気に召さなかったようです」

「そうか、それは残念だな」


 予想出来ていた結果なので、そう残念でもないが俺は軽く眉を顰め残念がる。ダメだと分かっているのに内見に行かせたと分かったら、湯田君もあまり良い気分にはならないだろうからな。

 そして湯田君から内見結果の報告と共に、移動中に彼等から聞いたという物件に対する探索者目線の意見を聞く。その意見は、俺達の様な不動産業者からはまず出ない意見ばかりであった。本来駆除もしくは排除されていることが望ましい、クマなどの危険野生動物が多数生息している様な山を紹介して欲しいって……。


「……本当に、彼らがそう言ってたのか?」

「はい。特に気負った感じや見栄を張っている感じでも無く、本心からそうだったら良いと望んでいる口調でした。野生動物の奇襲は、警戒対処の良い訓練相手になるからと……」

「……」


 冗談を言ってる様子が一切ない湯田君の報告に、俺は思わず頭痛がし始め顳顬を両手で揉み解しだす。

 いやいや、流石にこれ程認識がズレているとは思ってもみなかった。探索者業がかなり特殊な立ち位置だとは理解していたが、一般的な感覚とのズレが大き過ぎないか? 山中で野生動物に襲われ、年間何人もの死傷者が出ているんだがな。それなのに、野生動物が多数生息する山を望むって……。


「それと、不整地の走破訓練になるので、山林は整備されていないモノの方が良いとも言ってました」

「……いっそ、どっかの荒山でも紹介するかな?」

「ははっ、流石にソレは……」


 俺と湯田君は半目になりながら苦笑いを浮かべ、ホント何処の物件を紹介したらいいのかと頭を抱えた。これでは、今までの紹介ノウハウが通用しないな。ダンジョンが出現し探索者と言う職業が生まれた世界、どうやら私達不動産業界も変わらなければいけない時代に入ったのかも知れない。

 やれやれ、人間一生勉強だな。


「はぁ……彼等を余り待たせる訳にもいかないし、行くとするか」

「はい」

「ああ、そうそう湯田君。これから彼等にある物件を紹介するんだが、君は何も言わないでいてくれ」

「?」


 疑問符を浮かばせ頭を捻る湯田君に、紹介する予定の物件紹介書を見せる。すると湯田君は顔色を変え、俺に批難する様な眼差しを向けてきた。まぁ物件の正体を知っていれば、そういう反応になるな。

 俺は何か言いたげな湯田君を軽く手で押さえながら、これを紹介する経緯を説明する。


「なるほど……そういう事ですか」

「ああ、そういう事だ。なので、種明かしをするまでは君も黙っていてくれ」

「……分かりました」

「では、改めて行くとしよう」


 納得しきれてはいないが理解はしたと言った表情を浮かべる湯田君を引きつれ、俺は裕二君達が待つ下の階の店舗へと移動する。






 ソファーに腰を下ろした俺は、新たにピックアップした2件の物件を裕二君達に説明する。自分で選んでおいてなんだが、どちらも中々の瑕疵物件だ。普通なら、まず紹介しようとも思わない物件だからな。

 俺は彼等にどちらの物件にも付属する、色々と面倒で厄介な事情も正直に説明していく。厄介事以外は彼らが希望する条件に適合しているので、態々嘘をついたりする必要はないからな。まぁ多少は、含みを持たせた言い回しは使っているけど。その結果……。


「あの、この物件……内見出来ますか?」

「!? えっ、ええ、もちろん。 ですが、よろしいんですか? 紹介した私が言うのもアレですが、結構アレな物件ですよ?」

「ええ、勿論分かってますよ。寧ろ俺達の要望に添う物件が、こんなにすぐ出て来るとは思っても見ませんでした」

「はっ、はぁ……」


 何故か彼等は、元鉱山の物件を前向きに検討し始めてしまった。こんな塩漬け物件もあるんだから、条件を考え直してくれないかな……と言ったつもりで紹介しただけなんだけどな。とは言え、彼らが乗り気になってしまった以上、内見をしてもらって現地を見て諦めて貰うしかないだろう。すまん湯田君、もう一度内見に行ってきてくれ。

 苦労させる分、今日のお昼は俺が奢るからさ。


「で、ではお昼を取った後に出発という事で……」

「分かりました。じゃぁ一時間後に、駐車場で待ち合わせという事で……」


 裕二君達に近くで美味しいと評判の洋食店を紹介し、一先ず解散する事になった。裕二君達が出ていくのを見送った後、俺と湯田君はソファーに座り込み大きな溜息を洩らした。


「……どうするんですか社長、彼等凄い乗り気ですよ?」

「そう、だな。絶対に断られると思った物件を紹介したんだが……」

「「はぁ……」」


 流石に事前に状況を把握している瑕疵物件を売る訳に行かないと思い、俺と湯田君はどうやって彼等に購入を断念してもらうか話し合う。こんな物件を子供を騙して売りつけたなんて噂が立ったら、ウチは顰蹙の的になってしまうからな。

 何より、重蔵さんが突撃してきそうで怖すぎる。


「すまないが湯田君。現地を内見している途中で、土地を所有している限り管理義務が発生する事を説明してやってくれ。おそらくその話を聞けば、彼等も考え直すはずだ」

「そう、ですね。分かりました、折を見て話してみます。タダの山奥にある僻地物件ならまだしも、何時爆発するかも分からない厄ネタが埋まってる土地何て、個人で所有するものじゃないですからね」

「ああ、その通りだ」


 万一が起きた場合、個人じゃどうしようもないからな。となると、そんな危険性がある土地を彼等に売るわけにはいかない。売るとしても、最低でも責任が取れるそれなりの規模の企業じゃないとな。

 面倒な役割を湯田君に押し付けてしまう事になるが、彼に頑張ってもらうしかない。


「……良し、飯を食いに行くか湯田君。私が奢るから、君の好きな所に行こう」

「……はい、ありがとうございます。それじゃぁ……」


 と言う訳で、面倒事を押し付けた罪滅ぼしの前払いという事で、湯田君が選んだ中華料理屋に昼食を食べに出かける事にした。せめて食事位奢って、機嫌を取っておかないとな。

 とは言えだ、湯田君。支払いは持つから好きなモノを頼んで良いとは言ったけど、フカヒレの姿煮とアワビの姿煮を両方頼むのは止めてくれないか? 昼食代で1万円超えるのは流石にさ……。






 営業時間終了前に、内見見学に行っていた湯田君達が帰ってきた。一瞬途中で引き返してきたのかと思ったが、湯田君の話を聞く限りちゃんと現地を見て回ってきたうえで帰って来たらしい。話には聞いていたが、本当に徒歩半日はかかる道程を1,2時間で往復したらしい。恐ろしい健脚ぶりだな、探索者って。こうやって実証されると、探索者に関しては色々な前提が覆る。一般人には到達困難な場所にある物件でも、探索者相手なら少々遠いが到達可能な物件として商売になるな。

 そして湯田君が今回の内見で齎した探索者情報以上に価値があったのが、裕二君達に元鉱山物件の購入を断念させた事だ。本当に良かった、彼等が考え直してくれて。


「桐谷さんが余りオススメ出来ないって意味を、身をもって知りましたよ。やはり、プロの忠告はちゃんと聞かないといけませんでしたね」

「ははっ、やっぱりそうですか……まぁ皆さんの出された条件には合致しましたけど、かなり厳しめの物件でしたからね」


 どうやら現地を自分達の目で確認し、湯田君から色々説明を受けた結果、自分達の過ちを素直に認める事が出来たようだ。良かった。コレで意識改善がされなかったら、重蔵さんに言って今回の仕事はお断りしようかと思っていたよ。彼等が探索者であるという前提はあるが、流石にあんな条件の物件を売る事は、プロとしても重蔵さんに恩義がある身としても出来ないからな。


「そ、そう言えば桐谷さん! もしかしてなんですけどウチの爺……祖父から物件紹介の他に何か頼まれてたりしませんでしたか?」

「ええ、はい。少し社会勉強をさせてやってくれと、頼まれましたね」

「「「……」」」


 どうやら彼等も今回の件で、裏で動いていた重蔵さんの動きに気づいたらしい。まぁコレだけあからさまな展開になれば、落ち着いてからなら気付けるだろうな。俺は隠す事でも無いので、素直に重蔵さんから頼まれていたと伝えると、彼等は何とも言えない表情を浮かべてから俯き落ち込んでしまった。まぁ今回の件が、重蔵さんの手の平の上で転がされていたから落ち込みもするか。

 それから俺と湯田君は重蔵さんのフォローをしながら落ち込む彼等を励ました後、改めて後日条件面を吟味し直してから物件探しを再開すると約束し、彼等は若干暗めの表情と重い足取りで店を後にした。どうやら重蔵さんの予定通り、彼等は良い社会勉強が出来たようだ。


「ふぅ……お疲れ、湯田君。今日はご苦労だったね」

「いえ、自分としても良い勉強になりましたよ。彼等との物件探しを通して、探索者向けの紹介物件って奴について学んでいこうと思います」

「君も真面目だね。だが、この件をタタキ台にして、ウチも本格的に探索者向け物件って奴に参入するのも良いかもしれないな。これからどんどん大きくなっていく市場だろうしさ」


 今まで売り物にならないと思っていた到達困難な山奥の土地でも、探索者相手なら十分に商売が成り立つという事が今回の件でハッキリしたからね。この事が広まる前に、今の内にその手の土地を買っておけば大儲け出来るかもしれないな。

 最初は厄介事かと思ったが、中々に旨味のある話になってきたものだ。彼等にはノウハウ蓄積の為に存分に協力して貰うとしよう、勿論それなりの見返りは用意させてもらうがね。
















主人公達の物件探しは、桐谷さん側にも旨味がある話ですよね。

次回から新章を開始します。


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしくお願いします。


■■■ コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしくお願いします! ■■■


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
[良い点] アッサリ気味だった話題を掘り下げようとするところは嫌いじゃない [気になる点] ただ、本編で考察、種明かし済みの事をなぞっているだけなので、目新しい事実が無く、総じて退屈。同じような話を二…
[一言] 新章期待してますー
[一言] 廃鉱山に(最近は出てこない)机ダンジョンのスライムを 選んで放ってみる……とか? ダンジョンからモンスターを連れ出せないなら、無理ですが。 連れ出せたとしても、外来生物(外来種)問題が…… …
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