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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第15章 夏休みは最後まで大忙し
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幕間 五拾五話 物件紹介 その1

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 燦々と降り注ぐ日差しが眩しい、エアコンの効いたオフィスの一角。俺、桐谷春樹は受話器を顔に当てたまま、少々緊張しつつ軽くお辞儀をしながら電話を切る。何で相手に姿も見えないのに、電話前でお辞儀をするんだろう?と疑問に思いつつも、習慣として自然とそうなるから仕方が無いかと苦笑を漏らす。

 そして電話が切れた事を確認した俺は、緊張で胸に溜まった息を吐き出しつつ小声で愚痴を漏らした。


「ふぅ……やっぱりあの人が相手だと、電話越しでも無駄に緊張して気負ってしまうな」


 俺は椅子の背もたれに体重を掛けながら、軽く背伸びをして緊張で凝り固まった体を解す。そんな俺の姿を見て、近くの席で仕事をしていた一人の部下が少し心配げに声を掛けてくる。


「お疲れ様です、社長。随分気を張って電話に出られていましたけど、何方だったんです?」

「ん? ああ昔、大変お世話になった人だよ。それこそ文字通り、命の恩人って人だな。広瀬重蔵さんと言う」


 俺は天井を遠い目で眺めつつ、部下の質問に答える。すると部下は若干目を見開き、呆気に取られたような表情を浮かべていた。

 まぁ俺もいきなりこんな事を言われたら、同じような反応をするかもな


「えっ? 命の恩人って……社長、それは少し大袈裟じゃないですか?」

「うーん、そう感じるかもしれないが本当の事なんだぞ?」

 

 いやぁホント、若い頃は無茶をしたもんだよ。あの時、重蔵さんが助けてくれなかったら、今頃どうなってた事か……。美味しい儲け話と聞いて、碌な下調べもせずに飛びつくもんじゃなかったな。

 そんな風に昔の事を思い出しながら、達観した雰囲気とシミジミとした口調で応えていると、部下は興味を持ったらしく深掘りして聞いてきた。

 

「本当の事って……社長は一体何をしたんですか?」

「まぁ……話していいか。ある意味、教訓になる話だからな」


 そして俺は椅子に座り直し、昔話を話し始めた。勿論、話せない部分は端折っているけどな。

 

「話の概要は簡単だ。昔……俺が不動産業を始めた頃の話だ。とある物件の売買に関わって、トラブルに巻き込まれたって話だ」

「? それって、不動産屋をやってるとままある話じゃないですか? 最近だって、似たような事はありましたし……」

「まぁ、そうなんだが……そのトラブルの規模がヤバくてな。文字通り、命がけの仕事になってしまったんだよ」


 昔の事を思い出し、俺は全身から負のオーラを出しつつ、死んだ魚のような目を部下に向け語った。

 いや、ホント。何でそんな特厄案件が、新人不動産屋に回ってきたんだか……いや、新人だから回ってきたんだったな。後始末(・・・)が楽なようにって。


「で、だ。若かった頃の俺は血気盛んというか、上昇志向がかなり強くてな。恥ずかしながら、俺なら業界一の不動産屋に成るのも簡単だとかって本気で思ってたんだよ」

「……良い目標じゃないですか、別に恥じる事は無いと思いますよ?」

「ははっ、そうだな。ただ、それを達成する方法が拙かったんだよ。どれだけ利益を上げるか、それだけを考えて、他の不動産屋が手を出さない色々と怪しい物件や危ない案件を扱っててな……」


 俺は頬を人差し指で掻きながら、少し頬を赤く染めつつ部下から視線を逸らす。いや、こうして昔のヤンチャ話をするって、結構気恥ずかしいものだな。

 軽く咳払いをして場の雰囲気を戻し、逸らしていた顔を部下の方に向け直し話を再開する。


「で、ある日とうとう起こるべくして事が起きてな? 調子に乗っていた俺は知り合い……まぁいわゆる怪しい知り合いってやつだな。その知り合いから美味しい案件があるから、お前が扱わないかって勧められたんだよ。当時の俺は来る案件来る案件が成功の連続で自信に満ちて、いや過信だな。過信していた俺は根拠も無く、俺なら簡単に出来る案件だと碌な下調べもせずにそれを受けちゃったんだよ。それで結果、とある犯罪組織が関わってる案件に手を出して、特大のトラブルに巻き込まれてしまったんだよ……」

「……」

「いやぁホント、良く重蔵さんと会うまで生きていられたよな……俺」


 昔を思い出し、何であの時の俺は生きていられたんだ?と不思議になる。

 そんな黄昏れている俺の姿に、部下は何と言って良いか分からないと言った表情を浮かべていた。


「えっと、その……危ない事は程々に成された方が良いですよ」

「ああ、分かってるよ。文字通り、骨身に染みてるからな。でだ、そんなトラブルの最中に会ったのが重蔵さんだよ。奴らに追われていた俺を助け匿ってくれて、もうアイツらに襲われないようにと()を付けてくれたんだ」

「す、凄い人ですね……その重蔵さんて方は」


 ただし、話し合い=物理だったらしいけどな。重蔵さんに匿われ事情を話した数日後、アイツらの組織が抗争で壊滅したって新聞で知った時は心底驚愕したよ。残党も全て警察に捕まり、今も牢屋の中らしい。ただ、抗争と名はうっていたが、未だに相手組織は不明らしい。

 ああそうそう。俺が見ていた同じ新聞を見て、不敵で凄味がある微笑みを浮かべている重蔵さんの姿に何があったのか察してチビリそうになったのは秘密だ! 


「ああ、そうだな。まぁそんな事があって、あれ以来俺は重蔵さんに頭が上がらなくなってな……。今でもちょくちょく、重蔵さんの依頼を受けているんだよ。ああ勿論、適正価格でだ。重蔵さんは、恩に着せて集ったり無茶を言う様な人じゃないぞ?」

「そう、ですか……」


 若干不安気な表情を浮かべ、部下が命の恩人という事で無茶な要求をされているんじゃないかと疑っている事を察し、俺は安心させる為に重蔵さんの事を教えておく。色々と無茶苦茶な人だけど、仁義を通す人格者だからな……後、昔に比べ落ち着いて穏やかになってるしな。

 そして昔話も一段落し、先程の電話で依頼された内容を部下に話す。


「さっきの電話で依頼されたのは、重蔵さんのお孫さんが山を買おうとしてるから、少し勉強をさせてやってくれとの事だ」

「山、ですか。それに……お孫さんが?」

「ああ。何でもお孫さんは、学校の友人達と探索者をやっているらしくてな。そこそこ儲けているらしく、更なる練度向上の為に山中に専用の練習場を作りたいらしい、との事だ」

「へー、豪快ですね」

「ああ」


 探索者。去年突然ダンジョンと呼ばれる物が出現したお陰で生まれた、話題の人気職だ。モンスターとの戦闘という危険はあるが、ドロップアイテムが当たると一攫千金を狙える職業であり、若年層を中心に多くの者達が資格を取得しダンジョンへ挑んでいる。

 産出されるドロップアイテムは様々な分野で活用されており、長く続く不況を脱するカンフル剤になっているので、国も後押ししているので暫くこのブームは続くだろうな。


「それでだ、お孫さん達から出されている条件に合う物件を幾つか見繕って、紹介してやって欲しいとの事だ。ただし勉強なので、お孫さん達中心で話を進めて欲しいらしい」

「お孫さん達中心にって……素人がそう易々と手が出せる物ではありませんよ、山って」


 部下の意見に、俺は素直に頭を縦に振って肯定する。素人が浅い考えでやっても、碌な物件を見付けられずに失敗するのがオチだ。専門家と相談して決める方が、失敗する可能性は低い。


「ああそうだな。だからこそ重蔵さんは、今回の事を良い機会だからお孫さん達の教育に使いたいそうだ。失敗したとしても、それはそれで良い経験だってな。お孫さん達は高校生だそうで、探索者として儲けているからコレから変な連中が寄ってくるかもしれない。碌な社会経験もないお孫さん達だと、騙されて痛い目を見るかもしれないからな。その前に、安全に痛い目を見せてやってくれ……みたいな感じだ」

「なるほど……確かに厳しい人ですが、良い人でもありますね」

「ああ、そうだな」


 俺と部下は若干半目になりながら、無茶する人だなと思った。なにせ孫を相手に、千尋の谷に突き落とすをやってるんだからな。

 まぁ兎に角、電話では明後日にはお孫さん達が顔を出すそうなので、オススメ物件のピックアップなどの準備を進めておくか。






 オフィスで書類を整理していると、下の店舗から来客を知らせるブザー音が鳴った。店内カメラで来客の姿を確認すると、高校生らしき男女3人組の姿が映し出される。一瞬、何故子供が?と思ったが、今日の来客予定者を思い出し、思わず音を立て席を立つ。彼等が重蔵さんが言っていた、お孫さん一行なのかと。

 そして受付担当の部下が来客対応に向かおうと席を立つ姿が見えたので、俺は声を掛け待ったを掛ける。


「ああ、すまない君。今来られたお客さんなんだが、私の昔馴染みの人から紹介されているお客さんでね。私が直接対応するから、座っていてくれ」

「あっ、はい。でも彼等、高校生位の子達ですよ? もしかしたら間違えて入ってきたのかもしれませんし、社長が行かれる前に私が確認した方が……」

「いや、大丈夫だよ。事前に連絡を受けてた通りだからね、心配してくれてありがとう」


 と言う事で、俺は事前に用意して置いた物件資料をバインダーに挟み、急いで下の店舗へと向かう。

 そしていざ入室という段階で、一瞬相手はあの重蔵さんの孫と言う事を思い出し思わず力が入りすぎ、ドアを必要以上に勢い良く開けてしまった。あっ拙いと思ったが、ドアを勢いよく開けて注目を集めてしまっていたので、俺はミスを誤魔化す為に少々大袈裟に挨拶を行う。


「いやぁ、お待たせしましてすみません! 少々所用で席を外しておりました!」

「あっ、いえ。ええっと、来店の連絡をしていた広瀬です」

「!? それは、申し訳ありません!」


 3人の中で一番背の高い少年が、重蔵さんのお孫さんらしい。俺は頭を軽く下げ謝罪しつつ、来店対応を行い彼等を商談スペースのソファーへと誘導する。

 そして名刺を渡しつつ、簡単な自己紹介を行った。


「いやぁ、醜態をお見せして申し訳ありません。私、この桐谷不動産の社長を務めます、桐谷春樹と申します。本日はよろしくお願いします」


 俺の挨拶に合わせ、3人組も自己紹介をしてくれた。重蔵さんのお孫さんの広瀬裕二くん、もう一人の男の子は九重大樹くん、女の子の方は柊雪乃さんだ。皆礼儀正しく、何で重蔵さんはこの子達に試練(イタズラ)を仕掛けるんだと不思議に思ってしまう。普通に紹介してあげれば良いんじゃないかと。

 まぁそれはそれと、悩んでいても仕方ないので早速仕事の話をするとしよう。先ずは、山の購入を検討し始めた経緯を聞いてみる。


「なるほど……」


 どうやら探索者向けの練習場不足が山の購入、専用練習場を作ろうとしている理由らしい。ダンジョンブームの昨今、探索者の数も増加の一途を辿っているからな。その全員が練習場を使おうと思ったら、当然キャパオーバーしてしまう。それならば、稼げている探索者が専用練習場を持とうと考えるのも無理は無いかもしれない。

 ああ、そう言えば最近、幾つかのダンジョン系企業から山の購入を検討していると打診を受けていたな。保養地目的だけでなく、練習場としての運用も考えているんだろう。


「それでは事前に条件をお聞きしてますので、コチラで候補地を5つほどピックアップさせて頂いています。先ずはそちらの方を、軽く紹介させて頂きますね」

「あっ、はい。お願いします」


 と言うわけで、事前に聞いていた条件に適合する物件を紹介していく。先ず1件目、ある程度道も森も整備されており、公共交通機関も近くにあるので中々の掘り出し物の物件である。個人のキャンプ場として使う分には、申し分ない物件だろう。

 そして俺は彼等に5件の物件について一通り説明を終え、一先ず休憩を取る事を提案した。彼等も考えを纏める時間がいるだろうからな。






 暫し休憩を挟んだ後、彼等に紹介した物件の手応えを確認する。重蔵さんの紹介という事もあり、条件の範囲内では中々の好物件を紹介出来ていたと自信があった。

 一見のお客さんには、先ず出さない物件ばかりだからな。いわゆる、お得意様用の物件ってヤツだ。


「どうです? 気に入った物件はありましたか?」


 だが、そんな俺の予想とは裏腹に彼等の顔には、申し訳なさと渋さが色濃く浮かんでいる。怪訝気な表情を表に出さないように注意しつつ笑みを浮かべながら話を聞いてみると、どうも紹介した物件が気に入らない……欲しいと思う条件とは微妙に異なっているらしい。

 一応事前に聞いていた条件を考慮して、良さげな物件をピックアップしていたんだけどな……重蔵さんが間に入っているので、微妙な語弊が生じたのかもしれない。となると、もう一度条件を確認し1、2件はピックアップし直さないと面子が立たないな……その為にも時間稼ぎだな。


「そうですか……では1度、現地の方を確認して見ませんか? 実際に見てみれば、考えも変わるかもしれませんよ?」


 さてと、見学に行って貰っている内に選別作業を行わないとな……。
















桐谷さん……若い頃はヤンチャだったんですね。


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■■■ コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されました。よろしくお願いします! ■■■


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
[一言] 重蔵始末屋稼業 が垣間見えるイイ閑話 職務遂行の遵守又は想定内6:気まぐれ4 な感じて助けたんでしょうねw
[良い点] 社長さん、一体何をやったんだ…(; ・`д・´)ゴクリンコ ヤのつく自営業の方々の事務所に地上げにでも行っちゃったんだろうか…。
[良い点] 人に歴史あり、かっこいいですね 自分に自身ある時って言われても馬耳東風で聞かないですもんね 失敗して良い時に失敗させてもらえる。 主人公達は本当によい保護者に恵まれました
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