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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第15章 夏休みは最後まで大忙し
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幕間 五拾話 噂の正体は その1

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 肌をジリジリと焦がす様な燦々と降り注ぐ夏の太陽に辟易としつつ、空きが目立つ駐車場で荷物を降ろしながら俺、飯田清隆(いいだ きよたか)は辺りを見渡し安堵と不満が入り交じった息をつく。お盆休み期間という事もあり、普段よりダンジョンに潜る人々も大分減っている様だ。最近の混雑具合を思えば、清々しく思う光景である。

 しかし、お盆休み。そう、いま世間はお盆休み期間なのだ。なのに、何で俺今からダンジョンに潜ろうとしてるんだろうな……。


「はぁ……まぁ只単に、今からお仕事って事なだけなんだよな」

「どうしたんです、先輩? 急に達観した様な表情浮かべて、溜息をついたりして……」


 自分が置かれている現状について憂鬱げな表情を浮かべながら嘆いていると、近くに居たペアを組んでいる後輩の田森(たもり)が心配気な表情を浮かべながら声を掛けてきた。


「いや何、どうして俺は今ココにいるんだろうな……ってさ」

「何でだろうって……ジャンケンに負けたからじゃないですか? それに先輩は初盆や家族持ちじゃないですから、免除対象にもなれませんでしたしね」

「まぁ、そうなんだろうけどな……」


 今回盆休み期間中にダンジョンへ潜るメンバーは、初盆などの特別な事情がない独身者から選ばれている。まぁ当然……仕方の無い選択かな? 一応盆休みの代休という形で盆休み期間後に休めるとは言え、家族持ちを態々選んで盆休み期間中にダンジョンへ潜らせるのもアレだしな。実家や親戚へのお盆の挨拶回りもあるだろうし、一家揃って休みが取れる貴重な期間だ。普段出来ない家族サービスをこの期間に……と考えるのも、まぁ当然だろうな。そんな訳でシワ寄せは俺達、特別な事情がない独身組に降りかかって来たと言う事だ。

 頭では理解してるんだけど、何となく納得がいかないんだよな……はぁ。


「とは言え、何時までも愚痴ってても仕方ないですよ。コレからダンジョンに潜るんですし、気持ちを切り替えないと拙いですって」

「……ああ、そうだな。愚痴ってても仕方ないよな」


 俺は田森の激励?励まし?の言葉を聞きながら軽く自分の頬を叩き気持ちを切り替えた後、車から降ろした荷物を背負ったりして移動の準備をすませていく。今回、俺達は前の班と入れ替わりで会社が26階層に設置しているベースキャンプに入るので、食料や衣料品などの補給物資も大量に持っていくのだ。

 これからダンジョン内で一週間の缶詰生活をしながら、モンスターと戦ってアイテム収集する日々。最初はストレスや閉塞感で鬱になりそうだったが、今ではそんな生活にも慣れて淡々と業務を熟せる様になった。いやはや、人間は慣れる生き物だって言うけど、本当に慣れるモノなんだな。まさか自分の身をもって、それを体験するとは思ってなかったけどさ。


「全員注目!」


 田森と喋りながら準備を進めていると、移動の準備が整ったタイミングを見計らい、今回のダンジョン探索における俺達のチームリーダーである30代半ばの落ち着いた雰囲気を醸し出す蘇我(そが)さんが気合いの入った声を張り上げていた。

 そして蘇我さんは、俺や田森を含む12人の班員の眼差しが集まった事を確認し、話し始める。

  

「準備は整った様だな。ではコレより受付へ移動し、手続き完了後はすぐにダンジョンアタック開始だ。今回はお盆休み期間という事もあり、駐車場も見ての通り空車が目立っている。恐らくダンジョン内部も、普段より人気は少なくなっていると思うが……あくまでも推測だ。内部の状況によっては予定より大幅に早く目的地の26階層に到着出来るかもしれないが、基本は行程予定表通りに進む事とする」

「蘇我さん。早く到着出来るのなら、早く到着した方が良くありませんか?」

「確かに、俺達だけならそうかもしれん。だが、前班は俺達の移動速度を把握出来ていないはずだ。多少早く到着するのならともかく、1時間以上早く到着するともなれば前班側の受け入れ準備が整わない可能性も高い。予定を乱し引き継ぎ時に混乱が発生した場合、モンスターがもしも襲撃を掛けた時に不覚を取る可能性がある。そのリスクを考慮すると、出来るだけ行程予定表通りの時間に到着する事が望ましい」

「なるほど、了解しました」


 班員の質問に対し蘇我さんは、出来るだけ行程予定表通りに移動すると断言する、まぁ納得出来る理由なので、質問をした班員を含め全員で頭を軽く縦に振って了承する。

 コレを例えると、友人が自宅を訪れる約束をしていたが、約束の1時間以上前に家の前まで来てしまったという感じだろう。確かに約束の1時間以上前に来れば、準備が出来ておらず慌てて混乱の一つもするだろうな。


「他に質問は?」

 

 蘇我さんは俺達を見渡した後、他に質問する者がいない事を確認し軽く頷いた。

 

「では、移動を開始するとしよう。それと……皆、今回はお盆休みの所を出勤して貰った事、感謝する。本当は皆もお盆で休みたいんだろうが、ウチの会社は年中無休だからな。世間が休みでも、誰かが出勤(ダンジョン探索)しないとならない。だがまぁ、なんだ? 幸か不幸か、お盆休みのお陰で人は少なそうなので、モンスターとの遭遇率(エンカウント)は期待出来ると思う。大口の臨時ボーナスが得られる可能性は、普段よりずっと高いはずだぞ」

「ははっ、そうですね。じゃぁ、大口の臨時収入を目指して頑張りましょう」


 俺と田森の話が聞こえていたのか、休日出勤?で気怠げな雰囲気が漂う班員達に向かって、蘇我さんはやる気を出させる為に臨時ボーナスの話を振って来た。確かに普段よりダンジョン内の人数が少なかったら、表層階でのモンスターとの遭遇率も上がるよな。俺達の給料が基本給+出来高払いである以上、レアドロップ品が出れば大口の臨時収入が手に入る。はぁ、仕方が無い。代休に豪遊出来るよう、レアドロップ品のゲットを目指して頑張るとしますか。  

 俺達は顔に不敵な笑みを浮かべながら、先を進む蘇我さんを追って移動を開始した。






 2列縦隊で隊列を組んでダンジョン探索を始めて1時間、予想通りというかダンジョン内に滞在する人の数は普段よりかなり減っている。お陰で普段の1.5倍程の早さで下の階層へと進めた上、普段では影を見る事さえ稀な表層階のモンスターとさえ移動中に遭遇出来た。

 ああ、そうそう。ついでに言うと中身は不明だが、スキルスクロールを既に一つ回収出来たので臨時ボーナスも少しは期待出来そうだ。


「それにしても先輩、やっぱり学生組が居ないとココも大分スッキリしますね」

「ああ。特にここ最近は夏休み期間中と言う事もあって、初心者組が一気に増えたせいで普段以上に大混雑してたからな」

「そうですね。ウチと狩り場自体は重ならないから特に人が増えても問題はないんですけど、移動に時間が掛かるのは正直勘弁して欲しいですよね」

「本当にそうだな。盆前の時なら、同じ時間でも今の半分も進めてなかっただろうさ」


 モンスターの奇襲を隊列の後方で警戒し進んでいた俺や田森は、ここ最近のダンジョンの混雑っぷりについて愚痴を漏らし合っていた。他にする事も無いし、薄暗いダンジョンの中を無言で歩くだけってのは精神的にもキツいからな。

 一応言って置くが、移動中の雑談は別に禁止されていない。だが雑談が原因で警戒を緩めたりしていたらリーダーの蘇我さんに注意されるので、雑談といっても気は抜けないんだけどな。何より、それが原因で奇襲を許し損害が出たりしたら、給料査定に大幅なマイナス評価がつく。以前一人、それをやらかしたのがいたらしいが、そいつは……うん、まぁ、元気にしてると良いな。

 

「そうですね。あっ、そう言えば先輩。学生と言えば、この噂知ってますか?」

「噂? どんな噂だ?」

「超凄腕の学生探索者パーティーが居るって噂ですよ。平然とした様子で、トップレベルの企業系探索者パーティー以上の成果を簡単に上げてるってヤツです」

「超凄腕……ね?」


 おいおい、それって眉唾というか都市伝説的な噂じゃないのか? 確かに学生探索者でも、凄腕って呼べる連中は居る。だが流石に、トップレベルの企業系探索者パーティーを越えるってのは信じがたい話だぞ。学生探索者パーティーと企業系探索者パーティーじゃ、資金力や組織力に差がありすぎるからな。 

 実際に冒険者として、ダンジョン探索をしてみると分かる。例えパーティーに1人2人の凄腕探索者が居たとしても、補給や休息などのバックアップ体制が整っていないとその力を十全に発揮する事は出来ない。だからこそ、俺達の様な企業系探索者は専門の補給チームを作ったり、安全性の高いベースキャンプを設営し維持し続けているのだ。因みに、この手の体制を一番整えているのは当然ながら自衛隊パーティーだ。寧ろ、自衛隊パーティーがダンジョン探索で培った経験が、俺達企業系の整えている体制の元となっている。


「何でも噂だと、トップレベルの企業系探索者パーティーが30階層に到達する前に、そいつらが先を越したって話ですよ。しかも、防具や荷物に傷1つ負うことなく、だそうです」

「おいおい、ますます眉唾感が強くなってきたじゃないか。確かに回復薬や“洗浄”のスキルを使えば見た目の怪我や汚れは消せるけど、防具や荷物に傷一つないってのは盛りすぎだろ? 30階層到達と言えば、オーガを倒す必要があるんだぞ? あのオーガ相手に、防具に傷一つ負う事なくって……」


 ダンジョンが民間向けに解放されてから半年以上経つが、未だにオーガが討伐されたと言う話は滅多に聞かない。特に企業系探索者パーティー以外だと、数えるほどしか居ないんじゃないだろうか。

 それぐらいオーガを倒す、引いてはオーガが居る階層まで到達すると言うのは難しい事なのだ。討伐する為の実力は勿論、長期潜行が可能なバックアップ体制が整っていないといけないからな。


「まぁ、そうですよね。多分、中々先に進めない学生連中が作った噂だとは思うんですけど……」

「きっとそうだろ。それに学生探索者じゃ、何日にも渡るダンジョン探索は無理だって。俺達みたいに仕事として潜る連中ならともかく、そいつらは何と言って学校を休んでいるんだって話だよ。普通にそんな事していたら、停学か退学になるぞ」

「そうですね。でも、噂の元はあるんじゃ無いかなって俺は思うんですよ。ほら、火の無い所に煙はたたずって言いますし……」

「……じゃぁ、学生探索者パーティーのトップ連中が、その噂の元って事なんじゃないか? トップの連中なら、下手な企業系探索者パーティーより進んでる所もあるしな」


 大学のサークル活動としてやっているのか、組織だった学生探索者パーティーが30階層近くまで進んでいると聞いた事がある。まぁ、あくまで噂なので本当かは分からないけどな。

 とは言え、最初に聞いた噂よりは真実味があるので、この噂がベースになって尾ひれ胸びれが付き、あの盛られた噂になったかもしれないな。


「やっぱりそうですかね……話としては面白いんですけど」

「ちょっと盛りすぎだな。せめて学生探索者パーティーが、オーガと戦ってボロボロになりながらも生還した、位の方が真実味が少しは出るってものだ。流石に無傷ってのはな……」


 ついつい話が盛り上がり、俺と田森の声が段々と大きくなっていく。

 すると隊列の中央、俺達の前を歩いていた蘇我さんが軽く眉を顰めながら俺達に向かって口を開く。

 

「おい、飯田、田森。雑談も良いが、周辺の警戒は怠るなよ?」

「あっ、はい! すみません!」

「気を付けます!」


 蘇我さんに注意された俺と田森は、軽く頭を下げ謝罪の言葉を口にする。どうやら少し、はしゃぎすぎていた様だ。俺と田森は若干はバツが悪いと言った表情を浮かべながら、口を閉じ静かに周辺を警戒しながら進んで行く。その後、モンスターの襲撃を撃退しながら、俺達は行程予定表に記載されているペースより早い速度でダンジョンの奥へと進んでいった。今回の探索で収集するアイテムはベースキャンプが設置してある26階層で得られるモノがメインなので、基本的に道中で得られるレア物では無いアイテムは捨てていく。勿体ないとは思うが、運搬重量に制限があるので回収するアイテムは厳選する必要がある。本当は、全部持って帰られれば良いんだけどな。

 そしてダンジョン探索を開始して半日程が経過した頃、休憩を多めに挟み時間調整をした甲斐もあり、俺達はほぼ予定通りの時間で目的の26階層へと到着した。前班も受け入れ態勢を整えてくれていたらしく、コレならスムーズに引き継ぎ作業を行えそうだ。
















一体誰達の噂なんでしょうね……。


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コミカライズ版朝ダン、コミックス第2巻が7月7日に発売されます。よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 防具の傷に着目するのはいい。 [気になる点] 転んだりしたら [一言] 高速戦闘だと、靴が痛みますね。 そろそろ剣も打ち直しかな? それともアイテムが、、、
[一言] はて?作者さんの言う通りどんな人達の噂なんでしょうかねーー? いやーそんなすごい高校生なんているわけないよなーーー
[一言] 嘘か本当かは別にして 30階層突破者の学生がいるという噂の真偽としては29階層又は30階層で学生を見た。(社会人パーティ) って事に気づいてほしいなぁ。 換金所で30階層以降のドロップ…
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