第355話 元鉱山か……
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土が剥き出しの広場で車を降りると、俺達の目の前に広がるは未開の原生林。いや、確かに山奥の辺境にあるとは聞いてたけど……コレは山奥過ぎないかな?
……本当にこの先に目的地はあるのか?
「うわっ……凄い所ですね、ココ。こんな山奥だとは思っても見ませんでしたよ」
「確かに来る途中説明にあった駅はありましたけど……秘境駅って呼び方が相応しい駅じゃないですか」
「山道に入ってからの道中、朽ち果てた建物が数軒あるくらいで、まともな民家を1軒も見かけませんでしたよ? この周辺って、住んでる人も居ないんですか?」
想像していたより数段上の山奥っぷりに、俺達は思わず驚きの声を上げた。そんな俺達の姿に湯田さんは苦笑を漏らしながら、この辺りの事情について説明を入れてくれる。
「ははっ、まぁこの光景をいきなり見られたらそう思いますよね。では、少し解説をさせて頂きます。この地域は元々、コレから向かう鉱山が産業基盤だったんですよ。先程御覧になられた駅も、コレから向かう鉱山や周辺の人々のために敷かれたモノだったんです。ですので、鉱山の閉山と共にこの辺の産業も撤退、住民もいなくなり駅だけが今も残るって感じですね。一時期駅も撤廃しようという動きもあったんですが、何だかんだ議論があった末に今も残ってます。ああ勿論、ボロい無人駅ですよ?」
「な、なるほど……歴史があるんですね。じゃぁ、道中に見た建物の残骸は、昔の名残って事ですか?」
「はい。こう言っては何ですが建物を撤去するにも費用が掛かりますし、ここら辺は誰も来ない様な辺鄙な所ですからね……危険は危険ですが長年放置されています」
湯田さんの説明に、俺達は軽く頷きながら納得と言った表情を浮かべる。確かに、地域の主要産業基盤がなくなったら急速に衰退するよな。若い世代は生活の為に移住を決意するだろうし、故郷との別れを惜しむ年配者も時代が進めば寿命でいなくなるのは必然。仕事がなくなれば人は集まらないし、電車を使えば近くの町にも簡単に移動出来る……衰退する要素満載だったって事だよな。いわゆる消滅集落ってヤツだったのだろう。
「ではそろそろ目的地に向かって移動したいのですが……皆さん準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。湯田さんの方こそ大丈夫ですか?」
「ええ、はい。ですが……本当に大丈夫なんですか? 話には聞いてますが……」
裕二が大丈夫だと笑顔を浮かべて返事をするが、湯田さんは若干心配げな表情を浮かべていた。まぁ、無理はないだろうな。
「勿論、寧ろ普段のダンジョン探索の方が余程重装備で活動してますからね。全く問題ありませんよ」
「そう、ですか……」
「やっぱり、俺達の言葉だけじゃ不安ですか?」
「いえ、そう言う訳では……」
目は口よりものを言う。口では心配していないと言っているが、湯田さんの目は不安げな色を浮かべていた。まぁ、そうだよな……。
と言うわけで、湯田さんの不安を取り除く為に俺……と言うか裕二がパフォーマンスを始めた。
「まぁ当然の反応ですね。じゃぁちょっと、実践して見せますね」
「実践、ですか?」
「ええ……ああ、アレが良さそうですね」
裕二は周辺を軽く見渡した後、間伐したのか広場の隅に切られた電柱ほどの太さで3m程の丸太があったので近付いていく。湯田さんは裕二の行動に首を捻り不思議そうな表情を浮かべていたが、次に裕二が取った行動で目を見開く事になった。
「じゃぁ湯田さん、よく見ていて下さいね」
「ええっと広瀬さん、その丸太で何を?」
「ちょっとしたデモンストレーションですよ……よっと」
「えっ? ええっ!?」
軽い掛け声と共に裕二は、横倒しの丸太を肩の高さまで軽々と持ち上げた。湯田さんはその光景に一瞬呆気に取られた表情を浮かべたが、直ぐさま驚愕の表情を浮かべ驚きの声を上げる。
裕二は軽々と持ち上げているが、あの太さと長さの丸太なら重さは軽く100kgを超えるだろうからな。
「ついでに、こんな事も出来ますよ」
裕二はそう言って丸太を抱えたままスクワットやジャンプ、丸太を縦に持ち替え広場の中を一般的なジョギングペースで軽く走ってみせる。すると湯田さんは裕二のそんなパフォーマンスを目にし、言葉も出ないと言った感じで口をパクパクと開閉させながら驚きの眼差しを向けていた。
まぁ、いきなりこんな衝撃映像を見せられたらそうなるか。
「ふぅ……まぁ、と言う訳で心配いりませんよ」
「……」
「あれ? 湯田さん?」
「はっ! ああ、すみません……少々驚いてしまっていました」
裕二が声を掛けると、動揺を抑えきれないと言った様子で湯田さんは目頭を指でもみ始めた。今見た光景が認められないんだろうな……。
そして十数秒後、湯田さんは顔を上げ俺達の方を真っ直ぐ見詰めてきた。どうにか折り合いを付けて飲み込んだ様だ。
「失礼しました。どうやら私の心配は杞憂だったようですね」
「いえ、気にしてませんよ。当然の心配ですからね」
「ありがとうございます。では、早速移動を開始しましょう……お願いします」
「はい、では先ず行きは俺が運びますね」
と言うわけで、俺達は目的地の元鉱山を目指して移動を開始する。
草木が生い茂り、幾つもの倒木や落石を避けながら、辛うじて道と判別出来る山道を俺達は駆けていく。話には聞いていたが、確かにこんな道?では、車で向かう事は出来ないだろう。
かと言って、態々整備する手間を掛けるほどのモノじゃ無いからな。
「おっと……ココも道が崩れてますね」
「はっ、はい! 普段は人がロクに通らない道なので、余程大きく崩壊しない限りは最低限の整備しかされてません。ですので、落石や倒木、崩落なんかには十分注意して下さい!」
「了解です」
裕二に背負われた湯田さんは、必死の形相で裕二の背中にしがみつきながら説明と助言をしていく。まぁ原チャクラスのスピードで走る人間に背負われて、未開に近い山道を駆けるなんて恐怖でしかないよな。激しく上下に揺られながら、凄いスピードで迫り来る倒木や落石……普通に怖いわ。
とまぁ俺は足を止めずに、そんな裕二と湯田さんのやり取りを横目で見ながら、伸びた草や枝を打ち払いながら進路確保の露払いとして先行していた。因みに、隊列は俺、裕二と湯田さん、柊さんの順だ。
「湯田さん、今ってどこら辺まで進んでるんですか?」
「い、今ですか? ええっと……アレがソコでソコがアレだから……大体半分は過ぎてると思います!」
「と言う事は、後10分もせずに到着出来ますね」
初めて来た場所なので全力にはほど遠いが、俺達はそこそこの早さで走っていた。予定では30分ほどかかるかと思っていたが、このペースなら20分ほどで到着出来そうだ。
そして草木が生い茂る山道を暫く走っていくと、長草が生い茂る切り開かれた場所に出た。
「山道も終わりみたいですね」
「え、ええ。もう少し先に進むと、採掘場があった場所に出るはずです。……うっ」
「? 大丈夫ですか湯田さん?」
「す、すみません。少し気分が……」
湯田さんは若干気持ち悪げな表情を浮かべながら、右手で自分の口元を押さえていた。どうやらオンブ移動のせいで、酔ってしまったらしい。まぁ裕二も気を付けていた様だが、障害物を避けたりする為にそれなりに激しく上下に振動していたからな。酔ってしまうのも仕方ないだろう。
とは言えだ、裕二の背中で大惨事を起こされても困るので、目的地目前ではあるが湯田さんが復活するまで休憩を取る事になった。
「ふぅ……」
「落ち着きましたか?」
「ええ、おかげさまで大分良くなりました」
「それは良かった。……帰りはこの方法での下山はやめておいた方が良いですかね?」
湯田さんには帰りも車を運転して貰うので、酔ってしまう様ならやめておいた方が良いかもしれない。酔ったまま、平衡感覚が狂った状態での運転なんて危険だからな。
だが、湯田さんは顔の前で軽く手をたて断る仕草をする。
「いいえ。普通に歩く……自分のペースに合わせて移動すると日が落ちてしまいます。それだとロクな灯り一つ無いココから下山する事は危険です。ですので、帰りも同じ方法で下山しましょう。なぁに、少し休ませて頂ければ問題ありませんので……」
「そう、ですか。分かりました」
まぁ確かに倒木や落石でかなり荒れた道だったから、湯田さんのペースに合わせて移動するとなると日が暮れてしまうからな。帰りは俺が湯田さんを背負う事になるので、酔わない様に慎重に移動しないとな。まぁ帰り道は初見じゃないので、行き道よりはスムーズに移動出来ると思うし……大丈夫だろう。
そして10分ほど休憩を挟んだ後、再び裕二が湯田さんを背負い鉱山跡地目指して再び歩き始めた。
「ここら辺は鉱山が操業していた頃、物資集積場にする為に切り開かれたそうです。当時は馬車輸送が陸送のメインだったそうで、ここら辺は厩舎等が多く建てられていたらしいです」
「へー、馬車輸送がメインだったんですか。 あれ? じゃぁ、下にあった駅は……」
「あちらは明治中期から後期頃に作られたそうです。ですが場所が場所ですので、鉱山から駅までの輸送は従来通り馬車メインで行われていたそうですよ。そのお陰か、今来た道も荷馬車が通れるという事が前提で作られており一般的な自動車の乗り入れが無理なんです」
「確かに、道幅は狭かったですもんね」
ここに至るまでの道幅は大体、1.5mあるかどうかと言った広さだったからな。人が通る分には問題ない幅だが、車が通るには少し狭すぎる。当時の荷馬車がどれくらいのサイズだったかは知らないが、今の軽トラよりも小さかったのかもしれないな。
そして俺達は切り開かれた元広場を横目にしながら、湯田さんの案内に従い先へと進んでいく。
駐車場から出発して凡そ30分、俺達は漸く目的地の鉱山跡に到着した。目の前にある山肌には、木造小屋?のような朽ちかけた建物がたっており、入り口の扉に“危険 立ち入り禁止”と書かれた少々錆びている古めの看板が貼り付けてある。
何と言うか……お化けが出そうな雰囲気があるな。
「ココが元鉱山の入り口になります。御覧になられてる様に閉鎖されていますので、例えこの山を購入された後だとしても決して坑道の中には立ち入らないで下さい。大変古いモノですので、何時坑道が崩落するのか分かりません」
湯田さんは真剣な眼差しを俺達に向けながら、絶対に中に入るなと警告をしてくる。まぁ当然の対応だ。明治時代に掘られ閉山後は手付かずになった場所だ、誰にも安全を保障出来るわけがない。
そして湯田さんは一通り坑道に関して説明した後、別の場所へと案内してくれる。
「コチラは鉱石の加工製錬場跡地になります。既に建物はありませんが、操業当時はコチラで金銀の加工が行われていたそうです」
案内された加工精錬場跡は、かなりの広さが整地されていた。パッと見は……学校の体育館より少し広いくらいの土地が整地されてるな。……うん、明治時代の精錬場の跡地ってのが心配になるけど、検査では大丈夫だったって言ってるし色々と利用価値が高い場所だ。
しかし、一応確認しておかないといけないな。
「加工精錬場ですか……鉱毒検査では大丈夫だと言われてましたが、調べて見ると金銀の精錬には鉛や水銀が使われてるそうですね。その辺は大丈夫なんですか?」
“元鉱山”の検査は大丈夫、とかだったらたまったモノじゃない。悪質な業者だったら平然と、鉱山は大丈夫だと言いましたが精錬場跡が大丈夫だとは言ってませんが?とかって購入後に主張しそうだしな。
「はい。勿論こちらも検査済みで、基準はクリアしてます」
湯田さんは裕二の質問に嫌な顔を見せずに、即答で問題ないと返事を返してきた。どうやら俺達の心配は杞憂だったようだ。
しかしそうなると、もう一つ気になる点がある。鉱山開発をする場合、どうしても発生する残土のことだ。ここに来るまでの道程は、1度に大量の残土を運び出せるほどの広さは無かった。残土の埋め戻しをしていない場合、ボタ山が形成されている可能性が高い。鉱山系のボタ山はちゃんと処理がされていないと、それそのものが鉱毒を発生させる場合があるらしいからな……。
なので、最後の質問だと言ってボタ山の事を確認すると、湯田さんはバツの悪そうな表情を浮かべ視線を逸らした。えっ、その反応はもしかして……。
「えっと、その……今回売りに出されている範囲には入っていませんが、近くに鉱山から出た残土を集めたボタ山があります」
「「「……」」」
暫く沈黙が続いた後、湯田さんは重苦しげに口を開いた。
おいおい、最後の最後で爆弾発言が飛び出してきたんだけど!?




