第347話 上手い挨拶なんか出来るか
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バスに揺られ移動する事30分ほど、俺達は目的地のバーベキューの出来る公園最寄りのバス停の1つ前のバス停に降り立った。何故1つ前のバス停かって? 公園に行く前に、先による場所があるからだよ。
と言う訳で、俺達は各々荷物を持って歩き始めた。
「いやぁ~、こうして目的地の目と鼻の先にスーパーがあると便利だよな」
「ああ。食材なんかは現地調達出来るから、ほぼ手ぶらでバーベキューが出来るってのは良いよな」
「コンロなんかの道具は公園で借りられるし、意外に交通の便も良かったしな。いやぁ~、良い所が近所にあったものだよ」
「そうだな。と言っても、俺達は持ち込み分があるから手ぶらとは言い難いけど」
俺と裕二は女性陣の後ろを歩きながら、実際に見た公園の立地の良さに感心していた。適度に郊外で静かでありながら、そこそこの利便性がある公園……人気があるだろうなと。実際、それを証明するかのように公園に向かう車や人通りは多い。学校が夏休み期間中とは言え、一応平日なんだけどな……。
そしてバスを降り5分ほど歩くと、最初の目的地である郊外型の大型駐車場を備える複合型スーパーに到着した。
「良し、じゃぁ手早く食材調達と行こうか。と言っても、こんな場所にあるスーパーだから、バーベキューセットとか置いてあるだろうからそれを買おう」
「あれこれバラバラに食材を買うより、セットを買う方が無難だろうな」
「そうね。セットの方が色々な種類が入ってるし、お値段的にもお得よ」
俺達の資金面の話で言えば、別にセット購入だろうがバラバラの個別購入だろうが大した差は無い。だが美佳達が一緒にいる以上、出来るだけ安く上げておいた方が皆も気持ち的に楽になるだろうからな。それに特選お楽しみ食材は別にあるので、ココで買うのは質より量を優先しよう。食べ盛りの高校生ばかりなので、先ずは腹一杯食べられないとな。
と言うわけで、先ずは店の奥の方にある精肉コーナーへと向かう。
「おおー、場所が場所だけに色々置いてあるな」
「あと、時期も時期だからな。夏休み最後の、って客を狙ってるんだろう」
「二人とも、感心してるだけじゃなく早く選んじゃうわよ。二人はどれが良いと思う?」
「「……これが良いんじゃない(か)? 2種類乗ってるし、量も十分だしさ」」
柊さんに問われた俺と裕二は、売り場を軽く見回した後に同じ商品を指差す。俺と裕二が指したのは、カルビとロースの盛り合わせ1.5kgセットだ。
因みに、お値段は3500円なり。
「確かに人数を考えると、それ位の量はいるわね」
「あと、コッチのバラエティーセットを買っておこうよ。鶏豚にホルモンも入ってるし、味変には丁度良い感じじゃないかな?」
「そうね……後はコレよ」
俺の提案に頷きつつ、柊さんはソーセージの袋に手を伸ばす。確かにバーベキューと言えば、ソーセージは忘れちゃいけないよな。と言う事で、精肉コーナーではこの3点をカゴに入れる。
それと、館林さんと日野さんが購入額を見て微妙に顔色を変えていたけど……まぁ流石に気にしないでおこう。
「後は野菜と海鮮系かな?」
「野菜はともかく、海鮮系は……いるか? 持ち込み分もあるんだしさ」
「いらないかな? 流石に肉と野菜だけってのも……って思ったんだけど。 柊さん達はどう思う?」
持ち込み分もあるので、裕二は海鮮系はいらないんじゃないかと主張し、俺はあった方が良いと思うので柊さん達女性陣に話を振ってみる。話を振られた女性陣は思案顔で目を見合わせた後、軽く頭を横に振り柊さんが代表し口を開く。
「私も今回は海鮮系はいらないと思うわ。持ち込み分もあるし、野菜を少し多めに買っておきたいから……」
「そっか……じゃぁ海鮮系は無しで良いね」
「悪いな大樹」
「いや別に、どうしても食べたいって訳じゃないし問題ないよ」
海鮮系がないという事で落ち込んだ雰囲気でも出ていたのか、謝罪の言葉を口にする裕二に肩を軽く叩かれながら慰められた。いやホント、凄く気をつかわれてる感じだけどさ、俺全く気にしてないからね? とまぁ少々ゴタついたものの話は付いたので、野菜コーナーへと移動し焼き野菜盛り合わせと他に幾つかの野菜をカゴに入れる。
「良し、食材系はコレで大体揃ったかな?」
「そうだな。後は紙皿やコップ、飲み物なんかの細々としたのを揃えればお終いだ」
「タレとかの調味料系も忘れないでね。流石に味無しはきついわ」
「ハハッ、もちろん」
と言うわけで、手分けして一通りの品を揃えた俺達はレジへと進む。カゴ2つ分になってしまったが、まぁ問題ない。そして商品をレジに通し終え、今回の買い物の合計金額が表示された。
「合計で、9862円になります。お支払い方法はどうされます?」
「現金でお願いします」
「はい。……では、10000円お預かりいたします。……お返しが138円になります」
「はい、ありがとうございます」
合計額を聞いた瞬間、館林さん達が今度こそ驚きの表情を浮かべていたが、俺が代表し平然と支払いを済ませると諦めたような表情に変わった。うん。そうそう、気にしないで食べちゃってよ。
そして購入した食材を手分けして持って、俺達はスーパーを後にした。
スーパーを出て10分ほど歩くと、公園の入り口に到着する事が出来た。ホント、好立地の場所にある公園だな。
そして感心した後、俺達は先ず入り口付近に設置してある案内の立て看板を眺め、公園のエリア配置を確認する。
「入り口から見て、右側が遊戯エリアで左側がバーベキューが出来るエリアか……」
「と言う事は、俺達は左側エリアに向かえば良いんだな」
「でもその前に、中央の奥の方にある管理事務所に寄らないといけないわよ。バーベキューをするには場所代を払わないといけないんだし」
「そうだね。道具の貸し出しも管理事務所でやってるみたいだから、先ずは管理事務所に行こう」
管理事務所の大体の場所を確認し終えた後、俺達は公園内に設置された遊歩道を歩き進んでいく。公園内は沢山の人で溢れており、かなり人気のある公園だという事が一目で分かる光景だ。
そして暫し歩いて行くと開けた場所に、コンビニほどの大きさの2階建てのモダンな建物が見えてきた。多分あれが、管理事務所なのだろう。
「あそこが管理事務所、かな?」
「そうじゃないか? まぁ、行ってみれば分かるさ」
建物にユックリ近づいていくと、入り口の脇に“公園管理事務所”の看板が掛けられていた。どうやら正解だったらしい。俺達は管理事務所の中に入り、係員さんの姿が見えないので受付らしき窓口から声を掛けてみる。
「すみません、誰か居ませんか?」
返事がない……本当に誰もいないのか?
念の為に、もう一度先程より大きな声で声を掛けようかとしていると、隣に立っていた裕二が俺の肩を叩いてきた。何だ?
「おい大樹、ココに呼び出しボタンがあるぞ?」
「えっ? あっ、ホントだ……御用がある方はコチラを押して下さいって書いてあるな」
置物の陰に隠れ見え辛い位置に置いてあるが、確かに呼び出しボタンだ。……こういうのはもう少し見えやすい位置に置いといて貰いたいなと、俺は内心で文句を言いつつ呼び出しボタンを押した。
そして呼び出しボタンを押して十数秒後、奥の階段の方から誰かが降りてくる音が聞こえてくる。
「ああ、すみません。お待たせしちゃいまして……それでご用件はなんです?」
少し慌てた様子で階段を降りてきたのは、青い作業服の上着を羽織った中年男性だった。恐らく、ココの管理員さんだろう。
「えっ、ああ、はい。えっと、バーべーキュー広場を利用したいんですが……後バーベキューセットのレンタルも」
「バーベキュー場の御利用ですね? では、コチラの書類に必要事項の御記入をお願いします」
「あっ、はい」
バインダーに挟まれたバーベキュー広場利用申請書と書かれた書類に、俺は必要事項を記入していく。
「それとバーベキューセットをレンタルされたいとの事でしたが、2人~4人用の小セットと6~8人用の大セットの2種類あります。どちらをレンタルされますか?」
「大セットでお願いします」
「分かりました」
俺が書類記入をしている内に、管理員さんは裕二にバーベキューセットの内容の確認をしていく。レンタル出来るバーベキューセットには、最低限必要な物が全て含まれているのでコレを1つ借りればOKである。炭やブルーシート等まで付いてくるので、本当に至れり尽くせりだ。
そして2分程で書類の記入を終わらせた俺は、書類を挟んだバインダーを管理員さんに提出する。
「お願いします」
「ありがとうございます、では確認させていただきますね。……はい、問題ありません。では料金は先払いとなっていますので、お支払いの方お願いします」
「はい、お幾らですか?」
「バーベキュー広場の利用料が1人100円ですので、7名様の御利用なので700円ですね。それとバーベキューセット大のレンタル料が3000円になりますので、合計して3700円になります」
「じゃぁ、4000円からお願いします」
「お預かりします」
俺達は利用料の支払いを済ませ、管理員さんの誘導に従い建物の外に出て倉庫らしき場所に移動した。どうやらココで道具を貸してくれるらしい。
「コチラがバーベキューセット大になります、重いので運搬にはお気をつけ下さい」
「ありがとうございます」
「それとコチラがバーベキュー広場に設置してある水道の蛇口の鍵と、広場の利用権になります。コンロと一緒に返却して下さい」
「はい、分かりました」
「では、安全に楽しくバーベキューを行って下さい」
管理員さんは軽く頭を下げ挨拶をした後、管理事務所の中へと帰って行った。
良し、じゃぁ早速バーベキュー広場に行くか。
俺達がコンロを抱えてバーベキュー広場に行くと、既に数組のグループがバーベキューを始めていた。辺りには肉が焼ける良い匂いが立ちこめているので、凄くお腹が減ってくる場所になっている。
もう少し早めに来るべきだったかな……。
「この匂いを嗅いでると、お腹が一気に減ってくるな……」
「そうだな……急いで用意始めよう」
「ええ、そうしましょう」
「「「「賛成!」」」」
俺達は周りから漂ってくる匂いに背中を押されながら、割り振られたスペースに移動し準備を始めた。準備の役割としては、俺と裕二がコンロの準備を担当し、人数が多い女性陣がブルーシートや食器の準備担当だ。
「良し、炭積みはこんな感じで良いな。裕二、着火剤に火を着けるぞ」
「おう、良いぞ」
着火剤に火を着けると、一気に火が上がり炭を炙っていく。暫く待っていると炭に火が回り、炭自体が燃え始めた。団扇や火吹き棒等があれば良いのだが、ココには無いので紙皿を団扇代わりに裕二と交代交代で空気を送り燃焼を促進させる。暫く仰いで空気を送っていると、炭が全体的に白っぽくなり完全に火が着いたようだ。ふぅ、炭に火を着けるのは大変だよホント。
そして炭を全体的に均し広げコンロに網を乗せれば、バーベキューの準備は完了だ。
「皆、火起こし出来たよ!」
「お疲れ様、九重君広瀬君」
「「「「お疲れ様です」」」」
どうやら俺達の火起こし待ちだったらしく、準備完了を告げると待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべながら俺と裕二に労りの言葉を掛けてくれた。
只少し、やっとかよって感情が見え隠れしてるように感じるけど、それは気にしないでおこう。
「じゃぁ準備も出来た事だし、まずは乾杯からにしましょう。九重君と広瀬君は何を飲む、用意するわよ?」
「えっ? じゃぁ……取り敢えずお茶でお願い」
「俺も、取り敢えずお茶で頼むよ」
「了解、二人ともお茶で良いのね。美佳ちゃん、そこのお茶のペットボトルとって」
「はぁーい」
俺達が柊さんからお茶とコップを受け取った事で、全員に飲み物が行き渡り乾杯の準備が整う。
そして今回のイベントの発案者として、俺は乾杯の挨拶役を任された。ヤバい、全く考えてなかったんだけど……何を言えば良いんだ? 目を右往左往させて助けを求めるも、早く何か言えという皆の眼差しに押され仕方なく俺は口を開く。ええい、こうなったら出たとこ勝負だ!
「オッホン! ええと先ずは皆、急なイベントに参加してくれてありがとう。こうして皆で集まってバーベキューが出来る事、大変嬉しく思うよ。それで、えっと、あの、その……ああ、もう! やっぱり何も思い浮かばん! ともかく皆、今日は夏休み最後の思い出作りと思って目一杯楽しんでくれ! それじゃぁ皆、乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
上手い挨拶が思い浮かばなかった俺は、ヤケッパチ気味の勢い任せに顔を赤くしながら乾杯の音頭を取った。すると皆、クスクスと苦笑を漏らしながら乾杯していた……はぁ。あれ?何だかこのお茶……塩っぱい様な気がするな。




