第344話 計画始動
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ダンジョンで高速戦闘の具合を確認し終えた翌日、俺達は裕二の家に集まり話し合いをしていた。議題は主に、高速戦闘の練習が行える練習場所に関してだ。
また幻夜さんに場所を借りるか、いっそ自分達で用意するか……。
「昨日帰ってから軽くネットで調べてみたんだけど、自分達で山を買うこと自体はそう難しくないみたいだよ。手続きは色々あるみたいだけど……」
「そうらしいな。俺も軽く調べてみたけど、値段も広さの割に無茶苦茶高いって事も無さそうだ」
「私も軽く調べてみたけど、共同購入って形なら私達でもいけそうよね。値段的には……」
触り程度ではあるが全員、山の購入に関して軽く調べて見てたらしく最低限の知識を持っているので話は意外とスムーズに進む。詳しい手続き自体はまた後で調べ直すとして、一番の問題である購入予算について話す。
予算か……幾らまで出せるかな?
「皆は幾らまでなら無理なく出せそう? 俺はあんまり使ってないから、そこそこ出せるよ」
「幾らまでとなると、俺もそこそこ出せるぞ。何だかんだで、ダンジョン探索で得たお金はそんなに使ってないから貯まる一方だしな」
「私もそこそこ出せるわよ、基本的に私も貯まる一方だしね」
ダンジョン探索で儲かってる割に皆、意外と無駄遣いもせず貯金してたらしい。寧ろ俺の方が、何かある毎に美佳達に奢っていたので一番使っていたのかもしれないな。
俺は少し奢りすぎてたかもしれないなと思いつつ、二人に見えないようにバツの悪い表情を浮かべた。
「そっか。じゃぁ予算は、それなりの額に出来そうだね」
「ああ、何ならダンジョンに行って購入資金集めをしても良いだろうしな」
「そうね。死蔵してるスキルスクロールやマジックアイテムなんかを売りに出せば、効率よく資金稼ぎになるわ。勿論、出すのは問題ないものをよ?」
柊さんの言うように、問題があり死蔵しているものは流石に出せないが、スライムダンジョン産の問題ないものは幾らでも“空間収納”に仕舞い込んである。その一部を換金するだけで、資金問題は解決するな。
勿論、スキルスクロールやマジックアイテムばかりを一気に換金したら悪目立ちするので細々とだけど。
「そうだね。でも、取り敢えずそれは補填費用として、まずは手持ちで出せる額を決めよう。俺は……200万くらいかな?」
「俺も手持ちで無理なく出せる額としては……2、300万くらいかな?」
「私もそれ位かしら? 税金の支払いとかもあるから、ダンジョンで得た収入を全部って訳にもいかないしね」
高校生がポンと提示する様な額では無いと思うが、俺達も探索者としてはそれなりに稼いでるからな。この位の金額なら、出せないことは無い。念の為言っておくが、普段から無茶な金遣いはしてないので金銭感覚が麻痺してないぞ。普通に凄い額を提示しているという自覚はある。
「となると、6~800万位か……」
「ああでも、登録なんかの手続にも幾らか掛かると思うから、500万位を考えていた方が無難じゃ無いか?」
「そうね。手続きに幾ら掛かるか分からないんだし、7,8割を目安にしておいた方が良いわ」
と言うわけで話し合いの結果、一先ず山の購入予算としては500万程を想定することになった。500万か……結構な額だよな。
そして予算が決まったので、どんな山が売りに出されているかネットで調べて見ることにした。
「500万の予算があると……買えそうな物件がいっぱい有るね」
「そうだな……5haってどんな広さだ?」
「……よく色んな物の面積比較に出される、東京ドームより少し広い位あるわね」
どんな物件が売りに出されているのかと調べて見ると、普段聞かないような単位で山は取引されていた。ドーム球場クラスの広さの山でも、500万位で買えるのか……。
知らない世界の話すぎて、調べれば調べるほど驚きしか出てこない。
「ドーム球場より広いんだ……うん、広さとしては十分だね」
「広さだけならな……でも、広すぎないか? ドーム球場クラスの土地っているかな?」
「狭いよりは良いんじゃないかしら? 広いなら使う場所を限定すれば良いだけなんだし、戦闘訓練以外の事にも使えるわよ」
「「まぁ、そうか……」」
確かに昨日の結果を思えば、狭いよりは広い方が良いのは確かだ。それに広ければ、今まで積極的に練習出来なかったスキルの練習なんかも出来るようになるしね。以前考えた、“穴掘り”を使った秘密基地作りも、スキルの練習という御題で実行出来るかもしれない。
そこまで考えた俺は内心、寧ろ色々出来るように広い方が良いなと思った。
専用練習所建設に関して一通り話し合った後、俺達は一旦休憩を挟むことになった。裕二がお茶を取りに行っている間、俺は柊さんと話をする。
「そう言えば、もうすぐ夏休みも終わりだね」
「そうね。でも、今年の夏休みはダンジョンに行ってた記憶しかないわ」
「ははっ、俺も似たような物だよ。それにしても、夏休み前半で宿題を全部終わらせておいて本当に良かったよ」
どうせ美佳達も含め、ダンジョン漬けになると思っていたので、多少無理をしてでも7月中に皆で宿題を終わらせていた。今にして思えば、英断だったと言い切れる。去年の夏休みなんて、今頃でも結構残ってたからな。
……今から必死こいて宿題を終わらせるとかやりたくないよ、ホント。
「そうね。でも、今年はどれくらいの生徒が夏休みの宿題を終わらせてこれるのかしら?」
「うーん。半分以上は終わらせてくると思うけど、残りは……どうだろ? もしかしたら、今頃になって思い出して、徹夜で仕上げてるかもしれないね」
「夏休みの最後は、徹夜で宿題か……」
柊さんは半目で憂鬱げな表情を浮かべながら、小さく溜息を漏らす。そんな状況に陥っているだろう学生探索者達に、心当たりがあるのだろう。俺もパッと考えただけでも、結構心当たりがあるしな。
とまぁ、そんな話をしながら待っていると、お茶を取りに行っていた裕二が戻ってきた。……オマケを引き連れて。
「お待たせ」
「お帰りって……重蔵さん?」
「久しぶりじゃな。お前達が面白そうな話をしてると聞いてな、ちょっと顔を出させて貰うぞ」
裕二の後ろから姿を見せたのは、楽しげな表情を浮かべる重蔵さんだった。そして、裕二は持ってきたお茶を俺達に配りながら、若干申し訳なさそうな表情を浮かべている。
どうやらと重蔵さんの登場は、裕二の本意ではなかったらしい。
「こやつに簡単に聞いたがお主等、山を買おうとしておるみたいじゃな?」
「え、ええ。正確には、専用の練習場を作らないか?って感じなんですけど……」
「なるほどの。確かにお主等の様に探索者をしとる者の場合、練習場所も中々ないじゃろうしな」
「ああ、はい。公的な練習場はドコも予約でいっぱいらしいですし、特にスキルを使って練習しようとした場合、許可が下りた施設以外で使うと最悪捕まりますから」
「それで自分達で山を買って、専用練習場を作ろうとしておるという事か……」
俺は重蔵さんに、どうして山の購入を考えているのかと説明する。すると重蔵さんも、軽く眉を顰めつつも、話の趣旨には理解を示してくれた。
まぁ普通、金があるとは言え高校生が山を買うなんて言い出したら、小言の1つも言いたくなるよな。
「お主等の言いたい事は分かった。じゃが、別に態々山を買わなくても良いんじゃないか? 何時ものように、幻夜のヤツに頼めば場所は貸してくれるじゃろうに……」
「まぁ確かにそうなんですけど、何時までも幻夜さんにお願いするってのはどうかなっ……て思いまして。今は良縁とは言えませんけど、縁あって幻夜さんには色々お世話になっています。ですが何時までもそれに頼って、と言うのも考え物じゃないですか? どうしても無理な場合はお願いするしか有りませんけど、軽く調べて見ると自分達でも何とか解決出来そうな問題だったので……」
「ふむ、なるほどの……」
今回幻夜さんに頼らない理由を話してみると、重蔵さんは一言漏らした後、腕を組みながら目を閉じ考え込む。俺達はそんな重蔵さんの様子に、何か拙いことを言ってしまったのでは?と緊張し、背筋を伸ばしジッと重蔵さんの様子を窺う。
そして部屋の中に沈黙が広がった数秒後、重蔵さんはゆっくり目を開け口を開く。
「確かに、何時までも好意に頼って幻夜のヤツに頼り続けるというのも考え物じゃな。自分達では解決しようがない問題なら、頭を下げ頼るのが正解じゃろう。じゃが、確かに自分達で頑張れば解決出来る問題ならば、頼る前に自分達で動き解決するべきじゃろうな」
「「「……」」」
「良いじゃろ。お主等がそう考えて山を買うと言っておるのなら、ワシも少々手を貸してやろう。土地売買など、伝手がないと良い物件は難しいじゃろうからな。特にお主等の様な若者、高校生では相手に足下を見られ、碌な物件は出てこんじゃろ」
「「「あ、ありがとうございます」」」
どうやら重蔵さんに納得して貰えたようだ。その上、山購入に関して手も貸して貰える流れになった。コレは本当に助かる。購入計画が具体化したら、重蔵さんには相談するつもりだったので、説得する手間が減った。まぁ減ったというか、計画が具体化する前に前倒しになっただけだけどな。
しかし、まぁ説得というか説明?が上手くいって良かった。
「それで? お主等の計画はどんなものじゃ?」
「ええっと、計画と言ってもまだ考え始めたばかりで、まだ予算ぐらいしか決まってません……」
「何じゃ、まだそんなものなのか? ワシはてっきり、既にどの辺の山を買うか、検討を始めておるものじゃと思っておったぞ」
「ははっ、流石にそこまでは……山を買って専用練習場を作ろうって考えたのも、この間の泊まり込み探索の時ですよ? まだ考え初めて一週間も経ってないので、まだまだ五里霧中の段階ですね」
予想以上に話が進んでしまった為、重蔵さんに説明しようにも説明する計画の内容自体がまだない状態だ。予算もつい先程決めたばかり、実際に望む広さの山を買うのに足りるのかも分からない。と言うか、正確な購入手続きの流れも調べ切れてない状態だからな。
そんな苦笑いを浮かべながら自白した俺の言葉に、重蔵さんは少し呆れたような表情を浮かべた。いや、仕方ないでしょ!? まさか、こんな事になるとは思っても見なかったんですよ!
「そうか……では先ずはワシの知り合いの不動産屋に少し聞いてみるとするかの。で、お主等はどの程度の予算を用意出来るんじゃ? 予算次第じゃ、広さはあれど人里遠く離れた僻地や、近くとも崖の様な急勾配の土地なんて所しか買えない事になるからの」
「ええっと、今の所6~800万の予算を考えてます。諸手続にもお金が掛かるでしょうから、山の購入費用としては回せる予算は500万ほどかなと……」
「ふむ。探索者をやっているとは言え、高校生にしては結構な予算じゃな。だが、そんなに出して大丈夫なのか?」
重蔵さんは予算額を聞き、少し驚いた様な表情を浮かべつつ心配げな眼差しで俺達を見回す。まぁ確かに、高校生がこんな額の予算額を提示してきたら驚くか。
俺達は軽く頷きつつ、心配ないと返事を返す。
「はい。皆、無理のない範囲で出せる額です」
「ああ、無理はしてないから心配しなくて大丈夫だぞ」
「ちゃんと税金の支払い何かも滞りなく出来るように考えてますので、無理のない金額です」
「……そうか。ではこの予算で、取り敢えず話を聞いてみるとするかの」
「「「お願いします(ありがとう)」」」
重蔵さんは俺達の返事に軽く頷きながら納得し、続いて俺達に他の条件を尋ねてきた。
「そうですね。今の所、条件としては人気がない山奥ですかね? ある程度の勾配は問題ないですけど、出来れば俺達が練習している姿は見られたくありませんから」
「そうだな。ちょっと調べたんだけどさ爺さん、どうも山って1山幾らとかじゃなく、山を何区画にも区切って売ってるらしいんだ。出来れば隣接してる区画を、他の人が買ってない場所が良い」
「私も人気がない山奥ってのは良いんですけど、出来れば行くまでの道はある程度整えられてる所が良いです。流石に獣道を通って何山も越えた先にある場所とかだと、行くだけで時間が掛かりすぎると思うので」
「なるほどの……他には無いか? 無い? では、取り敢えず今出た条件で聞いてみよう」
「「「御手数おかけしますが、お願いします(頼むな、爺さん)」」」
頭を下げ俺達はお礼を言い、重蔵さんは軽く頷きながら腰を上げ部屋を出て行く。いきなり重蔵さんが来た時は驚いたけど、結果的には良かったよ。
俺達は安堵の息を吐きつつ、少し温くなったお茶を飲みながら半笑いの笑みを浮かべ合った。




