第343話 専用練習場か……
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俺達は頭を付き合わせながら、練習場所問題に頭を悩ませる。高速域での動きに慣れてくればそこまで広さが無くとも問題無いのだろうが、練習初期は如何しても広い場所を使わないと衝突したりとマズイ事になるだろうな。広い場所で動きに慣れ、徐々に狭い範囲でも動けるようになる。慣れる手順としては、こんな感じだろう。
そして、そこそこの広さがあり俺達がやっている事を秘匿出来る場所……難しいな。
「やっぱり、今回も幻夜さんにお願いするしか無いかな……」
「そう、かもな。俺達が知っていて、お願いすれば使えるかもしれない場所となると、幻夜さんの所ぐらいだからな……」
「そうね。でも、そう何度もお願いするって言うのも心苦しいわ……」
俺達の知る範囲では、やはりこの手の問題は幻夜さんに頼むのが一番無難な選択なんだろうな。因みに、俺達の能力の秘匿という意味合いでは、既にまぁまぁなぁなぁの状態だ。既に向こうも、俺達の特殊性は把握しているだろうしな。
しかし柊さんの言うように、何時も幻夜さんにお願いするというのも中々に心苦しい。
「うーん……いっそ、自分達専用の練習場ってつくれないかな?」
「専用の練習場か……出来なくは無いかもしれないけど金が掛かるぞ?」
「それに他の人に見られないようにとなると、それなりに人里離れた山奥……交通の便が悪い僻地よ? 車とか持ってない私達だと、候補地はかなり限られてくるわ」
「確かに……」
今年は色々提出して稼いでるので、お金の方は何とかなるかもしれないが購入物件の条件が厳しい。沿線沿いのそこそこ人里離れた山、とかでも無ければ俺達の通える行動範囲ではなくなってしまうからな。流石に自転車で通える範囲に、人里離れた山は無いだろうしさ。
しかし、そんな都合の良い条件の物件ってすぐ見付かるものかな?
「まぁ確かに、自分達で自由に使える練習場があると便利と言えば便利だよな」
「ええ、色々と気にしなくて良いってのはメリットよね」
「う、うん」
色々課題はあるものの、二人も専用練習場作りには賛成のようだ。専用の練習場があれば、今まで出来なかった練習とかも出来る様になるからな。スキルや魔法の使用も、専用の練習場所を作り色々許可を取れば使えるようになる。企業系探索者も自社持ちの練習場で練習をしているって話だし、条件は面倒でも許可自体は取れないことは無いらしい。
初期投資や維持費、許可取りと言った面倒事はある物の、探索者として専用練習場を持つメリットは大きい。公共の練習場等は、いつも予約でいっぱいみたいだしな。
「1度、条件を出して探して見るのも良いかもな……」
「そうね。今の段階だと漠然としたイメージしかないもの、購入予算や場所の条件なんかを出してみるのも良いかもしれないわ」
「最低限、予算は決めとかないと探しようが無いもんね」
と言うわけで、取り敢えず探りという形で候補地を探してみる事になった。
人里離れた山奥にある専用練習場か……うん、秘密基地みたいで良いかもしれないな。
一先ず反省会も終わったので、俺達は地上に向け撤収することにした。今日は日帰りの予定なので目的も達した以上は長居は無用、サクサクと帰るとしよう。
そして29階層を後にし地上に向け最短コースを歩いていると、27階層付近で企業系探索者のチームと遭遇した。どうやら初めて見る俺達の姿に、向こうは少し警戒しているようだ。まぁ、この階層辺りまで来れるチームとなると数も減るだろうから、大体のチームは顔見知りって可能性は高いよな。そんな所に初見?のチームが現れたら、少なからず警戒はするものだ。なので、俺達は出来るだけ彼等に刺激を与えないように挨拶をする。
「「「あっ、どうも、お疲れ様で~す」」」
「お、お疲れ様……」
軽く手を上げながら挨拶をすると、俺達に対して少し警戒感が薄れた様に感じる。まぁ挨拶をしたことで、極限状態に陥っているとか問答無用で襲い掛かってくるような連中では無いと思われたのだろう。控え目な感じだが、ちゃんと返事を返してくれたしな。
そして俺達はそのまま軽く頭を下げながら、彼等の横を抜け先に進んでいく。しかし……。
「ああ、すまない君達。ちょっと良いかな?」
「「「? 何です?」」」
「えっと、こんな事を聞いたら悪いとは思うんだけど、君達って会うの初めてだよね? ここら辺の階層に来る探索者達とは、大体顔見知りなんだけど……君達の顔は知らないしさ」
申し訳なさげな表情を浮かべつつ、企業名が入った作業着を着たパーティーリーダーらしき男性探索者が俺達の素性について尋ねてきた。恐らく初顔の俺達の情報を集めておきたいのだろう、何だかんだで探索者としてはライバルだからな。それにもし俺達が企業所属だったりしたら、同業他社がシェア争いに参入してくるって重要な事前情報になる。
「えっ、ええ。普段は別の所のダンジョンに潜っています。今回はちょっと気分転換に……って感じですね」
「気分転換……ですか」
「ええ、はい……」
別に探り合いをしているわけでは無いのだが、何故か俺の答えに男性探索者の目が少し鋭さを増し探るように俺達を見てくる。アレ、コレって何か変な思惑があると思われてるよな……たぶん。
これ以上立ち話をしていると、何だかややこしさが増すような気がしたので俺は強引に話を打ち切ることにした。
「ええっと……じゃぁ俺達先を急ぎますので、お互い道中気を付けましょう」
「そうですか、急な不躾な質問にお答えして頂きありがとうございました。では、お気を付けて」
「ああ、はい。ありがとうございます」
と言って別れたのだが、通路の角を曲がり完全に姿が見えなくなるまで背中に探るような視線を俺達は受け続けた。視線と気配が無くなったのを確認し、俺達は胸に溜まった息を吐き出し足を止める。
はぁ、何だか疲れたよ。
「まさか、いきなり素性を聞かれるとはね」
「まぁ確かに、初顔なら向こうとしても気にはなるだろうな。何と言っても商売敵だからな、ライバルの情報は少しでも欲しいだろうさ」
「そうね。場合によっては彼等も活動範囲を変えないと行けなくなるもの、ライバルの情報は押さえておきたいでしょうね。でも、大した交流も無いのにいきなり素性を尋ねるってのはマナー違反よ。私達が学生だから、聞けば答えると思ったのかしら?」
俺達は先程の企業所属探索者の対応に愚痴を漏らしつつ、止まっていた足を再び動かす。普段通っているダンジョンなら、既に俺達の顔は割れているので今回のような問題は起きないんだけどな。
とまぁ、そんな事を思いつつ足を進めるのだが、25階層に至るまでに似たような事が後2回ほど起きるとは思ってもみなかった。やっぱり皆、初顔は気になるんだな……。
29階層から3時間半程掛け、俺達は地上へと戻ってきた。ダンジョン内に居る探索者の数が増えたせいか、行き道より多少時間が掛かってしまったが、まぁ予定の範囲内だろう。ダンジョンを出た俺達は更衣室で着替えを済ませ、本日得た戦利品の換金作業へと足を伸ばす。
だが、ダンジョン内での人の多さに比例するように、換金所も人で溢れていた。特に学生探索者の数が多く見られる。やっぱり夏休みだからだろうな。
「凄い数だな……待ち時間が長そう」
「そうだな。と言っても、換金せずに帰るわけにも行かないんだし、素直に順番を待とう」
「そうね。幸い、窓口の数も多いみたいだし、そんなには待たないはずよ……たぶん」
人の数に若干ウンザリしたような表情を浮かべつつ、俺達は発券機から待ち受け番号札を受け取る。番号の数は312、今の呼び出し番号が268なので40人近く待っている計算だ。窓口の数はそこそこあるが、それなりの時間待つことになりそうだ。
しかも、待合席は埋まっているので何処か休めそうな場所を探さないと……。
「ちょっと外の自販機コーナーに移動しよう? 流石にこの混雑状況だと、休憩を取る場所も無さそうだしさ」
「そうだな、時間を見て戻れば大丈夫だろう。行くか」
「ええ」
と言うわけで、俺達は一時的に換金所を退出し外の空いてる自販機コーナーへ向かう事にした。後から来た人達も慣れた様子で、俺達と同じように番号札を受け取ってから退出しているので、この混雑状況は珍しくないのだろう。
そして、自動販売機でそれぞれ飲み物を購入した後、俺達は建物の日陰で休憩を取る事にした。
「それにしても、やっぱり利用者が多いダンジョンは換金にせよ移動にせよ待ち時間が長くなるな……」
「ココは交通の便が良いからな、近くの学生探索者が集中した結果だろうさ。夏休みも終われば、程々に落ち着くんじゃないか?」
「夏休み期間中限定、って事なら良いんだけどね。普段からコレじゃ、色々な所からクレームが出るわよ」
「そうだね……」
チラリと観察してみたが、臨時事業者専用受付とか用意されてたしな。恐らく既にクレームがあって、急いで対応した結果だろう。って、あれ? 俺達も一応個人事業主だから、事業者の括りだよな? 窓口の利用は……うん、やめといた方が良いか。
購入した缶コーヒーを飲みながら、俺はその考えを振り払った。
「それはそうと今回の換金に関してなんだけど、ちょっと良いかな?」
「ん? 何だ、大樹?」
「実はさ、今回手に入れたスキルスクロールの事なんだけど……譲って貰えないかな?」
「スキルスクロールって“洗浄”か?」
俺の申し出に、裕二と柊さんが少し怪訝気な表情を浮かべる。何故なら“洗浄”スキルなら既に、全員が取得しているからだ。その上で高額換金物“洗浄”のスキルスクロールを欲しいと申し出るとなると、やはり何かあるのかと思われるよな。
なので、俺は“洗浄”のスキルスクロールを欲する理由を話す。
「うん。折角“洗浄”のスキルスクロールをゲットしたんだし、美佳達に譲ろうかと思ってるんだよ」
「ああ、美佳ちゃん達にか……」
「確かに“洗浄”スキルがあると、モンスターと戦った後始末が楽になるものね。髪や衣類に血が付くと、洗濯やシャワーを浴びても中々落ちないもの。特に時間が経つとね」
「そっ。そんな感じだから、美佳達に“洗浄”のスキルスクロールをやろうかなってさ。まぁ無条件で譲ると問題ありそうだから、何か課題を出してそれの成功報酬にって所かな?」
美佳も今悩んで居るみたいだし、乗り越えた先のご褒美としては丁度良いだろう。探索者を続けるのなら、このスキルはかなり有用だからな。
そんな訳で、俺は裕二と柊さんに頭を下げながら“洗浄”のスキルスクロールを譲ってくれないかと頼み込んだ。すると……。
「成る程……良いぞ、俺はな」
「私も良いわよ。“洗浄”の有効性を知っている身としては、美佳ちゃん達もどちらかが持っていた方が良いスキルだと思うわ。衣類の洗浄にしろ武器のメンテの為にしろね」
「ありがとう、二人とも」
と言うわけで“洗浄”のスキルスクロールは換金せず、俺に譲って貰えることになった。課題の成功報酬とは言え高価な品なので、どんな課題を美佳達に出すかな……。
そして話している内に、そこそこ良い時間が経ったので俺達は換金所へ戻った。
「おお、中々危ないタイミングだったな」
戻って呼び出し番号機の表示を確認してみると、310番と表示されており危うく呼びとばされる所だった。また受付番号を引き直して並び直すとか嫌すぎる。
そして戻って2分程すると、俺達の番号が呼ばれた。
「お願いします」
「はい、お預かりします」
今回の探索で得たドロップアイテムを提出し、俺達は査定を待つ。今回は出来るだけ戦闘を避け進んでいたので、それほどドロップアイテムは拾っておらず、そんなに待ち時間は無いはずだ。
そして待つ事5分、査定が終了した。
「お待たせしました、査定が終了しました。コチラが詳細になります」
「ありがとうございます」
窓口の係員さんが、俺達に査定詳細が書かれた用紙を渡してくる。今回のドロップアイテムには、鑑定待ちの上級回復薬やスキルスクロールが有るので、表面上は数十万円と言う額で収まっている。もし、この場で鑑定され全てのアイテムが査定されていたら、最低でも数百万円の査定額が記載されていただろうな。
上級回復薬は昔に比べ流通量こそ増えているが、今だその効能のお陰で1千万近い額で取引されている。まぁ誰だって、欠損さえ即座に回復させる薬となれば欲しがるからな。
「じゃぁ鑑定待ちのもの以外は全て買取でお願いします」
「分かりました。では、買取金は3分割にして各登録口座の方に振り込みで処理でよろしいでしょうか?」
「あっ、いや……」
スキルスクロールを譲って貰うので買取金の受け取りを拒否すると伝えようとしようとすると、裕二と柊さんが横から口を挟んできた。
「はい、3分割でお願いします。柊さんも良いよね?」
「ええ、それでお願いします」
「えっ?」
「分かりました。ではそのように振り込みさせて頂きます」
俺が何か言う前に、買取金の振り込み処理が終わった。俺達は窓口の前をどいた後、建物の外に出て振り込みについて話し合う。
その結果、スクロールに関しては俺達全員からの成功報酬にするんだから、お前はちゃんと今回の探索の報酬は受け取れと言われた。うーん、何と言うか良い仲間を持てたホント。




