第339話 コレじゃぁ……特撮ヒーローだよな
お気に入り29750超、PV58800000超、ジャンル別日刊72位、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて連載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
コミカライズ版朝ダン、コミックス第一巻が12月7日に発売されました。よろしければ見てみてください。
全ての項目の計測を終えた俺達は、最後の持久走?で多少荒れた地面を均していた。抉れてこそないけど、減速時に滑った跡が少し目立ったからな。後日、君達何をしたんだ?と管理者に問われたら面倒だ。
そして10分程掛け目立つ跡を均し終えた俺達は、スポーツテストの結果を纏めたメモ帳を見て頭を抱えていた。
「これは……アレだね。日曜の朝にやってる、特撮ヒーローのスペック表だ」
「ああ、確かに。ぱっと見たら確かにそう見えるな、コレは……」
「……でも、パンチ力やキック力の項目が足りないわよ?」
「えっと……いる?」
苦笑いを浮かべながら戯言を口にする俺と裕二に、柊さんは呆れた表情を浮かべつつ半目で突っ込みを入れてくる。いやいや、流石にソレを入れたら……ね?
俺は軽く咳払いをした後、スポーツテストの結果を纏めたメモ帳を“空間収納”に仕舞った。どこかに置き忘れて、誰かに見られたら拙いからな。
「まぁ雑な計測の仕方だったから、今回のテストで限界が見れたかと言えば素直にうんとは言えないけど、おおよその目安は測れたかな?」
「ああ。少なくとも、現状どんな感じになってるのか?ってのは把握できたと思う」
「そうね……。想定内と言えば想定内だけど、当たって欲しくない結果だったわ」
「「「……」」」
そうだよね、まさか特撮ヒーロー擬きの結果が出るとは思っても見なかったよ。俺達は顔を見合わせ数秒間気拙い表情を浮かべながら沈黙した後、タイミングを合わせたかのように頭を軽く左右に振った。
ホント、何でこんな結果になったんだか……。
「まっ、まぁ兎も角、今回の“今の自分の持っている力を把握する”って目的は大体達成出来たんだし、そろそろ引き上げようか? ちょうど昼時だし、何処かで昼食でも食べていこう」
「そう、だな。今回のテストの結果を検討するにしても、少し頭を冷やす期間をおいた方が良いだろう」
「ええ、そうね。この結果を使って何をどうするか考えるにしても、1度落ち着いてからの方が良い案がでると言うモノよ」
と言う訳で、1日貸し切り利用としているが、午前中で全項目のテストが終わったので、俺達は早々に切り上げることにした。流石に山中とは言え、只の公共施設で高速戦闘の練習なんて出来ないからな。最悪誰かに見られてしまった場合、探索者能力の不正使用を疑われ任意同行等と言った面倒なことになりかねない。そうなったら、俺達が隠していることが芋づる式に……となってしまう可能性も無くは無いからな。
かと言って、スキル使用公認の練習場でやれる事でも無い。はぁ、本当に何処かの辺鄙な奥地の山を買って専用練習場を作るか? 資金的には……ギリギリいけるか?
広場の各施設の施錠を確認した後、俺達は山を下り最寄りのファミレスでお昼を取る事にした。お店を選ぼうにも、この辺りにはあまり来ないのでどんなお店があるか分からないからな。変なお店に当たるより、無難なチェーン店だ。と言うわけで、俺達は無難に日替わりランチを人数分注文した。因みに日替わりランチの内容は、スープライス付きのハンバーグプレートである。
そして昼食を食べ終え一服しながら、俺達は当たり障りの無い相談をし始めた。
「さてと……どうしようか?」
「どうしようって言われてもな……予約殺到中で常時満員の公認練習場は使えないから、何時も通り幻夜さんにお願いするしかないんじゃ無いか?」
「もしくは、ダンジョンの中で、って所かしら?」
俺達が現状執れる手段としては、裕二と柊さんが上げたどちらかだ。勿論、どちらも相応に利点と欠点がある。裕二の案は、安全性は確保出来るが秘匿性という点では皆無に等しい。と言っても、既に幻夜さん達にはある程度情報が渡っている今更感はあるけどな。逆に柊さんの案は、秘匿性は確保されるが時間的問題や安全性が保障されない。40階層近くまで潜れば、まず人目は気にしなくて良くなる。だが、そこまでの往復に掛かる時間や練習中にモンスターが奇襲を掛けてくるなどの問題が出てくるので……難しいな。
少し冷めたコーヒーを1口飲んでから、俺は自分の意見を口にする。
「安全性を考えるなら裕二の案だけど、正直今回の結果を考えると多少の危険はあっても先ずは1回、柊さんが言うようにダンジョンの中で様子見をしてからの方が良いんじゃ無いかな? ほら、最初の加減が分かってないと……ね?」
「……確かに、大樹が言うのにも一理あるか。今回の結果を考えると、誰かの前でいきなりやるより、1度誰も見てない所で試してからの方が良いかもしれないな」
「……そうね」
俺達は頭の中に、加減が効かずスペック任せに無様な高速連携攻撃モドキを披露する自分達の姿がありありと浮かんだ。
うん。やっぱり1度慣らしてからした方が良いな、特に人に見せるのなら。
「とは言えだ大樹、ドコでやる気だ? 下手な所でやると、慣れない事をやって疲労している所を狙われて……何て事になりかねないぞ?」
「うん、まぁそれは俺も考えたよ。と成るとさ、時間や安全性を考えるとアソコが一番良いんじゃ無いかと思うんだ……」
今居る場所がファミレスなので、俺は固有名詞を避けて二人に練習の候補地を伝える。すると裕二も柊さんも俺がドコのことを言っているのか察してくれたらしく、納得と言った表情を浮かべた。
そして固有名詞を避けながら、俺達は会話を続ける。
「アソコ……芸達者なアイツが守っているところか?」
「うん、その芸達者なアイツがいたところだよ。アソコなら、安全に広い場所も取れるしね」
「確かにアソコなら、安全性は確保出来るわね。でも……」
芸達者なアイツとは、あの手この手で戦闘を避けようとするオーガさんのことだ。
そして俺の意見に賛同しつつも、柊さんは少し不安げな表情を浮かべる。まぁ確かに、この間の帰り道で柊さんが心配する不安材料が居たからな。
「柊さんが心配してるのは、あの人達の事だよね?」
「ええ。あの人達が目の前で陣取ってるのよ? その隣で、ってのが少し気になって……」
「確かに、あの人達が陣取ってたら気になるよね」
一応、大扉で遮られているので覗き込みはしないと思う。特に企業系探索者なら、その程度のマナーは守ってくれるはずだ。彼等の場合、無作法はそのまま会社の評判に繋がるからな。……あの大扉って、中から鍵掛けられるのかな?
と言った感じで、不安材料を忘れようとしていると、裕二がとある提案をする。
「……そうだな。じゃぁ1度、近場のダンジョンの方に潜ってみるか? もしかしたらそっちの方には、まだあの手の連中が陣取ってないかもしれないぞ?」
「ああ、確かに。その可能性はあるかもしれないわね」
「そうだね……あっちの方ならまだ大丈夫かもしれないね」
俺達が何時も行っているダンジョンは、もしかしたら俺達のせいで他のダンジョンより進行速度が上がっている可能性があるからな。専業の企業系探索者のくせに、たまにしか来ない学生(一般)探索者に攻略階層記録のトップを取られてるのか?って感じでさ。
うん、無くも無いかもしれないな。会社側からしたら、コレだけコストを掛け支援しているのに、学生に負けてるのか?って思うだろうしね。社命やノルマという名の、発破を掛けられている可能性はある。
「じゃぁ今度行ってみよう。行ってみて、もしあの手の連中が陣取ってたら、何もせず帰れば良いだけだしな。揉め事は出来るだけ起きない方が良いに決まっている」
「確かに実際に行ってみないと分からない事ね、それは」
「じゃぁ明日……明後日辺りに行ってみよう。アソコまでなら、日帰りで行けるしね」
勿論、移動経路が混んでなければの話だけどさ。
とまぁ、そんな訳で俺達は明後日近場のダンジョンに挑戦することにした。挑戦と行っても、練習場を求めてなんだけど。
明後日の準備も兼ねて3人で街をぶらついた後、広場の鍵を役所に返却し俺達は解散した。返却の際、1日貸し切り利用で使用していたのに、閉庁前に鍵を返却しに行ったので少々怪訝な表情をされたけどな。大体の利用者は、次の日に返却する事が多いらしい。
とまぁ、色々あったが無事夕食前には家に帰り着いた。
「あぁ、疲れた……」
「もぉ大樹、帰って来るなりそんなこと言って……そんなに疲れるなんてどこに遊び行ってたのよ?」
家に帰り着くなり、リビングのソファーに座り冷えた麦茶を飲みながら愚痴を漏らしていると、夕食の準備をしていた母さんに眉を顰められながら話掛けられた。
「ん? 山中の広場……」
「山の広場? 登山でもしてきたの?」
「うーん、登山……なのかな?」
母さんの質問に、俺は返事に迷い首を傾げる。峠道を自転車で上ったので、登山と言えるか分らないなからな。
……あれ? 自転車で山を登るって、徒歩で登るよりキツい事のような気がする。
「それはそうと大樹、美佳が戻ってきたら教えてって言ってたわよ」
「美佳が? もう戻ってきてたんだ……」
「何か相談したいことがあるみたいよ? 難しい顔してたし……」
「相談か……」
美佳が相談したいことか……心当たりがあるとすれば、先日規制緩和したダンジョン関連かな?
「分かった、ちょっと行ってみるよ」
「お願いね。あっそうそう、夕飯は18時頃を予定してるから」
「了解」
俺は飲み終えた麦茶のコップを流し台に置き、母さんに一声掛けてから荷物を持って自室へと向かった。部屋に戻った俺は荷物を片付けた後、美佳の部屋に向かう。
そしてドアをノックしながら……。
「美佳、いるか? 入るぞ?」
「えっ、お兄ちゃん? ちょっと待って!」
部屋の中から少し慌てたような音が聞こえた後、ゆっくりとドアが開き美佳が顔を出す。
「ハハッ、早かったね」
「まぁ今日はダンジョンに行ってたわけじゃ無いからな、そんなに遅くまでは遊び回らないさ。それより美佳、相談があるって母さんから聞いたんだけど……」
「う、うん。まぁ中に入ってから話すから、入って」
「じゃぁ、お邪魔しまーすっと」
俺は美佳の部屋の中に入り、空いてるクッションの上に腰を降ろした。美佳も俺の対面に同じように座り、チラチラと俺の顔を見てくる。
そして軽く深呼吸をし調子を整えた後、俺の顔を真っ直ぐ見ながら口を開いた。
「えっとね、お兄ちゃん。相談って言うのは……ダンジョンで出てくるゴブリンの事なんだ」
「やっぱり、その事か……」
「……うん」
美佳は少し暗い表情を浮かべながら、俺の問いに小さく頷いた。やっぱりそうだったか。この間見学させて貰った美佳達の実力なら、ゴブリンは問題なく倒せる敵なのだが、問題は人型モンスターという点だ。新人探索者の登竜門というか精神的足切りライン、ココで躓く新人探索者は多いからな。乗り越えられなければ探索者を辞めるか、浅い階層専門の探索者としてやっていくしか無い。
そして、今の美佳もこの足切りラインに引っ掛かってしまっているという事なのだろう。
「……ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはどうやってアレを乗り越えて先に進めたの?」
「その質問は、何でゴブリンを倒せたのか、って事で良いか?」
「うん」
美佳は不安で揺れる眼差しで、俺の目を真っ直ぐ見ながら問い掛けてくる。
俺は何と答えようか軽く頭の後ろを掻きながら考えた後、美佳の目を真っ直ぐ見ながら口を開く。
「正直に言うと“慣れ”だな」
「慣れ?」
「ああ。俺達も今の美佳と同じように、何体もゴブリンを倒した時は酷く動揺したよ。でも何度も繰り返し戦っているうちに、次第に今の美佳が感じている嫌悪感や罪悪感にも慣れた。感覚が麻痺しただけなのかもしれないけど、我慢出来るようになったよ」
「……」
「今でも嫌悪感や罪悪感を感じる事はあるけど、それは極小さなモノだ。今の美佳のように、悩み込むって事は殆どない」
「……」
俺の答えを聞き、美佳は驚きと不安の眼差しを向けてくる。驚きの眼差しは恐らく落ち着いた口調で淡々と答える俺の姿、不安は俺の様に慣れる事が出来るのかと言った所だな。
そして俺は、そんな思い悩む美佳に優しげな表情を浮かべて語りかける。
「……美佳、無理に探索者を続ける必要は無いからな? 合わないヤツはどうやっても合わないんだ。もし続けると言うのなら、人型モンスターと戦わないで済む階層を回って探索者を続けても良いんだからな」
「……」
「まぁ簡単に結論が出せる問題でも無いんだ、ゆっくり考えれば良い。俺で良ければ、何時でも相談には乗るからさ」
「……うん」
コレがどうやったら上手く戦えるのかや、上手くトラップを見付け回避し解除出来るのかと言った相談なら幾らでもアドバイス出来るのだが、問題は精神面の話だ。話を聞いたり相談に乗ってやる事は出来るが、最終的な答えは本人が出すしか無い。
俺は顔を俯かせ考え込み始めた美佳の姿を眺めながら、どんな答えでも良いので自分が納得出来る答えを見付けられれば良いなと思った。




