第335話 ワニ皮って高っかいな……
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ダンジョンの入り口を潜り抜けると、天井に吊された照明の人工光が目に飛び込んでくる。それを見て、俺達はやっと息を吐きながら張っていた緊張を解く。長距離探索を終えた俺は思わず、声高々に“ゴール”と叫びたい衝動に駆られたがグッと堪える。こんな所で叫んだら、悪目立ちしてしまうからな。
そして俺達は衛生管理エリアを抜け、ダンジョンの入り口がある建物から外に出た。
「良かった、まだ太陽が出てる」
「だいぶ急いだから……」
「帰り道はもっと混むと思ってたものね、スムーズに戻って来れて運が良かったわ」
だいぶ山陰近くまで下がってきてはいるが、太陽はまだ辺りを明るく照らしている。日が出ているうちに戻って来れた証拠だ。うん、急いだ甲斐があったというモノだな。
暫し久しぶりの太陽を堪能した後、俺達は着替えをする為更衣室へと足を向けた。
「じゃぁ柊さん、また後で」
「ええ、また後で」
柊さんと別れ、俺と裕二は更衣室へと入っていった。一応ダンジョン内では“洗浄”スキルで体を綺麗にしているが、俺と裕二は更衣室のコイン式シャワーの温かいお湯を浴びる。
だが……うん。やっぱりシャワーだけだと味気ない、浴槽にお湯を張って入浴したいな。
「そそろろココにも、入浴施設とか併設してくれないかな……」
「要望自体は出てるみたいだぞ。ただまぁ、色々あるみたいだ」
「そっか……」
シャワーを浴び終えた俺と裕二は、私服に着替えながら入浴施設を増設して欲しいなと話し合う。一仕事終えたら一っ風呂浴びたいなと言うのは、日本人的思考だと思うけど。ココ、山奥だから……掘ったら温泉とか出ないかな?
ああいや、ダンジョンがあるから掘削許可は降りないか……となると沸かし湯、コアクリスタル発電機を併設すれば廃熱温水利用出来るんじゃないか?
「良し、着替え終了っと。裕二は?」
「俺も終わったぞ」
「そっ、じゃぁ待合席で柊さんを待とうか?」
「ああ」
と言う訳で、シャワー込みで20分ほどで着替えを済ませた俺と裕二は待合席に移動した。
柊さんは……まだみたいだな。
「裕二、何か飲み物を買ってくるけどリクエスト有る?」
「ん? ああ、じゃぁ緑茶で頼む」
「了解。柊さんの分は……紅茶で良いかな? じゃぁ買いに行ってくる、柊さんが出て来たらよろしくね」
「おう、ありがとな」
裕二に軽く手を振って応えた後、俺は自販機コーナーへと向かった。
自販機が混んでいたので買うのに多少時間が掛かったモノの、飲み物を持って帰ると柊さんが更衣室から出て来ており裕二と話している姿が見えた。裕二に待っていて貰って正解だったな。
「お待たせ、二人とも。飲み物買ってきたよ」
「サンキュー、大樹」
「ありがとう、九重君」
俺は二人に買ってきた飲み物を手渡しした後、空いてる席について飲み口のキャップを開ける。
「着替え終わって、とりあえず人心地付いたって感じだね」
「そうだな。まぁ、まだやる事があるから完全には気を抜けないけどな」
「そうね。ある意味、一番の厄介事がまだ待ってるもの」
「ははっ、そうだね……」
柊さんの言う一番の厄介事、それは換金作業の事である。ヤバ目なドロップアイテムは“空間収納”に仕舞い込んでいるが、提出するモノによっては警戒されてしまうかもしれないな。もしくは換金額で引っ掛かけられるかもしれない。
だけどまぁ、うん。やってみないと分からないからな。
「まっ、まぁ出すモノはもう準備してるんだから、後はなる様になるよ」
「まぁ、そうだな」
「そうね……」
「「「はぁ……」」」
本日最後の大仕事を前に、せっかく人心地が付き雰囲気も軽くなっていたのに、またドンヨリと重苦しくなってしまった。だけど、何時までもこうしているわけにも行かないよな。
俺は買ってきた缶コーヒーを一気に飲み干し、気合いを入れる為に軽く頬を両手で叩いた。
「行こう、二人とも。そして、さっさと終わらせて家に帰ろう」
「……ああ、さっさと厄介事は終わらせて帰ろう」
「ええ、行きましょう」
憂鬱げな表情を浮かべながら俺達は椅子から重い腰を上げ、酷く重い足取りで更衣室の待合席を後にする。ホント、何の問題も無くスムーズに換金作業が進むと良いんだけどな……。
ドロップアイテムを窓口に提出し終えた俺達は、換金査定が終わるのを待合席に座って待っていた。たまたま席が空いたので座れたが、やはり換金手続き待ちのパーティーの数は多い。受付窓口も初期に比べだいぶ増えているのに、コレだけ待っているという事は、それだけ探索者の数が増えたと言う事なんだろうな。
そして査定を待つこと20分、俺達は査定終了を知らせる声に呼ばれ窓口へ向かった。
「大変お待たせしました、査定が終了しました」
と言いつつ頭を下げる窓口の係員さんの表情は、若干引き攣っているように見えた。
えっ、何でそんな表情を浮かべてるんです?
「此方が今回の合計査定額になります。また、別途鑑定が必要な品の結果は後日送付させて頂きます」
「あ、ありがとうございます」
信じられないモノを見る眼差しで見つめてくる係員さんに頬が引き攣りそうになるのを我慢しつつ、俺は受け取った査定額が記入されている用紙に視線を落とす。
その結果、係員さんが何故そんな眼差しを送ってきたのかを俺は直ぐに理解した。何故なら……。
「えっと、この額って……マジですか?」
「はい」
「……ええっ」
俺は視線を何度も査定用紙と係員さんの間を行き来させた後、裕二と柊さんにどうしようと言った視線を送った。すると、裕二も柊さんも俺と同じように信じられないといった表情を浮かべながら査定用紙を凝視していた。
だってさ、今回のドロップ品の買取査定結果が……約392万円なんだよ。しかもコレ、マジックアイテムやスキルスクロールを除いてだってさ。
「「「……」」」
「……あの、大丈夫ですか?」
想定外に高額な査定額に絶句する俺達の姿に、係員さんは心配げに声を掛けてくる。俺達が査定額を見て大喜びするだろうと思っていたのだろう。だが、俺達の反応は絶句し黙り込むと言うモノだ。まぁ、そんな姿を見たら心配の一つもするのが人情ってモノだろうな。
俺は軽く頭を左右に振った後、軽く深呼吸をしてから口を開く。
「は、はい。大丈夫です。すみません、ちょっと予想外の額だったモノで……」
「あっ、いえ、お気になさらないで下さい。あっ、それとコチラが査定詳細になります、内容をご確認ください」
「ありがとうございます」
お礼を言った後、俺は素早く詳細に目を通す。
どうやら今回の高額査定になった原因は、ワニ皮にあったらしい。コレが無闇矢鱈に高額……稀少度を考えれば妥当かもしれないが、飛び抜けて高額査定されていた。一枚60万円って……。どっかのハイブランドが、ワニ皮バッグでも作るのに使うのか?
「……」
「何かお持ち帰りになりたい品はありますか? 無いのでしたら、コチラの書類にサインをお願いしたいのですが……」
「えっと、草以外は特に引き取りたい品は無いので残りは買取でお願いします」
そう言って、俺は裕二と柊さんに確認の視線を送った後、買取承諾書類にサインをする。
「分かりました。……はい、大丈夫です。では買取手続きを行いますので、少々お待ち下さい」
「お願いします」
そして承諾書を係員さんに返却し2分程待つと、買取手続きは完了した。
「ご指定されている通り、皆様の登録口座の方に買取金を3分割し振り込ませて頂きました。コチラが振り込み証明になります」
渡された振り込み証明用紙を受け取り確認すると、確かに俺達3人の口座に振り込まれていた。一人頭130万円程のお金が……コレに後でマジックアイテムやスキルスクロールの買取金が加算されるのか……たぶん最終的には一人頭200万円を超えるかな。
うん、高校生探索者パーティーが1回の探索で稼ぐ金額じゃないな。
「それと、鑑定待ちになっているアイテム類ですが、一週間以内に査定結果が送付されるので内容を確認後、お近くの出張所及びダンジョン協会支部の方でお手続きの方をお願いします」
「ああ、はい。分かりました」
「では以上で、お手続きの方は全て完了です。お疲れ様でした」
「あっ、ありがとうございました……」
「「ありがとうございました……」」
軽く会釈をした後、俺達はそれぞれ書類を持って内心の動揺を表に出さないように足早に窓口を後にした。やっぱり、最後の最後で問題発生しちゃったよ。
窓口を後にし人気が少ない場所に移動した俺達は、周りに人がいないことを確認した後、一斉に溜息を漏らした。
そして査定詳細の用紙を見ながら……。
「まさかワニ皮が、ココまで高額買い取りされるとは思っても見なかったよ」
「ああ。トカゲ皮であの額だったから、30万位で済むと思ったんだけど……見積もりが甘かった」
「想定の倍だものね……こんな事なら、提出するのは一枚だけにしておけば良かったわ」
予想外に高額になった買い取り額に、俺達は思わず頭を抱えた。事前の換金査定予想は凡そ200万円にいかないくらいで、マジックアイテムやスキルスクロールを含め300万円ほどを想定していた。だが、現実はマジックアイテム類抜きで400万円近い査定額である。
うん、企業系じゃ無い探索者パーティーが一度にだす換金額にしては大きすぎるよな。ましてや、俺達は高校生……はぁ。
「これが一夏で稼いだ額って事なら、熱心な探索者パーティーって扱いで問題ないと思うけど……」
「一度にこの額だからな……普通の探索者パーティーじゃ無理だろ。トップクラスの大人数探索者パーティー、もしくは企業系探索者パーティーが稼ぐ額だろうな」
「それを私達は少人数パーティーで……少し前に協会に目を付けられランクを上げさせられたけど、また何か干渉されるかもしれないわね」
「「「……」」」
あまり喜ばしくない想定に、俺達は思わず黙り込む。既にランクアップ要請の時から目を付けられている状態では有るが、今回の事でより協会が干渉してくる可能性がある。秘密を抱える俺達としては、出来れば距離を取っておきたいんだけどな。
暫し全員顔を俯かせ黙り込んでいたが、柏手の音が響き俺と裕二は顔を上げ柏手の音源に視線を向ける。
「落ち込んでいても仕方ないわよ、二人とも。なっちゃったモノは仕方ないんだし、もし協会にまた干渉されるような事があったら、それはその時に考えましょう。今ココでどうのこうの言っても仕方ないわ」
「……そう、だね。確かに今どうのこうの考えても仕方ないか」
「ああ、そうだな。でも、最低限の対応は考えていた方が良いだろう。まぁそれも後日って事で、今は探索を無事に終えて帰って来れたって事を喜んだ方が良いな」
「そうね、そう考えた方が何倍もマシよ」
俺達は頭を振るって嫌な想像を振り払いつつ、帰宅に向けて話し合う。
「ははっ、そうだね。じゃぁ難しく考えるのは後にして帰ろう。あと探索終わりの打ち上げもしたいけど、ここら辺でするより家の近場のお店でやった方が帰りは楽だよね?」
「そうだな、その方が後々が楽だもんな」
「じゃぁ、打ち上げはウチの店でする? 新作のラーメンも二人の協力のお陰で出来たモノなんだし、味見して行ってよ」
と、柊さんが実家のお店で打ち上げをしようと俺と裕二を誘ってくる。特にドコとお店を決めていたわけでは無いので、柊さんの提案に乗ること自体に異論は無い。
しかし……。
「新作ラーメンって、激辛のだよね?」
「ええ、九重君は激辛苦手なの?」
「まぁ、うん。辛さにも依るけど、あまり得意じゃ無いね」
「そう……」
辛いのは良いんだけど、激辛はね? そんな俺の返事に柊さんは少し残念気な表情を浮かべながら、裕二に視線を送る。
すると、裕二は軽く頷きながら……。
「俺は大丈夫だぞ。大樹、折角柊さんも誘ってくれてるから良いじゃ無いか。他にもメニューはあるんだしさ」
「うん、まぁそうだね。柊さん、そう言う訳で良いかな?」
「ええ、私から誘ったんだし問題ないわよ」
「じゃぁ、決まりだね。」
と言うわけで、柊さん家のお店で打ち上げをする事になった。
方針が決まった俺達は早速バスターミナルに移動しながら、それぞれ電話を入れ帰りが少し遅くなることを伝えた。
「コレで良しっと、二人の方は?」
「俺の方も連絡付いたぞ、問題ない」
「私の方も問題ないわ。それと席の方を取っておいてくれるそうだから、駅に着いたら連絡をくれって」
「そっか、じゃぁ待たせちゃ悪いし急いで帰ろうか?」
「おう」
「ええ」
こうして、俺達はロータリーに入ってきたシャトルバスに乗り込みダンジョンを後にした。




