第333話 50階層到達したけど……
お気に入り29330超、PV56800000超、ジャンル別日刊51位、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて連載中です。よろしければ見てみてください!
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
コミカライズ版朝ダン、コミックス第一巻が書籍版電子版にて発売されました! よろしくお願いします。
裕二の蹴りでヘシ折れたトレントの様子を窺いながら、他に増援が近寄ってきていないか警戒を続ける。そして暫く警戒を続けていると、増援の気配も無いままトレントの粒子化が始まった。
植物系のモンスターって生命力や再生能力が強く、倒したと油断した所に最後っ屁を仕掛けてくるイメージだったけど、意外とアッサリと倒し切れたな。
「ふぅー、どうやら終わったようだね」
「ああ、中々面倒な敵だったぜ。やっぱりああ言う大型の敵には魔法か、もう少し刃渡りが長い得物が必要だな。コイツじゃ……小回りは利くんだけど大型の敵を相手にするには刃渡りが短いしさ」
「まぁ元々小太刀って、携帯性や対人戦での取り回しの良さを目的とした刃物だしね。刃渡りの長さについては……うん、仕方が無いわよ」
「はぁ、まぁそうなんだけどさ……」
裕二は両手に持った小太刀を見ながら、達観にも似た深い溜息をついた。確かにコレまでは重蔵さんに譲って貰った武器でやってこれたが、ココから先となると相対する敵に対し適した武器を用意しないといけないかもしれない……帰ってから要相談だな。
新しい武器か……何となく心躍るワードである。
「ん? おい裕二、何かドロップしたみたいだぞ?」
「本当だ、何が出たんだ?」
トレントの切り株があった場所に、革製のショルダーバッグが落ちていた。近づいて手に取ってみると重さはそれほど重くなく、容量は重ねた月刊マンガ雑誌が2冊入るくらいかな?
「革製のバッグみたいだな。触った感じ、何の皮かは分らないけど」
「ドロップアイテムとして出たって事は、コレもマジックアイテムなのかしら? 九重君、何か特殊効果はある?」
「ちょっと待ってね。裕二、そのバッグ貸して」
「ああ、頼むな」
「ありがとう。じゃぁ“鑑定解析”……って、ゲッ!?」
俺は“鑑定解析”の結果を見て、思わず目を見開き驚愕の表情を浮かべながら、悲鳴にも似た呻き声を上げてしまった。やべっ、エラいモンが出たぞ……。
そんな俺の様子を訝しげな表情を浮かべた裕二と柊さんは、心配そうに声を掛けてくる。
「おいどうした大樹、そんなやっちまったって顔して……?」
「そうよ。もしかして、何かマズイ効果があるのコレ?」
「……」
心配げに声を掛けてくる裕二と柊さんの顔を無言で見つめながら、俺は数回軽く深呼吸をしてから“鑑定解析”の結果を裕二と柊さんに上擦り気味の口調で伝える。
「これ、“空間拡張”の特殊効果が付いてた……」
「「……はぁ!?」」
「いわゆる収納系のアイテム、マジックバッグらしい……」
「「……」」
裕二と柊さんも驚愕の表情を浮かべながら、俺の手にあるマジックバッグを凝視する。いつか出るかもしれないとは思って居たけど、まさかココで出てくるとは……どうしよコレ?
俺は、未だマジックバッグの存在に動揺する、裕二と柊さんの姿を眺めながら、コレの扱いに頭を悩ませた。
マジックバッグ出現に対する動揺が収まった俺達は、一先ず扱いをどうするかの問題は後回しにして50階層へ降りる階段探しを再開した。予想外にトレントとの戦闘時間が押したので、帰還開始時間まで後10分も無いからな。時間が来たら問答無用で引き返すと決めている以上、安全を確保しつつ急がないと時間内に探し出しきれない。
だが、その心配は捜索を再開して要らなかったなと直ぐに思った。何故なら……。
「見付けたね」
「見付かったな」
「見付かったわ」
50階層へ降りる階段があったのは、トレント戦で増援部隊が待機していた場所だったからだ。念の為、伏兵が残っていないか確認にいった所、ポッカリと開けている広場の中央にある階段を見付けた。
つまり階段を降りようと思えば、増援部隊付きのモンスターの群れと戦わないといけなかったという事だな。しかもトレントが加わらないので、最後まで部隊指揮が生きたままのモンスター達と……俺達的には耐久力特化のトレントを相手するよりコッチの方が楽だったかもしれないな。
「……うん、まぁ、何だ。それじゃぁ、降りようか?」
急いで探さないとと焦っていた所、余りにアッサリと見付かった事に少々戸惑いながら、俺は階段を指差しながら裕二と柊さんに下に降りようと促す。
「そう、だな。降りるか……」
「そうね、降りましょう……」
どことなくやるせなさを滲ませながら、俺達は階段を降り50階層へ向かった。何とも締まらない感じになってしまったが、とりあえずコレで今回の探索における最終目標も達成である。
しかし、本当に50階層まで来れるとは思っても見なかったな。
「うわっ……今度はこんな感じか」
「本当にココ、ダンジョンの中か?」
「テレビで見た事あるわ、こんな感じの場所……」
50階層の階段前広場に降りた俺達は、目の前に広がる光景に唖然とした眼差しを送っていた。俺達の前に広がる光景は、激しい起伏に富んだ大小様々な大きさの岩石が彼方此方に転がる岩石地帯。赤茶けた土肌と苔のような植物が所々見えるが、とても寒々しく寂しく見える光景だ。
「岩石地帯か……足場は40階層帯より悪い上、起伏も激しいから隠れる所も沢山ありそうだな」
「ああ。それにあの大岩なんかが落石してきたら拙いな、地形自体が罠だぞ。ココでモンスターとの戦闘か……」
「敵との戦闘だけ集中してると、思わぬ事態に巻き込まれるかもしれないわね……」
流石に数トンもある落石がぶつかったりしたら、俺達でも大怪我するだろう。特にココは岩石地帯、起伏も激しいので落石も起きやすい。だが戦闘中に落石を避けようと無理をすれば、それは隙となり敵の攻撃を受けることに繋がるかもしれない。戦闘するにしても、これまで以上に事前に周囲の状況を正確に把握しておかないといけないな。
と、岩石地帯を観察しながらそんな事を考えていると、突然周囲にアラーム音が鳴り響いた。
「ああ、もう時間か」
「まぁ元々、到達出来るかどうかギリギリの線だったしな。寧ろ、良くココまで来れたもんだ」
「そうね。本当なら40階層到達が今回の目標だったんだもの、オマケにしては上手くいきすぎよ」
「ハハッ、その通りだね。じゃぁ当初の約束通り、地上に向かって帰るとしよう」
帰還開始時間になったので、俺達はソソクサと武器の簡易点検を行い撤収準備を始める。本当ならこの場で少し休憩や可能なら偵察飛行を行ってから帰還開始としたいのだが、時間が来たら問答無用で撤収を開始するって約束だったからな。ココであれこれ言っていると、グダグダと帰還開始が長引きそうだしさ。
それに休憩を取るにしても、休憩を取っている最中に落石や新手のモンスターに襲われたくないからな。なので休憩を取るならば、多少なりとも出現するモンスターや周辺状況を把握している階層で取りたい。
「よし、準備完了。帰ろう」
「おう」
「ええ」
と言うわけで、滞在時間数分であったが50階層に到達した俺達は地上への帰還を開始した。
帰還を開始して1時間後、出現するモンスターを無視しつつ最短距離を早足で移動したので、俺達は昨日ベースキャンプを張っていた42階層まで戻ってくる事が出来た。やっぱり移動ルートが事前に分かっていると、早く移動出来るな。
と言うわけで、俺達は42階層の階段前広場で腰を下ろし休憩を取る準備を始めた。
「大樹、出発前に収納してた木を出してくれ。休憩中の防壁として再設置したい」
「了解。それにしても……もう元通りに木が生えてるな」
「30階層帯の草も再生するから、木も何れ再生するとは思ってたけど……予想以上の早さよね」
俺は“空間収納”から出発前に収納していた木材を取り出しつつ、昨日バリケードの材料にと伐採した木が元通りに伸びているのを見て少し目を丸くしていた。柊さんが言うように、何れ復活するとは思っていたのだが、僅か半日程で元通りになるとは……。
こうも復活が早いと、周辺の木材を伐採し大規模な防衛拠点を構築……ってのは出来そうに無いな。
「コレだけ早く生えるとなると、何か良い使い道があると良いんだけどね……」
「燃料にするとか、紙にするとかか?」
「そうそう。現状だと、防壁の材料にするしか無いからさ」
「まぁでも、長草以上にこんな深い階層から重い木を持ちだすとしたら、運送コストがヤバくて有効利用出来そうに無い気はするけどな……」
まぁ確かに裕二の言う様に、場所が場所だけに高レベル探索者に頼んで運んで貰うにしても、長草以上に運送コストがヤバい事に成るのは明白だろうな。そんな高級素材を使って商品価値の高い何かを作る……難題である。何処かの高級家具屋がブランドの付加価値を付けたら……いけるか?
まぁ探索者達の平均到達階層が上がるまでは、暫く有効活用出来ない資源だな。
「良し、防壁設置完了っと。休憩を取ろうか、二人とも?」
「ああ、そうしよう」
「ええ」
“空間収納”から椅子とテーブル、お茶セットとお菓子を取り出す。50階層到達を目指してからずっと移動しっぱなしになっていたので、久しぶりの大きな休憩である。電気ケトルでお湯を沸かし、各々好きなスティックタイプのインスタントドリンクを選んでいく。今回俺が選んだのはココア、コレからのことを考えると甘い物が無性に欲しくなったからである。
そして温かい飲み物を飲みながら、俺達はある物の扱いについて話し合うことにした。
「で、どうするコレ? 素直に換金に出すか?」
「いや、流石に今のタイミングで出すのは拙いんじゃ無いか?」
「そうね。多分それに類する物は、国の管理下に置いてるんじゃ無いかしら? 実用性もだけど、研究対象としても抜群の価値があるもの」
俺達の議題に上がっているテーブルの上に置かれたモノ、トレントがドロップしたマジックバッグである。あからさまに厄介の種になりかねないアイテムであり、現状では自分達が使うにしても換金するにしてもリスクがある品だ。
俺達はその扱いに、溜息をつきつつ頭を悩ませていた。
「大樹。そう言えばコレ、どれくらい入るんだ? 収納系アイテムって事は、見た目通りって事は無いんだろ?」
「ああ。バッグの入り口の大きさは変わらないけど、中身の容量は見た目の大体10倍ぐらいある。えっと、登山バッグ一つ分くらいかな?」
「この大きさで登山バッグ一つ分か……」
裕二は、テーブルに置かれた、マジックバッグに視線を向けた後、眉間を指先で揉んだ。まぁ、見た目は只のショルダーバッグだからな、ソレなのに登山バッグ一つ分も荷物が入る……見た目詐欺も良い所の品である。
「ねぇ、九重君? そのバッグの特殊な効果って、バッグの内部空間を広げるだけなの? ほら、ファンタジー小説とかに良くある設定で、幾ら荷物を入れても重量が軽減されていてあまり重くないとか、内部の時間が止まっていてモノの長期保存が可能とか……」
「うーん、その辺の特殊効果は無いみたいだね。あくまでも、“空間拡張”の効果が付いてるだけみたい。もしかしたら、もっと深い階層でドロップしたマジックバッグなら、その辺の効果が付いてるモノがドロップするかもしれないね」
「と言う事は、このバッグはマジックバッグの中では低ランク品、って事なのかしら」
「そうかもしれないね」
あくまでもマジックバッグである、と言った品なのかもしれない。ランクが上がれば、容量も上がり他の特殊効果も付くって事なのかもしれないな。回復薬だって初級、中級、上級ってあるしさ。
とは言え、今はコレがマジックバッグであると言う事自体が問題なんだけどな。
「まぁそれより今の問題は、コレの扱いをどうするか、だよ」
「少なくとも、現状では大樹の“空間収納”に秘匿するしか無いと思うぞ。民間探索者全体の到達平均階層が30階層にも達していないんだ、そんな中で50階層近くでドロップするマジックアイテムを提出するのはマズイって」
「そうね。マジックバッグがオークションに出されたって話は聞かないし、誰かが持っているって話も聞いたこと無いわ。恐らく自衛隊とかが確保した分は、国が秘匿しているんでしょ。そんな中、私達がマジックバッグを換金に出したら大騒ぎになるわ。今でも協会に目を付けられてるのに、そんな事をしたら要注意対象として国にも目を付けられるわ」
と言う訳でやはり結論は、俺の“空間収納”に仕舞い込んで秘匿するというモノだった。まぁ、そうなるよな。少なくとも他の高レベル探索者達が40階層帯に到達した位の時期で無いと、マジックバッグの提出は悪目立ちが過ぎる事になってしまう。
はぁ、折角50階層まで到達したってのに隠し事がいっぱいだな、ホント。




