第332話 森の中と言えば、コイツもいるよな
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サル?と遭遇した後、俺達は周囲に注意を払いつつ49階層の奥深くへと進む。次に遭遇する異種混合群は指揮官を得た事で、更に厄介になっているだろうからな。確りとした連携が取れた集団か……杞憂で有れば良いんだけど。
と、難敵との戦いを警戒しつつ進むのだが一向にモンスター群が出てくる気配は無い。……アレ?
「……いないな、モンスター群」
「そう、だな。今までの傾向で言えば、そろそろ出て来ても良い頃だと思うんだけどな……」
「偶に1、2体で出てくるけど、本格的に多々襲ってきてるって感じじゃ無いわね。一当てして直ぐに引いてるし……やっぱり偵察かしら?」
「偵察か……と言う事はやっぱりいるよな、指揮官」
面倒な想定が現実になる確率が高まり、俺は思わず溜息を漏らす。色んな種類の敵をぶつけて偵察しているって事は、収集した情報を元に対応策を練ってるって事だろ? 俺達は手札を全部見せてるわけじゃ無いからまだ良いけど、ギリギリでこの階層まで来るような探索者チームだと下手をすると初見で壊滅するぞ。
「居るだろうな。となると、コレまで遭遇した烏合の衆のような集団よりは手強くなりそうだ」
「今までも、そこそこ連携は取れていたと思うわよ? まぁ互いの邪魔をしないってだけで、相互の援護は下手だったけど……」
「相互の援護か……そうなると、やっぱり指揮系統を潰すのが最優先だね」
早期に指揮系統が喪失すれば、モンスター群も元の烏合の衆に戻るだろうからな。そうなれば各個撃破も楽になる。
そして暫く散発的なモンスターの妨害を受けつつ階段探しをしていると、森の中ではあるが小さく開けた場所に出た。
「げっ」
開けた場所の中央には、ドラム缶ほどの太さがある一本の大木が生えており、その木の前に一体のサルが俺達の前に威嚇するように立って陣取っていた。しかも気配を探ってみると、その木を中心に周囲の森に伏兵を潜ませているし。
迎え撃つ準備は万全、って事なのだろうか?
「どうやら奴さん、俺達を正面から迎え撃つつもりらしいな」
「正面から? でも、流石にそれは……」
「でも敵の布陣から見るに、下手な小細工より数をぶつければ良いって感じだよ」
「数で優ってるから、物量で相手の消耗を狙うって感じだな」
「……そうみたいね」
俺と裕二の指摘を受け、柊さんは軽く目を閉じ周囲の気配を探った後、俺達の考えに賛成した。目の前に見える敵だけに限らず、近くに予備部隊らしき同規模のもう一集団の気配があるみたいだからな。
ココまでの道程で、敵集団と遭遇しなかったのは仲間を集結させていたからって事か……。
「現在この階層にいるのは俺達だけであり、強敵ではあるが少人数だと把握された結果だろうな。余程の例外で無い限り、数で押されたら大抵はやられるよ」
「しかも、予備部隊を編成出来るだけの物量差があれば、下手な小細工はしなくても良いって所かな?」
「だろうな。相手は例え一集団が壊滅しても、時間が経てばリポップで減った数も元に戻るって具合だ。指揮官としても、消耗戦を仕掛ける上でのデメリットは殆どないだろうさ」
消耗戦のデメリットは、人や物が湯水のように消耗されるという点だ。その為、消耗戦は余程相手と物量に差が無い限り採られない、採りたくない戦法である。だが、その欠点を無視出来るのならば、弱者が強者を打ち倒すには有効な手段になる。如何に地力に優る強敵であろうと、戦えば幾ばくかの消耗は避けられず疲労は蓄積するからな。
とは言え、相手の思惑にこちらが態々乗ってやる必要は無い。
「とりあえず、まずは相手が動く前に指揮官のサル?を倒そう。そうしたら、後は数は多いけど各個撃破していけば良い」
俺はそう言いつつ、先制の為にサル?が動く前に投げ矢を放った。投げ矢は一直線にサル?目掛けて飛翔し、狙い違わずサル?の顔面、眉間に突き刺さる。
「ギッ!?」
眉間に投げ矢を受けたサル?は短い悲鳴を上げた後、ユックリと仰向けに倒れた。余りにも呆気ない最後だが、コレで相手の指揮系統は瓦解したな。
しかし……。
「「「ギャッ!」」」
「「「ギュッ!」」」
「「「えっ!?」」」
森の中から周囲を包囲していたモンスター達の威嚇の鳴き声が一斉に上がり、サル?が倒されたにも関わらず組織だった動きで攻撃を開始した。
アレ? アイツが指揮官じゃ無かったのか!?
「チッ! とりあえず検証は後だな、迎撃しよう!」
「ああ、そうだな! 先ずは厄介な後衛を潰すぞ!」
「二人とも、予備部隊が何時合流するか分らないから気を付けて!」
「「了解!」」
残念ながら初手での指揮系統瓦解には失敗してしまったので、俺達は統率の取れたモンスター達と正面から衝突する事になってしまった。倒れたサル?の後ろに聳える大木の上から、前衛を務める為か別のサルが3体出現。イタチ?やアナグマ?、リス?と言ったモンスター達を従え俺達を三角形を描くように3方向に分かれ囲った。
どうやら、俺達を分散させ各個撃破するか包囲殲滅したいらしい。
「……どうする? 相手の思惑に乗ってやるか?」
「一人で対応出来ない事も無いが……折角一集団ずつ別れてくれているんだ、遠距離攻撃で牽制しつつ一つ一つ潰した方が良いと思う。今なら、一度に相手するのは元の3分の1で済むしな」
「そうね、牽制しつつ駆け回れば各集団が連携をとる前に叩けるわ」
「じゃぁ……そう言う事で!」
と言うわけで、戦闘方針は決まった。確かに数で優っている場合、包囲殲滅や各個撃破は自身の被害を減らしながら戦うには持って来いだが、あくまでも相手の実力が自分達と同等あるいは下である時に有効な戦法である。
しかし相手が自分より上である場合、今回のように戦力の分散になってしまう事もある。
「柊さん、魔法で牽制をお願い! 目の前の集団を倒すまで足止めしてくれれば、倒さなくても良いから!」
「任せて! “エアボール”“エアボール”“エアボール”!!」
「大樹、今の内に潰すぞ! 後が混んでるんだ、一撃で仕留めろよ!」
「勿論!」
俺達は先ず左側面に移動したA集団に駆け寄り、柊さんに魔法で牽制して貰いながら攻撃を仕掛けた。俺と裕二は一気に接近し、前衛を務めるサル?を一刀の元に斬り捨てる。全体の指揮官では無かったようだが、少なくともA集団の指揮官ではあるはずだからな。
そして、その考えは当たっていたらしくA集団の統率は崩れた。連携の精彩を欠き、それぞれ独自の動きを取ろうとしたのだ。だが、その動きは俺達にとって絶好の隙である。
「裕二、俺はリス?をやるから、イタチ?を頼む!」
「任せろ!」
俺は投げ矢を今にも攻撃をしそうなリス目掛けて投擲し、裕二は一旦森の中へ戻ろうと動き出そうとしていたイタチ?に近付き小太刀を振るった。投げ矢はリス?の胴体の中心部を貫き、小太刀はイタチ?の首を切り飛ばす。
そして残り、アナグマ?が地中に潜んでいると思われるが……。
「次に行くぞ! 頭を出してないアナグマ?は後回しだ、合流される前に次の集団を潰す!」
「了解! 柊さん!」
「分かったわ!」
俺達は素早く進路を変更し、B集団目掛けて駆け出した。合流されたら相手の戦力が倍増するからな、手早く倒してしまおう。
そして柊さんの牽制攻撃がC集団に集中した事によって、C集団は完全に足を止めた。
「足止め完了、そっちは任せたわよ!」
「了解、裕二!」
「おう!」
C集団が足を止めたのを確認し、俺と裕二は一気にB集団に近付き攻撃を仕掛ける。先程と同じ要領で、先ずは指揮官のサル?を仕留め、統制が乱れたイタチ?とリス?を仕留め、柊さんに足止めされているC集団へと移動する。そしてやはりアナグマ?は、現状では顔を出すまでドコに潜んでいるか分らないので後回しだ。
そして……。
「コレで、ラストだ!」
「ギュッ!」
裕二がイタチ?を切り裂き、一先ず目の前に現れた3集団は全て倒し終えた。
しかし、恐らく地中に潜んだままのアナグマ?や、近くに同規模のモンスター集団が残っているので、ココで気を抜くことは出来ない。
「……とりあえず、見える範囲の敵は片付いたみたいだね」
「ああ。と言っても、もう一集団残ってるからソッチも片付けないといけないし、まだ終わってないけどな」
「そうね。と言うより、何でまだもう一つの集団は参戦してこないのかしら? 普通、予備部隊があるなら既に投入されていても良いはずよ?」
「そう言われれば、そうだよね……」
確かに柊さんの言うように、最初に倒したサル?が全体を指揮する指揮官で無かった以上、別に指揮官がいるはずだ。それなのに3集団が敗色濃厚になった時点で、予備部隊を投入していても可笑しくない。気配から察するに、予備部隊を投入するどころか未だに戦闘域に移動さえさせていないのも不可解だ。もしかしたら、全体の指揮官なんていないのでは?
そう思った時、突然地面の下から振動が伝わってきた。
「なっ、何だ!?」
「っ、跳べ!? この場を離れろ!」
「「!?」」
何かを察した裕二の警告に従い、俺と柊さんはバックステップで大きく跳んでその場を離れた。
すると……。
「根っこ!?」
「チッ! あの中央に生えた木がモンスターだったって事か!?」
慌てて回避した俺達の視線の先には、地中からつい先程まで立っていた場所に木の根が突き出ていた。裕二の言う様に、目の前に聳え立つ大木はモンスター……いわゆるトレント系モンスターだったという事なのだろう。
確かに森の中に居るモンスターと言えば定番だよな、トレントって。遭遇したくはなかったけど。
「! 裕二!」
「なる程、アイツが本当の指揮官だったって事か……」
「コレ見よがしに前に立っていたサル?は、最後の確認をする為の囮だったって事ね」
トレントが正体を現すと同時に、近くで控えていた予備部隊が動き出したのを察した俺は慌てて二人にその事を伝えた。接近戦を避け包囲するように薄く展開していっているので、先程の戦闘で俺達の戦法を学習し対応してきたって事なのだろう。
確かに纏まって攻撃してくるより、広範囲に散らばって攻撃される方が少人数パーティーの俺達には対処が面倒だからな。
「まぁ兎も角、相手の指揮官が分かったんだ。アイツを倒せば、今度こそ指揮系統を瓦解させられる。今は敵も散開しているけど、アレを倒せば統制を失って我先にと襲い掛かってくるかもしれない。そうなったら散開している今の状態より倒しやすい」
「確かに、散開されてチマチマと戦うよりは楽だな」
と言う訳で、当初の方針通り先ずは指揮官を倒すことになった。
でも、アレだけ幹が太いと剣で切れるか?
戦闘を始め既に5分が経過していたが、まだ決着がついていない。周囲を包囲していたモンスター群は倒し終えたのだが、トレントの討伐がまだなのだ。
因みに、俺と柊さんで周囲を包囲している敵を牽制を兼ね倒して回り、その間に裕二が倒すという役回りである。
「裕二、こっちは終わったぞ。手伝おうか?」
「……ああ悪い、少し手間取った。手伝ってくれ」
「了解」
裕二は少し情けないといった表情を浮かべながら、俺と柊さんに支援を要請する。裕二と交戦していたトレントも致命傷を受けているようなので、後一押しと言った所なんだろけどね。
地中から伸ばしていた根っこは切り裂かれ周囲に散らばっており、頭上の枝から伸びたと思しきツタも同様に切り裂かれている。その上、本体と思しき太い幹にも大きな切り傷が幾つも付けられていた。
「……燃やす......のは拙いよね。こんな森の中じゃ……弱点っぽいけど」
「暴れられた結果、周りの森の木にも延焼って事に成りかねないからな」
「となると、バリケードを作った時のように風で切り刻みましょう。止めは……お願いして良いかしら?」
「ああ、最後ぐらいは決めるよ」
と言う訳で、柊さんの風魔法の後で裕二がトドメを刺すことになった。まず柊さんがトレントの幹目掛けて、数回“エアカッター”を放った。既に根っこやツタを失い防ぐ手立てを持たないトレントは、幹に複数回の“エアカッター”を受けたことで、受け口と呼べる深い切り込みが出来てしまう。
そして柊さんの攻撃が終わったタイミングを見計らい、裕二はトレント目掛けて走り出し……。
「オラッ!」
トレントの幹に出来た受け口の少し上を、裕二は思いっきり蹴り飛ばす。するとトレントは受け口を境にし、大きな音を立てながら上下に真っ二つにヘシ折れた。
ふうっ、コレで今度こそ終わったかな?




