第30話 集団戦と剥ぎ取り
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週末、何時も通っているダンジョンに俺達3人は来ていた。
今日は4階層以降、モンスターが徒党を組んで集団で襲いかかってくる様になると言う階層に挑戦する積もりだ。俺達は皆、些か緊張した面持ちで装備を点検していく。初の集団戦だ。今までの様には行かないだろうなと思いつつ、準備を整える。
「よし、点検完了。裕二、柊さん、そっちはどう」
「俺も大丈夫だ」
「私も大丈夫よ」
「じゃぁ、行こうか」
俺達は気合を入れ、ダンジョンへ突入する。
これまでの探索で判明した最短経路を使って、1,2,3階層を1時間程で足早に抜け4階層へと続く階段の前に到着した。ここに到着するまでに数回モンスターと遭遇し戦闘をしたので、戦闘のウォーミングアップは出来ている。
俺達は、目線を交え軽く頷いた後、裕二、柊さん俺の順で、階段を降りて行く。階段を下りた先には、放射状に通路が伸びる、半円状の広場があった。
「……柊さん、モンスターの反応はある?」
「……今の所は無いわね。九重君、トラップの方は?」
「こっちも今の所反応無し。トラップは仕掛けられていないみたい」
「そうか」
裕二は俺と柊さんの確認作業が終了した事を確認し、漸く4階層の広場に足を付けた。階段を下りた直後に、落とし穴と言うのは割とありがちなトラップだからな。用心に越した事はない。
「さて、どの通路に入るんだ?」
裕二は俺達の前で8つに分かれた通路の入口を指さし、俺と柊さんに問い掛けて来た。いや、どれって聞かれても、ね?
「特に戦闘音も聞こえないし、どの通路を選んでも良いと思うぞ? 何なら何時もの様に、剣を立てて倒れた方向の通路に進んでも良いんじゃないか?」
「そうね。広瀬君、お願い」
「……分かった」
裕二は広場の中央辺りで小太刀を一本鞘ごと引き抜き、垂直に立てた所で手を離した。小太刀は一瞬静止していたが、直ぐにグラつき音を立て倒れる。少し転がった後、止まった小太刀の柄先が示す通路は右から3番目の通路だった。裕二は床に転がる小太刀を拾い上げて腰に戻し、ユックリとした慎重な足取りで歩き始める。俺と柊さんは裕二の後を追う。
10分程通路を歩いていくと、柊さんが声を上げる。
「二人共注意して、前方に何か居るわ」
「モンスター?」
「多分」
柊さんの忠告を聞き、俺は手持ち用のズームライトで通路の前方を照らす。おそらく100m程先だろうか?モンスターらしき影が2つ見えた。
「多分アレが柊さんが言うモンスターだね」
「だな」
「こっちに来るわ」
ライトに照らされたのに反応したのか、2体のモンスターは俺達に向かって走り出した。近付くに従い、段々とモンスターの姿がハッキリする。
赤い毛並みをした猪だ。
「レッドボアだな」
「あの様子だと、このまま突っ込んでくるわよ?」
「あの速度で突っ込まれると厄介だな。……大樹、何かないか?」
「そうだな……」
俺はバックパックに手を突っ込み、裕二が求める物を探し中を漁る。
「あった、あった。じゃぁ行くぞ? よっと!」
俺は蓋がされた陶器製の瓶を取り出し、レッドボアの足元目掛けて投擲する。瓶は狙い通り、レッドボアの数m手前に落ち砕け散り、中身が周囲に飛び散った。
レッドボアは瓶が割れた事は気にせず俺達目掛けて一直線に走っていたのだが、瓶が割れた地点を過ぎて直ぐ急に立ち止まり悶え始める。
「大樹、お前何を投げたんだ?」
「ん? 何って……胡椒」
「胡椒?じゃあ、あのレッドボアが立ち止まった理由って……」
「クシャミでもしているんじゃないかな?」
レッドボア達は立ち止まり、鼻水を垂らしながら苦しんでいた。その姿には先程までの威圧感は欠片もなく、いっそ哀れだ。
俺は二人に投げた物の説明をしながら、空中に舞う胡椒が地面に落ちるのを待った。今レッドボアに近付けば、俺達も胡椒の影響を受けるからな。
数分後、俺達は悶え苦しむレッドボアに近付き、其々の首筋に武器を突き刺しトドメを刺した。
「何か、何時もと変わり映えしないな」
「まぁ、無力化した後にトドメを刺しているからな」
「ある程度複数のモンスターと遭遇するのに慣れたら、正面から戦った方が良いな」
「そうね。これからのダンジョンでの戦闘は集団戦が中心になるでしょうから、チームワークの実践練習の為にも正面から戦った方が良いと思うわ」
胡椒爆弾は意外にも不評だった。いや、まぁ、理由は分かるんだけどね。
「大樹。そう言う事だから、あと何回か使ったら胡椒爆弾は暫く使用禁止な」
「ああ、分かった」
俺が素直に裕二と柊さんの提案を受け入れていると、レッドボアが光の粒になり姿を消す。死体が消えた場には、出刃包丁の様なナイフと赤みがかかった鉱石が残っていた。
「ナイフと銅の鉱石か……」
「まぁ、何も出なかったのよりは良いんじゃないか?」
「そうね。そう言えば九重君、そのナイフには何か効果は付いてないの?」
「? 効果?」
「ええ。確かスライムを倒している時も、刀剣類が何本か出てきてたじゃない?中には何らかの効果と言うかスキルが付いた物もあったから、このナイフにも何か効果が付いてるんじゃないかな?って」
「そうだな。大樹、調べてみてくれ」
「そう言う事なら……」
俺はドロップ品のナイフに、鑑定解析を使う。結果、中々の拾い物だった。
ナイフの名称はブロンズナイフ。分類はマジックアイテムで、付与効果は“解体”。ナイフを突き刺した討伐済みのモンスターを解体し、ドロップアイテムを得ると言う物だ。
要するにコレは、ゲームで言う所の剥ぎ取りナイフと同類の物だろう。どうやってモンスターの肉を得ているのか疑問だったのだが、こう言う理由があったんだな。スライムダンジョンでコレが出なかったのは、スライムだから出なかったのか、単に運がなかっただけなんだか……。
俺は内心溜息をつきつつ鑑定解析結果を二人に伝えると、特に柊さんが喜んでいた。
「ねぇ、これ私が貰っても良いかな?」
「俺は良いよ、裕二は?」
「無論、良いぞ」
「ありがとう、二人共」
モンスターの肉を得る事がダンジョンに来た目的の柊さんとしては、この剥ぎ取りナイフは得がたい代物だろう。一度実際に試してみないと、どの程度効果があるのか分からないけどね。
俺達は剥ぎ取りナイフの効果を試す為、再びダンジョン内の探索を再開する。暫くダンジョン内を彷徨って居ると、柊さんが声を上げた。
「来るわ。前方に2体と後方1体、挟み撃ちを掛けるつもりよ」
「大樹、後ろの敵を頼む。俺と柊さんは前方の敵を殺る。数字の上では1対1だ、調味料グッズは使わずに戦うぞ」
「分かった。後方の敵は任せてくれ」
俺は二人に背を向け、不知火を構える。
背中合わせになると、背中に吊るしたランタンライトの御陰でダンジョン内が広角に照らし出される。ヘッドライトの光と合わせて、戦闘には十分な光量が確保出来たと言えた。
裕二達が前方から現れたハウンドドッグと睨み合っていると、モンスターが通路の暗がりから姿を見せる。こちらもハウンドドッグだ。どうやら自分が見つけられていた事を察し、戦闘中に不意を突く奇襲は諦めた様だ。裕二達と対峙しているハウンドドッグも奇襲が失敗した事に気付いたのか、咆哮を上げ裕二達に襲い掛って来る。同時に、俺の相手も咆哮を上げ飛び掛って来た。
「ふっ!」
俺は飛び掛って来たハウンドドッグを接触の直前で横にズレ躱し、無防備な首元目掛けて不知火を突き出す。不知火は抵抗無くハウンドドッグの首筋を貫き、少量の血が噴き出した。俺は素早く突き刺した不知火を捻り、ハウンドドッグにトドメを刺す。ハウンドドッグは力無く地面に転がり、少しの間痙攣を繰り返した後、何の反応も示さなくなった。
俺はハウンドドッグが確実に死んだ事を確認した後、首元に突き刺さった不知火を引き抜く。心臓が動いている間に剣を抜けば、大出血間違いなしだからな。血抜きをするのなら兎も角、そうでないのなら無駄な流血など面倒なだけだ。これも何度かモンスターを討伐し大出血させた後に、気が付いた事なんだけどな。
俺は不知火に付いた血を振り払いながら、裕二達の様子を見る。まぁ、当たり前だけど既に決着はついていたけどな。
「そっちも、終わったみたいだね」
「ああ」
俺が振り向いた時には、裕二は小太刀をキッチンペーパーで拭いていた。俺もキッチンペーパーを取り出し、不知火に付いた血を拭き取る。最近この作業も慣れたよな、俺。最初の頃はかなり嫌悪感を感じてたのに。
俺と裕二が各々の武器の手入れをしていると、剥ぎ取りナイフを構えた柊さんが話しかけて来た。
「ねぇ、これの効果を試してみて良いかな?」
「剥ぎ取りナイフ? 勿論、良いよ」
「じゃぁ、やってみるわ。えいっ」
柊さんは手にした剥ぎ取りナイフを、試しにハウンドドッグの死体の1つに突き刺した。ハウンドドッグの死体は何時もの様に光の粒になって消えたのだが、消えた場所に何時もと違うドロップアイテムが出現する。赤身のブロック肉だ。……精肉されて出現するの?
「……犬肉?」
「……犬肉だな」
「……犬肉ね」
どうすんのコレ?食えるのか?
俺達は暫し顔を見合わせた後、取り敢えず残りのハウンドドッグが消える前に剥ぎ取りナイフを突き刺す。結果、犬肉を計3つ手に入れた。
手に入れた犬肉はキッチンペーパーで包んだ後、ジッパー付きのビニール袋に入れ俺の空間収納庫に収納する。保冷バッグなんて持っていないから、バックパックに入れていたらダンジョンを出るまでに肉が傷むからな。
「取り敢えず。剥ぎ取りナイフの効果は確認出来たね」
「ああ。こうやって肉を確保していたんだな」
「ええ、私もモンスターを捌いて肉を確保している物だと思っていたわ」
「ホント良かったよ。解体方法は一応ネットで調べていたけど、実際に解体しろって言われたら、ちょっとね?」
ホント、このマジックアイテムがあってくれて良かったよ。
ネットで調べればジビエの解体方法は簡単に見つかったのだが、実際に出来るのかと聞かれれば、まぁ無理だろうな。況してや、人型のオークの解体なんて……精神やられるわ!
「さてと、本当ならもう少しこの階層を探索して集団戦の経験を、と思っていたけど……」
「早めに切り上げるのか?」
「うん。帰り道でモンスターにあったら戦闘はするけど、今日の所は此処辺で引き上げない?色々あったし、このお肉が幾らになるのか気になるしさ」
「まぁ、無理をする気はないから俺は良いけど……柊さんは?」
「私も良いわよ。それに、解体ナイフを得られた事で気持ちが少し浮ついてるって言う自覚が有るのよ。安全の為にも、1度仕切り直した方が良いと思うわ」
二人の合意を得られたので、俺達は探索をココで切り上げ帰る事にした。
帰りの道すがら4階層では再びレッドボアの集団と戦闘になったが、問題なく打ち取りドロップアイテムと猪肉をゲット。その後も3,2,1階層で何体かのモンスターを打ち取り、ドロップアイテムとお肉を手に入れた。
ダンジョンを出て着替えを済ませた後、受付にドロップアイテムとお肉を提出する。
「これ、換金出来ますか?」
「モンスターの肉ですね。大丈夫ですよ」
「じゃぁ、お願いします」
「承ります。少々お待ち下さい」
待つこと数分、ドロップアイテムとお肉の査定額が提示される。
ドロップアイテムのコアクリスタルと鉱石は何時も変わらない買取価格だったのだが、お肉に驚きの買取価格が付いていた。ハウンドドッグのお肉は100g150円、ヘルキャットのお肉が100g150円、ホーンラビットの肉が100g300円、レッドボアのお肉が100g700円と提示されたのだ。
コアクリスタルと鉱石の買取額は合わせて数千円程だが、お肉の方は数万円程になっている。
「……本当ですか、この査定額?」
「はい。現在の買取相場で算出した買取価格です」
「そう、ですか」
信じられず受付事務員の人に確認を取ると、査定額に間違いないと言われた。高級品として取り扱われているとは知っていたが、俺は予想外の高額買取に動揺しつつ買取書類にサインをし手続きを済ませる。
因みに、柊さんが提出した剥ぎ取りナイフだが、マジックアイテムなので本部で査定をする事になり、預かり手続きをしていた。売る気はないので、査定通知書類届が届いたら引き取りに行くと言っていたな。まぁ、オークの肉が目的の柊さんからしたら、あの剥ぎ取りナイフは必需品だろう。例え買取額が高くても、売ると言う選択肢はないとの事だ。
はぁ。何か、ダンジョン攻略が本格的に狩猟チックになってきたな。
剥ぎ取りナイフの登場です。肉の買取相場はプレミア価格と言う事で、少々高めに設定してみました。




