第327話 防衛設備を作ろう
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42階層でベースキャンプを張る事を決めた俺達は、安全確保の為にまず周辺索敵から始めた。と言っても、それほど森の奥までは踏み入らないけどな。
そして索敵の結果、階段前広場から少し踏み入った範囲では、特にモンスターが潜んでいるというような事は無かった。まぁ森の奥の方から、俺達の気配を感じ寄ってくるって事はあるだろうけど。
「良し、とりあえず周辺の安全確保は大丈夫そうだな……」
「まぁ、一応だけどな……」
「そうだけど、断続的に襲撃を掛けてきそうなモンスターが近くに居ないだけマシよ」
最悪の場合、階段前広場を見張るようにモンスターが布陣されている可能性も考えていたからな。
もしそうであるのなら、時間をロスするが安全性を重視し41階層の階段前広場まで退く選択肢もあった。最短距離の道順は把握しているので、多少は移動時間を時短出来るからな。
「そうだね、じゃぁ早速足止め用の簡易バリケードを作ろうか? 作った事ないから、かなり荒い仕上げにはなると思うけど……」
「うーん、ここで出来そうなバリケードとなると……適当な大きさの木を切り倒して地面に並べた感じのやつか? ほらマンガや映画で、先端を鋭く尖らせた木をバッテンに組んで幾つも並べたヤツ」
「ああ、アレね。私達に作れるかしら……」
裕二の提案する製作物に、俺と柊さんは若干不安げな表情を浮かべた。イメージするバリケードの形は分かるのだが、一度も作った事ないからな。一応、鉈やロープ等の道具は“空間収納”に仕舞ってあるが、ダンジョン内で工作をするつもりではなかったので手持ちの工具で使えそうなものは乏しい。
今度ダンジョンに潜る時は、“空間収納”に工具や材料を一式購入して仕舞っておこう……いや、外で作った現物をしまっておいた方がいいかもしれないな。
「まぁ出来るかどうかは別にして、とりあえず一度やって見ようか」
「となると、まずは材料の調達からだ。柊さん、魔法であの木を切ってくれないかな?」
「私? ええ、別に良いけど……」
武器で切れない事も無いが、何度も木を切ってたら武器に負担をかけるからな、魔法で切れるなら切った方が良い。
「“エアーカッター!”」
柊さんは目の前の一抱え程の太さがある木に向かって、水平に腕を振り抜きながら風魔法を行使した。すると放たれた風魔法は膝の高さ位の位置に当たり、幹回りの三分の二程に達する深い切り傷をつける。
うーん、魔法一発での切断は難しいか……。
「これ、蹴り飛ばせば倒れるかな?」
「結構深い受け口だからな、行けるんじゃないか?」
もう一度柊さんに魔法行使をお願いしても良いのだが、蹴れば倒れそうな感じがした俺と裕二は軽く話し合った後、俺が蹴る事になった。
まぁ多分、イケるだろう。
「行くぞ! せぇのっ、おりゃっ!」
二人が木が倒れる範囲から離れたのを確認し、俺はそこそこの力を籠め、受け口の少し上を蹴り飛ばし急いでその場を離れた。
すると俺に蹴り飛ばされた木は切り傷を広げる様にしながら大きく傾き、未だ繋がっていた部分から破裂音を響かせつつユックリと倒れていく。そして……。
「よっしゃっ!」
「おお、倒れたな」
「切れ残りがあったお陰で綺麗に倒れたわね」
重々しい音を立て木が倒れた事に喜びの声を上げる俺に、蹴り倒せた事に感嘆の声を上げる裕二と柊さん。たった一本ではあるが、これまで木を切り倒した事など無かったので俺達にとっても中々新鮮な体験だった。
さてと、まずはこの木を使える木材にしないとな。
「えっと、まずは要らない葉っぱと枝を切り取るんだっけ?」
「ああ、とりあえずはそれで良いと思うぞ。何も製材しようって訳じゃないんだ、要らない部分を切り取って使える部分を使おう」
「そうね。そもそも私達、正しい製材の仕方なんて知らないものね」
「だね」
確か以前見たテレビでは、長期間乾燥させてウンタラカンタラやって木材にしていた。とてもでは無いが、素人が簡単に手が出せる作業工程ではない。
そんな訳で俺達は使えるようにする為、手分けして方々に伸びる枝を打ち払っていく。俺と裕二は鉈を振って細めの枝を落とし、柊さんが魔法を使って太めの枝を落としていく。
「良し、こんなものかな?」
「こうしてみると、真っ直ぐ伸びた良い丸太だな」
ものの5分ほどで、俺達は枝を全て切り落とし木を丸太に変えた。丸太の長さは、凡そ5m程だろうか?
「とりあえず丸太まで加工出来たから、後はある程度の大きさにカットしてバリケードの材料にしよう」
「そうだな……分割するとして、1つ1メートルぐらいに切るか?」
「それじゃあ短すぎるわよ。地面に埋め込む部分の長さを考えると……モンスターが衝突した時の衝撃に耐える様に半分埋めるとしたら2メートルぐらいかしら?」
「2メートルか……じゃぁ丸太は半分にした方が良いんじゃないかな?」
大型のモンスターの突撃には耐えられないだろうが、この階層辺りに出てくる小型のモンスターの突撃なら、1メートルも埋めれば耐えられる……と思いたい。まぁ多少なりともモンスターの突撃の勢いを殺いで、俺達が対応する時間を稼いでくれたら良いんだけど。
「そうね、じゃぁキリも良いし半分にしましょう。でも、そうなるとこの一本の丸太だけじゃバリケードを張り巡らせるには足りないわよね……」
「モンスターの突撃に耐えられるようにするなら、余り細く割る訳にもいかないからな……追加で10本ぐらい切らないと足りないか?」
「10本か……」
1本切ったので大体の要領は分かったが、10本も追加で切るとなればそれなりに時間が掛かりそうだ。
「役割分担して作業を進めよう。俺と柊さんが木を切り倒して加工するから、裕二がバリケードを作ってって感じでさ」
「確かに作業分担した方が、作業効率は上がるな」
「バリケード作成が、広瀬君一人になっちゃうけど大丈夫?」
「まぁ、大丈夫だろう。それに加工作業が終わったら、手伝ってくれるんだろ?」
「勿論」
と言う訳で、俺達は手分けしてバリケード作りをする事になった。まず柊さんに風魔法で10本分の木に切れ目を入れて貰い、俺が蹴り倒している内に柊さんと裕二が一本目の木材を風魔法を使い加工していく。柊さんが丸太を半分に切り6分割した後、出来た12本の木片の片方の先端に裕二が鉈を使い先を尖らせる加工を施していく。
「良し、とりあえず全部蹴り倒し終わりっと。次は枝打ちだな」
「うん。大雑把に削ったけど、これ位とがってれば刺さるだろう」
「はぁ、これだけ連続で“エアーカッター”を使い続けると少し疲れるわね」
俺達は黙々と加工作業を続け、どんどんバリケードを作り上げていく。まぁ見た目はバリケードと言うか、太い杭が立ち並ぶ柵なんだけどな。それと途中で、大きな音を立て作業をしていたからなのか1度、4体のイタチ擬きが階段前広場に襲撃を仕掛けてきた。図らずも、未完成のバリケードで実戦テストを行う事になったが成果は上々。立ち位置を調整し、イタチがバリケードに突撃を仕掛ける様に誘導した結果、多少傾きはしたがイタチ?の高速突撃に一度は耐える事が出来た。これなら戦闘終了後に補修を行えば、一先ずはイタチ?のファーストアタックを簡易バリケードで凌げる事が証明できたよ。
そして途中妨害はあったものの、黙々と作業を続けたお陰で1時間ほどでバリケードは完成した。
「よっしゃっ、完成!」
階段前広場には、41階層へ向かう階段を囲うように半球形状に地面に杭が突き刺されており、即席にしては中々立派な柵が出来上がっていた。一応、小型モンスター相手の実戦証明付きだ。
「うーん、そこそこ疲れたな……」
「私も。二人とも、私は暫く回復に専念するわ」
「お疲れ様、柊さん。暫くは俺と裕二に任せて、ゆっくり休んでよ」
裕二は腕を回しながら肩を解し、柊さんは木材加工の為に連続で風魔法を使った事で少しお疲れ気味のようだ。因みに俺も木材加工にイタチ?との戦闘に結構動き回っていたが、二人ほど疲れてはいない。
こうなると二人に休んでもらっている内に、俺がベッドや陣幕を用意した方が良いだろうな。
「裕二、休みがてらに周辺警戒をしてて。その間に俺がベースキャンプを整えるから」
「ん? ああ、了解」
裕二に周辺警戒を任せた俺は、“空間収納”から荷物を取り出しベースキャンプの設営を始めた。
ベースキャンプの設営は、組み立て済みの品を取り出すだけなので5分程で完了した。陣幕張りが一人なので少々手間取ったが、まぁ許容範囲内だろう。
そして俺は裕二と柊さんにベースキャンプが完成した事を伝え、椅子に腰を下ろす。
「うーん、やっと一息つけるね」
「ああ、と言っても気は抜けないけどな」
「そうね、まだ探索が済んでいない階層での休憩なんだし、気は抜けないわね」
探索済みの階層でなら、多少はどんな危険があるのか把握出来るので対処も楽なのだが、未探索の階層では警戒を緩める訳にはいかない。特に40階層帯は、素早く動く小型モンスターが主体みたいだしな。気を抜いていたら、何時の間にかモンスターが懐に……という事態もあり得る。
「そうだね。まぁ、それより御飯にしようか? 今日は結構動き回ってるから、二人もお腹空いてるでしょ?」
「そう言えば、もう良い時間だな。食前の運動?も十分したし……」
「まぁ、お腹も空いたし食事にしましょう」
と言う訳で、警戒を続けたまま俺達は食事をとろうと準備を始めた。
「で、何を食べる? ココには上みたいに、周りに燃える草は無いと思うけど……」
「……火、使っても大丈夫なのか?」
「焚火なんかの直火じゃなければ大丈夫だと思うけど……九重君、その辺はどうなの? この周りに、燃えやすそうなものってあるの?」
「うーん、ちょっと待ってね」
俺は“鑑定解析”を使い周囲の状況を確認する。一応上の階層も確認はしているが、微妙に環境が変わっている場合があるからな。
うん、少なくともココに長草みたいな可燃性のモノはなさそうだな。
「大丈夫、ココでなら、コンロの火ぐらいなら問題なさそうだよ」
「そいつは良かった。じゃぁ、鍋にしようぜ鍋」
「鍋か……うん、火が使えるのなら鍋も良いわね」
「じゃぁ、鍋物にしようか。ちょっと待ってね、道具と食材を取り出すから……」
俺は鍋とコンロを取り出し、食材としてカット野菜とオーク肉をテーブルの上に並べていく。オーク肉は道すがら得た戦利品?だ。
「柊さん、悪いんだけど鍋に水をお願いしても良いかな?」
「ええ、良いわよ。休ませて貰ったおかげで、大分回復してるから」
柊さんは鍋の上に手をかざし、水魔法で鍋に水を注いでいく。
そして……。
「良し、完成。さっ、皆食べようか? いただきます」
「おう、いただきます!」
「いただきます」
俺達は完成した鍋をつつきながら、明日の予定について話をする。今日は当初の予定を大幅に超える成果を達成している、本来の意味での目的は既に完遂しているからな。今の目標は、安全に配慮しながら出来るだけ到達階層を伸ばす、と言った曖昧なものだ。
そろそろ具体的なゴール、目標到達階層を設定しておいた方が良いだろうからな。
「で、結局今回の探索では何階層まで潜る? 明日は帰還するから、良くて潜行に使える時間は6時間くらいが限界かなと思うんだけど……」
「6時間か……それは少し厳しい見積もりなんじゃないか? 結構深く潜ってるから、戻るのもそれ相応の時間が掛かると思うしな」
「そうね、30階層ぐらいまでならあまり人もいないから一気に駆け抜けて時短出来るけど、30階層より上はそれなりに他の探索者もいるでしょうから無茶な時短も出来ないわ。明日も今日みたいに人が少ない状態なら良いけど……楽観的に見積もっていると外れた時がつらいわ」
確かに今回は予定を大幅に超えた階層まで潜ってきているので、戻るのにもかなりの時間が掛かりそうだ。まぁ道中に現れる敵を無視しつつ最短距離を進めば、30階層までは1時間ほどで戻れそうな気はするけどな。モンスターが無視してくれるとは限らないけど。
しかし、一時間ほどで戻ろうと思ったら、かなりの強行軍になるのは避けられないだろうな。
「そうだね。今いる階層が42階層だから、切り良く50階層を目指すとしたら残り8階層……仮に一階層30分で走破したとしても4時間はかかるかな」
「いやいや大樹、未探索の階層を30分で走破するのは無茶だろ。流石にその時間じゃ、安全確保が厳しいって」
「そうよ、上の41階層はたまたま早く階段が見つかったから時短が出来たけど、他の階層でもそれが出来るとは思わない方が良いわ。1階層走破するのには、1時間は見ておいた方が良いわよ」
「まぁ、そうだよね……」
階層攻略を速めて時短をする事自体は可能だが、それは安全性とのトレードオフだ。今でも事前の予備調査無しでの未探索階層の探索と言う、到達階層更新の為にかなり安全性を甘く見積もった探索をしている。これ以上安全性を軽視すると、いつケガをするか分かったものではない。
うーん、どうしよ?




