第325話 今度は森か……
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俺達は緊張しながら一歩一歩確かめる様に階段を降り、いよいよ40階層へと足を踏み入れた。階段を下り階段前広場に辿り着いた俺達の視界にまず入ったのは、足首程の背の低い草が生えた不規則に起伏した山道と言った感じの地面や人の腰ほどある茂み、苔が生えた背の高い木々が鬱蒼と聳える森である。
森か……幻夜さんの修業を思い起こすな。
「森か……幻夜さん達、隠れてないよね?」
「な訳ないだろ? ……と言いたいけど、大樹が言いたい事は理解出来るけどな」
「そうね。私も突然木の陰や茂みから……ってつい思ってしまうもの」
俺達は苦々しい表情を浮かべながら、軽く溜息を吐きつつ目の前に広がる森を見つめていた。森の中での戦闘となると、ついつい幻夜さん達との修行を思い出してしまう。あそこまで対人戦に特化した敵があの手この手で襲い掛かってくる事は無いだろうが、視界不良に足場の不安定さがあるので今までより警戒を厳にしないとな。
俺は軽く頭を振って雑念を払いつつ、改めて目の前に広がる森に視線を向けた。
「……とりあえず、前の階層でやってたドローン偵察による階段発見って手は使えなさそうだね」
「ああ、天井の高さギリギリまで木々が生えてるからな、上空から階段を見つけるってのは難しいだろうな。それにこの見通しの悪い視界じゃ、俺達程度の腕前じゃ墜落させずに操縦するのは無理ってものだろう」
動画サイトなどには、木々の間を高速で飛ぶドローンの映像がアップされているが、流石にアレをやれるような腕前は俺達初心者にはないな。ユックリ飛ばせばいけるかもしれないが、低空飛行ではモンスターに襲われるかもしれないし、モンスターの攻撃を避けようと操作をミスし墜落させるかもしれない。それなら自分達で森の中を歩いて探し回った方が幾分かマシってものだ。
「そうだな。しっかし、歩き回って探すとなると時間が掛かるだろうな……」
「仕方ないさ、寧ろ今までの方が裏技のお陰でサクサク進んで来れ過ぎただけだって」
「そうね、30階層で普通に進んで階段を探していた時は結構時間を使ってたもの」
ドローン偵察のお陰でこれまでの階層は最短距離を最小限の時間で進んでこれたが、これから先は地道に階段を探すしかない。
はぁ、今までより格段に階層探索進行速度は落ちるな。
「まぁ愚痴を漏らしても仕方ないか、何か使える裏技がないか考えながら地道に探そう」
「そうそう裏技が見つかるとも思えないが、まぁそうだな。出来るだけ楽に先に進めるに越したことはないしな」
「時間短縮は勿論、敵と対峙してケガをするリスクも避けられるものね」
裕二や柊さんが言うように、避けられるリスクは避けるに越したことはないからな。特に40階層と言う深い階層まで潜ってきている以上、些細なケガでもどんな影響が出るか分かったものではない。万一、誰も助けに来れない場所で大ケガを負ったともなれば、例え即座に治療出来たとしても結構精神的にくるものがあるだろうからな。
特に俺達の場合、これまでコレと言ったケガを負った事も無いので、どうなるか分かったものではない。
「そうだね。結論としては、気を付けながら地道に探そう……かな?」
「そういう事だな。じゃあ、さっそく階段を探しに行こう。こうしていても、無駄に時間を浪費するだけだしな」
「そうね、行きましょう」
と言う訳で、俺達は40階層に広がる森の中へと足を踏み入れる。
先程までの草原ゾーンと違い木々に覆われているので、常時頭上からの奇襲に注意を払わないといけないな。
森の中に入って歩き回ること5分、俺達は未だモンスターとは遭遇せず目を凝らしながら階段を探していた。まずは真っ直ぐ歩いて反対の壁まで進もうと思っていたのだが、木々が立ち並ぶ景色がずっと続くせいで方向感覚が曖昧になってくる。
本当に俺達は、真っ直ぐ歩けているのだろうか?
「こうも同じような景色が続くと、迷子対策に木に何か目印になるモノを付けながら進んだ方が良いかな?」
「そうだな、木の表面に傷を付けながら進んでみるか? こう言う時の迷子対策としては定番だしさ……まぁ大概は同じ所に戻ってきたのを確認して絶望する展開になるけど」
「広瀬君、それじゃ意味無いわよ」
「はははっ、冗談だよ、冗談。とは言っても、確かに真っ直ぐ歩けないとなると時間を無駄にロスするよな。でも、コンパスってダンジョン内だと使えないしな……」
裕二は少し困ったような笑みを浮かべながら後頭部を掻きつつ、視線を若干上に向けつつ思案を巡らしていた。裕二の言うようにダンジョン内では、方向を確かめる定番機器であるコンパスが使えない。本来北を示すはずの針が定まらず、クルクルと回ってしまうのだ。ダンジョンから、何か妙な電磁波でも出ているのだろうか?
まぁそんな訳で、ダンジョン内では方向を確認する為にコンパスは使えないのだ。とは言え、40階層までなら道を覚えていれば良かったり見通しが良かったりと、特にコンパスが必要だと感じなかったけどな。
「うーん、目印……木に登ってみるかな?」
「目視って事か? でも結構天井ギリギリの高さまで木が伸びてるから、見える可能性は低いと思うぞ?」
「そうなんだよな。かと言って、紐を木に括り付けて伸ばしていくってのもな……邪魔だし」
「階段を見付けた後なら、ガイドライン代わりに設置するのはアリかもしれないけど今の段階じゃな……」
「「ううん」」
いっその事、木を切り倒しながら道を作り進むか?と言った考えが脳裏を過ぎったが、30階層で草を刈り取った時に数時間で元の長さに戻った事を思えば、毎回木を伐採する必要があるかもしれない。その上、草と違い木を切り倒すという派手な真似をすれば、周囲に潜むモンスターが一斉に襲い掛かってくる可能性も無くはないだろう。
流石に木の伐採途中に多数のモンスターに襲われたら、いらない怪我を負う可能性が出てくる。何せ現段階ではどんなモンスターが出現してくるのか分からない上、この森というフィールドでの戦闘経験が無い為どのような戦闘になるか経験が足りない。仮に、そんな手荒な手段を取るにしても、最低限の下準備を整えてからの話だ。
「二人とも、ココは大人しく地道に探索した方が良さそうよ。何らかの時短手段を使うにしても、先ずはこのフィールドに慣れないと……」
「そう、だね。今まで順調に進んできたから、少し焦ってたのかもしれない。確かに少し時間は掛かっても、ココは確実に進んで経験値を稼いだ方が良いかな……」
「……そうだな、時短するにしても次の階層からの方が良さそうだな」
柊さんの提案に、少々焦っていた俺と裕二はもっともだと思い頷く。下手に時短に手を出すより、先ずは地道な手順による探索を行うべきだな。
それに……。
「そろそろ今日泊まるベースキャンプを作ることも考え始めないといけない時間だし、この階層を調べて回るのも悪くないかもね……」
「……ああ、そう言えばそろそろそんな時間だな」
「そう言えばそうね。予定より大分進んでこれた事だし、確かにそろそろベースキャンプの設置地点を決めても良い頃合いかもしれないわ」
今回の探索においての、元々の目標だった40階層到達は達成出来た。本来ならもっと上の階層でキャンプを張って、翌日に到達する予定だったんだけどな。つまりココから先は、言わばオマケである。無理しない範囲で先へ進もうと言う方針である以上、ココからの優先順位は先へ進む事より、確実に休息を取りつつ無事に帰還する事だろう。
その為にも、ベースキャンプの候補地としてココを時間を掛け詳しく調べると言う選択肢は悪くない。
「下の階層への階段を見付ける事に合わせて、一通りココを見て回ろう。ココにベースキャンプを張る張らないに関わらず調査は必要だしね」
「ああ。とりあえず、どんなモンスターが出るのかくらいは調べないと安心して寝られないからな」
「それと、上にあった長草みたいなモノが無いかも調べないといけないわ。何も調べないままにやらかして、大惨事にでもなったら大事よ」
「「確かに」」
柊さんの言うように、確かにその危険性はある。調査が終わるまで暫くは魔法攻撃を禁止し、武器による攻撃だけにしておくのが無難だろうな。火魔法を使って森全焼等になったらたまったモノでは無い。
そして俺達は意見や愚痴を漏らしつつ、辺りの草や木を観察しつつ森を歩き回った。
調査をしつつ歩き始めて10分程すると、進行方向の先に何かがいるのを感じ俺達は足を止めた。すると、進行方向前方にある茂みの中から一体の小さなモンスターが姿を見せる。体長は30センチ程で茶褐色、小さな口に鋭い牙をキラリと光らせながら俺達を威嚇している。
アレは……イタチ、か?
「何か、ちっこいモンスターだな……」
「ああ、リス……イタチか?」
「……ちょっと可愛いかも」
コレまで出現したモンスターが比較的大きなものが主流だったので、この小さなモンスターの登場に若干動揺する。不意を突かれた柊さんなんて、モンスターの愛らしい姿に少し心揺れてるみたいだしさ。
しかし、正面から出てくるとは……この手の小型モンスターは不意打ちや奇襲がセオリーじゃないのか?
「ふぅぅっ……。良し、取り敢えず敵がどんな姿だろうと関係ない、敵なら倒すだけだ。良いよね、二人とも?」
「ああ、おう、そうだな」
「えっ、ええ、勿論よ」
若干動揺を引きずりつつ、俺達はそれぞれ武器を構え敵の出方を窺う。その間、俺は“鑑定解析”で相手のステータスを覗く。
その結果は……。
「……相手は素早さに特化した敵みたいだから、二人とも気を付けて」
「素早さ特化? つまり足で掻き乱し攻撃してくるタイプか……」
「あの小ささと森って場所だと、スピードタイプは少し厄介ね」
愛らしい見た目に反して、中々に厄介な敵のようだ。どれくらいの早さで動くのか分からないが、こう障害物が多い場所では倒しづらいタイプの敵だろうな。コレが今までのモンスターと同じような体格なら、まだ的が大きく攻撃も当てやすかっただろうに。
そう思い警戒しつつイタチ?の動きをを観察していると、イタチ?は小さな威嚇の鳴き声を上げ動き出す。
「来るぞ!」
裕二が鋭い注意の声を発したのと同時に、イタチ?は俺達を中心に円を描くように時計周りに走り出す。イタチ?はかなりのスピードを出しており、しかも森という場所柄、木の陰や茂みの陰を巧みに使い通過する際に一瞬見失いそうに錯覚させようとしてくる。
だがまぁ、まだこの程度のスピードでは俺達の目は誤魔化せないんだけどな。
「裕二、柊さん……」
「大丈夫だ、見えてるよ」
「私も大丈夫よ。でも、思ってたよりやりにくい敵ね」
「ああ、この敵、一撃で仕留めないと厄介かもしれない」
素早さ特化の相手だ、下手に攻撃して傷を負わせるだけで逃げられるような事になれば厄介かもしれない。一時撤退し執拗に隙を狙ってくる……と言う方法をとるかは分からないが、攻撃に消極的になりでもしたら素早さ特化の敵だ、倒すのに予想外に時間が掛かる事になるかもしれないしな。
付かず離れず嫌がらせのような攻撃をしてくる敵、厄介すぎる。
「正面方向から来たら俺が倒すから……」
「俺は右側だな」
「と言う事は私は左側ね」
「そう言う事」
周りを周回し攻撃タイミングを計ってくるイタチ?に対し、俺達は三角形を描くように互いに背中合わせになり全周警戒をする。コレなら直ぐに対応出来るからな。
そして周回しつつ機を窺っていたイタチ?は、即座に対応した俺達の動きを見て拙いと思ったのか意を決し攻撃を仕掛けてきた。
「任せろ!」
イタチが突撃して来たのは俺の後ろ、裕二と柊さんの丁度中間地点。二人の攻撃範囲が重なる場所を見極め、一気に突撃をしかけたイタチ?の手腕は見事だった。
だが……その動きは俺達、裕二には即座に対応可能な範囲でしか無い。
「チッィ! チッィチッィ!」
「シッ!」
「ギュッ!?」
裕二は右手に持った小太刀を素早く逆手に持ち替え、斜め下から飛び込んできたイタチ?の軌道に合わせて振り抜く。すると裕二が振るった小太刀の刃はイタチ?の口と鼻の間を抜け、イタチ?の頭を上下に両断し切り飛ばした。
うん。それは見事なんだけど、斜め下から突撃してきたイタチを上下に分割するように切り飛ばしたんだよ、裕二と柊さんの間を狙って突撃したイタチを。つまりは……。
「うわっ!?」
裕二と柊さんの間、つまり俺の背中に当たる軌道で飛んで来たのだ、上下に分割されたイタチの死体が! 勿論、俺は屈んで直撃は避けたよ、でもな! 上下に分断した死体が通過したって事は、傷口から溢れ出したイタチ?の血が俺の頭上に降り注ぐって事なんだよ!
ああ、もう! 生暖かくて気持ち悪いな!?




