第321話 お盆期間中の報告会
お気に入り28470超、PV53600000超、ジャンル別日刊77位、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて連載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版にて発売中です。よろしくお願いします。
お盆休み期間も終わり、久しぶりに俺の部屋で裕二や柊さんと顔を合わせた。まぁ久しぶりと言ってもそう長い間が空いたわけでも無いので、早々変わるわけも無いんだけどな。
と言うわけで、俺達はのんびりとした雰囲気でお盆休み期間中の報告をしあう。まずは……。
「と言うわけで、美佳達に今より下の階層まで潜る許可出しをしても良いと思う。実力は勿論だけど、ちゃんとダンジョンを潜る際の心構えも身についてきてるみたいだからな」
「そっか……まぁ大樹がそう判断したのなら大丈夫なんだろうな」
「そうね。でもそうなると、今度はどのくらいまで潜るのを良しとするかよ」
そうなんだよな、柊さんが言うようにそこが問題だ。今より下の階層になると、厄介なモンスターが出てくるからな。一応、美佳達は以前一緒にダンジョンへ潜った際、ゴブリン討伐を経験している。だが、慣れているかと言えば別問題だ。俺達も慣れるまでに、それなりに時間が掛かったからな。美佳達もいきなり何階層も降りるって事はしないだろうけど、動揺して怪我を負わないかとか色々と少々心配になる。
はてさて、何階層辺りまで許可すると良いのかな?
「一応、二人ともゴブリン討伐は経験してるから7階層辺りは大丈夫だと思うけど……」
「まぁ経験と言っても、そう多くは無いぞ。不覚……は取らないとは思うけど、慣れるまでは慎重に行かせた方が良いだろうな」
「そうね。前にゴブリン討伐を経験した時もそれなりに堪えてたみたいだし、慎重を期す方が良いと思うわ」
「「「……」」」
美佳達の実力を考えるとオーク、10階層辺りまで潜る許可を出しても良いと思う。但し、実力のみを考慮した場合だ、精神面の負担を考えると急に不安になる。
しかし、美佳達もそう中途半端な心構えでダンジョンに挑んでいる訳では無いと思うので、俺の心配のし過ぎなだけかもしれないが……不安は尽きない。
「10階層まで許可するけど7階層……ゴブリン討伐になれるまでは7階層で頑張って貰う、ってのはどうだろう?」
「……うーん、それが良いかもしれないな。一気に潜れる階層を増やして気を逸らさせるより、中間目標を定めて歯止めを利かせた状態にしておいた方がいいだろう」
「今までの制限が取り払われて、まだ先に進めると思ったら嫌が上にも気が逸るモノね。二人ならそんな軽率な事はしないと思うけど……抑止策の一つもあった方が良いと思うわ」
俺達はそれぞれ意見を述べ合った後、互いの顔を見合わせてから軽く頷き合った。
「じゃぁ美佳達には、7階層で暫くゴブリン達相手に戦って慣れたら10階層まで潜る事を許可するって伝える……って事で良いかな?」
「ああ、それで良いと思う」
「私もその方針で良いと思うわ」
こうして2人の了承を得て、美佳達へ伝える新方針が決まった。一応以前一緒に行った探索でゴブリン討伐経験はあるだろうけど……心配だな。
最初の議題だった美佳達への新方針も決まり、俺達は各々お盆休み期間をどう過ごしたのか教えあった。
「へー、そんな会社があるんだな」
「ああ、大河兄さんに話を聞いて詳しく調べた時は、俺もまさかと目を疑ったよ」
「確かに今はダンジョンブームのお陰で、ダンジョン産アイテムの需要は高いものね。そうなると能力の高い探索者を確保して利益を上げたい、って気持ちも分かるけど……」
「雇用条件が悪すぎるな。最悪、不満を持った探索者が殴り込みを掛けるってレベルだぞ?」
「俺もそう思うよ。実際、協会にも被害報告が沢山来ているみたいだから、この手の会社の事は問題視しているみたいだったしさ」
俺が大河兄さんが遭遇した真っ黒マネージメント会社の話をすると、裕二と柊さんは眉を顰めながら嫌悪の表情を浮かべていた。まぁ全部断ってたけど、俺達にも似たようなスカウト話が来てたからな。まるで他人事という話でも無い。
「協会か……規制は入らないのか?」
「契約自体は正式なモノだから、協会が直接介入するのは難しいみたいだ。国が法整備を整えれば改善はされるだろうけど……」
「法整備ともなれば、時間は掛かるでしょうね」
「うん。でもその辺は確り法で定めて貰わないと、職業として探索者になる人が確実に減るだろうね。そうなったら、需要に対してモノが供給不足になって、折角ダンジョンのお陰で好調になってきた経済も陰っちゃうかもしれないかな……」
そうなったら多分、世間から批判の声が起こるだろうな。“何でダンジョン産の物資が不足しているんだ! さっさと探索者はダンジョンに潜って獲ってこい”って感じでさ。
「……まぁ、そんなに悪評が立っているのなら、その内潰れるか」
「タチの悪い会社が淘汰されて、マシな会社が残れば良いんだけどね」
「そうだね……」
「「「……」」」
口ではそう言いつつも、俺達は半目で顔を見合わせながら、タチの悪い会社ほど生き汚く残りそうだけどなと思った。
そしてそんな微妙な空気が流れてしまった部屋の雰囲気を変えようと俺は軽く咳払いをし、つい先日美佳達と行ったイベントの話を二人に振る。
「そ、そう言えばこの間、美佳達を連れてダンジョン企業主催のイベントに行ってきたぞ。探索者以外に一般の人も集まってて、結構賑わってたよ」
「……そう言えば、そんなイベントに行くって言ってたな。内容的には、どんなイベントだったんだ?」
「えっ? ああ、一般的な企業紹介ブースが並んでいて、探索者関連の物販やダンジョン食材を使った屋台とか並んでたぞ。他にも、ステージイベントとして企業所属の探索者が色々とアピール演技をしていたな」
俺はイベントの内容を思い出しながら、身振り手振りを交えながら裕二と柊さんに説明する。
「へー、話を聞く限り、中々面白そうなイベントだったみたいだな」
「企業所属の探索者のアピール演技か……ちょっと見てみたかったかも」
「企業紹介は色々考えさせられる内容があったし、屋台の料理は美味しかったよ。アピールの方は一般客向けに分かりやすさ重視って感じの演技だったね。ただまぁ物販ブースは……微妙だったかな? 初心者向けというか、今から探索者を始める形から入る大人向けって感じのラインナップだったしさ」
俺は物販ブースの品揃えを思い出しながら、少しウンザリとした表情を浮かべた。初心者向けって銘を打ったイベントだったのに、コレから探索者を始めようと思って居る学生が買い揃えられる品揃えと値段設定じゃ無かったからな。
「……微妙だったのか?」
「うん、結構。まぁ、品自体は良いモノだとは思うんだけどね? ただ、イベントの目的にそぐわないと言うか何と言うか……」
「ふーん」
俺が酷評する物販ブースがどんな品揃えだったのか気になったらしく、裕二は興味深そうな表情を浮かべ詳しくラインナップを聞いてこようとした。
しかし、柊さんが口を挟みストップを掛ける。
「それはそうと九重君、館林さんと日野さんもイベントに行ってたんだね」
「えっ、ああ、うん。美佳がイベントに行くってのを話したら、自分達も行って良いかって聞いてきてね。良いよって答えたんだ。どうも自分達も探索者になろうか悩んでたらしく、探索者について知りたいって事だからさ」
「あの二人も探索者になろうとしてるんだ……」
「イベント中に俺が教えられる範囲で色々と経験談を話してるから、今はどうするか悩んでる最中だと思うよ」
二人には探索者をやるかどうかは、イベントで見た事や俺の話を聞いた上で決断を下したら良いと伝えている。どう言う判断を二人が下すかは分らないが、勢いや流された末ではなく自分で考えて決断を下してほしいものだ。
そんな風に柊さんと館林さん達の話をしていると、裕二が少し思案気な表情を浮かべながら口を開く。
「なぁ、大樹? もし館林さん達が探索者をやると決めたなら、美佳ちゃん達と組ませるつもりか?」
「ああ、館林さん達が探索者をやるというなら、美佳達と組ませようと思ってる。同級生で仲も良いし、パーティーメンバーが2人から4人に増えればより安全に探索出来るしな。ああ勿論、基礎訓練をして貰った後の話だけどさ」
「まぁ確かに、2人で探索するよりは4人の方が安全だわな」
「……でも、もしそうなったら、多少のテコ入れはして置いた方が良いでしょうね」
「ああ、うん。そうだね」
確かに、柊さんの言うように多少のテコ入れは必要だろうな。現状でパーティーメンバーを増員するのにも、善し悪しがある。確かにパーティーメンバーを増員すれば探索時の安全性は増すが、報酬は配分する人数が増えるので減少する。20階層近くまで潜れるのなら分配しても、一人当たりでも十分な報酬を得られるだろう。だが、10階層にも到達していない状況で極端にパーティーメンバーを増やせば、一人当たりの報酬は雀の涙になってしまう。
命がけの探索をしても雀の涙ほどの報酬しか得られない……パーティーメンバーの仲が悪くなる要因の一つだ。
「まぁ実地研修を兼ねて、初期投資分を回収出来るくらいのテコ入れはしてやった方が良いだろうな。ダンジョン探索する際に気兼ねがあると、気が逸って危ない事をし易くなるしさ」
「確かに、懐が寂しくなると焦るしね。特に探索者は稼げるってイメージがあるから、稼ぎが少なかったら無茶をしようとするしな」
「交通費や準備費用だけでも、1回探索に行くだけでも費用がかかるものね」
探索者は得るモノも大きいが、出ていくモノもそれなりにある。特に低階層に通うような新人探索者は、初期投資費用の回収どころか必要経費さえ満足に稼げない者が多いからな。
ダンジョン解放初期の頃なら、ドロップアイテムもプレミア価格で買い取って貰えてたからまだマシだったけど……一部のレアドロップ品を除く今のドロップアイテム買い取り価格じゃな。
「まぁ、この話は館林さん達が結論を出してから、って事で良いんじゃ無い? 今の段階で話してもさ?」
「まぁ……そうだな。可能性の一つとして考えるだけにしておくか」
「そうね。二人が本当に探索者をやるというのなら、何れ相談してくるでしょうからその時に考えましょう」
まだ二人が決断しても無いのに、館林さん達がやる事前提に話し込みそうになったので俺は強引に話を打ち切った。この間の反応を見るに、探索者をやるかどうかは……食欲に負けてやるって言いそうな気もするが半々って所だからな。
俺の話は一通り終わったので、裕二の話を聞く事になった。裕二はお盆期間中、重蔵さんと一緒に全国の武道関係者が集まる集会に参加していたらしい。何でも武道館を貸し切って、探索者をやっている門下生同士が模擬戦をしたらしいのだ。
「おい裕二。それって……“模擬戦”と書いて“話し合い”と読むってヤツか?」
「いやいや、流石にそれは無い。普通に今後の事について話し合った後、各々の流派がダンジョン登場以来工夫を重ねてきた成果を見せ合っただけだ」
「……本当か? 口より先に手が出たってなんて事は……」
「無い無い、本当だよ本当! 別に何か揉め事があったから模擬戦で解決した、とかって展開じゃ無い。単なる手合わせだよ」
俺そんな脳筋に見えるか?と、裕二は心外そうな表情を浮かべながら半目で俺を睨んできた。
まぁ見えないな。
「はぁ。まぁ話し合いの結論としては、折角ダンジョンブームのお陰で武術に目を向けてくれる人が増えたんだから、皆で切磋琢磨しつつ武術界を盛り上げていこうって感じだな」
「……要するに、今までと同じく頑張りましょうって事か?」
「そうなんだよ、それを決めるためだけに全国津々浦々から各流派の代表が集まって、お盆期間丸々使いやがったんだ。まぁ後半は殆ど、懇親会って名目の飲み会だったけどな」
「うわぁ……」
裕二の疲れた様な表情を浮かべながら項垂れている姿を見て、俺は思わず同情の眼差しを向けた。
まぁ確かに、色んな人と交流があった方が人脈が出来てイザって時に助かる事もあるから、お盆期間丸々使っても無駄って事は無いんだろうが、数日続く飲み会か……うん、俺は遠慮したいな。
「でもまぁ苦労した分、収穫が無かったわけでも無いぞ? 模擬戦をパッと見ただけだったけど、結構レベルの高そうな人が集まってた。ダンジョンにずっと潜ってレベル上げをしていたらしい人は勿論、俺と同年代か少し上の人でも、そこそこやりそうなヤツがチラホラいたしな」
「へー、裕二の目から見てそこそこか……」
「多分、地元のダンジョンではトップクラスを張ってるんじゃ無いかな? オーガともパーティー戦でなら、苦戦はするだろうけどやれると思う」
俺達が普段通っているダンジョンも、オーガを倒せるパーティーは数えるほどしか居ない。それなのにチラホラ居たのか……やっぱり探索者は武術経験がある方が有利なんだな。
因みに、裕二も重蔵さんによって模擬戦に放り込まれたらしいが、一撃も有効打を受けずに余裕で勝ったらしい……流石だな。




