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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第14章 夏休みはイベントがいっぱい
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幕間 四拾九話 変化し続ける国際情勢

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 ダンジョンが世界各地に出現してから凡そ1年が過ぎ、混乱していた世界は徐々に落ち着きを取り戻し始めたのだが……同時に様々な問題が胎動し始める。中でも今までに無かった要素、探索者という存在が静かに力強く蠢いていた。

 そして、そんな影響をもろに受けた人物達が集まった会議室の中は、お通夜のように重苦しい雰囲気に包まれている。世界的イベントの大会組織員会に属する者達だ。


「……どうにもならんな」

「……はい。探索者……モンスター討伐の経験がある者とそうで無い者とでは、身体能力に差がありすぎます。同じフィールドで勝負させても、結果が最初から分かりきった勝負にしかなりません」

「多少の差ならば、練習の差だ技術の差だと言い張る事も可能だが……」

「ココまで差が明確に出てしまうのでは、とてもではありませんが多少の差だと言い張る事は……」


 会議の出席者は頭を抱え項垂れ、重苦しい溜息をついた。

 そして会議出席者の一人が座っている机に拳を降り下ろし、切羽詰まった叫びを上げた。


「どうしろって言うんだ! 大会本番まで、後一年なんだぞ!?」

「それは分かっている! だからこうして皆、頭を悩ませているんだろうが!? 文句を言うのなら、お前が解決策を出せ!」

「何だと!?」

「ああっ!?」


 会議は踊れど結論は出ず。手詰まり感が強く出席者達の苛立ちも膨れ上がり、一触即発の雰囲気が漂い始めていた。そんな中、会議室の一番奥の席に座る責任者の議長が柏手を打ち、出席者達の注目を集め口を開く。


「諸君、我々は数ヶ月に渡ってこの問題に対する解決策について話し合ってきた。だが、コレと言った解決策は出せず、今も会議を続けている。しかし、大会本番も迫りそろそろ結論を出さねばならない」

「「「「……」」」」


 議長の言葉に、会議出席者達は何とも言えない表情を浮かべながら力無く頷き同意を示す。


「……結論としては、探索者と一般選手とを一緒に試合をさせる訳にはいかない。競技に対する技量では無く、どれだけモンスターを倒しレベルを上げたかで結果が決まってしまうからだ」

「「「「……」」」」

「よって、モンスター討伐の経験のある選手と一般選手は分けるしか無い」

「「「「……」」」」


 議長の出した結論に抗議の声を上げようとした会議出席者もいたが、声は出せないまま口を閉じ黙り込んだ。異を唱えたいが、それは今まで何度も会議を繰り返した末に、誰もが密かに認めるしか無い事実と思っていた事だった。


「で、ですが議長。それでは既に出場が内定している多くの選手が、大会に出られなくなってしまいます。それに伴い、各国の競技団体からも抗議の声が……」

「分かっている。だが、隔絶した差がある以上一般選手と一緒に行う事は出来ない。それに、探索者の中でもレベルの差によって、大きく身体能力に差がでるとある。一括りに探索者と言っても、天と地ほど差が出てしまう。競技に対する技量で無く、レベル差による身体能力の差で結果が出てしまっては意味が無いだろ?」

「それはそうですが……」


 反論したくとも反論出来ず、発言者は黙り込んだ。

 しかし、次の発言者の言葉に議長は少し顔色を悪くする。


「しかし議長。そうなりますと、モンスター討伐経験のある選手は国際大会には出場出来ないと言う流れが出来てしまう恐れがあります。そうなってしまいますと、活躍の場を奪われたコレまで頑張ってきた選手からの反発も必至かと……」

「う、うむ」

「それにこう言っては何ですが、もし会議の決定で出場を外された選手が恨みを持ち実力行使に出た場合、探索者経験があるので……」

「「「「……」」」」


 大会出場やメダル獲得で人生が変わる選手がいる事は周知の事実。その機会を掴んでいたのに、委員会の決定で機会が奪われたとなれば恨みを買うのは必至だろう。

 ダンジョンが出現して凡そ一年、探索者がどの程度の力を持っているのかを、会議主席者達はある程度知識として知っている。それを思えば、逆恨みした探索者系選手に襲われたら……と言う考えが会議出席者達の脳裏を過ぎった。

 

「……探索者経験のある選手を集めた、別大会をひらく事は出来ないか?」


 出席者の一人が保身の為か、探索者選手専門の大会を同時に開催出来ないかと口にしたが、他の出席者達は頭を横に振り提案を否定する。


「可能か不可能かで言えば可能だ……」

「しかし、次の大会では不可能だ。事前の取り決め通りの体制で大会準備が進んでいる以上、急な変更は不可能だ。開催スケジュールは、既存のまま進行しているんだぞ?」

「種目によっては、探索者選手専用の会場が必要になるだろうな……」

「開催国に探索者のために別大会を開くからと追加予算を要請しても、易々とは承認してくれないだろうな……」

「そもそも、探索者選手の中でもレベル差によって大きく差が出るんだ、只集めて開くだけじゃ意味が無いしな」

 

 時間、物、金、人、全てが探索者選手専用大会の同時開催は不可能だと示していた。開催自体は可能だが、開くには準備で数年掛かりそうな難事であると。

 暫く出席者達の話し合いを見守っていた議長は、ある程度意見が出そろった所を見計らい口を開く。


「諸君。結論としては、モンスター討伐経験選手の出場は認めない、代わりにモンスター討伐経験選手を集めた大会を開く……で良いかな?」

「ええ、それが出場出来ない選手達に対しての無難な対案だと思います。ですが……」

「今大会には間に合わない案である、と言うのが問題ですね」

「とは言っても、無い袖は振れない。よくやって、次回大会で開催出来るかどうか……と言った所だろうな」


 モンスター討伐経験選手が出場できない事に対する代案ではあるが、今大会に出られない事に対する即効性のある救済案では無い。不平不満は確実に出るだろうが、これ以上の案が無いのは散々討論を重ねている事で分っている。

 そして議長は、苦々しげな表情を浮かべながら、会議出席者達の顔を見渡しながら口を開く。

 

「では、オリンピックへのモンスター討伐経験選手の出場禁止の発表と同時に、この対案の事も発表する。世間から色々な反発もあるだろうが、次回大会でモンスター討伐経験選手専門大会が開催出来るように各自各所へ動きかけてくれ」

「「「「はい」」」」


 こうした会議の結果、一定の結論を出したオリンピック委員会は動き出す。

 そして後日、オリンピック委員会の公式発表と同時に、世界各国のスポーツ界では予想通り大混乱が発生する。出場がほぼほぼ内定していた選手が大会の新規定により出場出来なくなり、国によっては出場候補者だった選手が総入れ替えになる事態に発展。また、モンスター討伐経験選手専門大会の案も同時に発表されたが大会規定が詳細には設定されておらず、次回大会開催国は予定に無い大会開催予算の増額を突然求められ拒否の構えであり、今大会出場を逃したモンスター討伐経験選手には先行き不透明な状況であった。






 ダンジョンの出現により混乱した世情も、時間と共に平常を取り戻し始めた。だが、ダンジョン自体が無くなったわけではない。つまり、その管理と対策を行わなければならないという事だ。

 それも、世界規模で。


「現在確認されているダンジョンは、全世界で数千個を超えています。ただし、コレは都市部近郊や人口居住地で確認された物に限ります。僻地や極地と呼ばれる地帯は未だに探索が終わって居ない場所が多く、更に数は増える物と思われます。何より……」

「地球の表面の大半を占める海洋の探索が殆ど未探索……ですか?」

「……はい。浅い海域に出現した物に関しては航行中の艦船、地元の漁師やダイバー等からの報告である程度の確認が取れています。ですが、深海と呼ばれる様な水深の深い海域は殆どが未探索……調査自体が難航しています」

「そうか……」


 報告書片手に質問に答えている壮年の男性は、十分に調査が出来ていない現状に残念気な表情を浮かべている。だがそれは、会議に出席している者全員の気持ちでもあった。

 ダンジョンが出現してから1年以上経過しているのに、海洋はおろか地上に出現したダンジョンの確認さえ終わっていない。


「国連直属のダンジョン調査機関とは銘は打たれているが、出現したダンジョンの所在確認さえままならないか……」

「室長、ウチはまだ正式設立前の準備機関ですよ。人員も予算も足りず、各国から上げられてくる情報を纏める事しか出来ていませんって。それに各国共、報告していない秘匿しているダンジョンだってある事ですし……」

「馬鹿野郎! だとしてもこの結果はあんまりだろうが! ウチが正式な機関として認められるかどうかは、今の俺達の成果によるんだぞ!」

「とは言っても実際、人に金に物……何から何まで足りませんって、ウチ」

「……!」


 やる気の薄い若い職員の物言いに、室長と呼ばれた男性は不機嫌そうに反論するが、実際問題職員の言う様に何から何まで足りない。言い負かそうにも材料の無い室長は、苛立ちの表情を浮かべながら地団駄を踏んだ。

 そんな室長と若い職員の様子に壮年の職員は軽く溜息を吐きながら、報告書の続きを読み上げる。


「続けますよ。各国から産出されているドロップアイテムの種類は大凡一致しています。スキルスクロール、マジックアイテム、コアクリスタル等々……報告に上げられているドロップアイテムの効果も一致しています」

「……本当に差が無いのかね?」

「はい。探索者達の到達階層の違いによって産出のアイテムの種類に差はありますが、ダンジョンの所在地による差は今現在の所見付かっていません」

「一切の差が無く一致している、か……」


 壮年の男性職員の報告に、室長は眉を顰めながら報告を吟味し悩む。ダンジョン毎に差が無いという事は、出現したダンジョンは出現地こそ異なるモノの、基本的に同一のモノであるという事だ。だが、本当にそんな事があるのだろうか?と言った疑問が室長の頭を過ぎった。


「あの、良いすか? もしかして、ダンジョンに出現するモンスターも一致しているんですか?」

「ん? ああ、次に報告するつもりだったんだが確かにお前の言う通り、ダンジョン毎に出現するモンスターも一致している」

「それって……出現する階層も、ですか?」

「……ああ」

「!?」


 壮年の職員と若い職員のやり取りを聞き、室長はハッとした表情を浮かべ二人を凝視する。


「報告に上がっているダンジョン全てで一致? 産出するアイテムも? 出現するモンスターも?」

「はい。現在報告に上げられているモノは、全て一致しています」

「……あり得ないだろ、そんな事!? 報告に上がっているダンジョンが幾つあると思っているんだ!?」


 偶然の一致であるのであれば、正に天文学的確率だ。だが、偶然で無かったとしたら……。

 とある考えに至った室長の背中に、寒気と共に戦慄が走った。


「まさか……ダンジョンは画一的に作られている、のか?」

「……報告書を纏め調べた限り、その可能性は大いにあるかと」

「だとすると、ダンジョンは偶然出現したのでは無く、誰かが……」


 室長はダンジョン出現から紛糾しっぱなしの国際会議を思い出し、引き攣った笑みを浮かべた。もし本当にダンジョンの出現を誰かが、何処かの国が引き起こした事態であるのならば……想像したくない事態に発展するかもしれない。

 その瞬間、室長の脳裏に報告書を破棄、もしくは内容を改竄するべきかという考えが浮かんだ。だが……。


「そんな事をしても無駄か……」


 室長は諦めの溜息と共に、ポツリと漏らす。

 各国から報告書という形で上がってきている以上、既に薄々であろうとも同様の結論に達しているはずだ。例えココで自分が報告書を改竄、もしくは破棄したとしても意味は無い。


「なる程、だから未だに国際会議が度々紛糾していたのか……」


 室長は、1年以上会議を重ね世情も大分安定してきているのに、何故未だに紛糾する事があるのか疑問に思っていたが、各国がこの事を知って、ドコの国が事態を引き起こしたのか疑心暗鬼になっていたからなのかと納得した。


「……報告書を纏めてくれ、上に提出する」

「……良いんですか、室長? これ結構な爆弾すよ?」

「良いんだ、既に上も薄々気付いている」

「……分かりました。早急に纏めさせて貰います」

「頼む」


 引きつり気味の表情を浮かべた若い職員の指摘に、自嘲と達観が入り交じった表情を浮かべた室長が許可を出し、壮年の職員は何も言わずに軽く頭を下げ了承した。

 この時に作られ上げられた報告書が原因で、再び国際会議は紛糾する事に成るが別の話である。
















大きな大会や組織ほど、急な変更は反発が大きくなりますからね。


次回から新章に入ります、よろしくお願いします。



挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 室長って事は某韓国? 日本で使うかなぁ? 知らんけど(*´∀`)♪
[一言] よく考えたらペンギン肉と卵って現状ダンジョンで唯一手に入る鳥系素材?
[気になる点] 南極のダンジョンにペンギン出てなかったっけ?
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