第315話 会場内は天国
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重盛と別れた俺達は、会場外の出店や屋台を覗きながら一周し会場入り口前へと戻って来た。一周するのに少々時間が掛かったので、俺達が会場に到着した時よりイベントを見に来た人が増えている。
メインターゲット層である探索者学生は勿論、社会人系探索者や普通の親子連れの姿もチラホラ見え結構賑わってる様だ。
「さて、取り敢えず外側をぐるっと回って見たが……直接探索者関係と言った店は無かったな」
「そうだね、普通のお祭りやイベントで見るような感じの屋台が並んでたかな?」
「やっぱり客層の差別化を兼ねて、探索者関係のモノは会場の中にしか無いんじゃないんですか?」
「私もそうだと思います。やっぱりダンジョン系の商品って、似たようなモノでも高額になりがちですからね」
「確かに。私達のお小遣いだと、ちょっと手が出ない値段のモノとかあるもんね」
館林さんと日野さんは少し遠い目をするように目を細めながら、チラリと視線を美佳と沙織ちゃんに向けていた。ドコかへ一緒に遊びに行った時に、何かあったんだろう。……うん、まぁ友達とは言え美佳と沙織ちゃんは探索者で、館林さんと日野さんは非探索者だからな。自分で自由に使えるお金という意味では、両者の間には明確な差が出てくるのは仕方ない。
まぁ美佳は自制が甘く、調子に乗って大盤振る舞いしていたせいで金欠気味に陥っているようだけど。
「……じゃぁ、中に入ってみるか。今日の目的は中の企業展示を見る事だしな」
「う、うん、そうだね! 早く行こっ!」
「はい!」
「……そうですね、行きましょう」
「はーい」
俺は敢えて何があったか追求するような事はせず、視線を逸らしながら会場内へ入ろうと促す。その際、若干4人の間にギスギスとした雰囲気が流れたが……まぁ直ぐに解消した。
と言うわけで会場の入場口……の脇にある券売所に足を進める。
「うーん、入場料が前売り500円、当日600円か……」
「お金取るんだね」
「まぁ会場を借りる費用とかも掛かるんだし、その辺は仕方ないんじゃないかな?」
「あっ、高校生までは無料ってなってますね」
「本当だ、高校生も無料なんだ……」
券売所の脇に立てかけられた料金表を見ながら、美佳達が学生証を見せれば高校生と言う文言に驚いていた。まぁ映画館とかに比べたら遙かに格安料金なので、仮に購入するとしてもそんなに文句はないんだけどな。
「すみません、高校生5人でお願いします」
「高校生5名様ですね? 学生証はおもちですか?」
「はい」
驚く美佳達を横目に、俺は持ってきていた学生証を掲示し入場券を受け取る。
そして……。
「はい、入場券貰ってきたよ。皆、一枚ずつ取ってくれ」
「お兄ちゃん、ありがとう」
「「「ありがとうございます」」」
美佳達は、俺が配る入場券を受け取っていく。
「よし、入場券も手に入った事だし早速会場内に入ろう。いい加減外に居るのも暑いだろ?」
「うーん、そうだね。確かに暑いかな?」
「そうですね、麻美ちゃん達は大丈夫?」
「う、うん。今は大丈夫だけど、ちょっと辛いかな……」
「私も……ちょっと」
沙織ちゃんの質問に、館林さん達は少し顔を辛そうに顰めながら返事を返す。日陰に居るので直射日光を避けられ多少マシなようだが、暑さ自体はコレからも上がるからな。館林さん達の為にも、早く会場内に入って涼むとしよう。
と言うわけで、俺達は少し足早に入場券を持って会場入り口に移動する。
入場券を入り口の係員さんに渡し、俺達は会場内へと入場した。入って直ぐの通路なのに、確りと空調が効いており外とは別世界だ。
うん、コレだけでも入場料を支払って会場に入る価値はあるな。
「空調が効いていて涼しいな、ココ」
「うん、ホント外とは別世界だよ!」
「涼しいですね……」
「ああ、生き返る」
「もう外に出たくないな……」
猛暑から逃れられた皆は、蕩けたような表情を浮かべながら涼をとる。探索者補正のお陰で、俺はそれほど暑いとは感じなかったが皆、特に館林さん達には真夏の炎天下は地獄のような環境だっただろうからな。
と言うわけで、暫く通路脇に設置されているソファーに腰を下ろし、暑さで火照った体を冷やす事になった。
「ホント、ココは涼しくて助かるな。あんな炎天下に長時間いたら熱中症になるってのも分かるよ」
「本当だよね……ねぇ美佳ちゃん、美佳ちゃん達は本当に暑くないの?」
「うん。探索者補正のお陰で、麻美ちゃん達に比べたらかなりマシだと思うよ」
「そうそう。家でも家族と一緒に居ると、エアコンの温度設定なんかで差を感じるよね。室温が三十度を超えていても、私はエアコン無くてもそれなりに大丈夫だし……暑さに対する耐性は結構上がってると思うよ」
「そうなんだ……良いな」
「……その為だけに探索者になっても良いかもしれないな」
既に汗が引き涼しげな様子の美佳達の姿に、未だ汗が引ききらない館林さん達は羨望の眼差しを向けていた。確かに俺に比べ劣っているが、美佳達の耐性も非探索者からしたら羨望の対象だよな。特に最近の夏の暑さは、正に殺人的だ。探索者になれば楽に暑さが凌げるようになると言うのなら、探索者になろうかなという気持ちも分らなくは無い。
しかし……。
「確かにそうかもしれないけど……」
「軽い気持ちで探索者になるのはオススメ出来ないかな……?」
「「?」」
急に真剣味を帯びた表情を浮かべた美佳達の様子に、館林さん達は戸惑いの表情を浮かべる。
「確かに探索者になれば、レベルが上がると共に耐性はつくよ。でも……」
「効果を感じられるほどの耐性を得ようと思えば、何十体とモンスターを倒さないといけないんだよ? 夏の暑さを凌ぐ耐性を得る為だけに、何十体ものモンスターと戦える?」
「「……」」
淡々とした口調の美佳と沙織ちゃんの問い掛けに、館林さん達は圧倒され何も言えずに押し黙る。
そして数瞬の間を開け……。
「……そうだね。確かに軽い気持ちで、探索者をやるなんて言うのは違うよね」
「うん、ごめん。もっとよく考えてみるよ」
「「そう……」」
館林さん達は神妙気な表情を浮かべ、美佳達はホッとしたような表情を浮かべた。
俺はそんな美佳達のやり取りを横目で見ながら、美佳達も探索者として新人の殻も取れ確りしてきたなと感じた。許可は貰っていたが、念の為に裕二達と話し合った上で伝えようと思っていたお盆前のダンジョン探索の評価も、コレなら相談せずに伝えても良いかなと思えてくる。
とまぁ、そんなやり取りをしている内に館林さん達の汗も引き、体の火照りも収まったらしい。空調のせいだけでは無く、一気に肝が冷えたせいもあるんじゃないかな?
「じゃぁ汗も引いたようだし、そろそろ行こうか? あんまり遅くなると、人数制限とか数量限定とかがあったら大変だからな」
「「「「はい!(うん!)」」」」
そして休憩を終えた俺達は、ブースが並ぶ会場内へと足を進めた。
会場内は多くの人で賑わい、沢山の企業ブースが立ち並んでいた。それらは会場の外に立ち並んでいた屋台や出店とは趣が異なり、各ブースにダンジョン関連の品や資料が多く並んでいる。
うん、本当にダンジョンがメインのイベントなんだな。
「うわぁー、本当にダンジョン一色だね」
「そうだね。あっ、あの会社、たまにテレビCM流してる会社だよ」
「あっ、私もそのCM見た事ある!」
「へー、有名な会社もブースを出してるんだね」
美佳達は、感心したように興味津々と言った眼差しで会場内を見渡していた。俺も美佳達と同じように会場内を見渡しているが、少々視点が違う。何と言うか……以前スカウトされた時に見た事がある様な会社の名前がチラホラと見えるのだ。
無論、事前に参加企業の事はある程度調べているので、出店している事自体は知ってたけどいざ目の前にしてみるとなぁ……。変に目立って、目を付けられないように気を付けないと。
「さてと……どう回る?」
「うーん、取り敢えず外周沿いに一周で良いんじゃないかな? 全体的に見て回れば、ドコにどんなブースがあるか分るんじゃない?」
「そうですね。会場内の案内図はありますけど、名前だけじゃぁどう言う業務内容の会社か分りませんしね」
「私も、取り敢えずグルっと一周してみた方が良いと思います」
「私もそう思います」
と言う訳で様子見を兼ねて皆で一度、会場内を一周してみる事にした。
まぁ、ドコに何があるか分らないと見て回るのも大変だしな。
「先ずは……企業案内ブースの区画だな」
入り口から時計回りで見て回り始めてみると、先ず目に入ってきたのは企業紹介のブースだ。既に何人もの人が各企業のブース内に入り込み、担当者から説明を受けていた。
……説明を聞いている人は、学生が多いみたいだな。
「あの説明を聞いている人達って、学校を卒業したら企業所属の探索者で……って感じなのかな?」
「そうかも……。うん、皆かなり熱心に説明を聞いてるね」
「サラリーマンで探索者か……どんな感じなんだろ?」
「さぁ……」
美佳達は興味深げな眼差しで説明を受けている人達を眺めながら、流し見るように企業ブースの前を進んでいく。基本的にどこのブースも似たような感じではあるが、企業によって収集するアイテムが違っていて中々面白い。
それにしても、スキルスクロールをメインで収集していますって会社があったんだけど、リアルラックが高い探索者を集めてるのかな? ブース内に景品付きの運試し系ゲームが一杯並んでたしさ……。
「それぞれの企業ごとに、中々凝ったアピールをしているな」
「お兄ちゃんは、何かピンとくる企業って無いの? 体育祭の後とか、色々スカウトの声を掛けられてたって言ってたしさ」
「そうですよ。3人で色々資料を見てましたし」
「……ああ、アレな? うーん、チラッと見た感じだと、今の所はコレと言った所は無いな」
そう言って、俺は美佳達の興味津々と言った追求をお茶を濁しつつ誤魔化した。と言うか、色々秘密を抱えている俺達としては基本的に企業所属は全面的にお断りってスタンスだな。
何より、企業に所属なんかしたら俺達の特異性が直ぐにバレてしまう。なので、俺達は個人勢として頑張るしか無い。
「そうなの? でも、結構良さそうな感じの所もあるけど……」
「基本給に出来高払いがプラスされて、装備品も会社が提供するって所もありましたね」
「週休2日の8時間労働って条件の所もありましたよ」
「新築社員寮完備ってのも見付けました」
美佳達が口々に企業ブースを見回って見付けた、良さそうな労働条件を上げていく。確かに普通の企業としてみれば、その条件は素晴らしく魅力的なモノばかりだ。
しかし……。
「確かに良さそうな感じの労働条件だけど、探索者としての仕事を考えればそう良いモノでも無いぞ? 例えば出来高払い、会社が定めた特定の物品を収集したら給料に加算されるとあるけど、その特定の品ってもののリストが公開されてない。無茶苦茶レア度が高い品を指定されていたら、基本給分だけしか貰えないって事だぞ?」
例えば、霜降りミノ肉とかな。ミノタウロスを数十体倒して1つとかって品だと、一般的な探索者では達成困難な目標だ。
俺達の場合は……数打ちゃ当たる精神のレベル差によるゴリ押し戦術だからな、参考にはならない。
「一般的な条件としてみれば良いけど、ちゃんと意味を理解して決めないと後々大変な事になるからな」
「お兄ちゃん、それって……」
「ああ、あの事も含めてだ」
「……そう」
俺のその言葉に、表情を顰めながら美佳が強く反応した。あの事とは、大河兄さんの件だ。アレも見た目の条件は良いモノが並んでいたが、内実は完全にアウトだったからな。
「えっと、お兄さん? 美佳ちゃんと何のお話をしてるんですか?」
「……ああ、そうだね。沙織ちゃん達にも話しておいた方が良いかな? 実は……」
すると俺達の会話に興味を持った沙織ちゃん達が、一体何の話かと聞いてきたので軽く説明しておく事にした。悪い例を知っておく事で、防げる失敗もあるからな。
と言うわけで、例のコンサルタント会社の事を説明した。
「「「……」」」
「と言うわけだから、幾ら良い条件を掲示しているからって軽々しく飛びついたらダメだよ? 皆、気を付けてね」
「「「……はっ、はい」」」
俺の説明を聞き、沙織ちゃん達は少々引き攣った表情を浮かべていた。うーん、必要な事とは言え、探索者の仕事や探索者系企業の事をよく知る為ってイベントに来てるのに、何でこんな盛り下がるような話をしてるんだろう?
まぁココから盛り返せば良いか……盛り返せれば良いけど。




