第28話 撮影映像の上映会
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俺はスマホを取り出し一つの動画ファイルを再生し、沙織ちゃんに手渡す。
場所が場所だから、音声はカットしてるけどね。
「この動画は、俺がダンジョンに潜った時に録画した映像だよ。ダンジョン内の映像だから、多少見づらいとは思うけど、我慢してね。勿論、ちょっとしたショッキング映像だから無理に見る必要はないからね?」
「ダンジョンの映像ですか? それなら見ます、興味がありますし」
光量不足で全景が余り鮮明とは言えないが、ダンジョン内の雰囲気は分かる。
ダンジョンに対しての心積もり少し出来た3度目の時に、美佳に見せる為にとヘルメットに取り付けたアクションカムで撮影した映像だ。
「お兄ちゃん、これって……?」
「美佳も見た事があるヤツだよ」
「沙織ちゃんに、行き成り見せて大丈夫なの? 初見だと結構キツいよ、あれ?」
沙織ちゃんに渡したスマホの画面を覗き見した、美佳が心配気に俺に聞いてくる。
これは、美佳にも見せた事がある物だ。ゲートからダンジョンへ入る所、ダンジョン内を探索している様子、モンスターとの戦闘、ドロップアイテムの採取、ダンジョンから撤収する様子。俺達がダンジョン内でしている行動を、短く編集し纏めた映像だ。
敢えてグロくなる様に編集しているので、モンスターとの戦闘はかなりスプラッタな物になっている。
「まぁ、フォローはするよ」
「……そう」
美佳は心配そうな視線を、スマホを興味津々と言った様子で食い入る様に見ている沙織ちゃんに向けていた。俺もコーヒを啜りつつ、沙織ちゃんの様子を横目で見つつ、映像を撮影していた3回目のダンジョン攻略を思い出す。
俺達は3度目となる、ダンジョン攻略へと足を踏み込んだ。ダンジョンの石廊下を進む俺達の装備品は、最初にダンジョンへ潜った時とは若干違っている。実際にダンジョンに潜ってみると、色々と不具合が出たからだ。
まず、ヘルメットライトが違う。明るさを求めて、超高輝度タイプのライトを使用していたのだが、実際に使ってみると照射時間が短過ぎる上、明るいは明るいのだが過剰な明るさと言えた。会話の為に相手の顔を見た時、ヘルメットライトの光が目に入り会話相手の目が眩んだのは苦い経験だ。総合して、超高輝度タイプのヘッドライトは、ダンジョン内では使い勝手が悪かった。
そこで、程々の明るさで半日は照射時間が持つタイプのライトに交換し、バックパックの表面に広範囲を照らすランタン型のライトを設置。他にも、手持ちのライトや投擲用のケミカルライト等も準備した。実際に経験してみないと分からない事で仕方ない事だったのだが、装備品の追加は出費が嵩む。まだ、スキルスクロールの換金が終わっていないのに……。
今週頭に査定が終わり、自宅に通知書類が届き売買手続きは終わったのだが、お金が口座に振込まれるのは月末だ。今暫く、金欠が続く事になる。
「裕二、柊さん。今日は3階層まで潜る予定だけど、準備は大丈夫?」
「ああ、問題ないぞ」
「私も大丈夫よ」
「じゃあ、行こうか」
俺達はモンスターが余り出現しない1階層を足早に抜け、螺旋階段を使い2階層に降りる。2階層に降りても辺りの風景に代わり映えはなく、ランプの灯る薄暗い石通路が延々と続いていた。
周りを警戒しつつ進むと、十字路が姿を見せる。俺達がどちらに進むか迷っていると、右側の通路から微かに戦闘音の様な怒鳴り声や咆哮が聞こえて来た。
「……どうする?参考に、見に行ってみるか?」
「いや、止めておいた方が良いと思うぞ?」
下手に戦闘中の探索者グループと接触し、揉め事になりでもしたら面倒なので裕二の提案は却下する。右側の通路に進む事はせず、正面か左の通路に進む事にした。特に宛もないので三人で一斉に自分が思う進む方向を指さしてみると、2対1で意見が偏ったので左の通路に進む。
そして、40分程歩いた所でモンスターと遭遇した。
「ニャァー!」
「……猫?」
「ヘルキャットだ」
「……可愛い」
ライトの光に照らし出されたモンスターの姿は、柴犬ぐらいの大きさの可愛らしい斑猫だ。ライトに反射したヘルキャットの輝く目には、俺達を獲物としてみている事が色濃く見て取れた。
って、柊さん。一応相手は俺達に敵意を剥き出しにしているモンスターなんだから、その感想はちょっと……。
「大樹、アレは使うなよ?……来るぞ」
裕二が小声で忠告を出すと共に、ヘルキャットは跳躍して俺達に襲いかかって来た。右手で裕二は小太刀を引き抜き、峰でヘルキャットの鼻先を横合いから殴り飛ばし壁に叩き付ける。
壁に叩き付けられたヘルキャットは口元から血を流しつつ、震える足で立ち上がった。裕二は左の小太刀も抜き放ち、自然体で構えを取る。
「裕二?」
「俺が殺るから手は出さないでくれ」
「良いのか?」
「無抵抗なモンスターにトドメを刺していくだけじゃダメだからな、それ相応の戦闘経験が無いと」
再び飛び掛って来たヘルキャット。裕二はヘルキャットの跳躍を半身になって避けつつ、首元目掛けて左の小太刀を振り下ろした。
しかし狙いは少々ズレ、裕二が振り下ろした小太刀はヘルキャットの首元ではなく背中に食い込んだ。ヘルキャットの背中から血が噴き出し、辺りに血が飛び散る。地面に落ちたヘルキャットは血の海を作りながら、苦しそうに悶えながら呻き声を上げていた。
俺は眉を顰めながら、小太刀を構えたまま残心している裕二に一声掛ける。
「……止めをさしてやったらどうだ?」
「……そうだな」
裕二は慎重にヘルキャットに近付き、首元目掛けて小太刀を振り下ろす。小太刀が突き刺さった瞬間、ヘルキャットは短い呻き声を上げ痙攣し、力が抜け動かなくなった。
動かなくなったヘルキャットを見ながら、裕二はポツリと漏らす。
「……やっぱり勝手が違うな」
「?」
「本当なら、首を刎ねるつもりだったんだけど、一瞬躊躇して手元が狂ったんだよ」
裕二はヘルキャットから小太刀を抜きながら、若干悔しそうに眉を顰めていた。バックパックからキッチンペーパーと無水エタノールを取り出し、小太刀と防具に付いた血の後処理をし始める。
「お膳立てが揃った状態で無抵抗なモンスターに小太刀を振り下ろすのと、戦闘中に動くモンスターを切り付けるのじゃ心積もりにかなりの差があるよ。モンスターを殺すのに大分慣れたつもりではいたんだけど、結局は屠殺の経験であって戦闘経験には数えられ無いと思う。二人も深く潜る前に、ちゃんとモンスターと戦う経験は積んでおいた方が良い」
「そんなに違うの?」
「ああ。大樹はホーンラビット相手に一度殺ってるから分かると思うけど、柊さんも経験しておいた方が良いよ?」
「……分かったわ」
裕二は血を拭いたキッチンペーパーをジッパー付きのビニール袋に入れ、他の道具と共にバックパックに収納した。因みに、血の海に沈んだヘルキャットは暫くした後に姿を消したが、残念ながらドロップアイテムは出現せず収穫はない。血塗れになった割には、収入ゼロは中々残念な結果だった。
時々モンスターとの戦闘を繰り返しつつ、再び第2階層内を捜索しなが歩き回っていると、第3階層に降りる螺旋階段の前に辿り着く。二人に視線で確認を取った後、俺達は階段を下り第3階層に降り立った。
「やっぱり、内装は代わり映えしないな」
「そんな物じゃないか? まぁ、もっと深く潜れば変わるかもしれないけど?」
「ゲームに良くある、地形効果がある階層とかかしら? 炎熱階とか氷結階とか?」
ダンジョン物のゲームでは良くある設定だが、現実のダンジョンでは勘弁して貰いたい物だ。砂漠横断や南極横断みたいな事をしながら、モンスターとの戦闘など考えたくもない。ゲーム等と違って、耐熱耐寒装備を整えたら着膨れし動きが鈍るだろう。そんな状態でモンスターと戦う事になれば、苦戦は必至だ。
周辺警戒をしつつ時計を見ると、既にダンジョンに潜って3時間が過ぎていたので、第3階層の探索を1時間で切り上げる事を確認し、俺達は探索を開始する。第3階層を彷徨う事30分、漸くモンスターと遭遇した。第2階層の時の事から考えるに、基本的に入り口付近にポップするモンスターは階段を降りて来た探索者達に直ぐ狩り尽くされているようだ。ある程度奥に進まなければ、モンスターと合う事もないらしい。
その後、モンスターを2体程倒した所で帰還予定時間が来たので、俺達は探索を切り上げ戻る。3時間程かけ地上に戻り、返り血を浴びた装備品の手入れをしアクションカムの電源を落とした。
20分程に短く纏めた映像が終わると、沙織ちゃんはスマホを俺にそっと返す。その際、沙織ちゃんの顔色が若干悪そうに見えたので、俺は心配気に声をかける。
「大丈夫?」
「……はい。大丈夫です」
口元を押さえながら俺の問いに小声で返事を返す沙織ちゃんに、美佳がそっと水が入ったコップを手渡す。沙織ちゃんはコップを受け取り、一気に半分程の水を飲み干し溜息を吐く。
「やっぱり、イキナリ映像を見せるのは、キツかったみたいだね。少し、血に酔っちゃったかな?」
「……少し」
「まぁ、慣れないとキツいからね。俺も慣れるまでに時間がかかったよ」
「お兄ちゃん。そう思うのなら、行き成りあんな物を沙織ちゃんに見せないでよ!」
沙織ちゃんの背中を優しく摩りつつ、俺の行いを責める美佳。そんな美香に、沙織ちゃんは顔を左右に振りながら、俺を擁護してくれる。
「美佳ちゃん、私が自分で観るって言ったんだから、お兄さんを責めないで」
「でも……」
「お兄さんも、最初に無理に見なくていいって忠告したのに、ホラー映画とかで慣れてるって思って軽い気持ちで見た私の見込みが甘かっただけだよ」
「沙織ちゃん……」
沙織ちゃんが自分が悪いと主張するので、美佳は俺の顔を恨みがましい目で見るだけで、それ以上は何も言えなくなっていた。沙織ちゃんがコップに残った水を飲み干したので、俺は水を汲みに行くと一声かけ席を離れる。俺が席を離れると、美佳が沙織ちゃんに心配そうに話かけ話し合ってている姿が見えた。
まぁ、俺が居る前で愚痴は漏らしにくいよな。時間をかけて水を汲んだ後、席に戻ると沙織ちゃんの顔色は少し良くなっていた。
「それじゃ、沙織ちゃん。さっき見て貰った映像で分かると思うけど、ダンジョン内での事はあんな感じだよ」
「……はい」
「他にもダンジョン以外の事、探索者についての話なんかもあるけど、どうする?今から聞くって言うなら話しても良いけど、無理に聞く必要はないからね?これ以上聞か無いって言う選択肢もあるし、日を改めて話を聞くって言うのも良いしさ」
「沙織ちゃん、今日はもうこれ位にしておいた方が良いと思うよ?大分良くなったみたいだけど、まだ顔色も悪いしさ。お兄ちゃんの話なら何時でも聞けるんだし」
「美佳ちゃん……うん。お兄さん、他の話はまた日を改めて聞いても良いですか?」
「勿論良いけど……無理に聞かなくても良いんだよ?」
「確かに色々キツイ話も多いみたいですけど、私お兄さんの話を聞いてみたいんです。私が今まで見聞きしたダンジョンの話と、お兄さんの言うダンジョンの違いが凄く気になるんで」
顔色は若干青白いままだが、沙織ちゃんの目には決意の色が見えた。
「それに、美佳ちゃんもお兄さんの話を聞いているんですよね? だったら私も聞いておかないと」
「……沙織ちゃん?」
「最近の美佳ちゃんって、前と大分雰囲気が違っていたんですよ? 少し前まで私達と一緒にダンジョンダンジョンって言ってたのに、少し離れた立ち位置で私達の話を聞いてたのが気になってたんです。お兄さんの話が原因だったんですね?」
「……そうなのか?」
沙織ちゃんの話を聞き、俺は顔を美佳の方に向ける。美佳は美佳で驚いた様子で、沙織ちゃんを見ていた。沙織ちゃんは美佳に微笑みながら、声をかける。
「どうしたんだろ?って気になっていたんだけど、やっと理由がわかったよ。こう言う話を聞いていたら、私達と一緒にダンジョンの話はしづらいよね」
「沙織ちゃん……」
どうやら俺の話は、結構美佳に影響を与えていたらしい。
沙織ちゃんの話を聞くと、どうやら美佳は仲良しグループの中で最近浮き気味になっていた様だ。ダンジョンの話になると食付きが悪くなったと。確かに俺の話を聞いた後だと、友達同士で話すのは難しいだろうな。
美佳の事を思ってダンジョンの話をしたが、申し訳なく思う。
「美佳ちゃんと一緒の話をするのにも、お兄さんの話は聞いておかないと。だからお兄さん、また今度ダンジョンの話を聞かせて下さい」
「うん、分かった」
美佳は良い友達を持ったな。仲良く話し合う2人を見ながら、俺はそんな感想を抱いた。
沙織ちゃんの気分が良くなったので、俺達はファミレスの会計を済ませカラオケに行く。調べた所、元日からでも営業している店が近くにあったからだ。2時間程歌った後、沙織ちゃんを家まで送って俺と美佳は長かった初詣を終え帰宅した。
主人公が録画したダンジョン内の映像です。R-15位でしょうか?




