第314話 企業イベントに行く
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嫌味なほどに澄み切った青空には煌々と輝く太陽が登り、肌をジリジリと焼く日差しが容赦なく駅の券売機近くで待機している俺達に降り注いできていた。正直、曇り空でも良いと思うが残念ながら天気に恵まれ快晴だ。
うん、真夏の快晴はキツいな。
「少し、早く来すぎたかな……」
「うん。早めに家を出て来たからね、もう少し待たないといけないかも……」
白ティーにカーキーブラウンの開襟シャツ、紺のテーパードパンツにショルダーバッグと言った私服姿の俺は、ボーダーティーシャツに白いショートパンツ、ショルダーバッグといった私服姿の美佳に愚痴を漏らす。
と言っても、遅刻するよりはマシだけどな。
「向こうのコンビニにでも移動するかな……」
「それだと、皆が見付けられないよ……」
俺達としては日陰を求め駅の構内に入り込みたいのだが、待ち合わせをしているのである程度姿が見える位置に居ないといけないので日差しを避け切れていない。それにしても駅向かいのガラス張りのビル、もう少し照り返し対策してくれないかな?
俺は目元を手で覆い日差しの照り返しを遮るようにしながら、駅がある通りの反対側に見えるコンビニを羨ましげな眼差しで眺めながら呟く。暑さはまぁ我慢出来るのだが、照り返しが目に刺さり鬱陶しい。今度、遮光用にサングラスでも買うかな……?
「そう言えば美佳、皆から連絡入ってないか?」
「うーん、特に入ってないかな。一応昨日待ち合わせ時間とかの確認連絡は入れておいたから、時間を間違えるって事は無いと思うよ」
「そうか……じゃぁ時間までこのままで待つか」
誰かからか連絡が入っていれば、先に到着してると連絡を入れて構内に引っ込もうかと思っていたが、誰からも連絡が来てない状態なら諦めるしか無い。今の連絡が無い状態でコチラから催促連絡を入れたら、早く来いって言っているような物だからな。
流石にそれは気が引ける。そして暫く日差しに耐えながら待っていると、集合時間の十分前に沙織ちゃんが姿を見せた。
「おはよう美佳ちゃん、お兄さんもおはようございます」
「おはよう沙織ちゃん、こうやって顔を合わせるのは久しぶりだね」
「うん」
「おはよう沙織ちゃん、お盆休みはユックリ出来た?」
「はい!」
久しぶりに顔を合わせた美佳と沙織ちゃんは、嬉しそうにお盆休み中の話しで盛り上がりだした。
因みに、元気よく挨拶をしてきた沙織ちゃんの私服は、白いブラウスとハイウエストデニムにショルダーバッグと言う出で立ちだった。
そして沙織ちゃんが合流してから五分ほど経ち、待ち合わせをしていた残りの館林さんと日野さんが揃って合流した。どうやら途中で一緒になったらしい。
「お待たせしました!」
「すみません、遅くなりました!」
最後に合流したと言う事もあり、小走り気味で駆け寄り館林さんと日野さんが申し訳なさげな表情を浮かべ謝ってきた。
「いやいや、まだ集合時間前なんだから気にしなくて良いよ。それよりもおはよう、館林さん日野さん」
「えっ、あっ、おはようございます」
「お、おはようございます」
俺の反応に若干戸惑いつつ、館林さんと日野さんは返事を返してきた。
因みに館林さんの私服はブラウンのトップスに白いロングカーディガン、リネンスカートにトートバッグと言う出で立ちで、日野さんがチュニックに白ニットスカート、細いベルトにトートバッグと言う出で立ちだった。
「あっ、麻美ちゃん涼音ちゃん! 久しぶりだね、おはよう!」
「おはよう、麻美ちゃん涼音ちゃん」
「えっ、ああ、おはよう美佳ちゃん沙織ちゃん」
「お、おはよう、美佳ちゃん沙織ちゃん」
話しに夢中になっていた美佳と沙織ちゃんが、館林さん達の到着に気付き久しぶりの再会に嬉しそうに声を掛ける。すると館林さんと日野さんも美佳達に気付き、軽く俺に会釈し断りを入れた後、美佳達と楽しそうに話し始めた。
……うん、女三人寄れば姦しいと言うが、その通りだな。男は俺一人だけなので、もの凄い場違い感を感じる。そして4人のお喋りが落ち着くまで暫く待ち、俺はタイミングを見て手を打ち鳴らす。
「はい、一旦お喋りはそこまで。そろそろ移動しないと、開催時間に間に合わなくなるぞ?」
別に開催時間に間に合わなくても良いのだが、このまま放置すると何時終わるともしれないからな。所詮、開催時間など彼女達の話しを中断させる体の良い言い訳でしか無い。
とは言え、効果は抜群だった。美佳達は駅に設置された時計を見て、自分達が俺を放置しどれだけ長話をしていたのかに気付きバツの悪そうな表情を浮かべお喋りを止めたのだから。
「「「「ご、ごめん!(す、すみません!)」」」」
「いや、別に良いんだけどね。それより、こんな所で立ち話も何だし移動しようか?」
「「「「う、うん!(は、はい!)」」」」
と言うわけで、俺達は改札を潜りホームへと上がった。
やれやれ、引率って大変だな。
電車に乗って隣の市まで移動した後は、市内路線バスでの移動だ。歩いて会場まで行けない事も無いが、幸い駅前のロータリーから会場前バス停行きのバスが出ているので乗る事にした。
夏の炎天下を歩きで移動ってのもアレだしな。折角、最寄りまでの足があるのなら利用しない手は無い。と言うか……。
「暑いですね……」
「お肌が焼けちゃうよ……」
俺と美佳と沙織ちゃんは探索者補正で幾分マシなのだが、非探索者の館林さんと日野さんを炎天下の中歩かせるのは酷というモノだ。
最悪、移動の途中で熱中症になりかねない。
「大丈夫か、二人とも? 辛いようなら、少し休憩してからでも良いんだけど……」
「あっ、いえ、大丈夫です」
「私も大丈夫です」
館林さんと日野さんは大丈夫と言うが、本当にダメなら素直にダメと言って欲しい。俺達は探索者補正のせいで、温度環境の変化に対する感覚が常人より鈍くなってるからな。問題なく耐えられる気温の範囲が広がった=多少気温が上下しても脱水等の危機感を感じにくくなったと言った感じだ。俺達が問題ないと思っても、常人には危険な温度になっていたという場合が起きる可能性は高い。
特に今は探索者と非探索者の割合が3対2という状況だ、言い出しにくいかもしれないが少数側が要望の声を上げてくれないと気付けない可能性が高くなる。
「……そうか、分かった。でも、ダメな時はチャンと声に出して言ってくれよ?」
「はい。気を遣って頂いてありがとうございます」
「ありがとうございます」
「うん」
館林さんと日野さんは俺の話に耳を貸してくれてるような表情を浮かべているが、俺も彼女達の様子に気を付けておかないといけないな。
それと……。
「美佳、沙織ちゃん、ちょっと」
「ん? 何、お兄ちゃん?」
「何です?」
俺は美佳と沙織ちゃんを呼び寄せ、お願いを小声で耳打ちする。
「悪いんだけど、館林さんと日野さんの様子に注意を払っておいてあげてくれ。今日は日中結構気温が上がるみたいだし、探索者補正がある俺達は大丈夫でも館林さん達にはキツいって事もある。俺達が平気だからって連れ回してると、熱中症になってたって事もあり得るからさ」
「ああ、うん。分かった、気を付けておくよ」
「分かりました」
「頼むよ」
俺の懸念を伝えると、美佳と沙織ちゃんはハッとした表情を浮かべた後、快くお願いを聞き入れてくれた。俺達が誘ったイベントで、二人が熱中症で倒れたりしたら夢見が悪いからな。
そして少しロータリーでバスが来るのを待った後、俺達は会場行きのバスに乗り込んだ。
バスに揺られる事、一五分ほど。目的地のバス停に到着し俺達はバスを降りた。会場前のバス停という事もあり、イベント会場の展示場が目の前に聳え立っている。
ココを貸し切りにしてイベントを開いているのか……随分と気合いが入ってるな。
「さて、目的地に到着したんだが……どうする?」
「「「?」」」
「……お兄ちゃん、どうするってのは?」
「サッサと中に入って見て回るか、外を見て回ってから入るかって事だ」
今回のイベントでは、屋台スペースが2種類有る。会場の内側に有るダンジョン食材を使った屋台、会場の外側にあるダンジョン食材を使っていない屋台の2種類だ。まぁ、価格帯が違いすぎるから2カ所に分けたって所だろうな。
そして、何故俺がこんな事を聞くかというと……。
「凄い良い匂いが漂ってくるね……」
「お腹減ってきたかも……」
「焼きそば、たこ焼き、かき氷……」
美味しそうな香りが漂ってくる会場に、涎を垂らさんばかりの表情と物欲しげな眼差しを向けている3,4人がいたからだ。
確かに美味そうな香りだが、その表情は年頃の娘さんが浮かべるにはハシタナイぞ?
「……外回りからにしておくか?」
「……うん、そうだね。少し外を見て回ってからの方が良いかも」
「じゃぁ、そうするか……」
と言うわけで、俺達は先ず会場の外を一周回ってから中に入る事にした。
つまりは屋台巡りって事だな、うん。
「へぇー、色々な屋台が出てるんだな」
「食べ物系もだけど、グッズ系も色々売られてるよね」
「レトルト食品に缶詰……見た事無いのが一杯並んでますね」
「アレって、テント? キャンプグッズコーナーもあるの?」
「うわっ、この寝袋なんて凄く高いよ……えっ? 高級羽毛を使用している? 寝袋にですか?」
冷やかしを兼ねて会場外の屋台を見て回ると、中々面白いモノが出店されていた。グッズは基本的に一般向けに販売されている品ばかりで、コレと言ったダンジョン由来を感じさせる品は無い。恐らく、その手の品は会場内で販売されているんだろうな。
とは言え、見て回るだけでも楽しいモノだ。特に……。
「美味しいね、コレ」
「うん。でも、大玉でちょっと食べ辛いかな?」
「変わり種かなと思ってたけど塩レモンか……うん、サッパリしてて美味しい」
「うん。でも、私はやっぱりソースかな?」
タコ焼きを購入しての食べ歩きがな。焼きソバも買おうかと言っていたが、流石にそれはと言う事で一パックだけタコ焼きを買って皆でシェアして食べている。因みにこのタコ焼き、1パック8個入りなので俺はお預けだ。まぁ別に、お腹は減ってないから良いんだけどさ……少し疎外感を感じるけど。
と、そんな事を思いながら見て回っていると、進行方向の方から歩いてきた男に声を掛けられる。
「よっ、九重! こんな所で会うなんて偶然だな!」
「ん? ああ重盛か、来たんだ」
「おう。お前に勧められてたからな、興味本位で見に来た」
「そうか」
声を掛けてきたのは、クラスメートの重盛だった。この間会った時に、このイベントの事を教えていたので見に来たらしい。
そして俺が重盛との出会いに驚いていると、美佳達が少し距離を取った位置から声を掛けてきた。
「お兄ちゃん、その人は?」
「ん? ああ、コイツはクラスメートの重盛。この間あった時、このイベントの事を教えたら興味を持って見に来たらしい」
「初めまして、九重のクラスメートの重盛です。よろしく」
「えっ、あっ、はい。よろしくお願いします」
「「「よ、よろしくお願いします」」」
美佳達は、少し緊張した面持ちで、重盛に軽く会釈しながら挨拶を返す。まぁ、行き成り、兄貴のよく知らないクラスメートが登場したら、緊張するわな。
そんな事を思っていると、怪訝気な眼差しを浮かべた重盛が急に俺の腕を掴み顔を寄せ小声で質問?抗議?を投げ掛けてきた。
「おいおい、九重! お前これ、どう言う状況だよ!? 何で女の子4人とイベントに来てるんだよ!?」
「ん? ああ、変な誤解はするなよ? 一人は妹で一人はその幼馴染み、後の二人は部活の後輩だ。探索者に興味があるって言うから、引率がてらに一緒に来たんだよ」
「……本当か?」
「こんな事で嘘をついてどうする? 変な想像するなよ……」
事情を話しても今だ疑わしげな眼差しを向けてくる重盛に小さく溜息をつきながら、俺は掴んでいる重盛の腕を外し距離を取る。
暑くないけど暑苦しいんだよ。
「それで重盛。お前、この後どうするんだ?」
「ん? この後か? 取り敢えず、外を一回りした後、中に入ってみるつもりだ」
「そうか……一緒に見て回るか?」
実際にやってみると、男女比が4対1の行動と言うのは中々に辛いので、男性比率を上げる為に一緒に回らないかと重盛を誘ってみる。
すると、重盛は俺達の顔を軽く見回した後……。
「悪い、ユックリ見て回りたいから一人で回ってみるよ」
と、良い笑みを浮かべてそう言い切った。
更に、重盛は俺に顔を寄せ小声で……。
「俺が一緒にいると彼女達が緊張するみたいだからな、確りエスコートしてやれよ」
「……重盛」
「それと折角の4対1って状況だ、楽しめよ」
「……お前、それ分かってて言ってるよな?」
こんなに気の回るヤツだったのかと感心した直後に、この発言。俺の気持ちを分ってて見捨てるのか!?と思わず叫びそうになったが、俺が声を上げる前に重盛は美佳達に素早く別れの挨拶をしてから後ろ手に軽く手を振りながら立ち去っていった。
アイツ……次に会場の中で姿を見付けたら絶対に逃がさないからな。




