第306話 今度はソッチかー!?
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朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売です。よろしくお願いします。
ミノ肉バーベキューで盛り上がった翌日、俺達はそろそろ母さんの実家をお暇しようと、皆で車に荷物を積み込んでいた。と言っても、そこまで荷物は多くないので主に俺と父さんで積み込んでいるんだけどな。
母さんと美佳は、伯母さん家族や祖父母とお話をしている。
「美春。今度来る時は、もう少しユックリしていきなさいよ」
「ええ、そうさせて貰うわ姉さん。今度来る時は、もう少し余裕がある日程をとってくるわ」
「ホント、一日って過ぎるのが早いわ」
「ホントね、母さん」
母さんは、美玖伯母さんとお祖母ちゃんと足早な別れを惜しんでいた。
ホント、今度来る時は2、3日滞在出来る日程で来たいものだ。
「じゃぁね風美香お姉ちゃん、大学頑張ってね」
「うん、ありがとう美佳ちゃん。美佳ちゃんと大樹君に聞いた話、スッゴく参考になったわ」
「友達に誘われても、簡単に首を縦に振っちゃ駄目だよ?」
「そうね、誘ってくれた友達ともじっくり話してから返事をするようにするわ」
美佳は少し心配げな表情を浮かべつつ風美香姉さんに探索者になるのはよく考えてからねと忠告をし、忠告を受けた風美香姉さんも勿論だと言いたげな表情を浮かべながら力強く頷いていた。昨日話した俺と美佳の体験談が、風美香姉さんの決断を良い方向に向けられれば良いんだけど……霜降りミノ肉で明後日の方を向いたとか無いよね?
俺は風美香姉さんの力強い眼差しの表情に、若干心配げな考えが浮かんだ。
「大樹。お前が決めた事だから反対はせんが、怪我をしないように無理せずに頑張れよ」
「うん、ありがとうお祖父ちゃん。大きな怪我はしないように、安全第一で気を付けるよ」
車にあらかたの荷物の積み込みを終えた俺に、真剣な表情を浮かべた祖父が探索者をする俺の身を案じ心配げな声色で話し掛けてきた。探索者をしている事に反対というわけでは無いが、心配が尽きないといった感じだ。
もし俺か美佳が大きな怪我をしていたら、間違っても祖父は容認せずに猛烈に反対していただろうな。
「大輔君。今度来た時はユックリ酒を飲みながら語り合おう、色々とね」
「そうですね、優義兄さん。今回は急ぎ足で回らないといけないので、深酒は駄目でしたからね。今度来る時、次の日が休みなら一晩中飲み明かせますよ」
「ははっそうだね、楽しみにしているよ」
「ええ」
父さんと優伯父さんは笑顔を浮かべながら、今度きた時に酒盛りをする約束を交わしていた。酒か……ダンジョンでドロップするかな?
おれは30階層以降に広がる草原地帯を思い出しつつ、植物系のモンスターが出ればワンチャン有るかな?と考えた。
「じゃぁ今度は来る時は、ユックリお邪魔させて貰います」
「今度は、お正月に顔を見せに来るわね」
「お邪魔しました」
「皆、元気でね!」
「「「「「気を付けて」」」」」
と言うわけで、俺達は伯父さん家族と祖父母に見送られながら母さんの実家を出発した。
さて、次は父さんの実家だな。
母さんの実家を出て数時間後、途中で休憩を挟みつつお昼過ぎに俺達は父さんの実家近くまで辿り着く。だが昼時を過ぎているので、昼食を済ませて父の実家に顔を出す事になった。変な時間に行くと迷惑だからな。
と言うわけで、昼食を取ろうと目についた全国チェーンのファミレスに寄る事にした。どこが良い店か知らない以上、全国どこで食べても大きく外れが無いチェーン店を選択するのが安パイな選択だろう。
「ねぇ、お父さん? 地元なんだから、良さそうなお店って知らないの?」
「うーん、流石に地元を離れて大分経つからな。昔なじみの店は知ってるけど、それも大半は実家の近くの店なんだよ」
「そっか、それなら仕方ないね」
車をファミレスの駐車場に止める間、美佳と父さんがそんな会話をしていた。まぁ折角遠くに来たのなら、その地元の味を食べてみたいと言う美佳の意見も分るが、実家があるとは言えその土地を離れて久しい人にその振りは無茶と言うものだろう。
そして車を止め、俺達は店内に入った。
「お盆時ってのもあるんだろうけど、大分混んでいるな」
「そうね」
入り口で店内の盛況具合を確認していると、店員さんが駆け寄ってき俺達を空いている席へと案内してくれた。どうやら並ばずに、お昼に有り付けるらしい。
そして店員さんが置いていったメニューを開き、皆で何を食べるか話し合う。
「店も混んでいるし皆、早く出て来そうな日替わりのランチメニューで良いんじゃ無いか?」
「そうね。あんまり手の込んでいそうなのだと、出てくるまでに時間がかかりそうよね」
「ええっ、日替わり!? 他のを頼もうよ!」
父さんと母さんは提供が早そうな日替わりランチメニューを押し、美佳はメニューを広げアレが良いかなコレが良いかなと悩みだし中々決まらない。
因みに俺は、お盆期間限定メニューというオススメメニューを眺めている。
「オーク肉・ミノ肉フェアー、か」
「何々、何か良いのあった?」
俺が限定メニューを眺めていると、美佳が興味津々といった感じで頭を突っ込んできた。俺は小さく息を吐きながら、手に持っているメニューの位置を美佳の方に寄せる様にズラし、メニューの中身が見えるようにしてやる。
「高っ、ファミレスメニューで一つ三千円超えって……」
「とは言え、材料費を考えれば滅茶苦茶高いって訳でもないだろうよ」
「でも、流石にこの値段だと気軽には手は出せないよ……」
美佳の意見に俺も軽く頷き、確かに軽い食事のつもりで入ったお店でこの値段のメニューはな……と同意する。普通の日替わり定食が五百円なので、殆どの客には完全に選択対象外のメニューだ。
因みに限定メニューに載っているのは、オーク肉の生姜焼き定食・オーク肉の酢豚定食・ミノ肉牛丼セット・ミノ肉ハンバークセット等々……平均で二千円超えのメニューばかりである。
「大樹、美佳。何を見てるんだ?」
「お盆期間限定のメニューだよ、見てみる? 中々強気のプレミアメニューだよ」
そう言って、俺は限定メニュー表を父さんに手渡す。
「……凄い値段だな」
「うん。でも材料費を考えると、さっきも美佳に言ったけど無茶苦茶って訳でも無いんだよね」
「……そうか」
限定メニューを見た父さんと横から覗き見た母さんは、難しい表情を浮かべながらチラチラと俺の顔色を見てきた。多分アレだ、昨日食べたミノ肉バーベキューの事を思い出しているのだろう。
あのバーベキューをお店で食べたら、軽く万を超えるだろうからな。
「で、どうしよ? 結局、全員日替わりメニューにするの?」
「そうだな……美佳?」
「んん、じゃぁ日替わりの他にコレ頼んで良い?」
そう言って美佳が指さしたのは、彩り野菜のチーズオーブン焼きだった。うん、まぁ良いんじゃ無いか?と言うわけで注文は決まった、日替わりランチ人数分と彩り野菜のチーズオーブン焼きだ。因みに合計金額は、全部合わせても一番高い限定メニューに届いていない。高すぎるだろ、限定メニュー。
そして注文を済まし暫く待つと、店員さんが料理を運んできてくれた。
「お待たせしました、ご注文の品をお持ちしました」
全員の前に日替わりランチが配られ、テーブルの中央に美佳が注文したオーブン焼きが置かれる。思ったよりも早く届いたな。
そして暫し無言で食事に集中した後、父さんが口を開いた。
「それにしても、こんな一般的なファミレスでも食べられるようになるなんて、ダンジョン食材も浸透したもんだな」
「……そうね。気軽に、って訳にはいかない金額だけどね」
「「……」」
父さんと母さんの会話を聞き、俺と美佳は若干の居たたまれなさを感じつつ無言で食事を続ける。すみません、その食材割とよく食べてます。
そんな若干気拙い食事の後、俺達は店を後にし父さんの実家へと移動し始めた。
ファミレスを後にし三十分ほど移動すると、郊外にある父さんの実家に到着した。父さんの実家は代々農家をしており、平屋建ての純和風建築だ。
車を敷地内に止め外に出ると、父さんは声を張り上げる。
「ただいま! 父さん母さん、居る?」
閑静な環境という事もあり、父さんの声が辺りに響き渡る。すると暫く間を置き、敷地の奥に見える小屋から作業服姿の男性が姿を見せた。
「誰だ?」
「ただいま、父さん。大輔だよ、今日帰るって言ってただろ?」
「おお、大輔か! 良く来たな!」
父さんの姿を確認し、嬉しそうな雰囲気を出しながら近づいてくる作業服を着た男性。俺と美佳の祖父、九重大吉だ。農作業で自然と鍛えられているのか、年齢を感じさせない確りとした足取りである。
「美春さん、美佳ちゃん、大樹、良く来たな」
「お久しぶりです、お義父さん」
「お祖父ちゃん、久しぶり!」
「お世話になります」
祖父に挨拶をすませた俺達は、祖父の案内に従って家の中へと上がる。すると居間で、祖母と伯母がお茶を飲みながらテレビを見ていた。
「ただ今、母さん、真穂義姉さん」
「ん? ああ大輔、お帰り」
「えっ? あっ、大輔さん! ごめんなさいね、出迎えにでられなくて」
「いえいえ、気にしないで下さい」
のんびりした様子で俺達を歓迎する祖母、九重佳奈。俺達の姿を見て少し慌てた様子の伯母、九重真穂。
同じ場所にいたのに、随分と対照的な姿だ。
「お久しぶりですお義母さん、真穂義姉さん」
「お久しぶりです」
「お世話になります」
俺達は挨拶を交わし、ミノ肉のお土産を母さんが真穂伯母さんに渡す。
「ごめんなさいね、態々お土産を……」
「いえいえ、こちらがお世話になるんですから、これ位なんでも無いですよ。それにコレ、大樹が用意してくれたんですよ」
「大樹君が?」
真穂伯母さんは、驚いた様に軽く目を見開き、視線を俺に向けてきた。真穂伯母さんは、俺がお土産を用意したって事に、驚いてるんだろうけど……母さんなりの予防線なのかな?
万一お土産の価値を知られた時、言い訳出来るようにって。
「はい。友達とダンジョンに行っているので、その時に手に入れたお肉です。凍らしてるので、食べる時に解凍して使って下さい」
「ありがとう大樹君」
「いえいえ、偶々珍しいモノが手に入ったのでお裾分けです」
真穂伯母さんは軽く頭を下げながら、俺にお礼を言ってくれた。因みにそのお肉、本当に珍しい物ですからね。
「そう言えば大樹君、ダンジョンに行ってるて言ってたけど、大樹君て探索者をやってるの?」
お土産のミノ肉を、冷凍庫に仕舞って戻ってきた真穂伯母さんが、俺達に冷えた麦茶を配りながら、俺に探索者をやってるのか?と聞いて来た。
やっぱり親戚が探索者をやってるってのは引っ掛かるんだな。
「ええ、切っ掛けは友達に誘われる形だったんですけど、去年の末頃から探索者をやってます。美佳も、高校に入ってから友達と一緒にやってますよ」
「そう……やっぱり大樹君くらいの年頃の子だと、探索者に成る子が多いのね」
俺の返事を聞き、真穂伯母さんは溜息を漏らしながら頬に手を当てていた。見た感じ、何か期待していた当てが外れたといった感じの溜息だ。
「えっと……何かあったんですか?」
「……大樹君、この町の近くに一般解放されているダンジョンがあるっていうのは知ってる?」
「えっ、あっはい。ダンジョン協会のHPで、一般解放されているダンジョンの所在を確認した時に、この近くにあるダンジョンが一般解放ダンジョンに指定されてるなーって思いました」
「そう、知ってるのなら話が早いわ。……いえね、近くに一般開放ダンジョンがあるから、家の子も学校の友達と探索者をやってるのよ」
「大河兄さんもですか?」
九重大河、真穂伯母さんの息子で俺の一つ上になる従兄で、今年高校3年になる。今年の正月に会わなかったので、顔を合わせるのは1年ぶりって事に成るな。
そんな大河兄さんの事で、真穂伯母さんがこんな溜息をつくって何があったんだ?
「ええ、それもかなり嵌まってるのよ。最近と言うか探索者になってからは、学校が終わったら毎日ダンジョンに通い出したし、週末も毎回ダンジョンに行ってるわ」
「えっ、えっと……」
「それに最近では探索者が順調だからって、大学には進学せず探索者一本でやっていくなんて言い出したのよ……はぁ」
「「「「……」」」」
思わずといった感じで漏れ出した真穂伯母さんの愚痴を聞き、俺と美佳、そして父さんと母さんも表情を引き攣らせ固まった。まさかまさかの展開である。風美香姉さんが就職の為に探索者になるかどうか悩んでいる間に、大河兄さんがまさかの探索者一本でやっていこうと思っていたなんて……!?
選択は十人十色ですよね、短期間で両極端な相談はされたくないですけど。




