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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第14章 夏休みはイベントがいっぱい
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第303話 その採用基準って……

お気に入り25660超、PV45590000超、ジャンル別日刊48位、応援ありがとうございます。



朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売です。よろしくお願いします。






 伯母さん、矢島美玖(やじま みく)に迎え入れられた俺達は首を長くして待っていたらしい祖父母、母さんの父母に帰省の挨拶をしていた。お土産のミノ肉盛り合わせを持参しながら。


「お父さんお母さん、ただいま」

「おお、美春。良く来たな、去年の盆以来か?」

「お帰り美春、大輔さん運転ご苦労様。大樹君に美佳ちゃんも久しぶり、大きくなったわね」


 笑顔を浮かべ俺達を迎え入れてくれた初老の男女は、祖父の笠原則夫(かさはら のりお)と、祖母の笠原美夜(かさはら みや)である。

 一年ぶりの顔合わせになるが、2人とも特に変わる事もなく元気そうだ。


「お久しぶりです、お義父さんお義母さん。今日はお世話になります」

「ええ。それにしても久しぶりに会えたのに、一日しか居られないのは残念ね」

「すみません、今年はカレンダーの関係で余り長く休みが取れなくて……」

「まぁ、お仕事なら仕方ないわよ」


 スケジュールの関係上、今回は一日しか滞在できないので祖母は少し残念そうな表情を浮かべている。2,3日滞在できるのなら、祖父母や伯母家族と食事や遊びに出られたのだが……残念だ。

 まぁその分、お土産は奮発しているので大目に見てください。


「姉さん、コレお土産。皆で食べて」

「ありがとう。あら、冷たいわね……何なの?」

「大樹が用意してくれたお肉の盛り合わせよ。それとコッチなんだけど、明日大輔さんの実家に持って行く分なの、だから……」

「冷凍庫に入れて置くわね、明日出る時に忘れないように声を掛けるわ」

「ありがとう、姉さん」


 美玖伯母さんは母さんから渡されたミノ肉を受け取り、台所へと持って行った。

 そして美佳は顔を左右に振って辺りの気配を探った後、軽く首を傾げながらお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに質問を投げかける。


「そう言えばお祖父ちゃんお祖母ちゃん、(まさる)伯父さんと風美香(ふみか)お姉ちゃんは?」

「ん? ああ、二人なら少し買い出しにでてるよ」

「買い出し?」

「貴方達が来るからねぇ、夕飯のバーベキューの材料を買いに行ってもらってるのよ」

「炭とか買って来ないと無いからな」


 幾ら探っても気配が感じられなかった優伯父さんと風美香姉さんが居ないのは、俺達の歓迎の準備をしてくれているかららしい。帰省するといつも庭でバーベキューをしてたからな。確かに炭なんて、よっぽどバーベキュー好きでもないと常備してないか。

 

「良かった、風美香お姉ちゃん帰ってきてたんだ」

「ええ。去年は大学が忙しくて帰ってこなかったけど、今年は美佳ちゃん達がくるって伝えたら帰ってきたわ」

「そっか、久しぶりだし何話そうかな……大学の話とか教えてくれるかな?」

「風美香も美佳ちゃんと話したそうにしてたから、今日はいっぱいお喋りしてあげて」

「うん!」


 美佳は嬉しそうな表情を浮かべながら、お祖母ちゃんに元気よく返事を返した。






 挨拶をすませ客間で荷物整理をしていると、玄関が開く音が響き誰かが近づいてくる足音が響いてきた。数秒後、客間の扉が開き美玖伯母さんに良く似た女性が顔を覗かせる。

 それは久しぶりに顔を合わせる、俺達の従姉である風美香姉さんだ。


「いらっしゃい、美佳ちゃん大樹君。大輔叔父さん美春叔母さん、お久しぶりです」

「あっ、風美香お姉ちゃん!」

「久しぶり、風美香姉さん」

「あら、風美香ちゃん。久しぶり、お邪魔してるわ」

「久しぶりだね、お邪魔してるよ風美香ちゃん」


 俺達は客間に入ってきた風美香姉さんに挨拶をする。

 それにしても、一年半ぶりに顔を合わせた風美香姉さんは随分と垢抜けしていて、大人っぽくなっている。コレが大学生になるって事か……。


「一年半ぶり、ですかね? 皆さん元気でしたか?」

「ええ。去年はちょっと色々と世間が騒がしい一年だったけど、皆何事も無く元気に過ごせたわ」

「ダンジョンなんて物が現れて、探索者なんて言う職業が出来ましたからね」

「そうなのよ、探索者。全くこの子達ったら、流行だからって言って探索者になるなんて……」


 母さんは頬に手を当てながら、困ったような様な表情を浮かべつつ風美香姉さんに愚痴を漏らす。すると風美香姉さんは、苦笑を浮かべながらやっぱりと言った表情を浮かべた。

 そして風美香姉さんは俺と美佳の方に顔を向け、確かめるような口調で口を開く。


「大樹君と美佳ちゃん、探索者になったの?」

「うん」

「はい。俺は去年で、美佳は今年にかな」

「そっか、二人は探索者になったんだ……」


 俺の返事を聞き、風美香姉さんはアゴに手を当て何か考え込むような表情を浮かべる。

 そして風美香姉さんは、何か決意したような表情を浮かべ、俺と美佳にあるお願い事をしてきた。


「ねぇ大樹君、美佳ちゃん。ちょっとお話を聞いても良いかな?」

「えっと、話しって……探索者について?」

「うん。探索者ってどんな事をしてるのかとか、レベルアップするとどんな感じになるのかなって。お願い出来ないかな?」

「うん、まぁ、別に良いけど……風美香姉さんは探索者になりたいの?」


 そう質問する俺の隣で、美佳が一瞬難しい表情を浮かべた後、風美香姉さんが何と返事をするのかと、真剣な眼差しを浮かべ静かに見守っている。この間の件以来、美佳はこの手の事に対して少し過敏気味だ。

 そして風美香姉さんは軽く頷きながら、少し困ったような表情を浮かべ返事を口にする。


「ええ。と言っても、今はどうしようかと悩んでる最中なんだけどね」

「風美香姉さん、誰かに探索者を一緒にやらないかって誘われてるの?」

「誘われてる……って訳じゃ無いんだけど、ちょっとね?」


 風美香姉さんは歯切れ悪い感じで言葉を濁し、バツが悪そうな表情を浮かべながら軽く頭を下げると再度俺と美佳にお願いしてくる。


「実際に探索者をやってる人から、話を聞きたいのよ。お願い、大樹君、美佳ちゃん」

「「うーん」」

「大樹、美佳。風美香ちゃんもこうして御願いしてるんだし、話してあげたら?」

「そうだな。片付けは俺と母さんでしておくから、3人で話してくると良い」


 悩む俺と美佳の反応を見て、父さんと母さんが風美香姉さんを援護するように口を挟んできた。まぁ別に話したくないわけでは無いから良いんだけど……と思いながら、俺は頭を縦に振りながら返事を返す。


「分かった、話すよ」

「うん、私もOKだよ」

「ありがとう大樹君、美佳ちゃん」


 と言うわけで、荷物の整理を父さんと母さんに任せ、俺と美佳は風美香姉さんの部屋に移動し話をする事になった。父さんと母さんが同席してたら、心配させないように当たり障りの無い内容しか話せないので、コレはコレで良かったのかな? 

 あっそうそう、部屋を出た時に優伯父さんに会ったので軽く挨拶をしておいた。






 風美香姉さんの部屋に移動した俺達は、部屋の中央に置かれた小さなテーブルを中心にして囲うようにしてクッションに腰を下ろし座った。

 久しぶりに風美香姉さんの部屋に入ったが、美佳の部屋の内装と比べ随分とモダンな仕上がりになっている。以前入った時は、美佳の部屋と似たような感じだったのだが……。


「来たばかりなのに、急なお願いを聞いてくれてありがとう」

「ううん、気にしないで風美香お姉ちゃん」

「そうだね、お陰で荷物の片付けから逃げられた事だし」


 と言っても、そんなに片付ける荷物も無かったんだけど。

 

「で、風美香お姉ちゃん探索者の何の話が聞きたいの?」

「えっと……」

「ああ風美香姉さん、さっき聞きそびれた何で知りたいのか?って理由も教えてくれると助かるんだけど……」

「そ、そうね。じゃぁ、先ずは理由から話すわね」


 軽く咳払いしてから、風美香姉さんの説明が始まった。


「えっと、何で探索者の話を聞きたいのかって言うと、就職の有利不利に関係しそうなのよ」

「えっ? 就職?」

「風美香お姉ちゃん、ダンジョン系の会社に就職するつもりなの?」


 友達と……や、サークル活動で……と言った理由を想像していたので、就職という予想外の答えに俺と美佳は一瞬呆気に取られた表情を浮かべ首を傾げた。


「そう言う訳じゃ無いのよ、まだどんな企業に入社したいとかって方針も定まってないしね」

「じゃぁ、どうして? 探索者系の会社への入社を希望してなかったら、特に探索者資格は関係なさそうだけど……」

「私も最初はそう思ったわ。でも知り合い……今年就職する先輩から聞いたのよ、この先の就職では探索者資格の有無、取り分け一定のレベルに達しているかどうかで採用試験では有利か不利になるって」

「……一定のレベル?」


 美佳は意味が分からないといった表情を浮かべ首を傾げているが、俺は一定レベルに達しているのが重要であると聞きある考えが浮かんだ。浮かんだのだが、同時にマジかよと言った感想が浮かぶ。

 就職先は必ずしもダンジョン関連企業では無い。就職採用に関係し一定レベル以上が有利。探索者、レベル……新卒入社。


「探索者ってレベルが上がると、力が強くなって体が頑丈になるのよね?」

「う、うん。スキルとかは専用のスキルスクロールを使わないと覚えられないけど、身体能力の強化はレベルが上がれば探索者なら自然と上がるよ」

「それって、実際どれくらい上がるの? テレビなんかのダンジョン紹介番組を見てると、プロスポーツ選手くらいはありそうに見えたんだけど……」

「そ、そうだね。実際に動けるかは別にしても、鍛えたプロに近い身体能力はあるかな? それなりにレベルが上がった探索者なら、プロスポーツ選手にも負けないくらいには動けると思うよ……技術は伴わないだろうけど」


 美佳の言う通り、レベルが10もあれば強化された身体能力は、鍛えていない素人でもプロスポーツ選手に迫れるだろう。素人がその道のプロに迫る身体能力、腕力・脚力・背筋力……持久力や回復力何かがだ。つまり……。


「やっぱり、そうなんだ……」

「ね、ねぇ風美香姉さん? もしかしてなんだけど、探索者の身体能力が就職に関係するって……体力面の話かな?」

「……うん」

「アチャァ……」

「えっ? えっ? ど、どう言う事?」


 風美香姉さんは暗い表情を浮かべ頷き、俺は顔を手で覆いながら天井を仰ぎ見、美佳は俺と風美香姉さんの反応の意味が分らず首を傾げ戸惑っている。

 そして暫しの間、美佳の戸惑う声だけが部屋に木霊した。


「ねぇ二人とも、私にも分かる様に説明してよ」


 美佳は仲間外れにされたと感じたらしく、頬を不機嫌そうに膨らませながら俺と風美香姉さんに説明を求めてきた。いや、説明しても良いけど……正直萎えると思うぞ?

 と言うわけで、俺と風美香姉さんは美佳に先程のやり取りの説明をおこなう。


「えっと、だな? つまり、一般企業?が就職試験の時に探索者資格の有無を気にしているってのは、探索者の身体能力を持つ新入社員を求めるって事だな。因みにこの場合、探索者としての実績や戦闘能力の有無は関係ない。そうだよね、風美香姉さん?」

「ええ、大樹君の言うように企業が必要としているのは、一定レベルの探索者としての身体能力を保有しているかどうかなのよ。優秀な探索者だったとかは、関係ないって先輩も言ってたわ」

「? 探索者の身体能力を持つ人を求めてるのに、探索者としての実績は必要ない? それって、会社が探索者を採用する必要性があるの?」

「「あるんだよ……(のよ……)」」


 俺と風美香姉さんは一緒に溜息をつきながら、美佳に企業が探索者を求める理由の説明を続ける。


「ちょっと話はズレるけど美佳、お前最近武器の素振りってどれくらいやってるんだ?」

「? 時間が取れる時は千回素振りを何セットかするけど、時間が無かったら一セットかな?」

「それをやった次の日、筋肉痛や体に疲れが残ったりしてるか?」

「ううん。最初の頃は疲れが残る事もあったけど、最近は全く」

「そう、それが理由だ。企業が探索者を採用しようとする理由はな」


 風美香姉さんは俺と美佳のやり取りに驚いた様な表情を浮かべていたが、今は気にしないでおこう。素振り千回程度で驚かれていたら、俺達の訓練なんかどれも話せないよ。 

 そして美佳は数秒考え込むように顎に手を当て顔を俯かせた後、答えに行き着いたらしく驚愕の表情を浮かべながら俺と風美香姉さんの顔を凝視する。


「お、お兄ちゃん。もしかして企業が探索者を採用する理由って……」

「恐らく、多少酷使しても使い減りしない頑丈な人材が欲しいって所だろうな……」

「うわぁ……」


 俺の推測を聞き、美佳はドン引きしたような表情を浮かべ、風美香姉さんは達観したような沈痛気な表情を浮かべた。普通の新入社員では体力や回復力不足で過重労働になるので、レベルアップの恩恵で体力に余裕がある探索者を社員として採用し活用するってか、誰が考えたんだよこんな採用基準? 

 ねぇ風美香姉さん、その先輩ブラック企業にでも就職するの?
















強制ではありませんが取得すると有利な資格です……良く聞くフレーズですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ただダンジョンができたってだけののんびりダンジョン生活でも書いとけばいいのに、世間のそういう絡みをだすと矛盾しか生まないからね。 就職に超人的な身体能力を持つような資格取得者が有利なのはブラ…
[気になる点] 風美香さんは、去年来てないなら会うのは二年ぶりになるんじゃないの?
[良い点] 確かに体力あって、対人関係のギスギスも経験済み。って考えれば悪い採用条件じゃないかもしれないw 実際は最近の子はパソコン触ってなくて、ワードもエクセルも使えない状態で入ってくる方が教えるの…
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