第26話 御籤とファミレスへ
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「さて、次はどうする?御籤でも引くか?」
拝礼を終え、美佳と沙織ちゃんに次の予定を聞く。
二人共今年は受験生だからな、御籤の他は……合格祈願の絵馬か?
「うん。後、絵馬もかな?」
「私達受験生だしね、神頼みもしておかないと。じゃぁ行こう、お兄さん」
俺は二人に手を引かれ、社務所の御籤引き場に移動する。結構な人数が順番待ちしているが参拝客の回転は良く、数分で順番が回ってきた。俺はお金を払い、木製の御籤箱を振る。
「……弐拾参番か」
数字が書かれた棒が飛び出し、巫女さんに御籤と交換して貰う。俺は御籤を持ちその場を離れ、スペースの空いている御神木の下で二人を待つ。
そして、それ程間を置かず二人は俺の元に来た。
「お待たせ!どうだった、お兄ちゃん?大吉?」
「まだ開いてないよ、二人と一緒に開けようと思ってね」
「そうなんだ!じゃぁ、開けてみよ!」
俺達はその場で御籤を開く。
「あっ!大吉だ!」
「私は小吉」
美佳は嬉しそうに御籤を俺達に見せ、沙織ちゃんは少し不満そうだ。
そして俺はと言うと……。
「?どうしたのお兄ちゃん?そんな仏頂面して?」
「どうしたんです、お兄さん?凶でも引いちゃいました?」
「……」
俺は無言で、おみくじを二人に見せる。
その御籤の字面を見て、二人は目を見開く。
「だ、大凶……?」
「うわっ、お兄さんスゴイの引いちゃったね」
「……」
初夢と言い、御籤と言い、何なんだコレは。
……お祓いでもするか?
「まぁ、まぁ、只の御籤なんだし気にする事はないさ」
「……お兄ちゃん」
気丈に強がって見せるが、美佳の慰める様な眼差しが余計に辛い。
俺が御籤の結果に気落ちしていると、沙織ちゃんが恐る恐る声を掛けてくる。
「あの、お兄さん?御籤を引き直せば良いんじゃないんですか?
「……?引き直しって良いの?」
「ええ。余り知られてない様ですけど、御籤って引き直しても良いんですよ?」
そして、沙織ちゃんが御籤の説明をしてくれた。
何でも、悪い結果の御籤を引き直す時は、引いた御籤を木なんかに結んで御参りした後、普通に引き直せば良いらしい。良い結果の御籤は財布の中に入れ保管し、次に御籤を引く前に木などに結んでから引くとの事だ。へー、今まで引いた御籤は直ぐに木に結んでいたな。俺は沙織ちゃんの助言に従い、大凶の御籤を木の枝に結び付け御参りした後、再び御籤引きの列に並んだ。
そして再度引いた御籤の結果は……。
「末吉か……。まぁ、また大凶や凶を引くよりはマシな結果か」
「元気出してお兄ちゃん。末吉だけど、結構良い内容だよ?」
「……もう一度引き直して来ます?」
「いや、もうコレで良いよ。美佳の言う通り、内容自体はそんなに悪くないみたいだからね」
俺は沙織ちゃんの勧めを断り、御籤を財布の中に仕舞った。何度も引くのはアレだし、また凶や大凶を引いたらと思うと引きづらいしな。
取り敢えず御籤関連の話はコレで御終いにしておこう。
「えっと、後は絵馬だっけ?」
「うん。合格祈願の絵馬」
美佳と沙織ちゃんが絵馬を取り出す。さっき俺が御籤を引き直していた時に、二人で購入していたらしい。願い事も既に書かれている様で、後は奉納しに行くだけだ。
「あそこに絵馬掛がありますね」
沙織ちゃんが、手水舎の近くに有る絵馬掛を指さし、俺達に場所を教えてくれる。確かに人集りの隙間から、絵馬らしき木板が見えた。
3人で絵馬掛まで移動すると、2人と同じ中学生や俺より年上らしき高校生が絵馬を奉納しお祈りしている。
「じゃぁお兄ちゃん、ちょっと絵馬を掛けてくるね」
「待ってて下さいね?」
「ああ」
2人は絵馬を掛けに、俺から離れる。不意に暇になった俺は、絵馬掛けに掛けてある絵馬の願い事を見て見る事にした。
多数ぶら下がっている絵馬には、マジックペンで様々な願い事が書かれている。
何々……?
“〇〇高校に合格します様に!”
“宝くじが当たります様に”
“今年一年、健康に過ごせます様に”
なる程、結構在り来りな事が書かれてるな。美佳達もまだ戻ってこないし、もう少し見るか。えっと、他には!?
“大学に合成します様に”
“円満離婚”
“〇〇の連載が再開します様に”
“幼馴染に新一だとバレません様に by〇戸〇コ〇ン”
“特になし”
……何書いてるの、コレ!?
1個目は文字間違えてるし!?“合成”じゃなく“合格”ね!これじゃぁ、学校が合体するって意味になるから!そして、2個目は何があった!?3個目は俺も同意見、早く再開して欲しい。4個目は本人来てるの、コ〇ン君!?5個目は何故絵馬を買った!?
俺が一喜一憂しつつ、色々な願い事が書かれた絵馬を見ていると、絵馬を奉納し終わった美佳と沙織ちゃんが声をかけて来た。
「お待たせ。どうしたのお兄ちゃん?変な顔してるけど、何かあったの?」
「あっ、絵馬を見てたんですか?」
「あ、ああ。2人を待っている間にちょっとね」
「その様子だと、何か面白絵馬を見付けたんですか?最近痛絵馬なんて言うのも増えてきてますし」
「痛絵馬?何それ」
「アニメや漫画のキャラクターが書かれた絵馬の事。作品に登場した神社なんかで、結構奉納されてるみたいだよ?」
「ふーん。お兄ちゃんが見付けたのも、痛絵馬?」
「いや。痛絵馬ではないんだけど……それ」
俺が問題の絵馬を指さすと、2人の視線が釣られて絵馬に向く。そして絵馬の内容を読んだ瞬間、二人は小さく吹き出した。
「ぷぷっ、何これ?書き間違えてるじゃん!」
「ホントだ。あっ、沙織ちゃんコッチの絵馬!」
「何々……ぷっ!」
暫し、面白絵馬の鑑賞会が続き、一通り絵馬に眼を通し終えた俺達は境内を出て石階段を降りて行く。未だ石段を上ってくる参拝客は多い。
俺は石段を下りながら、二人に気になった事を聞く。
「そう言えば、初詣の後の予定はどうなってるんだ?」
「うーん。特にコレって言う予定は決まってはいないよ?ね、沙織ちゃん?」
「うん。それに元旦だし、今日は大体のお店は閉まってる筈だよ?」
「そうだな」
大体の店の初売りは明日からだろうしな。元旦から営業している年中無休の店と言ったら……。
「じゃぁ、取り敢えずファミレスにでも寄っていくか?結構体も冷えてる事だし、体を温める為にもさ」
「うん、私はそれで良いよ。沙織ちゃんは?」
「私も良いよ」
「じゃぁ、決まりだな。えっと?ここから近いファミレスは何処だ?」
半ば辺りの石段から街の様子を観察すると、神社から少し離れた場所にファミレスの看板が見えた。
徒歩数分、俺達はファミレスに到着した。俺達と似た考えの参拝客が多かったのか、店内は盛況だ。少し入口で待っていると、店員さんが俺達に気付き席へと案内してくれた。
「ご注文がお決まりになりましたら、ボタンを押して下さい。では、ごゆっくりどうぞ」
店員さんがメニューを置いて去っていく。因みに席順は、美佳と沙織ちゃんが並んで座り俺が対面に座っていた。
「ここの会計は俺が持つから、二人とも好きな物を注文して良いよ」
「えっ、良いのお兄ちゃん?」
「ああ。軍資金はあるから、遠慮しなくて良いから」
ダンジョンで得た資金もあるし、出かける前に父さんからコッソリ軍資金を貰っている。俺一人だったらくれなかっただろうな。
それに俺も、兄貴らしく見栄を張りたいって気持ちもあるしね。
「やった!じゃぁ、ご馳走に成りますね、お兄さん!」
「うん、遠慮しないで。あっ、勿論食べきれる範囲でだよ」
「分かってます!」
沙織ちゃんは俺にお礼を言った後、メニューを捲り始める。美佳も沙織ちゃんに釣られ俺にお礼を言い、沙織ちゃんと一緒に楽しそうにメニューを吟味し始めた。
「注文決まった?」
「うん。私はドリンクバーとコレにするよ、お兄ちゃん」
「私もドリンクバーとコレでお願いしますね」
「じゃ、店員さんを呼ぶね」
俺はテーブルの端に設置してある、赤い呼び出しボタンを押す。軽いチャイム音が店内に響き、少しして店員さんが近寄ってきた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ええ。ドリンクバーを3つに、コレとコレとコレを」
「はい。注文承りました。ドリンクバーはセルフサービスになっていますので、ご自由にご利用下さい。では、少々お待ちください」
俺の注文を聞いた店員さんは、ドリンクバーの説明をした後直ぐに去っていく。俺が留守番しておくからと伝え、二人に先にドリンクを取ってくる様に伝える。二人は俺の言葉を聞き、バッグを椅子に置いてドリンクを取りに行った。
俺は2人を見送った後、スマホを長襦袢の袖から取り出し電子ニュース版をチェックし始める。そして、その中の一つのニュース項目に目が止まった、室温超伝導体が開発されたと言う記事だ。
「何々……? TOKYO工科大学の菊池研究室で、室温超伝導体の生成に成功?ダンジョンから産出されたドロップアイテムが、室温超伝導体生成の切っ掛けに……か」
これって、コアクリスタル発電以来の大発明じゃないか?
俺はページをスクロールしながら、ニュースの続きを読み進めていく。何でも、ダンジョンでドロップしたミスリルを、銀と数種の物質と一緒に合成する事によって室温超伝導体が完成するらしい。300K以下の温度環境下で超伝導状態となる為、様々な分野での応用利用が期待されるとの事だ。
しっかし、ミスリルか……遂にファンタジー物質まで登場して来たよ。やっぱり、ダンジョンの初ドロップ特典で出てたのな?って、現状では初ドロップ特典以外ないか。俺が毎日スライムを殺しまくっても、未だミスリルなんかの架空金属系は出てきていないし。ネットに公開されている情報を俺が調べた限り、最初にダンジョンでモンスターを討伐した時にドロップするアイテムは、種類はランダムではある物の基本的にレア物ばかりがドロップしている。具体的にはアメリカの金塊や、ロシアの巨大ダイアモンド、日本のミスリル、そして俺の鑑定解析のスキルスクロール等々……。俺の鑑定解析だって、これまでのドロップアイテムの出現傾向から初期ドロップ品にしては不釣り合いな程にEPのコスパが良い高性能スキルだったしな。ミスリルも本当ならダンジョンの深層域でドロップする様なアイテムだろう。
まぁ、十中八九、ダンジョンに人を集める為の撒き餌だろうな。ハイリスクハイリターン、ほんと現代のゴールドラッシュだよ。
「お待たせ、お兄ちゃん」
「お兄さん、留守番ありがとうございました。お兄さんもドリンクを取りに行って来て下さい」
声に反応しスマホから視線を上げると、両手にコップを持った二人がいた。美佳はココアとオレンジジュース、沙織ちゃんはカフェラテとコーラを取って来たようだ。
「じゃぁ、俺も取りに行ってくるから。あっ、注文の品が先に来たら、二人共先に食べてて」
「うん」
「はーい」
俺はスマホを袖に戻し、二人に一言声をかけ席を立つ。
ドリンクバーでコーヒーとミックスジュースを取って席に戻ると、既にテーブルの上に注文の品が鎮座していた。美佳が注文したパンケーキ、沙織ちゃんが注文したフレンチトースト、俺が注文したチーズケーキ。どれも美味しそうだ。
二人は俺の言葉通り先に食べ始めていたので、俺も軽く声をかけ席に着きコーヒーを一啜りする。うん、体が温まる。やっぱり寒い時は温かい物を飲むに限るな。
「そう言えばお兄さん?」
「ん? 何だい、沙織ちゃん?」
「美佳ちゃんから聞いていたんですけど、お兄さんダンジョンに行ってるんですよね?」
俺は沙織ちゃんの言葉を聞き、眉を上げ軽く驚きつつ美佳に視線を向ける。俺の視線に気が付いた美佳は、申し訳無さそうな表情を浮かべながら俺から視線を逸らす。
はぁ……仕方ない。
俺は視線を美佳から沙織ちゃんに戻し、軽く頷きながら返事を返す。
「ああ。確かにダンジョンに行ってるよ」
「ですよね! じゃぁ、ダンジョンの話って聞いても良いですか!?」
「ええっと……」
身を乗り出し聞いてくる沙織ちゃんの興味津々と言った態度に、俺はどうした物かと困った。
俺が助けを求める様に視線を再び美佳に向けると、そこには両手で合掌しながら頭を下げる美佳の姿が……って、おい!
「お願いします、お兄さん。美佳ちゃんに聞いても、お兄さんのダンジョン話は余り教えてくれないんですよ」
「へー、そうなんだ」
……なる程、美佳はあの時話した俺の話を、どう沙織ちゃんに話したら良いのか分からなくって迷ってるって所か。確かに言いづらい話だろうな。でも、だからってコッチに丸投げは無いだろ!
俺は再び視線を美佳に向けたが、美佳は先程と変わらないポーズで頭を下げ続けていた。
はぁ、どう伝えたもんか……。
正月の御籤には大凶って入っていないって聞きますけど、本当なんでしょうかね?




