第290話 コレも因果応報って事なのかな?
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朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売です。よろしくお願いします。
思っていたより、精神的に疲れていたのか、俺は、窓から差し込む、肌が焦げる様な太陽の日差しで、目を覚ました。……熱いって、これ以上は寝続けていられないよ。
寝汗で若干べたつく背中に不快感を覚えつつ、俺はベッドから立ち上がる。
「ふぁっ……もう9時過ぎか。結構寝たみたいだな」
壁に掛かった時計を確認しつつ、背伸びをして体をほぐした。
そして衣類棚から着替えを取り出してから窓を全開にし、湿気を含んだ熱気を感じる外気を取り入れ換気をしながら部屋を出る。
「……おはよう」
「おはよう大樹、随分遅かったわね」
階段を降りてリビングへ入ると、母さんがソファーに座ってテレビを見ていた。リビングにはエアコンが入っているらしく、汗が滲み出る熱気が籠っていた自室とは違い涼しく心地良い。
「……うん、ちょっと寝過ぎたみたい」
「あまり疲労を溜め込まない様に、ダンジョン探索も程々にしなさいね」
「……うん、気を付けるよ」
若干眉を顰めつつ苦言を口にする母さんに、神妙そうな表情を浮かべながら俺は小さく頷き返した。下手に反論しても仕方がないからな。
それより……。
「それより、ちょっと寝汗かいたからシャワー浴びてくるね。お風呂って空いてる?」
「ええ、空いてるわよ。でも大樹、寝汗って寝る時エアコン入れてなかったの?」
「うん。昨日の夜はそこまで暑くなかったから、別に良いかなって入れてなかったかな」
俺の返事に母さんは呆れた様な表情を浮かべつつ小さく溜息を吐いた後、真っ直ぐ俺の顔を見ながら少し強めの口調で言ってくる。
「昨日のニュースで、今日は朝から暑くなるって言ってたじゃない……こんな暑い中でエアコン入れないで寝てたら熱中症になるわよ。気を付けなさい」
「あっ、うん。気を付けるよ」
「それと、お風呂に行く前に水分補給もしておきなさい。冷蔵庫にスポーツドリンクがいれてあるわ」
俺は少し慌てつつ、母さんの言葉に頷き同意する。
確かに、あんな暑さの部屋で寝続けてたら熱中症になりかねないよな……と納得しつつ、俺は母さんの助言に従い冷蔵庫の中からスポーツドリンクを取り出しコップ一杯分一気に飲み干した。
「ふぅ美味い……って、拙いな」
俺は思わず顔を顰め、空になったコップを厳しい眼差しで眺める。スポーツドリンクを飲んで美味いって思えたって事は、体が水分不足だって訴えている証拠じゃないか。うわっ、母さんが言うように危ない所だったみたいだ。“熱耐性”スキル、売らずに自分達で使ったほうが良かったかな……。
そして俺は念の為にスポーツドリンクをもう一杯飲んだ後、母さんに一言断りを入れてからお風呂に向かった。
シャワーを終えお風呂から上がった俺は、インスタントラーメンを遅めの朝食……として食べながらテレビを見ている母さんに話し掛ける。
「そう言えば母さん、美佳は出かけたの? 姿を見ないけど……」
「ええ。貴方が寝ている間に、沙織ちゃんと遊んでくるっていって出かけたわよ」
「ああ、そうなんだ」
俺は麦茶で口の中のモノを流し込みながら、母さんに気のない返事を返す。まぁ夏休みなんだし、課題が終わってるんだったら友達と朝から遊んでも罰は当たらないよな。
とは言え、美佳のヤツいないんだ……。
「それはそうと大樹、貴方はこの後どうするの? 家にいるの? それとも出かけるのかしら? 家にいるのなら、お昼の準備をするけど……」
「うーん」
俺は母さんの質問に、後頭部を手で掻きながら頭を悩ませる。昨日ダンジョンから帰って来たばかりなので、今日は休養日だ。特に裕二や柊さんと会う約束もしていないので、これと言って用事は無い。
美佳が家にいれば、誘って一緒に買い物にでも出かけると言う口実も使えたのだが……1日家に籠もってるってのアレだしな、気分転換に出かけてみるか。
「じゃぁ、出かけるよ。お昼は外で適当に食べるから、母さんもユックリしててよ」
「そう? じゃぁ、そうさせて貰うわ」
と言うわけで俺は部屋に戻り、着替えと外出の準備を行う。まぁ夏なので、ブルー系の7分袖スウェットとデニムパンツとかなりラフな格好だけどな。
そして一通り準備をすませた俺は、出かける前に日課を行う事にした。
「さてさて、今日もやっておくか」
俺は椅子に座り、机の一番下の引き出しを開く。すると……。
「おっ、珍しい。今日は1発目からゴールドスライムか」
引き出しの先には、灯りに照らされ黄金色に輝くスライムが静かに陣取っていた。中々でてこない、レアなスライムだ。
更によくよく見てみると、金の塊と言うより、密度の高い金ラメ入りのスーパーボールのように見える。
「コイツ、結構な割合で金塊を落としてくれるんだよな。まぁ大きすぎて、中々換金出来ないけど」
俺は以前倒したゴールドスライムがドロップした金塊の大きさを思い出し、手に入るのに有効活用出来ない事に小さく溜息を漏らす。1キロを優に超える重さの金塊など、例え探索者といえど高校生が簡単に現金化など出来ないからな。現在のダンジョンでドロップする金塊の大きさは、大きくても100グラム台だ。キロ単位の金塊がドロップした事例など、ダンジョンが発見された最初のボーナスドロップぐらいしかない。
むろん、ダンジョン攻略が進んでいけば何れはドロップするんだろうが、現状ではドロップアイテムとしても換金出来ない。目立ちすぎるからな。
「はぁ、それよりもまぁ、サッサとやっちゃおう」
俺は“空間収納”から塩袋を取り出し、大きめの計量スプーンですくった塩をゴールドスライムに振りかける。すると、塩を振りかけられたゴールドスライムは他のスライム達と同様に激しく伸縮を繰り返した後、弾けるようにして光の粒子となって消えていった。
そしてゴールドスライムが消えた後には大きな金塊が転がっている……筈だったんだけどなぁ。
「……無い、マジか」
どうやら今回は運が悪かったらしく、ゴールドスライムが消えた後には何も残っていなかった。今日は朝から運が良いと思ったんだけど、どうやら要らないオチがついてしまったようだ。……うん、もう一度やろう。
そしてこの後、俺は若干意固地になり、何か良いドロップアイテムが出るまで……と粘った結果、家を出るのが12時近くという失態を犯してしまった。うん、時には深みにはまる前に諦める事も肝心だよな。
特にアテもなく家を出た俺は、とりあえず駅前のショッピングセンター街まで足を伸ばしてみた。夏休み期間中という事もあり、学生らしき若者の姿が多く見受けられる。
皆、夏休みを謳歌してるみたいだな。
「さて、と。来てみたは良いが……何しよ?」
俺は近くの自動販売機でジュースを買い、壁に背中を預けながらコレからの行動方針の検討をし始めた。何気なく辺りを見回してみると、楽しげに友人達とウインドショッピングをしている女子グループ、フザケあいながら馬鹿話をし笑い声を上げている男子グループ、緊張しながらも楽しげに手を繋ぎ歩く初々しいカップル等々、色々な情景が目に飛び込んでくる。
アレ? 何かココ、お一人様で来るには中々ハードルが高い場所な気がしてきたな。
「ホント、どうするかな……」
と、若干遠い眼差しを浮かべながら俺はジュースを飲みつつ、急に膨れ上がってきた帰りたくなってきたと言う気持ちを抑えていた。
そして後少しでジュースを飲みきるといったところで、急に声を掛けられる。
「ん? おお、そこにいるのは九重か?」
……えっ、誰?
急に声を掛けられ戸惑ったが、俺は声を掛けてきた人物の正体を探ろうとを凝視した。すると直ぐに、声を掛けてきた人物の正体に気が付く。
「……重盛か?」
「ああ久し振り、元気してたか?」
俺に声を掛けてきた人物は、クラスメートの重盛だった。
白いTシャツに紺色のハーフパンツ、サンダルにバックパックと言う俺以上にラフな格好だ。コイツも中々の場違い感を醸しだしてるな。
「あ、ああ。お前も元気そうだな」
「ああ。で、何してんだこんな所で? しかも一人寂しそうに……」
「いや、別に……特にコレと言った目的も無いから、ただフラフラしてただけだよ」
「へー」
返事を聞いた重盛は俺の頭から足先まで一瞥した後、少し考え込むような仕草をしてから口を開いた。
「じゃぁさ、暇してるんなら俺と一緒にくるか? 昼飯まだだよな?」
「えっ? 一緒にって……ドコ?」
重盛が誘ってくれた事を若干喜びつつ、俺は不安げな表情を浮かべながら行き先について尋ねる。
「近くに俺の行きつけの店があるんだよ」
「いや、だからさ……どんな店だよ」
「うーん、行ってからのお楽しみかな?」
俺の質問に重盛は曖昧な笑みを浮かべ、誤魔化すように詳細をはぐらかせる。
いやホント、ドコに連れて行く気なんだコイツ?
「心配するなって、そんな変な所じゃないよ」
「……」
「それにお前暇なんだろ? 見聞を広げる機会だと思って、ついて来いよ」
「……そうだ。特にコレと言って予定も無いんだし、まぁ良いか」
「良し、決まりだな」
悩んでいた俺がついて行くと口にすると、重盛は嬉しそうに俺の肩に手を置いてきた。しかも重盛のヤツが、もの凄い良い笑顔を浮かべているのが無性に心配になってくる
アレ、もしかして選択間違えたかな?
「じゃぁ早速行こう、コッチだよコッチ!」
そして俺は重盛に背中を押されつつ、ショッピングセンター街を歩き始めた。
マジで、ドコに連れていかれるんだ?
重盛に連れられショッピングセンター街のメインストリートを暫く歩いた後、細い脇道に逸れ薄暗い入り組んだ裏路地を進む。重盛は変な所じゃ無いと言っていたが、どう考えてもこんな雰囲気の路地を進んだ先にある店が真っ当な店とは思えない。
流石に俺も不安になり、先を進む重盛に動揺を抑えきれずに声を掛ける。
「おっ、おい重盛! 本当にこんな路地を進んだ先に、店なんて有るのか!? 怪しい店じゃ無いだろうな!?」
「心配するなって、ちゃんと有るよ。店主が偏屈な頑固者だから、態々こんな所に店を構えてるだけだって」
「ほ、本当だろうな!? 行った先が怪しい店だったら、俺は直ぐに帰るからな!」
「大丈夫だって、もう直ぐ……あっ、着いたぞ」
心配する俺を宥めつつ、重盛は曲がり角を曲がった先を指さす。そこには、年季の入った一軒の料理屋らしき店がヒッソリと佇んでいた。
店の前に置いてある看板には、創作料理レアミートと店名が書かれている。
「なっ、別に怪しくないだろ? ちょっと年季は入ってるけど普通の店だ」
「あっ、ああ。確かに普通の店……だよな」
「さっ、入るぞ」
行きつけの店というのは嘘では無いらしく、重盛は緊張も躊躇もする事無く扉を開き店の中へと入っていった。俺もそんな重盛の後ろ姿に少し呆気に取られた後、遅れないようにと慌てて後を追って入店する。店の中は然程広くは無いが、厨房と対面するカウンター席とテーブル席が設置されている。いわゆる、定食屋とかに良くある内装構成だな。
そして興味深げな眼差しで店内を観察していると……。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から、少し低い男性の声が聞こえ直後に姿を現した。背はそれほど高く無いがガッシリとした筋肉質な体格をしており、店のロゴが入った黒いエプロンを着けている。
「お久しぶりです、店長。友達を連れて食べに来ましたよ」
「おお、重盛の坊主か。また友達連れてきたのか」
「ええ。バッタリそこで会ったんで、引っ張ってきました」
「おいおい、その顔はまたサプライズか? この間みたいに喧嘩するなよ?」
どうやら出て来た男性は店長らしく、重盛は顔なじみらしい店長と和やかに挨拶を交わしていた。しかし、サプライズ?喧嘩?不穏な単語が飛びかっていて不安が止め処なく湧き上がってくる。
そして暫し重盛と話していた店長の視線が不意に俺を向き、薄く笑みを浮かべながら話し掛けてきた。
「いらっしゃい。ちょっと変わったラインナップの店だが、どれも自慢の料理ばかりだ。今日は楽しんでってくれ」
「あっ、はい。お世話に……なります?」
「ははっ、そんなに畏まらないでくれ。じゃぁメニューが決まったら声を掛けてくれよ」
店長にすすめられ、俺と重盛は店の奥の方のテーブル席に腰を下ろした。
そして俺は楽しげにメニュー表を広げる重盛に、嫌な予感を覚えつつ核心部分に関する質問を投げ掛ける。
「おい重盛、いい加減教えろ。ここ、一体何の店だ?」
「ん、ココか? ココは普段食べないような珍しい肉を提供してくれる、珍肉専門店だ」
「……珍肉?」
「いわゆる、ゲテモノだな。ヘビとか、カエルとか」
俺は重盛があっけらかんとした様子で口にした返事を聞き、思わず天井を仰ぎ見た。
ゴメン美佳、俺、罰が当たったわ。確かにこんなサプライズ、誰もいらないよな。過去に俺が美佳に行った事を自分にされ、改めて自分が行ったイタズラの迷惑さに気が付き後悔と反省をした。
見分を広げる為にと誘われ、重盛君と珍肉ランチ……これって因果応報かな?




