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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第13章 夏休みはダンジョン探索三昧
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第282話 ランク、上がっちゃったよ……

お気に入り23930超、PV39080000超、ジャンル別日刊74位、応援ありがとうございます。



朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売中です。よろしくお願いします。





 一言、待たせたことを謝罪しつつ部屋に入ってくる真壁さん。そんな真壁さんに座ったままでは失礼だと思い、返事を返そうと俺達は椅子から立ち上がり掛けるとストップが掛けられる。

 

「あっ、そのまま座ったままで良いですよ」

「えっ、ああ、はい」


 俺達は思わず中腰の体勢で固まり、真壁さんに戸惑いの顔を向けつつ気拙さを感じつつ腰を下ろした。だが、そんな俺達の内心を知ってか知らずか、真壁さんは淡々と資料やパソコンを置き説明の準備を始める。

 微妙に気拙い間だよな。 


「ええ、ではまず、御忙しいところ、御時間を取って頂きありがとうございます」

「あっ、いえ。あの、それで……お話とはなんですか?」


 定例文的挨拶を交わした後、本題は何かと俺は真壁さんに尋ねた。

 こう言う場は慣れていないので、丁寧な遣り取りを繰り返しても何れはボロが出る。妙なタイミングでボロを出すくらいなら、多少失礼でも単刀直入に本題の話を聞き早く終わらせたいからな。

 

「……分かりました。では多少の前置き話をさせて頂いた後に、本題の方に入らせて頂きます。こちらをどうぞ」


 真壁さんはほんの僅か眉を顰めた後、俺達それぞれの前に数枚の紙束……本題に関する資料らしき物を手渡してきた。

 資料の題名は、“本ダンジョンにおける、探索者の負傷に関する実態調査中間報告書”である。


「今お渡しした資料は協会が管理する情報ですので、資料の内容は口外なさらないで下さい」

「……これ、秘匿資料って事ですか?」

「いえ。問い合わせて頂けたらお教えする事も出来る資料ですよ。ですが、公開資料としては編集校閲段階前ですので、協会公認資料として外に出すには正確性が欠けています。何れはキチンとした形にして出す予定なので、秘匿性はそこまで高くありません。ただ、不正確な情報が広域に拡散する事が好ましくないので口外して貰いたくないだけです。大抵の流出情報は、無責任な改変が加えられ最初の形が分からなくなる場合が往々にしてありますからね」

「ああ成る程、確かに不正確な情報の拡散は好ましくないですね」


 伝言ゲームさながらの改変が加えられ、最初の形が分からなくなった情報ってのはネット上に溢れてるからな。正確な元情報が公開されている状態でないと、流出し改変された情報が事実として認識されてしまう。風の噂なんだけどと言う段階ならまだしも、不確かなのにコレが事実だ!と断言するような存在が現れたら噂が事実になる。

 そう考えると、公式情報の正確性は重要だよな。


「では説明を始めます、資料の1ページをめくって下さい。先ず前段階としまして、探索者はダンジョンでモンスターを相手に戦闘を行うという性質上、怪我とは切っても切れない関係にあります。無論、協会としても怪我人の増加は望む物では無く、探索者に対しモンスターやトラップの情報を提供しております」

「「「……」」」


 一部の情報は秘匿や有料化されている場合もあるが、基本的に協会はダンジョン内に出現するモンスターやトラップに関する情報を無償公開している。探索者に調べる気さえあれば、自由に調べる事が出来るようになっていた。

 無論、俺達もお世話になっている。


「ですが、やはり大なり小なり怪我を負う探索者はおります。その為、協会として負傷者数の減少を目的に、ダンジョンで負傷を負ったことがある探索者に聞き取りを行い、どういう場所、どういう状況、どういうモンスターが相手だった時に怪我を負ったのか実態調査を行いました。回答の一部は、お手持ちの資料に抜粋し記載しています」

「「「……」」」


 真壁さんに促され、俺達は手元の資料に視線を落とし探索者達の回答に目を通す。


・5層でトラップに掛かり、足をくじく怪我を負った。

・8層でモンスターとの戦闘中、攻撃を防ぎ損ねて腕の骨を折った。

・14階層でモンスターとの戦闘中にトラップが発動し、トラップに気を取られた瞬間モンスターの爪で脇腹を切り裂かれ大量出血した。

・19階層で怪我を負った状態でモンスターと戦闘を行った結果、左手に噛み付かれて指を3本噛み千切られた。


 他にも探索者が経験したらしい、様々な怪我を負った状況が記載されていた。こうして実際に資料として見てみると、やはり探索者は怪我とは切っても切れない関係なんだなと改めて実感する。俺達が大きな怪我を負わずにここまで来られたのは、スライムダンジョンの存在や重蔵さんや幻夜さんの指導などが大きい。

 少し状況が違えば、俺達もこの資料に一文を載せていた一人だったかもしれないな。


「御覧頂いたように、探索者が怪我を負う状況は様々です。ですが今回調査した結果、怪我を負う探索者には一定の傾向がある事も判明しました」

「傾向……ですか?」

「はい。次のページを見て下さい、ランク別探索者の負傷に関する資料です」


 俺達はページをめくり、資料に目を通していく。

 すると、ランク別に負傷者数を並べてみると確かに一定の傾向が見て取れる。


「……確かに高ランク探索者と比べ、低ランク探索者の方が多く怪我を負う傾向にありますね」

「だけどランク人口の分布で考えれば、低ランクの探索者の方が高ランク探索者より数は多いんだ。怪我人の人数が多くなるのは必然だろう?」

「でも待って、そうなるとFランク探索者よりEランク探索者の方が怪我人が多いと言うのは変になるわ。人数で言えば、Eランク探索者よりFランク探索者の方が多いみたいだし」


 2倍3倍と言った違いでは無いが、確かに柊さんが言うようにEランク探索者の方がFランク探索者より多く怪我人を出している。1.5倍ほどだろうか?

 そんな事を3人で話していると、真壁さんが口を挟む。


「はい。我々もその点に関しては気になりましたので、対象者に聞き取り調査をしてみました。すると怪我を負ったEランク探索者の方達の多くが、“探索者業にも慣れてきたし、ちょっと冒険しても大丈夫だろうと思った”と似た回答をされました」


 その真壁さんの言葉を聞き、俺達は小さく溜息を吐く。


「……慣れによる、注意力低下が怪我人増加の原因か」

「確かに慣れてきたら簡単に進める、モンスターとの戦闘なんて楽勝なんて勘違いを起こすからな。そうなると、簡単に冒険をしようと思う輩が出てくるのも無理は無いか」

「特にパーティー制が主流の今だと、個人の実力が不足していても集団では何とかなっちゃうって事があるもの。慢心しやすい状況の下地があると思うわ」

「協会としても、皆さんと同じ意見です。ですので、Fランクの方がEランクにランクアップされる際に講習を開いては?という意見が出ています」


 確かに、その対策は良いかもしれないな。ランクアップで浮ついたところに、講習という名の冷や水をぶっ掛けて目を覚まさせるのも一手だ。仮に何人かはそれでも目が覚めなくても、確実に怪我人を減らすことが出来るだろう。全く素人のFランク探索者なら講習をしても実感が伴わず話半分にしか聞かないだろうが、実戦経験を重ねたEランク探索者なら浮ついた気持ちを抑える切っ掛けにはなる。

 まぁ、出来ないのなら何れ居なくなるだけだろうな。引退か事故(・・)かは知らないけど。


「成る程……でもそうなると、なんで自分達が呼ばれたのかが余計に分かりませんね。低ランク探索者の負傷率を減らしたいのでしたら、先程おっしゃられたランクアップ時講習で一定の成果は出せそうな気がします。態々、自分達のようなモノを呼び出してまで話を聞く必要は無いと思うんですが……」

「この辺りまでの話は、本題前の前置きですね。皆様が関係する資料はDランク探索者からです」

「Dランク、ですか?」

 

 真壁さんに言われ改めて資料に目を通すと、確かにDランク探索者の負傷者数も多いようだった。

 コレが今回、俺達が呼び出しを受けるに至った資料?


「注目して頂きたい箇所は、Dランク探索者の負傷者から聞き取った意見です」

「意見……」


 資料の下の方に書かれていたのは、Dランク探索者が怪我を負うことになった探索を行った理由だった。そこには先程のEランク探索者達と同様に、“探索者業にも慣れてきたし、ちょっと冒険しても大丈夫だろうと思った”と言う物が多い。だがしかし、中には別の理由を述べている探索者も居た。


・最近ドロップアイテムの買取額が下がり稼ぎが減ってきたので、何時もより深く潜ったら強敵と遭遇した。

・優秀な後輩の追い上げが凄く、先輩としての見栄を保とうとランクアップを目論んで何時もより下の階層に挑戦したが相手が強く失敗した。

・同じDランクの探索者パーティーが最前線の攻略組に入っているんだから、自分達もイケると思った。


 最後の理由を目にした時、俺は思わず目を見開き顔を上げ真壁さんを凝視した。


「もしかして、最後の理由。コレって……」

「……はい。確認はしていませんが、おそらく御想像の通りだと思います」

「「「……」」」


 俺達3人は互いに顔を見合わせ、表情を若干引き攣らせつつ気まずげな表情を浮かべた。

 この最前線に行くDランクパーティーって、絶対に俺達のことだよな……。






 俺達は引き攣った表情を取り繕いながら、真壁さんに話し掛ける。

 何となく答えは分かっているが、聞かないわけにも行かないからな。


「えっと、その、つまり、本題と言うのは……」

「はい、皆様の探索者ランクのランクアップについてです」

「……やっぱり」


 淡々と答える真壁さんの様子に、俺達は諦めにも似た溜息を漏らす。恐らくコレ、いいえと言えない類いの御願いだよな、と。

 そんな俺達の内心を察したらしい真壁さんは、申し訳なさが混じる苦笑を漏らす。


「本来探索者ランクというモノは、ランクアップを希望する探索者の方が審査申請し、協会は申請を受け申請者の実績を加味しランクアップの可否を判断します。ですので、本来は探索者側から申請されない限り、ランクアップの打診は行わない方針なのですが……」

「負傷者から聞き取りをした結果、俺達のランクが負傷者を増やす原因……一因になっていると?」

「……はい」

 

 俺の確認の言葉に、真壁さんは姿勢を正し真顔で返事を返してきた。

 そして、話は続く。


「こう言っては心苦しいのですが、皆様のコレまでの実績は調べさせて頂きました。これまで提出されたドロップアイテムの質、アイテムの換金額総計、ダンジョン内に潜んでいた犯罪探索者の捕縛実績等々……申請さえ有れば即座にSランクを授与しても問題ない実績の数々。忌憚のない言葉で表すと、“ランク詐称?”と言う感じですね」

「「「……」」」

 

 俺達は真壁さんの率直な意見に頬が引き攣るのを自覚しつつ、まぁそう言う反応になるわなと苦笑を浮かべる。自分達のコレまでの実績を思えば、今まで協会サイドから接触や打診が無かった事こそ可笑しかったのだ。俺達が高校生だから協会も直接は手が出しづらく放置していたのかもしれないが、今回の調査の結果、俺達のランクが負傷者増加の一因を担っている事が判明したので重い腰を上げた、って所かもな。

  

「ん、んっ……すみません、言葉が過ぎました。話を戻します。調査資料にもありますように、貴方方の事を理由にし無理な探索に乗り出す方達が居るので、貴方方のランクを上げる事で無謀な探索を抑止する事が出来ないか?と言う話が上がりまして……」

「それで、今回の呼び出しに繋がったと言う事ですか……」


 俺達のランクを上げれば、無茶をする探索者が減る。確かに協会側としては、低コストで負傷者数を減らせる一手だよな。

 しかも無理やり実績をつくってと言うわけでは無く、元々十分な実績を持っている者のランクを上げるだけ……。問題があるとすれば、俺達がランクアップを承知するかだけど……。


「……」


 無言のまま、唯々真っ直ぐ俺達の事を見てくる真壁さん。“いいえ”……とは言いづらい空気が部屋に満ちる。確かにこんな話を聞かされれば、嫌とは言わないよな。

 しかし、このまま素直に“はい”と返事を返すのも癪にさわる。なので……。


「あの、出来れば俺達、余り目立ちたくないので高校を出るまでは、今までのランクのままでいたいんですけど……」

「!? えっ、で、ですが……ランクを上げれば色々な特典がつきますよ?」

「……例えば?」


 まさか俺達が断るとは思っていなかったらしく、真壁さんは少し慌ててランクアップした際のメリットを口早に説明する。だがその利点も、基本的に俺達が事前に考えていたモノで有り、俺達にとっては大した利点にはならない。しかも真壁さん、説明の端々から何気に俺達をAランクにしようとしていた事が窺い知れた。あのまま素直に“はい”と返事を返していたらメリットが無い状態で無駄に有名になっているところだったな。

 そして暫しの話し合いの結果、俺達はランクアップを受け入れる事にした。ただし、Cランクへの昇格をだけど。真壁さんは悔しそうな表情を浮かべていたが、ランク自体は上がっているので問題はないだろう……多分。


「で、ではランクアップの手続きを行いますので、下の窓口で探索者カードの更新を御願いします」

「はい、カードの更新はどれくらいで出来ますか?」

「カードデータの更新ですので、5分もあれば終わります」

「分かりました、では」

「はい。お忙しいところ、お時間を取って頂きありがとうございました」


 そう言って真壁さんは軽く一礼しながら、俺達が会議室を出て行くのを見送ってくれた。

 ふぅ。それにしても、この後ダンジョンに潜るのか……どうしよう?
















探索者全体の安全の為に……と言われたら断れませんよね。渋々、一つだけランクアップしました。

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― 新着の感想 ―
今度は高校生でも高ランクいけるなら、自分もいけるやろ!っていう大学生や社会人が出そう。 考えが足りないのはどこにでもいるし・・・
すっごい無責任だね。 命のやりとりがある国家事業だということもっと免許試験、また定期的な更新講習ですべきだね。 主人公達みたいな最低系が蔓延ってしまう社会になる。
[一言] 主人公たちコミュ障で知らん人とまともに話せないのにランクがどうこうの話が出るわけないだろ。 しかも自己責任を責任転嫁してるのを公僕の無能が鵜呑みにしちゃいかんだろ 主人公たちのランクを上げた…
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