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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第13章 夏休みはダンジョン探索三昧
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第278話 トカゲの皮って高っ!

お気に入り23700超、PV38100000超、ジャンル別日刊70位、応援ありがとうございます。



朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売中です。よろしくお願いします。






 着替えを済ませた俺達は、ドロップアイテムが詰まったバックパックと保冷バックを担ぎ買取所へと移動した。だがしかし、俺達は入り口で思わず足を止め小さく溜息を吐く。


「うーん、ヤッパリ人が多いな……」

「まぁ夏休み期間中だからな、普段は学校とかでこれない学生組が土日とか関係なく来てるんだ。買取場が、普段以上の賑わいになるのは仕方ないって」

「そうね。しかも大体の高校は、7月いっぱいで夏季講習も終わるから尚更よ」


 買取カウンターがある待合所を見渡してみれば、その多くは自分達と然程変わらない年齢の学生達でごった返していた。整理券発行機の発行番号も既に100半ばを超えており、かなり待たないと受付さえして貰えないで有ろう事が窺える。

 うん、探索終わりにこの待ち時間はキツいな。現にほら、壁に背を預けて寝ている奴もいるしさ。


「まぁ、まぁ取り敢えず、整理券を貰おうか」


 俺は若干憂鬱な面持ちで発券機の前に移動し、整理券をもらう。

 そして発行された整理券に記載されている番号は205番、まさかの200番台である。昔に比べ複数の受付カウンターがあるので回転は速いだろうが、軽く30分近くは待たないといけないであろう数字だ。


「「「……」」」

「先に、整理券貰っとけば良かったかな……」


 俺達は200番台の数字が書かれた整理券に視線を落としながら、防具を着けた探索者が整理券を発券し足早に仲間が待つ出口に向かって行く姿を眺めた。アレって、何度か経験した上での待合時間対策なんだろうな。

 

「仕方が無い、順番が回って来るまで我慢しよう。まぁ、お茶なんかでもして時間を潰していれば、その内順番も回ってくるよ」

「そうだな……。あっ、じゃぁ彼処に行ってみるか」

「彼処?」


 窓の外に見える建物を指差しながら、裕二は俺達を誘う。


「この間行った、フードショップだよ。タダお茶飲みながら待つより、ショップの中を散策した方が暇を潰せるぞ」

「フードショップか……」

 

 彼処のイメージとしては、下で買うより割高なのと、押しの強い店員がいる、である。 

 なので、俺は少し顔を顰めながら裕二に返事を返す、


「彼処、面倒なんだよな。店員が」

「まっ、そうだろうな。オススメ商品を薦めてくれるのは良いんだけど、少し強引だったよな」

「絡まれてるの助けてくれなかったし……」

「横から口を出すと、話が長くなると思ったんだよ」

「「……」」


 前回のことを思い出しながら、俺は裕二と無言で睨み合うように顔を合わせる。

 そして暫し俺達の間に沈黙が後、柊さんが若干呆れたように声を掛けてくる。


「はぁ二人とも、取り敢えず小芝居の続きは場所を移してからにしない? ほら、変に注目を集めてるわよ?」

「「えっ? ……あっ」」


 柊さんが言うように、確かに俺と裕二に周囲から少なからず好奇の眼差しが集まっていた。

 うん、コレは恥ずかしいな。


「そ、そうだね。場所を移した方が良さそうだね……なぁ、裕二?」

「ああ、そうしよう」


 と言うわけで、俺達は周囲の視線を避けるように足早に待合室を出た。






 好奇の眼差しから逃げ出した俺達は、ほとぼりが冷めるまでフードショップを散策することにした。前回来た時は、ダンジョン内に持っていけるレトルト系を中心に見て回ったので、今回は別のコーナーを中心に回ってみる。

 例の押しの強い店員がいたコーナーには出来れば近づきたくないからな。


「ふーん、コッチもダンジョン食材を使った食品ばかりだね」

「そうだな。ん、ミノ肉味の厚切りチップス……ね。美味いのか、これ?」

「オーク出汁のスープ、か……お父さんに買っていこうかしら?」


 全体的に、既存の商品をダンジョン食材で代替したり混ぜたような品が多い。まぁダンジョン食材が出回り初めて、まだ1年も経ってないからな。ダンジョン食材を全面的に打ち出した新商品開発となると、色々と難しいのかもしれない。

 とは言え、興味をそそる商品もいくつか見付けた。


「良し、これをお土産に買っていくか」


 俺が手にしたのは、真空パックになったミノ肉のローストビーフだ。

 因みに値段は、100gも無い小さな商品なのだが一個3000円もする。コレを安いとみるべきか、高いとみるべきか……。


「大樹、何を買うか決まったか?」

「うん。裕二は?」

「俺はもう買ったぞ」 

「私も買ったわ」

「えっ!? ゴメン、じゃぁ急いで買ってくるわ」 


 俺は、店のロゴが入った買い物袋を、掲げて見せる二人に軽く頭を下げた後、急いで会計を済ませる。そっか、俺が一番最後だったか……。

 と言う訳で、各々がお土産を買っていると何時の間にか時間が経っていた。


「じゃぁ、受付に戻ろうか? そろそろ呼ばれるかもしれないしね」

「おう、結構良い時間潰しになったな」

「そうね。今までお土産って言うと、引き取った食材をそのままと言う物ばかりだったから、丁度良い機会だったわ」


 食材そのままというのも決して悪いわけでは無いが、今まで所謂お土産って感じじゃ無かったからな。何と言うか……狩りの成果?って感じだった。まぁそれでも、評判は良かったんだけどな。

 とまぁ、そんなやり取りをしながら待合室に戻ると順番待ちの番号が200番を指していた。どうやら、中々良いタイミングで戻ってこれたようだ。


「後、5分も待ってれば順番が回ってきそうだな……」

「そうだな。何処か空いてる席は……無いな」


 待合室は相変わらずゴッタ返してしているので、座るのは無理そうだ。まぁ直ぐ順番が回ってきそうなので、立ったままでも特に問題はないだろう。

 そして予想通り、5分と経たずに俺達の整理券番号が呼ばれ買取受付カウンターへ向かった。


「お待たせしました、ご用件は?」

「買取査定を御願いします」

「はい。では、探索者カードと査定品の提出を御願いします」


 俺達は係員の指示に従い、カードとドロップアイテムを詰めたバッグ類をカウンターに置く。


「はい、確かにお預かりします。では査定が終了しましたらお呼びしますので、呼び出しが聞こえる近くでお待ち下さい」

「はい。じゃぁ、よろしく御願いします」


 と、既に慣れたやり取りを済ませ、俺達は受付カウンターから離れた。

 はてさて、トカゲ素材がどれくらいで査定されるのかな……。






 思ったよりも時間が掛かり、20分程経ってから査定終了の呼び出しが掛かった。何時も……と言うか、前回は10分掛からず査定が終わったのにな。

 若干待ちくたびれた感を出しつつ買取カウンターに向かうと、係員さんが申し訳なさげな表情を浮かべながら話し掛けてきた。


「お待たせして申し訳ありません、査定が終了しました。査定結果は此方になります」


 と言って、査定額が書かれた用紙を手渡してきた。渡された紙に目を通していくと、そこにはある程度変動は有るものの見慣れた査定額が並んでいる。

 しかし新規の査定提出物……トカゲ素材の項目で視線が不意に止まる。そして思わず動揺し……。


「……あの、この査定額に間違いってありませんか?」

「いえ、その額で間違いないはずです」

「そう、ですか」


 見間違いかと思い、念の為係員さんに尋ねてみたが間違いは無いらしい。

 となるとマジか、トカゲの皮が1枚10万円って……。


「……肉も……それなりの買取額だな」

「おいおい大樹、今そっちはどうでも良いって。それにしても滅茶苦茶高いな、皮」

「何で、ここまで高いのかしら? 別に、マジックアイテムの類いって訳でもないのに……」


 俺達は査定額が書かれた紙を覗き込みながら、トカゲ皮の買取額の高さに頭を悩ませる。

 すると、そんな俺達の疑問に答えるように、係員さんが高額買い取りの理由を教えてくれた。


「それの査定額が高くなった理由は、買取強化対象のドロップ品だからです。高い耐火耐熱性能が知られ、需要が高まっているんですが……品が品ですからね。欲しいと言われても、数がそろえられませんから」

「ああ……成る程」

 

 つまり需要過多になって、買取がプレミア価格になっている、と。そんなに良いモノなのか、トカゲ皮って?

 気になりトカゲ皮の性能を聞いてみると、簡単な説明を受けた。何でも、ガスバーナーの炎を当てても直ぐには燃えださず、1分は穴も開けずに耐えられるらしい。それがドレ程凄い事なのかまでは良く分からないが、素人視点でもガスバーナーの炎に耐えられる皮なら色々と利用法は多いだろうなと想像は出来た。現代に現れた、火ネズミの皮衣って感じか?


「それで、皆さんに御願いしたい事があるのですが……」


 周りを見回し確認した後、係員さんがカウンターから少し身を乗り出し俺達だけに聞こえるくらいの小声で相談を持ちかけてきた。

 まぁ聞かずとも、何となく相談の内容は分かるけどさ。


「出来ればで良いんですが、持ち帰られるアイテムの皮の比率を少し多くして貰えないでしょうか? 取りに行ける方が少なく、全然需要が満たせないんですよ。それに場所が場所ですし……こう言ってはなんですが、未熟な方にこの話が漏れて無茶をされると困るんです」


 確かにトカゲの皮を手に入れようと思えば、30階層まで潜らないといけないからな。彼処まで行ける探索者ともなれば、数も絞られる。その上、安定して皮を優先して持ち帰ってこれる者ともなれば、更に減るよな。

 協会側としても、ギリギリ手の届きそうな位置にいる探索者パーティーが無茶をして全滅などしたら目も当てられない。ギリギリとはいっても、20階層地帯を狩り場とする精鋭探索者だからな。そんな層が数パーティーでも全滅したら……皮が手に入らない以上の損失だ。 


「ですので、ある程度需要が満たせるまでの間、暫くはこの買取額が維持されます」


 つまりこの係員さんは暗に、俺達に皮をメインに持ち帰ってきてくれと言っているんだな。

 確かに、換金物としてみたらトカゲの皮は優良品だ。軽く嵩張らない上、しばらくの間は高額買い取りが約束されている。最近買取額が下がってきているダンジョン肉をキロ単位で持ち帰るより、皮をメインに持ち帰る方が良い稼ぎになる。マジックアイテムやスキルスクロール、そしてトカゲの皮……30階層近くをメインの狩り場とするのなら、この組み合わせが一番稼げるな。

 

「えっと……出来るだけ頑張ってみます」

「御願いします。ですが、無理はなさらないで下さい。万が一、それが原因で怪我をされたりしても困りますからね」

「ハハッ、そうですね」


 コレは……万一怪我を負っても協会は責任を負いませんよ、と言う牽制だろうか? 実質、依頼と取っても良さそうな御願いだが……あくまでも買取額に関する世間話をしたと言う体裁を取っている、と言うスタンス。

 うん、深読みは止めておこう。俺達はあくまでも、買取強化対象の品ですよと言う話を聞いただけだな。


「じゃ、じゃぁ取り敢えずコレで買い取り御願いします」


 そう言いながら、俺は買取査定額の書かれた紙を乗り出した姿勢を戻した係員に渡す。


「はい。振り込みの方は、3分割でよろしいでしょうか? それとも、どなたかのカードに一括で?」

「3分割で御願いします」

「分かりました」


 と言うわけで、少々時間は掛かった物の、買取手続きをすませ買取カウンターを後にした。

 ふぅ、やっと終わったよ。因みに、今回の探索で得たアイテムの査定額の合計は凡そ163万円だった。






 建物から出た後、人気の少ない自販機コーナーで各々飲み物を購入し一息入れていた。

 そして当然、茶飲み話はトカゲの皮についてだ。


「……どうする、次の探索は? 御願いされた通り、トカゲの皮をメインに持って帰るか?」

「確かに買取額的には皮がメインでも問題ないけど、30階層まで降りてトカゲ狩りか……」

「ずっとトカゲを狩り続けるってのも、何だかなって感じよね……」


 二人ともこの話には、あまり乗り気では無いようだ。まぁ俺も、あまり乗り気じゃないんだけどな。確かにトカゲの皮をメインにすればより稼げはするが、俺達はその事にあまり魅力を感じていなかった。

 理由としては、今の所俺達が資金的な面で困っていないと言う事、折角待ちに待った長期休みで、コレまで時間的制約で出来なかった長時間探索が出来ると言う冒険心?好奇心?が、30階層付近に留まりトカゲ狩りに明け暮れる事を好ましく思っていないからだろう。


「となると、トカゲの皮の持ち帰り量は少し増やすとして、更なる下の階層へ探索範囲を広げていく……って感じかな?」

「そうだな、俺はその方針で良いと思うぞ」

「私も、その方針で良いわ」

「じゃぁ次回の探索は、皮を多めに持ち帰りつつ探索範囲を広げるって方針でいこう」

「おう」

「ええ」


 と言うわけで、次回の探索方針は決まった。

 トカゲの皮も、今回提出した量より多く出せば協会も文句言わないだろう……多分。
















火気厳禁の危険地帯に生息しているトカゲの皮ですからね、かなり高い耐火耐熱性能を持ってました。

耐火服、耐熱手袋……応用は色々ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] なお、実はパイナップルの皮もガスバーナー1分程度なら耐える模様。
[気になる点] トカゲ皮は普通に加工できるものなのかな? 前に熊の毛皮がハサミで切断できず懐刀で加工した描写があったけど、専門的な道具なら加工できるものなのでしょうか? 深い層にいるモンスターほど物…
[一言] 仲間内で「どうする?」「あの店嫌だ、○○だから」ってのをやってても、その程度では誰も注目しないと思う。 この、注目されたい訳じゃないのに目立っちゃうというシチュエーションは作者が余程お気に入…
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