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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第13章 夏休みはダンジョン探索三昧
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第275話 トカゲばっかりだったな、この階層

お気に入り23530超、PV37420000超、ジャンル別日刊99位、応援ありがとうございます。



朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売中です。よろしくお願いします。






 探索を開始して5分、俺達は早速長草の厄介さに辟易した表情を浮かべた。腰の高さまで伸びている為、長草が腰から吊るした装備品に意外と絡むのだ。

 しかもこの長草、そこそこ強度はあるのだが探索者が少し強く引っ張ればちぎれる程度である。だが数本纏めて引っかかると、それなりに抵抗を感じた。もし戦闘中に長草が絡んだ場合、咄嗟の動きが阻害される可能性が出てくるかもしれない。更に……。


「この千切れた断面から出る汁……結構ヌルヌルしてるな」

「まぁ多く油分を含んでる草みたいだし……当然漏れる汁にも油は含まれてるよな」

「でもそうなると、無闇矢鱈に千切るのは危ないわ。少量なら兎も角、あまり多く飛び散ったら辺り一面油まみれになるもの。流石に油が撒かれた場所でモンスターとの戦闘……何てのは御免被りたいわ」


 俺は指先に付いた長草の汁をアルコール入りのウエットティッシュで拭きとりながら、注意すべき点がまた一つ増えたと眉を顰める。燃える、絡む、滑る……本当に厄介だよな、この長草。

 一つ救いと言えば、倒した長草を軽く踏みしめる位なら、油分を含む粘液が沁み出てこないと言った事だろうか?


「足元が滑る戦場か……確かに、それは嫌だね」

「元々氷上での戦闘とかなら兎も角、どこに滑る粘液が落ちているか分からないってのは厄介だな。元々滑る場所だと分かっているならそれなりに備えも出来るけど、偶発的に発生したら備えもあったものじゃないよ」


 俺と裕二は、そんな状況を想像し眉を顰める。突発的に発生する足元が覚束ない戦場……最悪だな。長草が邪魔だからと言って、風魔法なんかで長草を刈り取りながら進んだら滑る道の完成か。

 こうなってくると、長草を刈らずに踏み締めながら道を作って進むのが無難かな? ……時間が掛かりそうだな。何か、道を作るのに良い魔法とかなかったかな?


「コレって……足元を滑らせながらモンスターとの戦闘、焦りから使用禁止の火魔法を咄嗟に使って丸焦げに……とか言う遠回りなトラップじゃないわよね?」

「うーん、それは……無くはない、かも?」

「人間、焦ったら咄嗟の行動で禁じられた行動でも躊躇なくとる事があるからな……心理的トラップと言う可能性もなくはないかもしれないな」


 良く燃える長草と思いきや、2重3重に中々いやらしい仕掛けだ。この階層、モンスターとの戦闘より長草への対処が攻略のポイントかもしれないな。

 





 慎重に長草を踏み固めながら進んで行くと、少し遠くの位置の長草が不自然に揺れた事に裕二が気付き右手を横に伸ばし俺達の足を止める。


「……敵だ。前方左斜め前の茂みに潜んでいるみたいだ」

「「……」」


 裕二の警告に、俺と柊さんは武器を持つ手に力が入る。


「二人とも、少し後ろに下がって敵を踏み固めた道まで誘いだそう。戦闘は、相手の姿を確認してからにした方が良い」

「了解」

「分かったわ」


 俺達は周囲に他の敵が潜んでいないか警戒しつつ、長草を踏み固め進んで来た道を少し戻る。すると俺達が近付いてこないと察したのか、一匹のグラスリザードが踏み固めた道に姿を見せた。

 どうやら今回も、奇襲作戦を捨てたようだ。良いのか、それで?


「敵は、グラスリザードみたいだね」

「一匹……だけみたいだな。他に潜んでそうな気配も無いみたいだ」

「単独で潜んでいたのなら、我慢して奇襲出来るタイミングを待てば良いのに……」


 俺達は出て来たグラスリザードに対し、少し呆れたような眼差しを送る。

 とは言え、何時までも動かないわけにも行かないので……。


「今回は俺が相手をする、さっきは二人に任せっきりだったからな」


 そう言って、裕二が俺達の前に歩き出る。すると、グラスリザードも裕二を目標に定めたのか攻撃態勢に入った。と言っても、先程の2匹と同じように前傾姿勢で飛び掛かってこようとして来ているだけなんだけどな。

 それはさっき見たから、裕二相手には悪手だぞ。


「……」

「ギュッ!」


 グラスリザードは前足に溜めた力を使い、裕二目掛けて宙を飛び襲い掛かる。だが、裕二は先程1度見た光景だったからか、尻尾からの攻撃を警戒しつつグラスリザードの脇をスリ抜けながら右手に持った小太刀を一閃。グラスリザードの首が宙を飛んだ。

 そして……。


「……ふぅ、終わったぞ」

「お見事……って言えば良いのかな?」

「……ありがと?」


 等と言った会話を粒子化するグラスリザードを背景にしていると、何かに気付いた柊さんが声を掛けて来る。

 

「あっ、ねぇ二人とも? アレ……」

「アレ? あっ……」

 

 柊さんが指さした先、グラスリザードが粒子化した跡にソレはあった。


「スキルスクロールか……裕二、運が良かったね」

「ああ、そうみたいだな」


 そう言いつつ裕二はスキルスクロールを拾い上げ軽く一瞥し確認した後、俺に向かってスキルスクロールを放り投げてきた。

 

「大樹、コレの中身の鑑定頼むわ」

「了解。どれどれ……?」


 俺は裕二から受け取ったスキルスクロールに対し“鑑定解析”を掛け、スクロールの中身を確認する。結果、このスキルスクロールに封入されているスキルは“身体強化”パッシブスキルであることが判明した。当たりともハズレとも言えない、中々微妙な内容だ。俺達には必要の無い代物だし、安くも無いが高くも無い買取額のスキルスクロールである。

 その事を裕二に伝えると、残念げに半目でスキルスクロールを眺めた。


「そっか……まぁ、コレも時の運てものだしな」

「あら、不満そうね? 良いじゃ無い、広瀬君はスキルスクロールを手に入れられたんだから。私なんか、何もドロップしなかったのよ?」

「あっ、いや、そういうつもりじゃ無かったんだけど……何かゴメン」

「別に、謝って貰わなくても良いわよ」


 裕二の反応に少し反感を覚えたらしい柊さんの釘刺しに、裕二はバツの悪そうな表情を浮かべ謝罪の言葉を口にする。かくいう俺も、裕二の反応に少しムッとしたけどな? だって俺、トカゲ肉だったしさ。

 とまぁ、そんな遣り取りをした後、俺達は再び長草を踏み締めながら下の階層へ降りる階段を探し歩き始めた。






 突然、上からグラスリザードが降ってきた。何を言ってるか分からないと思うが、実際に上からグラスリザードが降ってきたんだよ。しかも5匹も。

 まぁ気配というか、敵意が隠せてなかったから低木の上に居る事には気付いてたけどさ。


「チッ! 裕二、柊さん!」

「分かってる! 後ろに落ちる2体は俺が受け持つから、前と左の奴の対処は頼む!」

「左のは私がやるわ! 九重君は、前の2匹を御願い!」

「了解! 二人とも気を付けて!」


 俺達は上から降ってくるグラスリザードの分布を見極め、素早く陣形を組み替え迎撃準備を整える。纏めて1カ所に降ってくるのでは無く、俺達を取り囲むように降ってくるので、包囲される前に各個撃破する方針だ。

 あの数のグラスリザードが、長草に隠れつつ包囲しようと攻撃してきたら厄介だからな。と言うわけで……。


「先ずは1匹目!」

「ギュッ!」

「ギュギュッ!?」


 俺が担当する2匹の内、近くに降ってきたグラスリザード目掛けて刀を振るう。俺の接近に気付いた狙いのグラスリザードは咄嗟に尻尾を振り、重心移動で落下位置を変えようとしていたが、自由の効きにくい空中では無駄だ。その回避の努力は認めるが、移動量が少ない上に遅すぎる。

 結果、俺の振るった刀はグラスリザードを縦に一刀両断した。


「ギュギュッ! ギュッ!」


 仲間が一撃でヤラれ、残ったグラスリザードは俺を容易ならざる敵と認識し最大限警戒する。威嚇するように、自分を鼓舞するように声を上げ続け、目は動揺と焦りを色濃く映し出していた。

 まぁ、仲間が抵抗のかいも無く一刀両断されたらなぁ。


「さて……次はお前だ」

「!? ギュッ!」


 俺の言葉を理解したかは分からないが、グラスリザードは破れかぶれになったのか正面から俺に向かって地を這いながら突っ込んできた。前の奴みたいに飛び掛かってこなかったのは、仲間がヤラれ空中に飛び上がるのは危険だと学習したからか?

 だが、上だろうが下であろうが俺のやる事に変わりは無い。


「シッ!」

「ギュッ……」


 俺はグラスリザードの突撃を軽くジャンプして躱し、着地する時にグラスリザードの尻尾を踏み潰し動きを止めた。トカゲの尻尾切りをして逃げるかもと杞憂したが、グラスリザードの尻尾には自切機能は無かったらしい。

 そして尻尾を踏み抜かれ動きを止めたグラスリザードの首筋目掛けて刀を振るい……その首を一刀のもとに撥ね飛ばす。


「ふぅ……終わった」


 首から血を垂れ流しながら粒子化を始めた2匹のグラスリザードを確認した後、別方向でグラスリザードを迎撃している裕二と柊さんの様子を窺う。まぁ、大丈夫だとは思うけどね。

 そして事実、何の問題も無かった。二人が担当していたグラスリザード達は、二人の足下で粒子化を始めている。 


「二人とも、終わった?」

「おう、終わったぞ」

「コッチも終わったわ」


 どうやら無事に、グラスリザード達を殲滅出来たらしい。最初の方は自分から有利な場所や戦法を放棄するなんて……と甘く見ていたグラスリザードだったが、まさか集団で奇襲包囲作戦を仕掛けてくるようになるとは思っても見なかった。もしあのまま俺達が奇襲に気付かず空中迎撃が出来ずに着地を成功させられていたら、グラスリザードは動きも速いので長草の障害もあって苦戦していた可能性もある。

 まぁ奇襲の初動を潰した時点で、勝負は決まったみたいな感じになったけどな。


「さてと、じゃ戦闘後のお楽しみ、今回のドロップ品は……」

「……肉だな」

「……肉ね」

「……肉だし」


 粒子化を終えた跡には今回のドロップアイテム、トカゲ肉が5つ落ちていた。5匹が5匹とも、肉を落とすって……。剥ぎ取りナイフ使わずにドロップ率100%か……これ、当たりだよな?

 俺は若干遠い目をしつつ、トカゲ肉を回収する。 


「……うん、コレは協会に買い取って貰おう」

「……味見はしてみないのか?」

「いやぁ、トカゲ肉の調理法とか知らないしさぁ……何となく食べにくくないか?」


 オーク肉やミノ肉というダンジョン産の肉を食べていて今更だが、グラスリザードの肉はどちらかと言うとゲテモノ肉の部類では?と言う認識が有り手が出ない。多分、今まではオークは豚、ミノタウロスは牛の親戚と言う認識だったから忌避感も少なかったんだと思う。だが、グラスリザードは見た目からしてトカゲの親戚では?と言う事もあり、何となくという理由だが忌避感が強い。

 もしかしたら、食べてみたらトカゲ肉も美味しいのかもしれないが、食べてみようという気が起きないんだよな。故に、トカゲ肉は買取直行だ。


「それなら、お父さんに調理して貰う? 昔、料理研究で色々な分野に手を伸ばしたことがあるって言ってたから、もしかしたら調理出来るかもしれないわよ?」

「え゛っ!? ああ、め、迷惑じゃ無いかな……」

「大丈夫よ。お父さんも新しいダンジョン食材が手に入ったら、研究してみたいから分けてくれっていってたし。まぁ、色々研究するだろうから食べられるのは少し遅れるかもしれないけど」

「そ、そうなんだ……」


 なんか、トカゲ肉を食べる方向に話が進んでいる様な気がする……と言うか、これ最終的には食べる流れの話だよね、絶対。

 俺は裕二に助けを求めるように、拒否してくれないかと縋るような視線を送った。だが、その期待は呆気なく裏切られる。 


「まぁ、良いんじゃ無いか? ちゃんと調理して貰えるんなら、食べられない味って事は無いだろうしな。なっ、大樹?」

「ああ、うん。そうだね……」


 隠し切れていない含み笑いを浮かべた表情で、裕二は俺の希望を打ち砕いて来やがった。

 そして裕二が賛成に回った結果、俺は嫌だ!!とは言えず、賛成2の消極的反対1となりトカゲ肉の試食会が行われる事になった……なってしまったのだ。はぁ。






 トカゲ肉試食会の開催に意気消沈しつつ探索を続けること30分、漸く31階層に続く階段を見付けた。階段が隠されていた場所は中々に予想外で、30階層に降りてくる階段から壁伝いに左に進んだ端にあったのだ。長草のせいで見えなかったとは言え、歩けば5分程で着く場所に有ったとは……。

 まぁ階段までの最短ルート上にはグラスリザードが沢山潜んでいたので、壁伝いに進むことが必ずしも近道とは言えないんだろうけどな。


「さて、と……どうする? 下に降りてみる?」

「そうだな、まだ時間はあるし降りてみるのも良いんじゃ無いか。幸か不幸か上に上る階段も直ぐ近くにあることだし」

「そうね。次回来る時の為にも、ある程度下調べをしておくのも悪くないと思うわ」


 俺達は31階層に続く階段を前にし、コレから先の方針を話し合う。帰還開始時間までには余裕があるので、時間的には探索を続行しても問題ない。その上、モンスターとの戦闘で特に疲労も損害も無いので話し合いの結果、31階層に降りるという結論に達した。

 と言う訳で……。


「じゃぁ31階層を目指し、出発」

「「おお」」

















試食会決定! まぁ、料理人がきちんと調理してくれるのなら、そこそこの味にはなる……筈ですよね?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 32話でゴブリンの肉を食べているのにトカゲの肉をあそこまで嫌がるのは不自然な気がする。
[良い点] トカゲ肉、鶏のササミみたいな感じで割と美味しいらしいですよ。
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