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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第13章 夏休みはダンジョン探索三昧
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第274話 トカゲ肉……か。

お気に入り23480超、PV37230000超、ジャンル別日刊56位、応援ありがとうございます。



朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売中です。よろしくお願いします。






 威嚇の唸り声をあげながら、グラスリザードがジリジリと距離を詰めてくる。口からは涎を垂らしており、俺達に噛みつく気満々と言った様子だ。


「あちらさんは、やる気満々と言った感じだね」

「まぁ、態々自分から出てきたんだしな。そりゃぁ、やる気満々だろうさ」

「二人とも、お喋りはその辺にして……来るわよ」

 

 俺と裕二が軽口をたたき合っていると、柊さんから注意が飛んでくる。グラスリザードが前足に重心を移動し、飛び掛かってくる兆候を見せたからだ。

 確かに、軽口をたたいている場合じゃないな。俺と裕二は目を細め、グラスリザードの初動を見極めにかかる。


「私が右のリザードの相手をするから、九重君と広瀬君は左のリザードをお願い」

「了解。片付いた後に援護は必要?」

「この相手なら、要らないわ。先に片付いたのなら、追加の敵が居ないか周辺警戒をしておいてくれた方が助かるわね」

「了解、気を付けて」


 柊さんの提案に乗り、俺達は僅かに移動し立ち位置を調整する。動いた距離としては一歩分にも満たないが、グラスリザードの攻撃対象を分散させる事に成功した。柊さんに集中していたグラスリザード達の視線が一体分、俺の方に向いたからな。

 そしてグラスリザードが飛び掛かってきた事で、30階層初めての戦闘が始まった。


「ギュギュッ!」

「っと! 汚ねぇなぁ!?」


 飛び掛かってきたグラスリザードを避けながら首を斬り落とそうとしたのだが、口から垂れる涎が飛び散りながら迫ってきたので俺は大きく飛び退いて避けた。突撃自体は一直線に向かってくる極々平凡なものだったが、拡散する涎を避けながら攻撃しようと思えば大きく避けざるをえず、間合いが開いてしまう。

 少々厄介だが……まぁ、対処出来ないってモノではないけどな。


「詰まる所、涎が飛び散る前に狩ってしまえば問題ない訳、だ!」

「ギュッ!?」


 飛び散る涎を回避した俺は、着地し体勢を整えようと反転しかけていたグラスリザードの首を素早く狩り取った。涎は飛び散るから厄介な訳であって、飛び散る前に狩り取れば何ら問題はない。

 まぁ、こんな面倒な事をせずとも、何らかの遠距離攻撃手段があれば対処は簡単なんだけどな。


「……」


 グラスリザードの首を狩り取った俺は、周囲を警戒しつつグラスリザードの死体が粒子化を始めるのを視線を外さないまま待った。何せ相手はグラスリザード……つまりはトカゲの一種だ。流石に首を狩り取られたら無いとは思うが、トカゲのしっぽ切りが起きないとも限らない。相手はモンスター、死者蘇生染みた強力な再生スキルを持っていないとも限らないからな。まぁ、30階層程度のモンスターがそんな強力なスキルを持っている可能性はまず無いとは思うけど。

 そして復活を警戒しつつ待つこと十数秒後、グラスリザードの死体が粒子化を始めた。 


「……良し、確実に死んだな」


 粒子化は、モンスターが確実に死んだ証。粒子化が始まったという事は、やはり強力な再生スキルは持っていなかったらしい。

 でも、もし狩り取ったのが尻尾だったら再生していたかもしれないな。


「おい大樹、終わったか?」

「ああ、今終わった。柊さんの方は?」

「柊さんは……」

「私の方も、いま終わったわ」


 視線を声がした方に向けてみると、“洗浄”スキルで武器を清める柊さんの姿が目に入る。因みに、柊さんが相手にしたグラスリザードは粒子化をし終え、ドロップアイテムを残す事なく姿を消していた。

 残念、柊さんの方はドロップアイテムは無しか……。


「そう。怪我は……無いみたいだね」

「ええ、特に苦戦する事もなかったもの。九重君の方は?」

「こっちも怪我は無いよ、まぁ念の為に“洗浄”はしておいた方が良いと思うけどね」


 そう言いつつ、俺も“洗浄”スキルを使用しグラスリザードの首を狩った武器を清める。付いてはいないと思うが涎……病原菌を多数含む得体のしれない体液がついていたら嫌だからな。

 まぁ実際には、唾液を調べてみないと病原菌の有無は分からないけどな、念の為だよ念の為。


「それよりも、残念だったね柊さん。今回、ドロップ品は無かったんだね」

「ええ、折角の30階層の初戦闘なんだから……とは思うんだけどね。でも、コレばっかりは運次第だもの。望めば望む品が出てくれる訳じゃないんだし、潔く諦める事も重要よ」

「……確かに、そうかもしれないね」

「でも、九重君の方は当たり?を引いたじゃない」

「……当たり、ね?」 

 

 そう漏らしながら、俺は今回の戦闘で得たドロップ品……トカゲ肉に視線を送った。

 アレを貰ってもな……正直に言って持ち帰る気になれないんだけど。


「個人的には、ハズレを引いた気分なんだけど」

「そう? でもアレ、協会の取引リストでは一応食肉の部類よ? 持ち帰れば、少なくともコアクリスタル以上の値段で買い取ってくれるわ」

「トカゲ肉が、ね……」


 食えない事は無いんだろうが、自分から進んで食べたくない部類の肉だ。

 しかし、協会の買取リストに載っているという事は需要があるのだろうけど……誰が買うんだろうな?


「好きな人……食に対して好奇心旺盛な人なら、珍品ていう文句があれば怯むことなく手を出すわ」

「そんなものかな」

「そんなものよ。と言う訳で、アレを持って帰らないってのは無しよ?」

「……了解」


 俺は柊さんに促され、渋々と言った心境でトカゲ肉を回収し“空間収納”に仕舞った。

 





 他にモンスターが潜んで居ない事を確認した後、軽く戦闘跡を片付けてから再び俺と裕二は陣幕の中へ戻り寝る事にした。と言っても、周囲の明るさと戦闘直後の興奮で中々寝付けなかったんだけどな。

 そしてやっとの思いで眠った数時間後、俺と裕二はセットしておいた目覚ましアラームの音で目を覚ました。別にアラームは必要ないような気もするが、朝と夜の区切りをするのには丁度良い合図だしな。と言うわけで、俺はアラームを止め体をベッドの上で起こした。


「……おはよう」 

「……ああ、おはよう」


 微妙な時間に寝たせいか妙に頭の回転が鈍く、大きな欠伸をしながら腕を伸ばし凝った体を解すもスッキリしない。戦闘の後遺症か?とも思ったが、そもそも後遺症を負うような怪我などしていないし……単に疲れが抜けてないだけか。

 そして少しストレッチをして頭がある程度真面に回るようにしてから、俺と裕二はベッドなどを軽く片付けて陣幕を出た。


「「おはよう」」

「おはよう九重君、広瀬君」


 やっと終わったと言いたげな表情を浮かべた柊さんが、起き出してきた俺達に挨拶を返してくる。やっぱりあの襲撃以降、敵が来なかったから暇を持て余してたみたいだな。

 

「どうだった? あの後、敵が近付いてくるような気配はあった?」

「無かったわ。襲撃を無傷で退けた私達を警戒したのか、アレだけが特別だったのか……」

「そっか」


 あれ以降、再襲撃どころか接近も無かったと言う事は……アイツら追い出し要員だったのか? 何時まで経っても安全地帯……階段前広場から動かない探索者を前にしろ後ろにしろ追い立てる役目を持っていた、とか? それなら、アイツらが態々自分達から有利な立場を崩して襲い掛かってきた事にも納得がいく。

 確かゲームなんかでも、プレイヤーが一定時間動かないで居ると強力な敵が出現するとかっていう仕様もあるしな。今までの階層では無い要素が、新しく追加されたって事なのか?


「もしかしたら、広場から動かない俺達の尻を叩きに来ていたのかもしれないな」

「……裕二もそう思う?」

「ああ。アイツら、そこまで自分から積極的に仕掛けるタイプじゃなさそうだったしな。保護色の体表に低姿勢の4足歩行、長草の中なら視認性も悪そうだっだ。アイツらはどちらかと言うと、長草に潜み奇襲を仕掛けるタイプだ」


 裕二の推測を聞き、柊さんも同意するように頷いていた。

 ヤッパリ、そう考える方が自然か……となると。


「……追い出し要員が出てくる時間も、検証して置いた方が良いかな?」

「確かにその確認しておいた方が良いだろうけど、階層ごとに制限時間が決められていたら検証に時間が掛かりすぎるぞ」

「まぁ、そうよね。仮に制限時間が12時間毎って事なら……」


 確かに1階層を検証するだけでも、とんでもない時間をロスする事になる。検証である以上、複数回計測する必要もあるし……無理だな。少なくとも俺達だけでは。この手の検証は複数のパーティーが共同で検証する類いのものだ。

 

「だよね。そうなると……敵襲がある事を前提にして、警戒しながら休息を取るしか無いかな」

「それしか無いだろうな……」

「そうね。でも、それって今までしてきた事と同じ事をするって事でもあるわよね?」

「「……うん、そうだね」」


 結局、やる事自体は変わらない。でも、敵襲を警戒しながら休息を取って先に進む……ヤッパリこの先、滞在探索日数を増やしていく事を考えるとパーティーの人数を増やしていかないとキツいかな。俺は以前にも考えた、パーティー人数の増加の必要性を改めて実感した。

 そして暫しの沈黙が流れた後、俺は場の空気を変えようと口を開く。


「……取り敢えず、朝食にしない?」

「……そうだな、そうしよう」

「ええ、そうね」


 俺達は陣幕のシートを片付け、食事の準備を始める。と言っても火気厳禁の場所なので、パンやオニギリなど加熱を必要としない物を“空間収納”から出すだけなので直ぐに準備は終わった。

 因みに、今回の朝食メニューはコンビニで買っておいたオニギリだ。昨日の夕食でパンを食べたから少しは変えないと……うん、味噌汁が欲しいな。 


「ごちそうさま。さてと、この後どうする? 30階層は予定通り探索するとして、その先には……」

「進む……と言いたいけど、どうしよう? 次の階層も、この階層と同じような作りなら進んでも良いとは思うけど……」

「違う作りなら、どう言う性質の物なのかって検証しないといけないものね」


 この階層の長草のように、凄く良く燃える可燃性の物が生えて無いとも限らないからな。例えば、触れただけで皮膚がかぶれる漆のような成分が含まれていた場合、猛烈な痒みに耐えながらモンスターの襲撃を警戒しつつ探索する等と言った苦境に立たされる。流石にそれは、ね?

 それらの状況を懸念すれば、何も調べずに行き当たりバッタリでの探索という方針は選択しづらい。幸い、俺が“鑑定解析”と言うスキルを持っているので、他の探索者パーティーに比べれば時間は短縮出来るが……追い出しモンスター出現の制限時間などの、時間を掛けて検証しないといけない物も有る。一概に有利とも言えないな。


「じゃぁ取り敢えず30階層を攻略しつつ、その下の階層は様子を見ながら……って感じで」

「そうだな、それで良いと思う。あまり厄介そうなら、引き返せば良いんだしな」

「私としては折角30階層まで来たんだから、もう少し下の階層まで探索範囲を広げたいとは思うんだけど……安全第一よね」


 モンスターとの直接戦闘、という意味ならまだ問題はないが、周辺環境まで含めると、一息に先へとは行かない。何に気を付けなければならないのか、何が駄目な行為なのかを把握しないと、思わぬ落とし穴に落ちてしまうからな。

 協会が公開している事前情報がある程度はあるので、当たりを付けつつ慎重に進むのが吉だろう。


「まぁ、そうだね。一応、協会が公開している情報ではこの先何階層かは同じようなフィールドが続くみたいだけど……概要だけで詳細までは記載されてなかったからね。後は現地で、自分達で調べないと」

「事前に概要が知れてるだけでも、ありがたいってもんだけどな」

「ホント、概要だけだけどね。この階層でしたみたいに、仕入れた情報の擦り合わせは必要よ」


 柊さんの愚痴も分かるけど、裕二のいうように概要が分かるだけマシだろうな。青空で長草が生えた草原ってだけの情報だったけどさ。まぁ報告者もおそらく企業系の人だろうから、詳細は企業秘密って事なんだろうな。時間が経てば価値の無くなる情報だったとしても、競争相手が少ない今の時期なら十分に利益を生む。だから、概要だけでも報告してくれていることに感謝すべきだろうな。

 そして話し合いの結果、この後の行動方針を決めた俺達は陣幕やベッドを片付けて出発の準備を整えた。

 

「良し、じゃぁ出発しようか? 忘れ物とかは無い?」

「おう、大丈夫だぞ」

「私も大丈夫よ」

「じゃぁ出発しよう。取り敢えず最初の目標は、31階層へ降りる階段の発見って事で……出発!」


 こうして俺達は、良く燃える長草が生い茂る30階層の探索を開始した。

 















トカゲ肉、固そうですね。ジャーキー系なら……いけるかな?

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