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幕間 四拾話 新旧交代、革命の始まり

お気に入り23230超、PV36170000超、ジャンル別日刊40位、応援ありがとうございます。



朝ダン、ダッシュエックス文庫様より発売中です。よろしくお願いいたします。







 容赦なく降り注ぐ太陽の光により連日、真夏日を更新し続ける日本。だがしかし、今この時ばかりは降り注ぐ太陽を凌ぐ熱気が室内に充満していた。多数のモニター画面には観測機器がリアルタイムで計測した数値が表示されており、モニターの前にはスーツに身を包んだ老若男女をはじめ、多数の人が固唾の息を飲みつつ静かに事の推移を見守っている。

 そして所長の腕章を着けた作業服に身を包む壮年の男性が、緊張した面持ちと固い声で号令を掛けた。


「それではコレよりコアクリスタル発電、一号炉炉心起動操作を開始する」

「了解しました。」『ただ今より、一号炉炉心起動を開始します。ただ今より、一号炉の炉心起動を開始します』


 所長の号令を受けた職員の一人が、館内放送に繋がる機器の受話器を取り警告を発する。

 そしてソレを合図に、各操作盤に張り付いていた職員が一斉に動き出した。


「発電設備周辺からの作業員の退避……確認しました」

「各計測計器に異常なし」

「補修班、作業員待機完了しています」


 次々に準備完了との報告が上がり、モノの1分ほどで最終確認が完了する。

 そして……。


「よろしい。では炉心起動操作……開始」

「了解しました、起動します」


 最終確認を終え、所長は緊張で生唾を飲みながら固い声で起動指示を出す。

 そして指示を受けた作業員達は、緊張を紛らわせるように淡々とした様子で炉心の起動操作を始めた。


「始動用燃料カプセル、定位置に固定完了」

「カプセル融解まで5・4・3・2・1……融解開始」

「炉心内、水温上昇を確認」


 次々に上がってくる作業員達の報告で、炉心が無事に起動し始めた事を確認。固唾をのんでモニターを注視していた所長は、炉心が無事に起動した事に安堵し、張っていた肩から力を抜きつつ作業員達に次の指示を出していく。

 そして所長は軽く息を吐いた後、後ろを振り返りスーツに身を包む老若男女に向けて宣言する。


「コアクリスタル発電、一号炉は起動成功です!」

「「「おおおっ!!」」」


 所長の宣言を聞き、大歓声の拍手喝采が沸き起こる。彼等は興奮した口調で、隣人や操作作業を行っている作業員達に称賛の声を掛け喜びの感情を爆発させていく。

 そして、スーツを着た老若男女の中で一番身分が高いと思われる男性が、大任を果たし安堵の表情を浮かべる所長に歩み寄り手を握った。


「おめでとう、新井(あらい)所長!」

「あ、ありがとうございます、総理」

「大変な苦労をされたと思うが、本当に良くやってくれた! コレで我が国のエネルギー問題、解決の第一歩を踏み出せる!」

「い、いえ、とんでもない!? 私は私に出来る事を……このプロジェクトに精力的に協力してくれた皆がいたからこそ成し遂げられた事です」


 興奮した総理に若干気圧されながらも新井所長は、皆の努力の成果だと強調する。


「ああ勿論、それは分かっている! だが新井所長が彼等を率いてくれたからこそ、今日の成果を迎えられたと言う事も事実だ! 改めて、感謝の言葉を述べたい!」

「も、勿体ないお言葉です。あ、ありがとうございます」


 更に、感極まった総理に続けとばかりに見学に参加していた他の閣僚達も、新井所長に成功を祝っていく。新井所長は疲れた表情を顔に浮かべ続けながら、失礼が無いように一通り見学者達からの祝辞に受け答えを行った。

 そして……。


「で、では皆様! 簡素ですが、大会議室に会場が用意してありますので、そちらに移動して下さい!」


 起動成功による興奮も次第に落ち着き、見学者達がある程度冷静さを取り戻したと察した所長は、予定していた祝賀会場に見学客達を誘導する。すると見学者達は互いに話をしながら、案内係の職員に促されるまま祝賀会場の大会議室へと移動していった。

 そして見学者がいなくなり静かになった中央制御室で、所長は深く大きな溜息を吐き出す。


「お疲れ様です所長、どうぞ」

「ああ、ありがとう。いやぁ、本当に疲れたよ」


 労いの言葉と共に、副所長から差し出されたお茶を受け取りながら、新井所長は疲れた表情を浮かべつつ、苦笑を漏らした。


「あんなに連続して、国のお偉いさん達と握手するとは思っても見なかったよ。しかも皆、興奮してたから圧も凄かったしね」

「ははっ、そうですか。でも、それだけ皆さん嬉しかったって事ですよ?」

「まぁ、そうなんだろうな。ココが本格的に稼働を始めれば、エネルギー資源の海外依存や原発の廃炉問題なんかにもメスを入れられるだろうからな」

「そうですね……」


 去年の発電実験で光明が見え、今回の炉心起動で灯りがともった。国家を巡る血液とも言えるエネルギー資源が外国に依存している。この状態を良しと見る政府の人間は居なかっただろうが、現実問題として国を賄えるだけのエネルギー資源を国内で調達する事はコレまで出来なかった。

 だが、そんな状況を覆したのがダンジョンの出現だ。確かにダンジョン出現に伴う混乱や被害も出たが、損失に見合うだけのリターンを日本にもたらせる。


「探索者制度の成立に、ダンジョン産素材の市場流入で低迷していた経済の活性化。ダンジョンが出現してから、ホント世界は変わったよ」

「ですね。でも、政府としての一番のリターンは、エネルギー資源の国産化ですかね?」

「まぁダンジョン出現後の、改革の支柱の一つである事に違いは無いだろうな」


 そんな事を二人で話していると、見学者を会場に案内していた職員が中央制御室に戻ってきて、所長に声を掛ける。 

 

「所長。皆様、会場に移動されました。挨拶をして頂きたいので、会場にお越し下さい」

「ああ、分かった。コレも、宮仕えの辛いところだね。じゃぁ、暫く任せるから、検査の方はよろしく頼むよ。今回が初めての稼働だから、何処から不具合が出るか分からないからね。慎重に、かつ不備が無いように頼むよ」

「了解しました、予定通り検査の方を進めておきます」


 そう言い残し、所長は呼びに来た案内役の職員と共に中央制御室を後にしていった。






 コアクリスタル発電所が始動した翌日、総理を始めとした閣僚らは朝早くから集まり会議を行っていた。参加者達の顔色は明るく、希望に満ちあふれていると言える雰囲気を醸し出している。

 そして、総理が上機嫌に口火を切り話し始めた。


「諸君、昨日は大変喜ばしい出来事があった」

「コアクリスタル発電所の稼働ですね?」

「ああ。発表当初から、諸外国から色々と圧力が掛かったが無事に始動する事が出来た。コレも全て、君達が尽力してくれたお陰だ。ありがとう」


 そう言って、閣僚達に向かって総理は軽く頭を下げる。すると皆一様に苦虫を噛み潰したような雰囲気を出しながらも、誇らしげな表情を浮かべていた。特に外務大臣等は、右手を胃の辺りに置き顔を顰めているが……コレまでの苦労が報われたという表情を浮かべている。

 事ここに至るまでに、彼等がどれだけ苦労をしたのかが慮られる光景だ。


「……さて、話を進めよう。経産大臣、コアクリスタル発電所のコレからの推移を説明してくれないか?」

「はい。では私の方から、コレからの大雑把なスケジュールを説明させて頂きたいと思います。先ず昨日起動した一号炉ですが、7月一杯は低出力稼働状態で運転させ、各設備に不具合が無いかを検査します。そして8月、設備の検査をクリアした後に定格出力運転を開始、調整運転及び試送電を行う予定です。また他の炉に関してですが、起動準備ができ次第順次始動させ各検査に入る予定です」


 総理に指名され、経産大臣は資料を手に持ち説明をしていった。

 そして一通り説明を終えた後、会議参加者達に視線を巡らすと手が上がる。


「質問、良いでしょうか?」

「はい。何でしょうか、官房長官?」

「一号炉は8月から調整運転に入るという事ですが、通常運転及び送電も8月から行うという事でしょうか? そうであるのなら、各電力会社との調整を早急に行う必要があるのですが……」

「いいえ。通常運転開始の日時に関しては、稼働後の運転状況を加味し各電力会社と協議した上で改めて決定する予定です。ですが、年内には送電及び通常運転を開始したいと思っております」

「……分かりました」


 経産大臣の返答に、官房長官は挙げていた手を下げる。

 そして他に質問者は居ないか再び視線を巡らすと、控え目な感じで外務大臣が手を上げていた。

 

「どうぞ、外務大臣」

「年内の送電開始を目指すとの事ですが、開始時期を早める事は出来ませんか?」

「……早められるかとは、どう言った意味でしょうか?」

「まだ確定した情報ではないのですが、数ヶ国で我が国と同様にコアクリスタル発電の商業化研究していると言う知らせがあります。コアクリスタル発電技術の輸出を考えた場合、それらの国々に先駆け商業運転の実績を積み重ねておいた方が有利になるのですが……」


 外務大臣の発言に、会議室は一瞬ざわつく。新設発電所の海外受注案件ともなれば、巨額の利益が出るプロジェクトだ。今現在、コアクリスタル発電の分野に於いて日本は、紛れもなく先頭を独走している状態である。ココで商業運転の実績を積めば、コアクリスタル発電に興味を持つ国々から声が掛かるのは間違いないだろう。日本主導によるコアクリスタル発電の標準規格、今まで後塵を拝してきたエネルギー分野で先行出来る又とない機会だ。

 その敵が居ないと思っていた、ブルーオーシャンと呼べる市場に他の国が参入してくる。閣僚達は焦っている表情を浮かべながら、大丈夫だよな?と言った眼差しを経産大臣に向けた。


「……まだ試運転を始めたばかりで即答は出来かねますが、各電力会社との協議が早く進めば送電開始時期は早められると思います」

「それはつまり、技術的には可能……と言う事ですか?」

「……はい」


 経産大臣は若干歯切れの悪い言い回しを行いながら、外務大臣の質問に開始時期の短縮は可能であると返事を返す。だが、短縮するに当たっての問題と呼ばれる点に閣僚達は揃って手で頭を抑えた。

 つまり経産大臣は問題点……各電力会社間の利権調整を早く終わらせられたらと言っているのである。巨額の利益が動く案件である以上、そう簡単に決まらないのが目に見えていた。そんな中、総理が経産大臣に覚悟を決めた眼差しで問い掛ける。


「経産大臣……協議が早く終われば、早期の送電開始自体は、可能なのだな?」

「……はい。この試験運転期間中に、何らかの大きな問題が起きなければ可能です」

「……そうか、分かった」


 そう短く返事を返した後、総理は口を閉じ黙り込んだ。経産大臣は総理の反応に息を飲みつつ、他に質問者が居ないか見渡し、誰も居ない事を確認して手に持っていた資料を机に置いた。

 そしてこの会議から数週間後、急遽集められた電気事業連合会に属する各電力会社のトップ達は、総理臨席の会議においてコアクリスタル発電の速やかな営業運転の開始を決定。9月半ばから順次、コアクリスタル発電所は送電を開始した。






 日本のコアクリスタル発電、商業運転を開始。その知らせはトップニュースとして、瞬時に世界を駆け巡った。コアクリスタル発電が実用化したという事は、今までエネルギー資源として絶対的地位を保持していた石油の地位が揺らいだと同義だからである。石炭が石油にその地位を譲り渡したように、石油もコアクリスタルにその地位を譲る時代。新時代のエネルギー革命だとまで言われた。コレより原油産出国と呼ばれる国々は勿論、オイルメージャーと呼ばれる企業群も大きな転換期を迎える。

 だが一方で、変革を快く受け入れない者達も居た。


「何故、日本のコアクリスタル発電を見逃した!? このままでは、我々の持つ石油利権が!?」

「もう、遅い! ダンジョン出現の混乱期にコアクリスタル発電の情報を拡散され、世間に実用化を認知された段階で手遅れだったんだ!」

「……そう、だな。原子力に代わる、圧倒的な発電能力を持つ完全クリーンエネルギー……エコエコと持て囃す世間にとって、コアクリスタル発電は石油にとって変わるに相応しい新エネルギーだろうさ」

「っ!? だが、しかし! このまま手を拱いていれば、我々は確実に衰退する! 貴様等はそれでも良いのか!?」

「「「……」」」


 ビデオチャットが表示されるモニター越しに響く男の叫びは、その場に居る全員の叫びでもあった。モニターに映し出される参加者達は、人種も年齢もバラバラ。だが参加者達には、一様に共通する特徴が出ていた。全員の顔に、色濃い焦りの色を浮かんでいるという事である。

 だが既に世間に存在を認知され、エネルギー資源の代替をと世間が望む流れを変える事は容易ではない。それこそコアクリスタル発電に、世間が驚く様な致命的欠陥でも無ければ……。


「「「「……」」」」


 














幕間は、この話で終了です。

次話から、新章スタートします。


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― 新着の感想 ―
幕間は、だらだらくどくなっているので要らないかな?
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